ベルーガと別れたアクアは商業ギルドに向かった。未登録の状態で商品を売ることは禁じられているのもあるが身分証を手に入れる方が重要であり、登録に必要な費用だが財布の中にあった日本円がこの世界の通過へ変貌していたので問題無く払うことが出来る
「(それでも手痛い出費だな)」
スマホで支払うことが当たり前だった彼にとって財布の中身が薄くなるのは気分が落ちる。先行投資だと思えば気分が上向くはずだが収入のアテが無いのでテンションが落ちる
「こちらがギルド証になります。他の街で商売をする時はそこのギルドで証を提示してください」
「ありがとうございます」
「紛失しますと再発行手続きで10000ギルが必要になりますので」
「分かりました」
ギルドを出たアクアは職員から教えてもらった安い宿屋に向けて歩き出した。闊歩する人たちを避けながら視覚から入ってくる情報を精査しながらなので頭がクラクラするが慣れるしかない
「(さてどうする?)」
通された部屋は簡素な作りでベッドと机しかなく、体を洗う際は500ギルを払って桶に入った湯を使って布で拭くだけである。食事も提供されず自前で用意しなければならない
「(10日間で5000ギルってのも納得だな)」
高い宿なら3食提供され湯も使い放題である。弾力が全くないベッドで大の字になるアクアは自身のステータスを確認してみることにした
「ドラクエやファイファンみたいにレベルやスキルがあるのか…能力値は結構低いな」
口だけで体を鍛えることを殆どしてこなかった彼の戦闘における能力値は低いがMPの数値は異様に高い、そしてスキルには『ポーション生成』『医薬品生成』『自己犠牲』と記されていた。見慣れない単語が2つあったので調べてみると
『医薬品生成』
・自身がこれまでに使用してきた又は服用した薬品をMPを消費し作り出すことが出来る
『自己犠牲』
・受けたダメージや状態異常に耐性を持つことが出来る。自分のことを省みない自己満足でマゾヒストな星野アクアの専用スキル…通称ドMバカの快楽者
「アイツの仕業だな」
自分をこの世界に送り込んだ男に怒りマークを作るが、事実で当たっていることなので納得せざる得ない、アクアは試しに2つの生成スキルを使ってみることにした
「これがポーション?」
無臭で青色の液体が部屋に置かれた桶の中に満たされいる。そして指先で触れた部分を舌で舐めてみたら意外と美味しかった
「(リポD?いやアリナミンに近い味だ!)」
長年愛用し日本で慣れ親しんだ味に安堵したアクアはもう1つの生成スキルを発動する手前で止まってしまう。説明文にあった”自身が使用・服用”が気になっていたからだ
「(このポーションをコピー出来るってことか?それだと無意味なような………待てよ!”これまで”ってことは雨宮吾郎・星野アクアとして使ったモノを作れるのか?」
とりあえず脳内で絆創膏を思い浮かべ念じてみると薬局で売られている箱に入った20枚入りの絆創膏が目の前に落ちた。スキルの答えを見つけることが出来たアクアはその後もMPがゼロになるまで包帯や消毒液を作った
「(これを売れば…冒険者がいるってことは薬だって必要なはずだ)」
MPを使い切って怠い体に喝を入れて立ち上がると市場調査に向かうことにした
「毎日の食事をこれで食べませんか?」
「秘蔵の調味料を使った燻製肉だよ!なんの肉?そりゃ聞いちゃいけないよ」
「このナイフならモンスターもイチコロだよ!弱ければこっちがイチコロだけどな」
活気溢れる市場では日銭を稼ぐ人たちがシートや自家製の屋台で商品を手に持って呼び込みを行っていて、食器や保存食に刃物が並び住民や冒険者たちが足を止めて物色している
「(年末の浅草みたいだな)」
ある程度見回ったアクアは商品を並べるシートやポーションを詰める瓶を購入し、自身の売る商品の値段を模索しながら歩いていると同じくポーションを販売しているオッサンがいたので話を聞くついでに1つ購入し宿に戻った
「マズッ!なんだこれ」
市場で買ったポーションを飲んだアクアの口内は強烈な苦味が充満していた。自身のモノと同じ色だが磨り潰した雑草に水を混ぜて煮込んだ味で口直しで桶の中にある自作品を口にする
「俺のはポーションじゃないってことか?」
宿の主に尋ねてみると『ポーションは不味い』という言葉が返ってきたので自分のモノを試しに飲ませてみた。主の女は怪訝な顔をしていたが舌で軽く舐めると甘い味に驚きコップを空にしてしまい御代わりを要求してきた。効果も不味いポーションと同様で疲れていた顔がスッキリし高く積まれた洗濯物を持って駆け出していった
「これだとポーションというだけで毛嫌いされるな」
ベッドの上で腕を組んで胡坐をかくアクアは売り方について考えていた。このまま瓶に詰めたところで売り上げを望むのは難しい、冒険者や住民たちはポーション=不味いという認識を持っている。その認識を取り除く必要だ!
