アクアの商売は基本4勤1休でポーションが売り切れたら店じまいのスタンスである。最近は口コミの影響もあり昼過ぎには帰り支度が出来るほど盛況だ!購入者の割合は7:3で冒険者が多く、出発前に立ち寄っていく人たちがメインの客層になる
「(女の冒険者も結構いるな)」
この世界では強い弱いに性別は関係無い、つい最近も近くの露店で自身の身長を超える大男が暴れていたが、有馬ぐらいの女の子に正拳突きをくらって悶絶し連行されていった
「よっ!」
「デサイルさんキングリーさん」
繁盛するようになれば常連が出来て顔馴染みになる。この2人はアクアのポーションを愛用するようになってからメキメキと頭角を現した冒険者である
「早かったですね」
「今回は5人だったからな、それにポーションのおかげで楽をすることか出来た!」
ダンジョン走破や屋外クエストなどは多人数でパーティーを組んで挑むのが基本であり、ソロで挑むのは余程の実力者か身の程知らずの馬鹿である。パーティーの組み方も仲の良いメンバーで集まったり、ギルドに出向いて即席で作るパターンなど様々で彼等はギルドで3人組と合流した
「まだ食ってないだろ?奢ってやるよ」
「新店を見つけてな」
「お言葉に甘えて」
商売道具を宿に預けたアクアは待ち合わせ場所に向かい、野郎3人で店の敷居を跨いだ
「ここ以外の街ってどんなのがあるんですか?」
「そっかアクアは田舎から出てきたから知らないのか」
その質問にキングリーはポケットから茶色に変色した地図を取り出すとテーブルの上に広げ、自分たちが住処としているダノンに指を差す
「ここを中心にするとサトノ、テソーロ、エイシン、テイエムが近いな」
「とはいっても…どこも馬車で3日以上は掛かるけど」
「それで王都の名前がノーザンで城下町にサンデーとシルク、冒険者ギルドに行けば詳しい地図があるが大体はこんなところだ」
提示された地図と情報を頭に入れながらアクアは右下にポツンと点在する城に指を向ける
「ここは?」
「そこはメジロだ…いやメジロだったというべきかな」
「過去形ってことは」
「昔は栄えていたんだけどな」
かつては大陸の覇者と言われた国だったがお家騒動と内乱が続いたことで傾いてしまった。国としては機能していないが職や家持たずの人達が集まって生活しているらしい、なお王家の血筋は殆ど途絶えているが他国へ嫁いだマックイーンだけは無事だった
「滅びた国には怨念が集まり死体に宿ってアンデッドになる」
「アンデッド退治は文字通りに骨が折れるよ」
運ばれてきた料理を骨ごと頬張りながら2人は苦戦したことを思い出し眉間に皺を寄せる。しかし表情を戻し
「アクアのポーションのおかげで回復魔法に使う分を攻撃に回すことが出来るから、クエストも大分楽になった」
「ちゃんと宣伝してきたから、他の街から買い付けに来るんじゃないか?」
「あとは怪我さえ治れば」
ポーションの効果は体力回復であり怪我や負傷を治すことは出来ない、ランクの高いハイポーションやエリクサーの類なら骨折や欠損した部位まで再生が可能であるが市場に出回る数が少ないうえに高額になってしまう
「じゃあこれを使ってみてください」
アクアはポケットから20枚入りの絆創膏が入った箱を3つ取り出してテーブルの上に置いた
「なんだこれ?」
「新商品の絆創膏です」
「どうやって使う?」
2人は箱から中身を取り出して訝しむように見ている
「切り傷や擦り傷の処置に使います」
「こんなんで治るのか?」
実演を見せようにも3人とも傷を負っていなかったが、店奥の厨房から女性の悲鳴が聞こえ駆け寄ると店主の娘が包丁で指を切って血を流していたので、アクアは傷口を水で洗い流してからタオルで拭いて絆創膏を貼り付けた
「こうやって血を止めます」
「傷口って乾かさなくていいのか?」
