異世界に転生したアクアは実験をする為に街の外に出ていた。目の前にはゲームの雑魚キャラで定番のゴブリンが棍棒を持って周囲をキョロキョロしている。どうやら仲間から離れてしまい寂しいようだ
「(俺の予想が当たっていれば)」
彼は落ちていた小石を持ってゴブリンに投げつけると、頭に当たり顔を赤くさせて近づいてきた。振り回す棍棒の攻撃を避けずに受け続ける。ペースを考えない乱暴な攻撃に敵は息を切らし満足したのかアクアが膝をついたところで去っていった
「生成」
草原に大の字になったアクアはスキルでポーションを生成すると一気に飲み干した。すると皮膚からの出血は止まり傷ついた手足や顔も綺麗に戻った
「成功だ!」
ポーションの上位種である『ハイポーション』が完成した。そしてアクアの実験も上手くいった。数日前に果物の毒を摂取し『解毒ポーション』が生成できたことから推察し、自身の持つ自己犠牲スキルが作用したと考えた。そして倒れるギリギリまで耐えてポーションを生成すれば効果の高いモノが作れると思いゴブリンの攻撃を受け続けた
「これを売れば生活水準も良くなる」
拠点にしている安宿からランクアップすることも可能となり硬くて薄いベッドからおさらば出来る。翌日からの商売に備える為に足早で街へ戻っていった
「アクア君少し良いですか?」
市場で『ハイポーション』を売りさばいたアクアはギルドに呼び出されていた。別室に通されると彼の目の前には30代ぐらいの女性が座っていて隣には老齢の眼鏡姿の男が鎮座している
「ギルドマスター?」
「そう私が商業ギルドで、こっちの爺さんが冒険者ギルドを担当している」
アクアは2人に対して頭を下げようとしたが手で制されてしまい中途半端な姿勢になってしまう。そしてギルドマスターたちは今回の呼び出しについて語り始めた
「面倒な話は抜きにして単刀直入に言おう、儂のギルドに『ハイポーション』を卸してほしい」
「冒険者だけじゃなく商業ギルドにも納入してくれないかしら?」
「商売の話ですか」
その言葉に2人は強く頷いた。冒険者ギルドは高ランクのクエストを挑むメンバーへの選別や備蓄として手元に揃えておきたい、そして商業ギルドは他の街との売買するために手に入れておきたいのである
「この値段でどうじゃ?」
「私のところはこれで」
提示された金額を見てアクアは驚愕した。『ハイポーション』1本の値段が自身の5日分の売り上げと同等であることに、表情を崩さないように平静を保とうとするが心拍数が下降してくれない
「いつまでに必要ですか?」
「そうじゃの~来週までに揃えてくれれば助かるのう」
「こっちはいつでもいいわよ」
その場で商談は成立しアクアは宿屋に戻って『ハイポーション』の作成に勤しんだ!今後もギルドと取引が出来れば高い収入を安定して受け取ることが出来る。このチャンスを手放さない為に徹夜で作り続けた結果、僅か2日で必要数を作り終えてしまった
「これで全部揃っておるの」
「こっちも十分ね」
それぞれのギルドに送り届けたアクアは多額の報酬を受け取った。そしてギルドマスターたちと契約を結ぶことに成功し毎月一定数をギルドに納めることになった。なお報酬はギルド証が銀行のカードような役割を果たすので必要な分だけを手持ちに残して預けることにした
「冒険者パックを2つ」
「こっちはポーション4つと解毒ポーションを3つ」
市場の方も順調で連日の大賑わいである。口コミによる宣伝効果も相まって午前中には売り切れてしまうことが当たり前になってきた。そしてアクアは1つの答えを出そうとしていた
"自分の店を持ちたい"
端的に言えば店舗を構えたいのである。今の状態では手狭なこともあって周囲の人たちに迷惑を掛けているのが実情なのだ!
「(ギルドに相談してみるか)」
翌日を休みにした彼は商業ギルドに訪れ、受け付けに今回のことを伝えると奥から不動産担当の女性職員が現れる
「どんな物件をお探しで?」
「商売が出来て住めるようなところを探してて」
「店舗兼住宅ですね。ご予算の方は?」
「とりあえずこれぐらいで」
必要な条件を述べていくと1つの物件が提示された
「ここって内見することって可能ですか?」
「大丈夫ですよ」
訪れた物件は2階建てで1階が店舗で2階が2LDKの居住スペースになっていた。そして1番の目玉は
「風呂がある!」
「そのせいで少し割高になってます」
魔石を使って沸かすタイプの風呂が備え付けられていた。話しを聞くと元々ここは診療所として使われていたが、持ち主が他界してしまいギルドで買い取ったのだが賃料が高くて紹介しても首を横に振られてしまっていた
「ここにします」
「それでは書類にサインをお願いします」
風呂が決めてとなりアクアは一国一城の主となった。ベッドや生活に必要な必需品は別日に購入し業者に頼んで搬入してもらうと、市場にやって来る常連たちに移転することを伝えた
「極楽〜♪」
熱い湯に浸かりながらアクアは全身を解していた。この世界に来て初めての入浴に心躍るが子供のように湯船ではしゃぐことはしない
「(なんだかんだ異世界を満喫してるな)」
最初は不安が勝っていたが人間は慣れてしまう生き物である。確かに元いた世界に帰ることは出来ないが、ワクワクとドキドキの魅力が詰まったこっちの方が新たな発見があって楽しく感じてしまう
「(♪〜)」
気分が良くなり産みの親が所属していたグループのヒット曲を鼻歌で奏でてしまう
「(しがらみに囚われないって良いな)」
現代に対して未練はあったが、あれこれ憂いでも解決することなんて無い、前を向いて立ち上がり1歩ずつ歩くしかないのだ!かつて笑いあった家族や友人たちと二度と会えなくなったが、こっちでも仲の良い友人が出来て楽しく日々を過ごすことが出来ている
「(ラーメン食いたいな)」
ただ向こうの食事が恋しくなってしまうのであった
「……ここ…は?」
草木も眠る丑三つ時だった街から離れた草原で1人の女性が目を覚ました。この世界に似つかわしくない格好で全身が濡れている。彼女は痛む体に顔を顰めながら光を求め立ち上がる。助けを求めるように誰かに頼りたかった
「………ア」
しかし彼女に力など残されておらず再び倒れ動けなくなり目を閉じてしまった
次話は現実の方に戻ります
感想ありがとうございます
誤字訂正もありがとうございます