苺プロの面々で現在1番辛いのは誰だ?アクアに対して辛辣な態度で接してしまった妹?根本的な原因を作り出してしまった元天才子役?理解するのを放棄してしまった保護者?
「私が……私が頑張らなくちゃ」
正解はYoutuberのMEMちょだ!アクアが行方不明でB小町が活動出来ない状況でまともに動けるのは彼女しかいないのだ!最年長の自分がしっかりしないといけない、事務所の危機に自分が頑張って踏ん張れば事態は好転すると信じている。それは重くのしかかる現実に目を背きたいだけかもしれない
「アクアはどうした?」
寂れた釣り堀で水面に糸を垂らす斉藤壱護は背後にいる存在に声を掛ける。こんなしょぼくれたオッサンでもルビーたちが所属している事務所の元社長だ
「……いなく、…なっちゃった!」
「はぁ?表舞台ってことか?」
「違う、家から出て行って消えちゃった」
その言葉に大声をあげてしまい餌に寄っていた魚が逃げてしまう。振り向くとルビーの目は真っ赤で涙の跡が頬に残っている
「警察は?」
「行ったよ、そしたらお兄ちゃんのスマホだけが見つかってミヤコさんも毎晩捜していたんだけど倒れて」
心臓の鼓動が一気に早くなる。血流が全身に駆けめぐり体温を上昇させ額から大粒の汗が落ちてきた。そして釣り竿は水の中に沈んでしまう
「ミヤコさんが事務所のことを全部やってたから、大事な打ち合わせも出来なくて」
「ミヤコは?」
「頭を打って病院に運ばれて……先生は心労と過労だって」
「案内しろ!早く!!」
足元の荷物を全て放置し2人は病院へ向かった。なお壱護は釣り堀の常連客だったので沈めた竿代を請求され出禁となってしまう
「…ミヤコ……」
ベッドで目を閉じて横になる彼女の頭部には包帯が巻かれ白いネットが被されていた。壱護は近寄ろうとするが医師に制されてしまう
「1時間前までうなされていましたが、ようやく落ち着いてくれました」
「ミヤコは大丈夫なんですよね?」
「外傷はありますが脳波に異常はありません。1週間ほどで退院出来ます」
「ありがとうございます」
頭を深々と下げているとルビーのスマホが鳴動したので彼女は廊下に出て通話ボタンを押した
「どうしたのMEMちょ?」
『ミヤコさんはどうしたの?全然繋がらなくて!』
「家で倒れちゃって、今は病院なんだ」
気が動転していたせいで連絡を怠っていたことを悔やむが、今の自分が有馬のところへ電話を掛けるのは難しいと思い彼女に伝えてもらおうとしたら
『有馬ちゃんがいないの!』
「それって…」
嫌な予感がする。兄に続いて彼女も姿を消すだなんて考え過ぎだ!きっと買い物に出かけているだけで偶々MEMちょが訪れたタイミングが悪かったに違いない、時間が経てばきっと……だけどアクアは帰って来ていない
「きっと……きっと買い物に」
『半日以上もどこでどんな買い物をしてるの!』
最悪なことを想像してしまった。まさか兄の後を追って?
「MEMちょお願いが」
「無理ッ!私だってもういっぱいいっぱいなの!アクたんが居なくなって耐えてきたけど、もう持たないよ自分のことだけでも手一杯なのに!」
周りが疲弊し落ち込んでいるから自分だけは頑張って平常心を保とうとしていたが限界は近かった。もし彼女が姉ではなく末っ子だったらみんなの同じように涙を流し悲観することを選択したはずだ、B小町の危機を救うのは私だ!私が最後の砦なんだ‼心を奮い立たせていたが、押し寄せてくる波は大きく飲み込まれてしまう
「とりあえず明日事務所に来て、こっちの方でなんとかしてみるからMEMちょは休んで」
「ありがとうルビーちゃん」
電話を切った彼女は病室に戻り有馬が姿を消したことを話し、壱護は頭を強く掻きむしるが目には炎が宿っていた。1度は逃げ出したが今度こそ貫いてみせる。倒れたとしても背中ではなく前のめりに…少しでも前に進むように
豪華なリムジンから登場したのは煌びやかなドレスを纏った女優だった。優雅にレッドカーペットを歩く姿は人類の視線を全て独占してしまう。子供が持つ色紙に『有馬かな』の名前を書き込むとマイクを持った報道陣が詰めかけてくる
ー今のお気持ちは?ー
「最高です!小さい頃から夢見てきた舞台ですから」
ー日本のファンに一言メッセージをお願いしますー
「小さい頃から応援していただき本当にありがとうございます」
フラッシュの雨が彼女に降り注ぐ、アイドルの頃を思い出して気取ったポーズを披露しウインクをすると歓声がうねりのように巻き起こる。手を振りながら自分を見てくれるファンに感謝の意を示していると
ー島監督の自宅から朝帰りする写真を撮られましたよね?ー
