彼だけが救われる物語   作:大気圏突破

14 / 22
いつもより短いです


待ち望んだ可能性

 母親アイと再会し結婚したことを報告することが出来たアクアたちの日々は現在進行系で充実している。ポーションや医薬品の販売も好調でギルドの方から事業拡大を打診されたが断った。別に大金持ちを目指している訳ではなく家族と不自由なく過ごす程度の稼ぎがあれば良いと思っている

 

 

「行儀見習い?」

「是非アクア君のところで雇ってほしいんです!」

 

 ギルドから呼び出された彼は目の前にいる奴隷商人の言葉に疑問符を浮べて首を傾げていた

 

「それっていったい?」

「すいません説明不足で、そうですね簡単に言ってしまえば奴隷に満たない存在です」

 

 誰でも奴隷になれるわけではない、基準の年齢に達していない人物に特定の知力や技術を有していないことや犯罪歴等など多岐にわたる

 

 

「つまり俺の店で半端者や未熟者を雇えと」

「概ねその通りです。私のところに在籍している見習いの殆どが年齢が満たない面々で脛に傷をもつ者はいません」

 

 奴隷と同じように衣食住を保障し見返りに労働力を得るが、1番の違いは賃金の支払い義務が無いことだ!『お小遣い』という名目で手渡す雇用主もいるが金額はピンキリである。奴隷商人も『お小遣い』を渡しそうな人に声を掛けて斡旋している

 

 

「(相撲部屋みたいなものか)」

 

 アクアの想像通りである。そもそも『行儀見習い』は目の前にいる男が考案したシステムで早くから経験を積むことで即戦力を育成し稼げる現場に送り出すのが目的だ、稀にだが家族同然に過ごしたことで子供のいない夫婦が引き取るケースも存在する

 

 

「あかねに相談しますので持ち帰らせてください」

「そうですね。急かすような言い方になってすいません」

 

 

 

 

 

 ギルドから出て行ったアクアは自宅ではなくベルーガの店に足を進める。彼なら自分の背中を押してくれる言葉や経験談を語ってくれるかもしれない、生前は人に頼ることを苦手としていたアクアだが困ったときに「HELP!」と口に出来るようになったのは成長の証だと思う

 

 

「引き受けてみなさいアクア君」

「ベルーガさんも最初は迷いましたか?」

「『行儀見習い』自体は歴史も浅くて改善が必要だが自分の種を誰かに分け与えて、受け取った者は育てて花を咲かせる。花は枯れるが種が残り次代に繋がって行く、商売のイロハを教えてくれた師匠の受け売りじゃ」

 

 少し遠い目をした彼は昔のことを思い出しながらアクアの方に視線を向ける

 

「アクア君の幸せが誰かを笑顔にすると思う」

「素敵なことですね」

「上に立つ者や力を持つ者は先のことを考え最善を尽くす。人を育てるのは大変だが良い経験になるはずだ」

「妻が渋ったら説得します」

 

 

 背中を押されたアクアは自宅に戻り夕食時に今回のことを話した。あかねは少し黙って思案する表情をみせていたが息を吐いて笑みを浮かべている

 

 

「アクア君の決めたことなら良いよ!」

「あっさりだな」

「私たちの幸せを受け継いで人を笑顔するのって最高だと思うし」

「俺は笑っているあかねの顔が1番好きで最高だ」

 

 歯の浮くような台詞を真顔でいわれた妻は茹蛸のように真っ赤になってしまう。アクアは熱があるのかと勘違いし互いのデコを当てて至近距離で見合う。あかねの突き出した唇が触れ次第に舌が絡み合い唾液を零さないように交換すると抱き合いながら愛を深めていく、今日の夜は南極の氷が溶け落ちるレベルで情熱的な時間を過ごすだろう。晩御飯の食器を片付けるのは翌朝になってしまった

 

 

 

 

 

 

「それでは連れてきますの少々お待ちください」

 