翌日アクアは市場で自分の店を開いた。シートを広げ瓶に詰めたポーションを並べるとスキルで空の樽にも注ぎ『1回限り無料試飲可能』と記載した立て札を配置する。不味いという壁を崩すにはこれしか思いつかなかった。ネットなんて存在しない世界で必要なのは口コミである
「(冒険者が食いついてくれれば)」
しかし新店の素人商売が調子良く上手くいくのは二次創作だけである。太陽が頂点に到達しても売り上げはゼロであり、隣で日用雑貨を売る女性と話ながら時間を潰していた
「飲んでみますか?」
「そうだね水を汲んでくるよりマシなら不味くても構わないさ」
樽を小型にしたようなコップにポーションを注いで手渡した。彼女は一気飲みすると目をカッと見開いて蒸気機関車のように鼻から猛烈な勢いで息を出す
「兄ちゃん本当にポーションかい?こんなに飲みやすいなんて」
「自分の体に聞いてみたらどうですか?」
1分前と違う顔色になりハッスルして小刻みにステップを踏み豊満な胸が揺れている。騒ぎを知った周辺の人たちも駆け寄り、彼女から話を聞くと次々に試飲して同じように顔を輝かせた
「ありがとうございました!」
夕陽が沈む頃には樽は空になり並べていたポーションは全て売り切れた。しばらくの宿代を得ることが出来たアクアは、ようやくこの世界に来て安心し胸をなでおろした
「明日も来るのかい?」
「雨が降らなきゃ居ると思います」
「今日の噂を聞きつけて冒険者たちもこぞって来るかもしれないよ!」
「別に値上げをするつもりはない、継続的に来てくれる為にこのままで」
「分かってるじゃないか」
シートを畳みポーションを詰める小瓶を購入し宿に戻ると宿泊期間を延長する料金と湯代を支払いベッドの上に倒れた
「(全部売れて良かった!しばらくはこれで食っていける)」
天井に腕を伸ばし手の甲に視線を向けながら深呼吸をする
「(需要はあるし医薬品も揃えていけばマシなところに住める。風呂にも入りたい)」
生粋の日本人であるアクアにとって入浴が出来ないのはストレスが溜まる。店に訪れた人の話では貴族は屋敷に浴槽を持っていると口にしていた
「(そういえば医薬品ってどこまで適応されるんだ?)」
包帯や消毒液は誰が見ても医薬品だと答えるだろう。雨宮吾郎時代の経験を踏まえると病気や怪我を未然に防ぐモノも該当するのでは?
「(虫歯予防で歯ブラシと歯磨き粉)」
この世界には歯ブラシはあるが高級品扱いだが毛先に動物の毛を使っているので柔らかい、もちろん歯磨き粉なんて存在しないので試しに念じてみると、見慣れたケースの中に入った歯磨きセットが目の前に現れた。飯を食べても口をゆすぐことしか出来なかったアクアにとって最高の品である
「(知名度が上がれば貴族関係者も訪れる可能性もあるが、医薬品は買うのか?)」
今後のことを考えならが疲れた体は眠ることを欲し、久々の安堵を得ることが出来たアクアは夢の中に足を進めるのであった
アクア君の作るポーションは体力を回復させるモノで怪我は微妙に治る程度(温泉に浸かるぐらい)です。元気な状態でも骨折や打撲を負っている人がいますし、なおアイテムボックスという便利なモノはありません
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