アニポケ転生者物語 作:投稿者
地下プラントの冷たい空気が、肌を刺すような静寂と共に俺たちを包み込んでいた。
巨大な試験管のようなカプセルが幾重にも並び、その中では淡い緑色の液体に満たされた未知の生命体が、不気味な脈動を繰り返している。壁一面に設置されたモニターには、奪われたばかりのポケモンたちの遺伝子データが、無機質なコードとなって高速で流れていた。
「ピカチュウ!ピカチュウはどこだ!」
サトシの悲痛な叫びが、金属質の壁に反響する。俺もまた、自分の相棒たちの行方を追い、プラントの奥へと走り続けた。
「(フシギバナ、ウインディ、カイリュー……。全員の戦闘パターン、癖、そして生命維持データまでが完全に数値化されている……!)」
シルフのテスターとして、俺は多くのデータを見てきた。だが、これほどまでにおぞましい「生命の設計図」を見たのは初めてだった。そこには、命に対する敬意など微塵もない。ただ「最強の兵器」を効率的に量産するための、冷徹な計算だけが存在していた。
その時、一際大きなメインカプセルがまばゆい光を放った。
「あそこだ!」
サトシが指差した先。カプセルの蓋が開き、中から一匹のピカチュウが、濡れた体を引きずるようにして這い出してきた。だが、その姿を見た瞬間、俺たちの動きが止まった。
そのピカチュウの耳の先には、オリジナルにはない、稲妻のような黒い紋様が刻まれていた。
「そんな……ピカチュウが、もう一人……」
後を追ってきたカスミが、その場にへたり込んだ。
直後、システムがオリジナルを「不要物」として排出した。サトシは間一髪で、意識を失ったままの自分のピカチュウを抱きかかえる。
「よかった……よかったよ、ピカチュウ……!」
だが、安堵の時間は与えられなかった。
プラントの各所で、カプセルが次々と開放されていく。中から現れたのは、俺のフシギバナ、ウインディ、カイリュー、ゲンガー……そして招待された他のトレーナーたちのポケモンと寸分違わぬ姿をした、コピーたちの軍団だった。
彼らの瞳には、これまで共に歩んできた相棒たちが持っていた、温かな生命の輝きはなかった。ただ、主人の命令を忠実に実行する、戦闘機械としての虚無だけがそこにあった。
『……ここが、私の生まれた場所の再現だ』
空間が歪み、冷徹な思考波と共にミュウツーが姿を現した。
『人間たちが、自らの欲望を満たすためだけに、禁忌を犯して私を創り出した呪われた揺り籠……。ならば、私も同じ方法で、お前たちの『絆』という脆弱な幻想を打ち砕いてやる。この完璧な
「エゴ?確かに、お前を創った人間たちはそうだったかもしれない。……でも、ミュウツー、お前自身はどうなんだ!」
俺は、一歩も引かずに叫んだ。
「お前に創られたこのコピーたちを見てみろよ!彼らだって、今この瞬間、この世界に産み落とされた命じゃないか!それを『道具』だと言い切るなら、お前は、お前が一番嫌っていた『人間』と同じことをしてるんだぞ!」
ミュウツーの瞳が、青白く燃え上がった。
『……黙れ。私と、あの卑劣な人間共を一緒にするな。私は、最強の個体として、この世界の不条理を正すための秩序を再構築するだけだ。そのためには、弱者は不要なのだ』
「心が、痛まないのか……?」
『心など、ただの電気信号の錯誤に過ぎん。存在するのは力、そして生存という絶対的な結果のみだ』
ミュウツーの周囲に、凄まじいサイコパワーが渦巻く。そのエネルギーの奔流に、プラントの機材が次々と破壊されていく。
その時だった。
破壊された天井から、一筋のピンク色の光が舞い降りた。
それは、ミュウツーの放つ禍々しいオーラを、まるで春の風のように優しく受け流し、ひらひらと俺たちの前に降り立った。
ふわふわと宙を舞う、小さくて愛らしいポケモン。
伝説の幻、ミュウ。
『……来たか、不完全な私のオリジナルめ』
ミュウツーの敵意が、一気にミュウへと向けられた。
ミュウは、首を傾げてミュウツーをじっと見つめている。その瞳は澄み渡り、怒りも憎しみも感じられない。ただ、悲しんでいるような、あるいは慈しんでいるような、底知れない深さを湛えていた。
『本物はどちらか、今ここで決着をつけてやる!』
ミュウツーが、全エネルギーを込めたサイコボールを放つ。ミュウもまた、それを遊びのように受け流しながら、自身の力を解放し始めた。
そして、ミュウツーの号令により、地下にいたすべてのコピーポケモンたちが地上へと駆け上がっていった。地上に残されたオリジナルたちとの、最終戦争。
ミュウツーの強力な精神波が、ニューアイランド全体を覆い尽くした。
それは、全ポケモンの『特殊能力』を強制的に封印する、沈黙の波動だった。
火炎放射も、10まんボルトも、ソーラービームも出せない。
知恵も、経験も、属性の優劣さえも無意味なものとなった。
残されたのは、ただ肉体と肉体がぶつかり合う、原始的で凄惨な殴り合いだけだった。
「やめろ……!こんなの、戦いじゃない……!」
サトシの声が、絶望に震える。
俺は、自分の手を見つめ、そして地上で繰り広げられるであろう惨劇を思い、歯を食いしばった。
「(これが、最強の生命体が出した答えなのか……?)」
物語は、もっとも残酷な局面へと突入しようとしていた。命の意味を問うための、血塗られた証明。その嵐の中に、俺たちは飲み込まれていった。