アニポケ転生者物語   作:投稿者

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第88話

地上のスタジアムに戻った俺たちが目にしたのは、地獄を具現化したような惨状だった。

技を封じられ、特殊な力を奪われたポケモンたちが、ただ本能のままに、自らの姿を写した「鏡」と泥み泥になって傷つけ合っていた。

 

バナッ!(私は、ここにいる……!)

バナァ!(お前こそ、消えろ……!)

 

俺のフシギバナとコピーフシギバナが、互いに巨大な体をぶつけ合い、ツルで首を締め上げている。どちらが本物で、どちらが偽物か。そんな問いは、もはや意味を成さない。ただ、滴る血の赤さと、激しい鼓動の音だけが、彼らが生きているという唯一の証明だった。

 

ウインディはコピーウインディと牙を剥き合い、カイリューはコピーカイリューと空中で激しく衝突し、地上へ叩きつけられる。ゲンガーさえも、影に潜る力を奪われ、実体を持ってコピーと殴り合っていた。

 

「もうやめてくれ……!お願いだ、みんな!」

サトシが泣き叫びながらフィールドへ飛び出そうとする。

「ダメだ、サトシ!今行っても、彼らの闘争本能に巻き込まれるだけだ!」

タケシが必死にサトシを抑え込むが、そのタケシの目からも涙が溢れていた。

 

空を見上げれば、そこには二つの太陽があった。

ミュウとミュウツー。

彼らはもはや言葉を交わさず、ただ純粋な破壊のエネルギーとなって激突を繰り返している。その余波だけで島が揺れ、城の壁が崩れ落ちていく。

 

俺は、一歩ずつ、その戦いの中心へと歩みを進めた。

「(俺は……何のために、前世の記憶を持ってこの世界に生まれたんだ?)」

 

物語の結末を知っているから、安全な場所で傍観するのか?

それとも、この「現実」にある痛みを、自分のものとして受け止めるのか。

 

「ミュウツー!!」

俺の声は、炸裂するサイコエネルギーの轟音にかき消されそうになる。

 

「お前は言ったな!コピーはオリジナルを凌駕すると!でも、見てみろよ!傷ついているのは、お前の創った仲間たちも同じだ!彼らの悲鳴が聞こえないのか!」

 

ミュウツーの鋭い視線が、一瞬だけ、俺を射抜いた。

 

「お前の『逆襲』のために、彼らを利用するな!彼らには彼らの、今日この場所から始まった新しい命があるはずだ!それを、お前自身が『偽物』だと切り捨てるのは、自分自身の存在を否定してるのと同じだぞ!」

 

『……黙れと言ったはずだ。命など、ただの偶然の産物に過ぎん。産まれた理由のない者に、生きる価値などないのだ!』

 

「理由なんかいらないんだよ!!生きたいと思う心があれば、それだけで十分だろ!」

 

俺の叫びに、ミュウツーの動きがわずかに鈍った。

その心の揺らぎを逃さず、ミュウが巨大なサイコフォースを放つ。

 

『……ぐっ!』

 

体勢を崩したミュウツー。だが、その瞳に宿ったのは、悲しみではなく、煮えたぎるような破壊の衝動だった。

『やはり、滅ぼすしかない。私の存在を許さないこの世界も、私を哀れむお前たちも、すべて!』

 

ミュウツーとミュウ。

二体の最強の生命体が、互いの全エネルギーを一点に凝縮し始めた。

それは、もはやポケモンの技という範疇を超えた、星の命を削るような最終審判の光。

これが激突すれば、ニューアイランドという島そのものが、地図から完全に消滅するだろう。

 

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 

その時、俺の横を、目にも留まらぬ速さで駆け抜けていく影があった。

赤い帽子。泥だらけの服。

一人の、どこまでも純粋で、馬鹿正直な少年。

 

サトシ。

 

「サトシ、戻れ!!死ぬぞ!!」

 

俺の手は、届かなかった。

サトシは、二つの神の力の中心、その爆心地へと向かって、無防備な体を投げ出した。

「もう……やめてくれぇぇぇっ!!」

 

ドォォォォォン!!

 

スタジアム全体が、白銀の光に飲み込まれた。

鼓膜が破裂しそうな轟音。続いて訪れたのは、耳が痛くなるほどの、絶対的な静寂だった。

 

光が収まった時。

そこには、すべての動きが止まった、凍りついたような世界があった。

 

ポケモンたちは、オリジナルもコピーも、戦う手を止め、呆然とその一点を見つめていた。

フィールドの中央。

そこには、灰色に変色し、石の彫像のように動かなくなった少年の姿があった。

 

「……サトシ……?」

 

ピカチュウが、震える足で歩み寄る。

サトシの足元に辿り着き、その石の手を揺らす。

「ピカ……チュウ……」

頬を寄せ、最大の電撃を流すが、石になった体は冷たいまま、ピクリとも動かない。

 

「ピカ……ピピカチュウ……!!」

 

ピカチュウの悲痛な叫びが、スタジアムの隅々まで響き渡った。

その瞬間、俺の心の中で、何かが音を立てて崩れ落ちた。

 

これは物語なんかじゃない。

俺の目の前で、友人が、命を散らした。

転生者として、何を成すべきだったのか。

何を、守るべきだったのか。

 

その「現実」のあまりの重さに、俺はただ、膝をつき、拳を地面に叩きつけることしかできなかった。

空から降り注ぐ冷たい雨が、頬を伝う涙と混じり合っていく。

スタジアムは、生命の終わりを告げるような、深い絶望に包まれていた。

 

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