「えっ?」
ー揉み消す為に星野アクアが身を粉にしてくれたのに、あなたは傍観するだけでしたよね?ー
「それは」
ーみんな悲しんでいるのに恥ずかしくないのですか?ー
答えようとしても口から言葉が出て来てくれない、うまく呼吸をすることが出来ない、今の自分は誰かの犠牲のうえで成り立っている。誰?……小さい頃から知っている。顔や声が浮かんでくるのに名前が浮かばない、遠くに視線を向けると自分を見つめる金髪の男がいた。彼は自分に背を向けると階段を登っていく
「……待って!」
喉のあたりまで答えが出てきている
「待ってよ!置いていかないで、言いたいことが山ほど」
まるで泥沼の上を歩くように足が沈んでいってしまう。彼がどんどん遠くに行ってしまい追いつくことが不可能になる。呼び止めないと彼を…大事な大事な
「アクア!」
大声を出して有馬かなは現実に戻ってきた。周囲は安い壁紙に覆われた殺風景な部屋で夢の世界とは大違いである
「嫌な夢ね」
彼を探しに自宅を飛び出した彼女はアクアと初めて共演した映画の撮影現場に訪れていた。手掛かりなんて持っていない有馬にとって繋がりのある場所はここしかなかった。到着したときには夕陽が沈み暗くなっていたので近くのビジネスホテルに身を寄せた
「どこにいるのあの馬鹿は」
移動中に散々口にした言葉だが答えてくれる人は存在しない、明日に備えて何かを食べようと立ち上がるとポケットから着信音が鳴り響く
「いったい何の用?黒川あかね」
「ねぇアクア君のことだけど」
電話の相手に対して怒りが湧いてくる。そいつを今探しているところなのに
「ホームページに書いてある通りよ、アイツは…」
「行方不明でしょ」
その言葉に体温が一気に下がり鳥肌が立ってしまう。なぜ彼女が知っているのか?自分以外の2人が漏らしてしまったのだろうか?あかねに教えたところで状況は好転することは1つもないはずなのに
「誤魔化しても無駄だから、言っておくけどルビーちゃんやMEMちょからじゃないから」
「じゃあどこで?」
「その反応ってことは認めるんだアクア君が行方不明って、私のお父さんって警察勤めだから教えてもらったの」
墓穴を掘った形となり有馬は全てを白状した
「なんでアクア君は週刊誌に打ち明けたの?」
「それは…」
「言えないこと?それってまさかスキャンダルを打ち消す為?」
彼女の推理力や洞察力は凄まじい、僅かな情報や相手の機微を瞬時に読み取って答えを導くことが可能である。どんなことをしても答えに辿り着くだろう
「最低」
短い言葉は彼女の心にナイフを突き刺した
「こんな尻軽女を守るためにアクア君は」
「あんただってアイツのことを」
「それとこれは話は別、根本的な原因はかなちゃんが悪いんでしょ?女優としての仕事が無い?それって単に実力不足で努力を怠っているだけでしょ、映画監督の甘い言葉に心踊らされてホイホイついて行って最後は話し合いで解決しました?誰が信じるの?」
反論しようにも全てがカウンターで返されそうな気がする。なにもせずに罵詈雑言を受け入れようとしたが黒川あかねは許してくれない
「とりあえずウロチョロしないで事務所に帰って?」
「あんたの指図なんか」
「苺プロの斉藤社長が倒れたよ、MEMちょから教えてもらった」
その言葉に彼女の心臓が止まりそうになる。もしかして自分が何も言わずに出て行ってしまったせいで
「遅くまでアクア君のことを捜していたみたい、心労が祟って倒れたそうよ」
「どこの病院?」
彼女から病院の名前を聞き出すとすぐにチェックアウトし、タクシーに乗り込んで苺プロへ向かうのであった
「1人でやる量じゃないだろ」
事務所で妻の座っていた椅子に腰を下ろした壱護は膨大な雑務に追われていた。アクアに関する仕事のキャンセルは既に済ませてあったがB小町関連は全くの手つかずだった。流石に今の状態でライブや音楽番組に出演させるのは不可能なので電話でキャンセルすることを伝えていってる
「(収入の柱はYoutubeだけか)」
彼が今後の方針に頭を悩ませていると扉が開き、顔に被り物をした筋骨隆々の男が入ってきた。ぴえヨンは青いブーメランパンツの中から1通の封筒を取り出して机の上に置いた
「これって」
「受理をお願いします」
そこには『退職届』の3文字が記載されていた
前話でさりなちゃんを登場させましたが、原作やアニメで彼女が帽子を被っていた理由って、治療(放射線治療?)が原因で髪の毛が抜け落ちたという解釈で良いですか?髪色も唯一残った眉毛から推察してますが黒髪ですかね?
有識者の方がいたら教えてください