アニポケ転生者物語 作:投稿者
初めてのフィールドワーク日誌
マサラタウンののどかな風景が背後へ遠ざかっていく。振り返れば、我が家も、オーキド研究所の風車も、もう丘の向こう側だ。視線を前に戻せば、どこまでも続く1番道路と、その先に広がる未知の世界。
「……本当に、旅に出たんだな」
実感と共に、じわりと胸に込み上げてくる高揚感。俺、ミナトは、ポケモントレーナーになった。この世界の住人として、確かな一歩を踏み出したのだ。
足元では、ボールから出したフシギダネが「ダネ、ダネ」と軽快に歩いている。少し前を歩いては振り返り、俺がちゃんとついてきているか確認する姿が、なんとも健気で愛らしい。
「大丈夫だよ、置いていったりしないさ」
そう言って頭を撫でると、フシギダネは心地よさそうに目を細めた。まだ出会って半日も経っていないのに、この確かな絆の芽生えはなんだろう。これが、ポケモンとトレーナーという関係性の本質なのかもしれない。
日が傾き始め、空が茜色に染まる頃、俺は1番道路の脇にある開けた草地で、初めてのキャンプの準備を始めた。バックパックから手際よく一人用のテントを張り、携帯コンロで湯を沸かす。今日の夕食は、母さんが持たせてくれた特製のポケモンフーズと、人間用のフリーズドライのシチューだ。
「お前たちは、こっちな」
フシギダネと、ボールから出したポリゴンの前に、それぞれの好みに合わせて配合されたポケモンフーズを置く。フシギダネは「ダネッ!」と嬉しそうに食べ始め、ポリゴンもまた、無言でエネルギーキューブのような固形フードを体内に吸収していく。その様子を眺めながらシチューをスプーンで口に運ぶと、旅の疲れがじんわりと溶けていくようだった。
食事が終わる頃には、空はすっかり藍色に染まり、満天の星が輝いていた。焚き火の心許ない光が、俺たち三人の影を揺らしている。
「ピ、ガガ……」
ポリゴンが、カクカクとした動きで俺の隣に浮遊し、何かを訴えるように電子音を発した。
「ん? どうした、ポリゴン」
俺はグラス型デバイスを装着し、ポリゴンからの通信に意識を合わせた。すると、視界にポリゴンの分析データが表示される。
『周辺半径50メートル以内に、複数の生命反応。種族:コラッタ、ポッポ。いずれも活動レベルは低く、睡眠状態にあると推測。脅威レベル:低』
「なるほど、夜の見張りをしてくれてるのか。偉いな、お前」
俺がそう言ってポリゴンの硬質なボディを撫でると、ポリゴンは体表の光を嬉しそうに明滅させた。無機質なポケモンだと思っていたが、どうやら感情の表現方法は心得ているらしい。
反対側では、フシギダネが俺の足にすり寄って、既にうとうとと船を漕いでいた。背中のタネが、焚き火の光を受けて穏やかに呼吸している。俺はそのタネにそっと触れた。
「お前も、疲れただろ。今日はありがとうな」
「……ダネ……」
眠そうな声で返事をすると、フシギダネは完全に俺の足に体を預けて眠ってしまった。その信頼が、ただただ温かい。
初めての夜は、こうして静かに、そして満ち足りた気持ちで更けていった。
翌朝、俺はテスターとしての活動を本格的に開始した。グラス型デバイスは、想像以上に高性能だった。
ポッポが飛び立つ際の羽ばたきの回数と上昇角度の相関関係。コラッタが好んで隠れる茂みの種類とその理由。キャタピーが吐き出す糸の粘着力と温度の関係。目に入るものすべてが、俺にとっては貴重な研究対象であり、純粋な好奇心を満たしてくれる最高のエンターテイメントだった。
「ポリゴン、あのキャタピーの糸、サンプルを少しだけ採取して分析できるか?」
『肯定。成分分析を開始。シルクプロテイン*1の含有率、98.7%。一部、未確認の糖タンパク質を検出。接着剤としての応用が期待されます』
「マジかよ……すごいな、これ」
集めたデータは、どんどんデバイスに蓄積されていく。これが母さんのいるシルフカンパニーに送られ、新しい技術開発に繋がるのかもしれない。そう考えると、少しだけ誇らしい気持ちになった。
そんな風にフィールドワークを楽しんでいた矢先、あのオニスズメの騒動に巻き込まれた。サトシを助けるために、フシギダネとポリゴンに指示を飛ばし、試作品の忌避スプレーを使った。我ながら、冷静に対処できたと思う。
サトシと別れた後、俺は改めてフシギダネとポリゴンに向き直った。
「フシギダネ、さっきは無茶させたな。よく戦ってくれた」
「ダネフッ!」
フシギダネは、褒められて嬉しいのか、胸を張って答える。
「ポリゴンもだ。的確な『でんきショック』だった。お前がいなければ、ピカチュウを助ける前にこっちがやられてたかもしれない」
『賛辞、感謝します。当個体は、マスターの指示に基づき、最適行動を実行しました』
