「本当なのか?アイツが」
「間違いありません。警視である父の情報に間違いありません」
黒川あかねの目の前にはアクアが倒れた時にお世話になった映画監督の五反田がいた。彼女は自身の推理を披露すると彼は腕を組んで顔を曇らせる。貧乏ゆすりをする右足は次第に大きく揺れ動き心が落ち着かないようだ
「そうだよなあんな電話は―――」
「何か知っているんですね?」
その問い掛けに組んでいた腕を解いた彼はコーヒーを飲み干してコップを強く叩きつけるように置いてしまう
「少し前の日曜に苺プロの社長から電話があって、アイツが俺ん家にいるような口ぶりで話してきたから”来ていない”って言ったら」
「どんな反応を?」
「なんか焦ったような感じだったな」
「他には?」
身を乗り出して聞いてくる黒川を制しながら、彼は全ての記憶を思い出すために唸り声をあげながら呼び起こしていた。じれったいと感じる彼女だが焦ったところで現状が好転することはない
「…おととい……」
「えっ?」
「一昨日って言ってたな!だから金曜日に家を出たことになる。あんな記事が出た後だ家には居づらいだろうな」
「あんな記事?」
首を傾げる彼女に五反田は重い溜息を長く吐き続ける。そして双子たちの秘密を明かした
「アクア君がアイの?」
「本人に聞いた訳じゃない、状況証拠の積み重ねで推察しただけだ」
「じゃあ何で?」
「分からないが情報の出所は確実にアイツだ!秘密を世間に暴露したということは何かの意図があるはずだ。あるいは目くらましか」
大きな手掛かりではないが貴重な情報を手に入れた彼女は五反田家から出ると近場のカフェに入ってノートを取り出した。父親から教えてもらったことや監督の言葉を精査しながら結論を求めようとしているが、=(イコール)どころから式の途中が空白だらけである
「(姫川さん?)」
ポケットに入っていたスマホが鳴動しディスプレイには同じ劇団に身を寄せるトップ俳優の名前が浮かび上がっていた。着信に出ると開口一番
「どういうことだ!休養ってあいつは」
「落ち着いてください」
大声で耳がキーンっとなりそうだが、彼女は相手を諭しながら質問に答えていく
「姫川さん覚悟はありますか?」
「覚悟って?そんなに悪い状態なのか?」
真実を告げるのは酷だ!でも伝える必要がある。下手に暴走されるよりも味方に引き込んでしまおうと考えていた
「(そういえば東ブレが終わってから絡むようになって)」
姫川大輝と星野アクアが母親違いの兄弟であることは当人たちだけの秘密で、大輝にとってアクアは大切な存在である。兄として弟たちのことを守りたいと思っている
「アクア君が消えました!」
その言葉は彼の心を砕く最悪な1手となってしまった
自宅に戻った有馬はズル休みを続けていた。1日に1回ミヤコが確認に訪れるが心ここにあらずで雑な対応になってしまう。当然のことだが女優業や音楽活動も出来ず今はMEMちょがYouTubeで生配信をするだけである。チャット欄にはアクアの病気に関することが多く打ち込まれ対応に四苦八苦している
「(わたしの…せいなのかな?)」
固形物が喉を通らず最近はゼリー飲料とサプリメントしか摂取していない、部屋には空になったペットボトルが散乱し足の踏み場が狭くなっている。空腹のチャイムが鳴り響き立ち上がるが力が入らない
「(私があのとき)」
事務所でルビーに言われたことが頭から離れない全ては自分が蒔いた種である。シマカンの話に乗ってしまい週刊誌に撮られてしまった。もし最初から断っていたら今の状況には陥ってなかったはずだ
”バタン”
ゴミを踏みつけて滑ってしまいフローリングの上に倒れてしまった
「痛いよ……アクアなんで」
こぼれ落ちる涙は自分と床を汚す。彼の名前を口にするが誰も助けてくれない【今日あま】が終わってから彼は手を差し出して道と光を与えてくれた。なのに自分はアクアに何も返せていなかった。受け取り続けるのが当たり前だと思ってしまった。心の中では”いつか”と思っていたが
「探さないと」
自分が蒔いてしまったんだ!伸びきった草を刈り取るのは自分の役目なんだ‼見つけて抱き締めて伝えたい言葉がある。今まで何度もアクアに助けてもらったんだ
