【島政則監督意識不明の重体】
ーシマカンこと映画監督の島政則氏が都内の病院へ緊急搬送されたのを同紙の取材によって明らかになりました。島監督は19日未明に何者かに襲われ後頭部を鉄パイプのようなもので強打され倒れているところを発見されました。警察は事件で捜査を開始していますが周囲にはカメラ等が存在せず人通りも少ない場所であり事件解決は難航が予想される。彼は度々の女優と浮名を流していることもあり怨恨の可能性も否定できない―
「怖い世の中だ」
新装開店した和食レストランでカミキヒカルは流れてきたニュースに目を落とす。島とは何度か顔を合わせたこともあり彼の映画に出資をしたこともある。世間では彼のことを天才と持て囃すが自分には理解出来なった
「こちらニリンソウの和え物です」
山菜特有の青臭さがなく前菜としては及第点以上の内容でカミキの舌も満足し鉢の中を空にしてしまった。知り合いのプロデューサーから紹介してもらった店だが今後の行きつけに…
「……ゔぅぐぅぉぉ、んん」
全身から冷や汗が噴き出し震えるように痙攣してしまう。揺れるのを押さえつけようとするが次第に呼吸ができなくなる。外の空気を必死に取り込もうとしているのに体内に酸素が行き渡らない、床を転げながら店主に助けを求めようとしたところでカミキの意識は途絶えてしまった
『まずは悲惨な事故のニュースです。都内の和食レストランで提供された料理に猛毒のトリカブトが誤って混入してしまい会社経営者の男性が亡くなりました。ニリンソウとトリカブトは類似点が多くベテランでも見極めるのが困難であり誤食が報告されています。―――続いてのニュースです俳優の姫川大輝―――』
ルビーはアクアの部屋に入りるとパソコンを立ち上げた。部屋で涙を流しながら待ち焦がれるよりも些細な情報を集めようと躍起になっている。心に火が灯った訳ではなく動いていないと不安に押しつぶされてしまうからだ
「(このフォルダーのパスワードさえ分かれば)」
カーソルの矢印が『新しいフォルダー』の周囲をグルグルと渦巻きながら彼女は兄の設定したパスワードを模索していた。既に誕生日関連の数字を打ち込んでみたが全てNGと判定されている
「ヒントは無いの?」
机の中にある紙やメモ帳の隅々まで調べたが手掛かりになるものは無かった
「(ママの死んだ日や誕生日も駄目だった。アイツやMEMちょでもB小町のデビューも違ったし、あと何があるの?……誕生日?)」
ダメもと打ち込んだ数字はルビーの前世である『天童寺さりな』の生年月日だった。彼女も”まさかね”と思いOKボタンをクリックすると開いてしまった
「(どうして?なんでお兄ちゃんが私の…)」
心臓の鼓動が一気に早くなり熱い血流が全身に駆け巡る。そして1番上にあった失踪する数日前に更新されたファイルを恐る恐る押してしまった
『退形成性星細胞腫の治療法について』
記されていたのは自身がかつて患っていた病に関するもので海外の論文を日本語訳した内容だった。また独自の考察や治療プロセスに患者との接し方についても記述されている。また別のファイルには天童寺家の住所や家族構成が記されたデータも残されていた
「…まさかお兄ちゃんって……!」
赤ちゃんの頃に兄も自分と同じ転生者だと口にしていた。その時は前世についてスルーしていたが目の前にある証拠が全てを語っている
「私って……ほんとうに馬鹿な、ごめんなさい!ごめんなさいゴローせんせ」
亡くなっていた意中の相手が…恋焦がれて心の底から愛していた人は1番近い所で兄として見守ってくれていた。そんな彼を邪険にして自分は遠ざけてしまった。もう時計の針を戻すことは出来ない、犯してしまった罪以上に深く重い事実がルビーとさりなの心を蝕んでしまうのであった
「2人が体調を崩しちゃってB小町はちょっとお休みするけど、私の配信はいつも通りにやっていくからね」
MEMちょは無理やり笑顔を作ってチャット欄のコメントを読み上げながら生配信を行っていた。正直なところ余裕なんて無かったが自分が頑張らないと今までの苦労が水の泡になる。ルビーが頑張ってくれたおかげで今の知名度がある
「(B小町の火を消しちゃダメ)」
移り変わりの激しいアイドル事情は戦争だ!少しでも弱いところを見せてしまうと人気は転がるように落ちていく、最年長の自分が最後の砦なんだ!ここさえ踏ん張ることが出来ればまた昔のように
「今日はどんな質問も答えていくよ!」
チャット欄には視聴者たちの質問が波のように押し寄せてくるが大半はルビーの体調やB小町関連だった。彼女はスクロールしながら選んでいくと
「えっ?3万円!不知火フリルって…ご本人?」
赤スパを投げたのは大人気マルチタレントと同じ名前を持つ視聴者だった。最初は別人と思っていたが更に3万円が追加で投げられ所属事務所と高校名とクラスまで記載されている。嫌な予感に苛まれるが計6万円投げてくれた人物を無碍にすることは出来ない
「じゃあ不知火フリルさんからの質問……っえっ!」
たった一行だけの短い文章の意味を理解出来ないほど彼女は耄碌していない、十中八九アクアのことだ!何も好転しない今の状況を歯がゆく感じての行動で真実を世間に公表すべきだと言っている。しかし
「なんのことかな~私に隠しごとなんて…乙女の年齢は秘密だけど」
頼むから引いてほしい!何でもするから…彼の失踪を世間に伝えるのは待ってほしい、心の中で手を合わせて神に祈るMEMちょだが、再び赤スパが投稿され
『なら私が言いましょうか?アクアのことを今ここで?』
チャット欄が『?』で埋まっていく、他の視聴者たちが騒めいてしまい地獄絵図の様相になっている。1番簡単な対処は配信を切ってしまうことだが悪手中の悪手であり世間にマズイことを隠していると宣言してしまう。壱護に問い合わせようにも向こうは雑務に追われている
「療養中のアクたんですが近日中にファンの方々へお知らせすることがあります。ですのでフライング発表はお控えください!」
脳内で必死に文面を作り0点の笑顔を見せて頭を下げるとチャット欄からフリルの名前は消えていた。秘密の暴露を回避することに成功したが導火線には火がついたままだった!結局予定よりも短くなった配信を終えた彼女は大きく溜息を吐いた
「(どうすれば…もう手立てが)」
貧乏ゆすりをする壱護はA4の紙に苺プロの現状を書き込んでいたが、9割以上がマイナスなことで大きな収入を見込めるチャンスも存在しない、これに加えて記憶を失ったミヤコの療養もあり火の車が猛烈な勢いでガソリンスタンドに突撃しようとしている
「(ミヤコさえ戻ってくれれば)」
彼女の記憶が戻れば今の最悪な状況を脱することが出来ると思い込んでいる。しかし記憶喪失を治す特効薬なんて存在しない、医者からも根気よく向き合うことが大切だと言われたが苺プロには時間がなかった
「鏑木頼みがある」
『懐かしい声だね!社長復帰おめでとう』
かつての仕事仲間に電話を繋いだ壱護は人生最大の賭けに出るのであった。しかしそれは崩壊を招く最後の1手となってしまう