病人の血を飲んで抗体を作る
ダメージを受けて新薬(ポーション)を作る
さりなちゃんに魔法の素質が見つかった。属性は『風』でお風呂で入浴剤を混ぜている時に発現した。彼女は某忍者漫画でメリケンサックを持って煙草を吸う先生のようにドヤ顔なんかせずに魔法を生活の役に立てる為に有効活用する
「乾いたよ!」
「もう終わったの」
まず洗濯物の手洗いが無くなった。水を張った桶に洗濯物を入れて石鹸を投入し風魔法で回転させるだけで従来5分の1まで時間を短縮し雨の日は室内で乾燥することも可能になる。またお風呂上がりに濡れた髪を乾かすドライヤーとしても使っている
「螺旋丸!」
なお何度も手を動かして叫んでも主人公の必殺技は発動しなかった。というより店の中でやらないで暴発したらヤバいから
「エルフ?」
「会ったことはないのか」
「ないですね」
商業ギルドに『ハイポーション』を卸した後にギルドマスターに呼ばれたアクアは当たり前のように部屋に招かれた。誰も彼のことを咎める者はいない、これまでの功績を考えればいたって普通のことである
「気難しい奴等だから森の外に出ているのは変わり者だ」
「それがいったい?」
頭の中にアニメやゲームに出てくる金髪美人やイケメンの姿が思い浮かび、魔法や弓を使って敵を狩るイメージが映しだされていた
「他の街からの情報なんだが、エルフの住む森で病が発生している」
彼女の話ではアクアが街にやって来る前から小規模で発生していたがエルフたちは対策を立てずに自然に治るのを待っていたが状況は悪化の一途をたどっている。エルフのみの感染で人への被害は報告されていない
「クラスターか」
「なんだそれは?」
「集団感染という意味で狭いコミュニティなら爆発的に患者の数が増えます。病気のエルフたちって隔離してますか?」
「なんでそんなことが必要なんだ?」
この世界の衛生管理は割と雑である。冒険者たちも怪我をしたら唾をつけている奴もいて年齢が上がるほど頭が固く”俺はこれで今まで無事だったんだ!”と言って聞く耳を持たない、なおそいつはダンジョン内で感染症に陥り帰らぬ人になった
「今度の会議で提言してみてもいいな、そういった病で亡くなる冒険者たちを減らせる可能性がある。予算の問題もあるが王都に陳情してみる手もある」
「俺の住んでいる店って診療所だったんですよね?」
「高潔な人だったよ」
かつて住んでいた人物は昼夜を問わず働き住民たちの期待に応えていた。手持ちが無い人には”ある時払いの催促なし”で身銭を削って薬を王都から取り寄せたこともあった。当時を知る彼女は何度も注意をしたが聞き入れてくれなかった。結局のところ自身の悲鳴に耳を傾けなかったことが祟り診察中に倒れてしまい旅立ってしまった
「勇気と蛮勇は違うと言うが、医者が病で倒れるとは」
「自分が頑張らないといけない」
「そこに甘えてしまった奴等のツケを払わされた」
「善人って報われないですね」
自宅に帰ったアクアはギルドで話したことを2人に伝えると妻は神妙な表情を作る
「ねぇアクア君まさか」
「店に薬を求めてきたら対応するけど、自分の足でエルフたちの住む森に向かうことはしない」
「エルフの人たちを死んじゃうの?」
さりなの言葉に2人は沈黙する『医は仁術』という言葉がある。医療というものは病気を治すためのものものではなく人を思いやることが大切である。命を救う博愛の道ということだが現代では悪い意味で浸透している
とある地方ではモンスターペイジェントによって短期間で7人の医療従事者が退職をしてしまった。雨宮吾郎時代にこのニュースを見ていたアクアも心を痛めていた。医者だって血の通った人間である意のままに操られるサイボーグではないのだ
「すいません!開けてください……どうか」