 翌日の午後に2人はギルドへ訪れ奴隷商人に承諾の返事をした。向こうも1日で決着するとは思わず眼鏡がずり落ちてしまいレンズが粉々になってしまう

 

 

「全員女の子だね」

「それも家庭の事情で出されてしまったり、冒険者の夫婦がクエスト失敗で亡くなってしまった子共もいるな」

 

 手元の履歴書やイラストを見ながらアクアたちは誰を選ぶか検討をしていた。流石に全員は不可能なので1名だけである

 

 

「もし1日でも違っていたら私はアクア君と再会することは―――」

「神様が引き寄せてくれたんだと思う」

「繋がっているんだね私たち」

 

 ブラックコーヒーを飲んでいる方々、手元にあるのは正真正銘無糖です。甘く感じてしまってもメーカーに対してクレームを入れないでください

 

 

 

「すいません!もう1名を追加で入れても構わないでしょうか?」

 

 廊下から叫んでくる奴隷商人の声にアクアはOKの返事をすると室内に6人の女の子が並ばされたが最後の1人は5人から離れ俯いているので顔が見えないどころか帽子を被っているので髪色や髪型も分からない

 

 

「(あの帽子って?」

 

 やや灰色気味で複数の♡マークが横並びで列を作り、主張の強いウサギの顔のようなワッペンが装着されている。5人の自己紹介とアピールが終わり彼女の番になったが声を出そうとはしなかったので付き人が背中を叩いた

 

 

「さりな……天童寺さりなです」

 

 

 顔を上げた少女を見てアクアは口を開けて固まってしまった

 

 

「(さりなちゃん!なんで…いやアイやあかねが来たように彼女も)」

 

 

 フリーズしたが瞬時に再起動した夫の隣で妻は勘違いをしていた。目の前にいる彼女が自分たちと同じ日本人であることに驚いたんだと思っていたからだ!あかねはアクアの服を軽く引っ張り自身の口を耳元に近づける

 

 

「さりなちゃんにしましょう。多分同じだと思う」

「そうだな」

 

 彼にそのことを伝えると驚いた表情をしていたが営業スマイルを作り、手早く必要な書類を用意した。2人は契約のサインを書き込んで判子を押す

 

 

 

「因みにもう1人程は……野暮でしたね、これにて契約完了です」

「ありがとうございます」

「礼を言うのはこちらです。彼女は拾い子でして部下が保護したのですが誰にも口を開けなくてコミュニケーションが出来なかったもので」

 

 

 奴隷商人の感想を聞き流しながらアクアは彼女(さりな)のことを見つめていた。その姿は亡くなった時と変わらず見た目は12歳ぐらいで隣に座る妻の手を強く握っていた

 

 

「もし追加を検討していただけたら雨でも雪の日でも駆けつけますので」

「仕事に精を出しすぎて倒れないでくださいよ」

 

 

 会話を終わらせてギルドから離れた3人は、馬車に乗ってアクアたちの住む店舗へ向かっていく、道中さりなはずっと窓の外を眺めながら移りゆく景色を目に焼き付けていた

 

 

 

 

「おじゃまします」

「やり直し!」

 

 あかねの言葉に顔をあげる彼女は困ったような顔をする。何か気に障るようなことをしたのか不安になってしまう

 

「今日から一緒に住むのよ他人行儀な言い方じゃなくて"ただいま"でしょ?」

 

 その言葉に顔を赤くしながら頷くと挨拶をやり直して敷居をまたぐ、妻の満足そうな顔を見てアクアも同じように口を開く

 

 

 

「さりなちゃんも日本人でしょ」

「えっ?」

 

 2階に通した彼女をダイニングに案内し、飲み物を目の前に置くと質問を投げかける

 

 

「私とアクア君も同じ日本人だから」

 

 

 まさかのカミングアウトに驚いた天童寺さりなは意識を失った人のように崩れ落ちながら倒れるのであった

 

 

 




さりなちゃん登場となりました。詳細は次話以降で語るつもりです。

感想ありがとうございます
誤字訂正もありがとうございます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。