デバイス越しに、どこか得意げな電子音声が聞こえてくる。
オニスズメとの一件は、この世界がただ楽しいだけの場所ではないことを、改めて俺に教えてくれた。野生のポケモンは、時に命を奪いかねない脅威にもなる。そして、そんな世界で自分と相棒たちの命を守るためには、知識と、それを実行する力が必要不可決なのだ。
俺は、フシギダネの力強い瞳と、ポリゴンの静かな佇まいを交互に見て、強く決意した。
「(強くならなきゃな。こいつらを守るためにも)」
エンジョイ勢であることに変わりはない。だが、楽しむためには、それを脅かす危険を退けるだけの力が必要だ。俺の旅の目的に、新たな指針が加わった瞬間だった。
トキワの森での寄り道
トキワシティに到着した俺は、ポケモンセンターで一泊した後、すぐにニビシティへ向かうか少しだけ迷った。最短ルートは2番道路だ。だが、俺の足は自然と、鬱蒼とした木々が広がる別の入り口へと向かっていた。
「……やっぱり、素通りはできないよな」
目の前に広がるのは、カントー地方最大級の森、トキワの森。原作ではサトシがキャタピーをゲットし、サムライしょうねんと出会い、様々なドラマが生まれた場所だ。エンジョイ勢を公言するからには、この名所を素通りするわけにはいかない。
「少し、寄り道していこうか」
俺の提案に、フシギダネは「待ってました」と言わんばかりに嬉しそうな声を上げた。草木の多い場所は、フシギダネにとって最高の遊び場だろう。
森に一歩足を踏み入れると、ひんやりとした空気が体を包み、木々の匂いと土の匂いが混じり合った、濃厚な自然の香りがした。木漏れ日が地面にまだら模様を描き、遠くからは様々なポケモンの鳴き声が聞こえてくる。
「さて、ここでもデータ収集と行こうか」
俺はグラス型デバイスを起動し、ポリゴンをボールから出した。
「ポリゴン、この森の植生データをマッピングしてくれ。特に、薬草や珍しいきのみがあったらマーキングを頼む」
『了。広域スキャンを開始します』
ポリゴンが静かに浮上し、周囲の情報を集め始める。その間に、俺はフシギダネの訓練をすることにした。
「フシギダネ、ちょっと練習しようぜ。『つるのムチ』の精密操作だ」
俺はそう言って、少し離れた木の幹を指差した。
「あの幹の、右から三番目の枝を、揺らさずに叩いてみろ」
「ダネッ!」
フシギダネが集中し、背中からツルを伸ばす。しなやかな緑のツルは、鞭のようにしなり、狙い通りの枝を正確に打ち据えた。だが、その衝撃で、隣の枝がわずかに揺れてしまう。
「惜しいな。衝撃を、叩く一点にだけ集中させるんだ。他の部分には一切影響を与えないように」
これは、ゲームにはなかった発想だ。ただ技を当てるだけでなく、その威力や範囲を自在にコントロールする。これができれば、バトルでの戦術の幅は格段に広がるはずだ。人質のいる場面や、壊してはいけないものがある場所でも、躊躇なく技を放てる。
フシギダネは俺の意図を正確に理解したのか、何度も何度も挑戦を繰り返した。最初はうまくいかなかったが、次第にコツを掴んできたのか、ツルの動きから無駄な力が抜け、より鋭く、より正確になっていく。
数時間後、フシギダネの『つるのムチ』は、狙った枝葉の一枚だけを的確に弾き飛ばせるほどに洗練されていた。
「すごいじゃないか、フシギダネ!お前は天才だな!」
「ダネフッシャ!」
褒められて、フシギダネは得意げに胸を張る。その時、茂みの奥からガサガサと音がした。警戒して身構えると、ひょっこりと顔を出したのは、黄色くて丸い、愛らしいポケモンだった。
「ピカ……?」
長い耳、赤い頬袋。野生のピカチュウだ。その背後からも、ぞろぞろと数匹のピカチュウが現れる。どうやら、ここはピカチュウの群れの縄張りらしい。
俺は敵意がないことを示すために、ゆっくりと両手を上げた。
「やあ、驚かせてごめんな。すぐに立ち去るから」
ピカチュウたちは、俺とフシギダネを警戒しながらも、遠巻きにこちらを観察している。サトシのピカチュウとは違い、野生ならではの鋭い目つきだ。
俺はそっとデバイスに意識を集中させ、彼らの生態データを収集する。
『ピカチュウの群れ。リーダー格の個体を中心に、強い社会性を形成。頬袋の電気は、コミュニケーションツールと外敵への警告、両方の役割を担う。きのみを電気で焼いて食べる習性を確認』
「(焼いて食べるのか……面白いな)」
純粋な好奇心に駆られ、俺はバックパックから栄養価の高い木の実を取り出し、地面にそっと置いた。ピカチュウたちは一瞬警戒したが、一匹の勇敢な個体がおそるおそる近づき、その木の実を前足で掴むと、仲間たちの元へ持っていく。そして、頬袋からパチパチと小さな火花を散らし、木の実を軽く炙ってから口にした。
「ピカ、ピカチュウ!」