ドアを叩く音が聞こえ身構える3人、地域住民や地元の冒険者なら閉店時間後に訪ねても開けないことを知っている(アイは例外)つまり外の住人ということだ
「こんな時間に来ないでください!非常識ですよ」
「どうかお願いします!早くしないと仲間が」
言葉から察するにパーティーメンバーが怪我を負ってしまったのだろう。アクアはさりなに目配せをして風魔法を放てるようにした。激昂して自分たちに危害を加えてくる可能性を考慮しての対策だ
「明日来てください!」
「もう…森が……父も………ともが」
次第にドアを叩く音が小さくなる。しかし”森”という単語を耳にしたことで全員が顔を見合ってしまう
「非情になれないな」
ドアを開けるとフードを被った人物が蹲っていた。呼吸も荒く肩で息をしている
「あり……がとうご……ざい」
「おい大丈夫か?」
「おねが……いしま」
そのまま地に伏せる形で倒れ込んでしまい、3人で中に運びこんだ
「ありがとうございます」
店内の椅子を3つ並べて即席のベッドを作ってから数十分後に目を覚ましたが、顔は赤く喋るのも苦しそうに見える
「それで何が欲しい?」
「薬を…病気が治る薬を」
「あんたと同じ病気なのか?」
アクアの言葉に頷くとフードを脱いで素顔を晒す。耳が尖がっていて碧眼で金髪の美少女で、3人がさっきまで口にしていたエルフの姿だった
その後は判で押したような流れ作業のテンプレートだった。自身のスキルである『自己犠牲』を用いて彼女から病原菌を貰い発症させ専用のポーションを作って飲ませた
「大丈夫?」
「体の怠さに関節痛と筋肉痛、それとこの熱い感覚って」
エルフたちはインフルエンザに罹患していた。本来なら体内で抗体が作られるはずだがエルフと人間では体の内部構造が違っていたせいで作られず、森の中で変異を続けていたウイルスが彼女たちを苦しませ続けたということである
寝ていたエルフも次第に顔の血色が良くなり凛々しい表情になっていくのが目に見えて分かる。椅子から立ち上がると全身の関節を鳴らし回復したことをアピールしていた
「ありがとうございます!これで森の仲間が助かります」
「それでお代は?」
「お代ってなんですか?」
この種族に貨幣価値の概念は存在していない、森の資源は住まう全員のモノという考えが当たり前の彼女たちにとって金を払って対価を得るということが理解できない
「医者なんですよね?」
「俺は商人だけど」
薬を売る人=医者だと勘違いしているみたいだ
「すいません!渡せるモノは何も……でも薬が必要なんです!」
「だからといってタダは無理だ」
ボランティアや慈善事業をやってるつもりはない明日を生きるために商売をしている。たとえ異種族であっても例外は認められない
「エルフは受けた恩を必ず返します」
「受けたことがないから信用出来ない!」
空手形なんて簡単に踏み倒される。しかも『恩』という曖昧な表現も気に食わない
「ねぇその弓は駄目なの?」
「えっ?」
さりなの言葉に全員が固まった。エルフが腰に装備している弓は武器屋で売られているものより綺麗で装飾も施され宝石も埋め込まれている。売ったら高そうだ
「これは……とても大事な」
「その弓を担保にしてくれるなら必要な数を作って渡す」
「ですが」
「ならこの話はこれまでだ!」
しばらく悩んだ彼女はアクアに弓を差し出した。口の端を強く噛んでいたのか軽く出血もしている
「必ず取り返しに来ますので手放さないでください」
その言葉を残し袋に詰めたポーションを持って外に出て行ってしまった。今回の出来事が波乱を呼び起こすのは言うまでもなく近いうちにやってくるのであった
仕事中に新しい推しの子小説のプロットが出来たけど、日曜日に文章化してみる
こっちの方もアクア君側でやりたいことは終わってスローライフを満喫させるので