この世界では湿潤療法は確立されていない、日本でもようやく消毒液を使わずに人間が本来持ち合わせている『自己治癒力能力』で治すことが一般に浸透してきたと思えば時代遅れも納得である
「定期的に貼り替えてください」
「ありがとうございます」
絆創膏の箱を1つ置いて3人は代金を払って店を出ると、アクアはキングリーとデザイルに1箱ずつ渡して解散した。2人はこれから歓楽街に向かい艶やか女性たちと熱い夜を過ごす予定で誘われたが丁重に断った
「(絆創膏や包帯に湿布あとは何が好まれる?)」
宿に戻ったアクアは今後の商品展開について模索していた。今のままポーションを売り続けても問題無いが、この世界に来て商売人としての自覚が芽生えてきた
「(戦って経験を積めば上位種を作ることも出来るのか?)」
効果の高いモノを生み出すことが出来れば収入は増える。フカフカなベッドで寝たいし風呂に入ってゆっくりしたい欲望がある
「(俺に戦闘は無理だな)」
帰り道で購入した果物を齧ったアクアは顔を顰めた。その実は熟していないと毒性を放ち食べた人を苦しめる。別に死にはしないが毒が抜けきるまで辛い生活をしなければならない、彼は苦し紛れにポーションを生成したが解毒効果なんて存在しないが気休め程度になると思い飲み干すと
「あれ?」
さっきまで自身を苦しめていた毒が完全に抜けている。それにポーションの色や味も違いレモンの味が口内に残っていた。アクアはもう一度ポーションを作ったあとにステータスを確認してみる
『解毒ポーション生成』
・体内の毒を浄化するポーションを作り出す。戦闘以外でも食中毒や鉛中毒を治すことが可能だが過信は禁物
新しいスキルが追加されていた。モンスターと戦っていないのに解毒ポーションが作れるようになったのか?ベッドの上で腕を組みながら顎に手を当てる
「(毒のある果物を食べたからが妥当だな、じゃあ麻痺や火傷の状態で作れば同様に……でも)」
答えを模索するアクアだが、読んでくれている方々にネタばらしをすると『自己犠牲』スキルが反応し彼の体内に毒に対する耐性が備わり『ポーション生成』と合わさって解毒薬が作れるようになった。なお彼が考えているように麻痺や火傷に石化のダメージを受ければ新たなポーションを生成することが可能だが、ヘタレなアクアに試す勇気は今のところ無い
「(ポーションに解毒薬と絆創膏をセット売りするのもアリだな、バラ売りよりも少し値段を安くすれば食いついてくれる)」
冒険者の2人が自分の商品を使って宣伝してくれる。多分近いうちに他の街からやって来る人もいるだろう。その人たちが別の冒険者たちに広めてくれれば売り上げは伸びる
「(商いって意外と楽しいものだな)」
小学1年生の頃に『お店屋さんごっこ』でクラスメイトと遊んだ時も、純粋に楽しむのではなく経営者目線で考えてしまい途中で冷めてしまった。しかし今は冷めることなく自身の作った品物を買いにくる人たちと話ながら日々を過ごすことに心が満足している
「(医者よりもこっちが向いていたのかもな)」
あの時は産婦人科医の道を惰性で選んでしまったが、今は自分で決めた道を強く踏みしめて歩いている。生きるために働かなければならないが苦しくはない、現世のしがらみや復讐から解放されたアクアの顔は憑き物がとれたように穏やかだが部屋に鏡が置かれていないので本人は確認することが出来ない
「(ポーション袋詰め放題はやりすぎだが、どこかで還元セールをやってみてもいいな)」
完全に思考が商売人となった彼に現実世界に残された面々を思う気持ちは次第に抜け落ちるのであった。あの日までは…
睡眠不足と疲労がたたり職場で背中から倒れました(金曜)
とりあえず無事です
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