よほど美味しかったのか、仲間たちも次々とやってきて、同じように木の実を食べ始めた。その無邪気な姿に、俺とフシギダネは顔を見合わせて微笑んだ。
しばらく彼らの食事風景を観察させてもらった後、俺たちは静かにその場を後にした。トキワの森の寄り道は、フシギダネの成長と、貴重な生態データの収集という、大きな収穫をもたらしてくれた。
ニビへの道と家族への連絡
トキワの森を抜けると、ニビシティまではもう一息だった。森を抜けた先にある小さなポケモンセンターで、俺は旅に出てから初めて、故郷に連絡を取ることにした。備え付けの大型スクリーンを持つテレビ電話の前に座り、実家の番号をダイヤルする。
数コールで、画面に母さんの顔が映し出された。
『ミナト!無事だったのね、よかったわ』
「ああ、もちろんだよ。母さんも元気そうで何よりだ」
『それで、どう?試作品の調子は』
開口一番、仕事の話か。まあ、母さんらしいと言えばらしい。
「最高だよ。グラスもポリゴンも、すごく役に立ってる。そうそう、この前オニスズメに襲われてたサトシを助けたんだけど、その時もらった忌避スプレーが大活躍したよ」
『まあ、サトシ君を?無茶したんじゃないでしょうね』
「大丈夫だって。こっちにはフシギダネとポリゴンがついてるからな」
俺は旅の出来事をかいつまんで話した。1番道路で集めたデータ、トキワの森での訓練、そしてピカチュウの群れとの遭遇。母さんは、テスターとしての俺の働きに満足したのか、うんうんと頷いている。
「それと、ポリゴンの自己学習機能のことなんだけど、少し気になることがあって」
俺は、ポリゴンが自発的に植物のマーキング機能を実装したことを報告した。すると、母さんは少し驚いたように目を見開いた。
『面白いわね……。ただの命令実行プログラムじゃない、真の人工知能への足がかりになるかもしれないわ。その子の成長、しっかり記録しておきなさい。あなたにしかできない、最高のテストよ』
母さんの言葉に、俺はポリゴンへの愛着がさらに深まるのを感じた。
母さんとの通信を終えた後、今度はオーキド研究所にかける。画面に映ったのは、満面の笑みを浮かべたオーキド博士だった。
『おお、ミナトか!どうじゃ、旅は順調かの?』
「はい、博士のおかげで。フシギダネも、すごく元気です」
俺はフシギダネをカメラの前に抱きかかえる。「ダネ!」と元気よく鳴くフシギダネを見て、博士は「うむ!いい顔つきになったな!たくましく育っておる!」と我が事のように喜んでくれた。
俺は博士に、トキワの森で観察したピカチュウの群れの生態データを送信した。特に、木の実を電気で焼いて食べる習性について話すと、博士は身を乗り出して興奮し始めた。
『ふむ、それは実に興味深い!マサラタウン近郊のピカチュウには見られない行動じゃ!環境による食文化の違い、といったところかのう。いやはや、素晴らしい発見じゃぞ、ミナト君!』
研究者の顔になった博士に手放しで褒められ、少し照れ臭くなる。
「そういえば、サトシは大丈夫でしたか?トキワシティのポケモンセンターには向かったはずですけど」
俺がそう尋ねると、博士は「がっはっは」と豪快に笑った。
『ああ、ジョーイさんから連絡があったわい。なんでも、ポケモン泥棒を捕まえたとかで、大騒ぎになっとったらしい。まあ、あやつは昔から、良くも悪くも事件を呼び寄せる体質でのう』
どうやら、ロケット団との初遭遇も無事に乗り越えたらしい。少しだけ安心した。
「そうですか。ならよかったです」
『うむ。君も、あまり無茶はするんじゃないぞ。君の送ってくれるデータは、ワシの研究にとっても宝じゃからの』
「はい、肝に銘じておきます」
博士との通信を終え、俺は席を立った。窓の外に目をやると、灰色の岩山が連なる、ニビシティへと続く道が見える。
サトシも、シゲルも、それぞれの場所で頑張っている。俺も、負けてはいられない。
「よし、行こうか。フシギダネ、ポリゴン」
俺は二匹の相棒に声をかける。最初のジム戦という、大きな目標を前に、俺の心は闘志で満ち溢れていた。
この旅が、ただの観光旅行ではないことを証明するために。そして、最高の相棒たちと共に、勝利の喜びを分かち合うために。俺は決意を新たに、ニビシティへの最後の一歩を踏み出した。
チラシ裏から表にでるべきか
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チラシ裏でいい
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表にでてもいい
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まだ表にでるのは早い