「有馬ちゃん!」
夕陽が沈む頃ミヤコに頼まれて訪れたMEMちょは開かないドアに向けて声を掛け続けるが無駄な時間の浪費と努力であった。なにせ部屋の主は存在していなかった。アクアに続いて彼女も行方を眩ませた
「ここも駄目ね」
自宅の駐車場に戻ったミヤコは赤いペンで地図に✕印を書き込んだ!あの日から毎晩アクアのことを探し続けているが1つも手掛かりが見つからない、明日は大事な打ち合わせがあるので早めに帰宅すると部屋の電気がついていることに気付いた
「まだ起きてるのかしら」
学校には行っているが事務所には来ないのでルビーと殆ど顔を合わせていなかった。せめて今日ぐらいは何かを話そうと思うが睡眠不足で鈍った頭では思いつかなかった
「お帰りミヤコさん」
「ルビー?」
鍵を差し込む前にドアを開けてくれた彼女だが何故かエプロンを纏っている。自分の為に夜食でも作ってくれたのだろうか?頭の中にある疑問符を打ち消すことが出来なかったミヤコは靴を脱いで室内に入った
「(茶碗と箸が4つ?)」
テーブルの上に置かれた食器の数が多かった。キッチンに立つルビーは鼻歌交じりでお玉を持って鍋の中身をかき回している
「ルビーどうして?」
「ミヤコさんは座って待ってて!もうすぐ
「アクアが?それにたちって?」
彼が帰って来たのなら真っ先に連絡が来るはずなのに変だ!あきらかに言動がおかしい、椅子から立ち上がったミヤコはルビーに近づくと
「ヒッ!」
「もうすぐで完成するから……自信作でママのより美味しいから」
振り向いた彼女の瞳から光が消えていた。お玉で回していた鍋の中は沸騰していない水でコンロの周辺を濡らし続けている
「……ママがお兄ちゃんと一緒に帰ってくるから、仕事で遅くなっているだけだから今日は私がみんなの晩御飯を作らないと」
「ルビーしっかりして!アイは…」
「今度の日曜日に4人で買い物に行こうよ、少し遠いけどママが行きたがっていたアウトレットに行って帰りは美味しいを……みんなで………みんな、ねぇお兄ちゃんはどこにいるの?なんで……こんな時間なのに帰ってこないの?明日も撮影なのに」
言葉を挟む余地がなかった
「私がいけないんだ!だってお兄ちゃんは私たちのために頑張っていたのに、なのに突き放しちゃって………だから嫌になってママと……そうだよね、こんな妹なんかと一緒に暮らしたく……なんか、ママもそれを知ってたから連れ…」
全てを言い切る前にミヤコはルビーを強く抱き締める。背骨が折れても構わない腕に込めた力を緩めることはせずに
「ルビーしっかりして、ルビー!」
「ミヤコさん?」
目に光が戻った彼女だが涙がこぼれ続けている。現実を受け止めたくなかった!夢の中で母親がアクアを連れて出て行ってしまったのなら2人で帰ってくると信じてしまった。疲弊した精神は存在しない記憶を作り出し空想を真実だと思い込んでしまった
「大丈夫?」
「ママが……お兄ちゃんを連れていって、”独り”で生きていきなさいって」
床に座りこんだルビーの背中を摩りながら落ち着かせる。ミヤコは自己嫌悪に陥っていた!アクアの捜索を優先していたせいで残された彼女のことを疎かにしていたことを、いや気に掛ける余裕が無かったのが真実だった
「帰ってくるのね?私が良い子にしていたらお兄ちゃんは帰ってくるよね?」
「私たちが信じなくて誰が信じるの!」
安易に”帰ってくる”と言えなかった。プラスになるような情報は1つもなく時間だけが淡々と過ぎ去っていく日々に希望を持つことが出来なかった。ルビー以上にミヤコの方も疲れ果てている。しかし弱い顔を彼女に見せて不安にさせてはいけない、笑顔を無理に作って立ち上がろうとした瞬間
「ミヤコさん!」
執筆を始めて5時間(晩御飯と風呂があるから実質4時間)で出来ちゃった
向こうの世界ではアクア君たちがキャッキャウフフなのに現実は…
鍋のシーンは『例のアレ(アニメ放送が2005年ぐらいだったから21年前か)』にしようか悩みましたが水にしました
感想ありがとうございます。
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