彼だけが救われる物語   作:大気圏突破

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不協和音

「そうだったの」

「有馬さんを守る為に」

 

 ルビーはクラスメイトの2人に今までのことを全て話した。途中から涙が零れ落ちて嗚咽に苦しみながらアクアの失踪のことを伝えるとフリルは彼女のことを抱き締めて背中を擦った

 

「教えてくれてありがとう」

「……うん」

 

 しばらく彼女の泣き声が室内に響き、重い空気に支配されてしまう。そして泣き止んで顔を上げた

 

 

「それで警察には?」

「まだ……今日も帰ってこな…」

 

"パチン"

 

 その言葉が言い終わる前にフリルはルビー頬に平手打ちをした。突然のことで現役アイドルは目を白黒させている

 

 

「今すぐに通報しなさい手遅れになってもいいの!」

「でも……まだ」

 

 事態は一刻を争う可能性があるのに動こうとしなかったルビーに怒りの目を向ける。フリルにとって星野アクアは相談相手として良好な友人である。そんな彼が行方不明なのに何もしない彼女に対して憤りを感じてしまうのは言うまでもない

 

「フリルちゃん落ち着いて」

 

 みなみが2人の間に割り込み落ち着かせた。ここで争っても何も解決しないことはフリルも分かっていることだが感情の出口が通行止めでイライラしてしまう

 

 

「すぐに帰りなさい!」

「うん」

 

 促された形となってルビーは不知火家から去り、残された2人は沈黙したままだったが

 

 

「みなみさん骨を拾ってくださる」

「フリルちゃん?いったい何をするん?」

 

 若手ナンバー1タレントは覚悟を決めて動き出すのであった

 

 

 

 

 

 

「アクたんがアイさんの……」

 

 事務所ではミヤコがMEMちょに対して双子の秘密を話し、写真を撮られた有馬のスキャンダル発表を止める為にアクアが単独で動いたことを伝えた。そしてそのことが原因で2人の仲が悪くなったことも

 

 

「アクたんは無事なんですよね?」

「分からないわ」

「早く警察に言いましょう!遅くて良いことなんて1つもありません」

「ちょっと待って!とりあえず今日まで、もしかしたらフラっと」

 

 

 煮え切らない態度にMEMちょは髪の毛を搔きむしりながら叫んでいる。トレードマークの角カチューシャが外れて床に落ちてしまうが拾っている余裕は無い

 

 

「アクたんも何で1人で勝手にやっちゃうの大人たちを頼ってよ」

「MEMちょ」

「帰ってきたら”ガツン”と言って引っぱたいて抱きしめてやるんだから」

 

 それは彼女なりの愛情なのかもしれない、少し落ち着いたMEMちょはカチューシャを拾い上げるとミヤコの正面に立ち

 

 

「とりあえず2人が学校から帰ってきたら」

「ただいま」

 

 事務所の扉が開くと制服姿のルビーが入ってきた。2人は時計を見ると12時を過ぎた頃で下校時刻にしては早いと感じた

 

「ルビー?」

「ねぇ帰ってきた?」

 

 その言葉にミヤコは首を横に振る

 

「MEMちょ実はね」

「もう聞いたよ、アクたんのこと」

「そうなんだ」

 

 ソファに座った彼女は深い溜息を吐いて顔を俯かせると、ここでも床に涙が滴り落ちてしまい震えた声で

 

 

「私がいけないんだ、お兄ちゃんは先輩や私たちの為に」

「ルビー」

「血の繋がった兄妹なのに家族なのに、私が突き放しちゃったせいで」

 

 自分を責めるルビーにMEMちょは隣に座って肩を抱き寄せる。2人の弟を持つ姉は慣れた手つきで落ち着かせるとミヤコに飲み物を持って来るように伝えた

 

 

「ありがとうMEMちょ」

「今から警察に行ってアクたんのことを捜索してもらおう」

「うん…そうだね」

 

 

 有馬に今日は休みにすることを伝えた3人は、事務所の鍵を閉めてアクアの捜索願いを出す為に警察署へ向かうのであった

 

 

 

「これで見つかるよね?」

「大丈夫よアクアは絶対に」

 

 警察署からの帰りにファミレスに寄った3人は遅めの昼食となった。緊張の糸が切れ空腹の虫が飯を寄こせと主張してきたからだ

 

 

「とりあえず見つかるまでは病気療養にして仕事はキャンセルにするわ」

「それにしても迷惑なアクたんだよね、こんな可愛い女の子たちを心配させるなんて」

 

 

 重い空気を打ち破るようにMEMちょの言葉に笑い久々に心が落ち着くように感じた。これでアクアが戻ってきたら最高だが今は連絡を待つ身である。食べ終えた3人は車に乗り込もうとするとミヤコのスマホが鳴動する

 

 

「はい斉藤です!」

『捜索願いを出した斉藤ミヤコさんですね?』

「えぇ、まさかもう見つかったんですか?」

 

 震える声に車内にいた2人は息を呑む

 

『いえ実は前日に届けられたスマートフォンが行方不明者のモノと特徴が一致しているみたいなので、申し訳ありませんが署まで来ていただけないでしょうか?』

「分かりました」

 

 電話を切ったミヤコは後ろの席に座る2人に帰ることを伝えるが首を横に振ったので、来た道を引き返して警察署までアクセルを吹かした

 

 

「(アクアのモノであってほしいけど、違っていてほしい)」

 

 彼女の心情は複雑だった。アクアのスマホじゃなかったら連絡が出来る可能性が残っているが逆だったら事件や事故に巻き込まれてしまった確率が高くなる。赤信号で止まっている時も落ち着かない様子で指を叩き、前との車間を詰めて運転してしまう

 

 

「ミヤコさん落ち着いて」

「分かってるわ…でも」

 

 ルビーの言葉で平静を取り戻そうとするが彼女の心は一向に落ち着いてくれず、嫌な汗がダラダラと流れ続けるのであった

 

 

 

 

 

「休みか」

 

 少し時を戻す。ミヤコからの連絡を受けた有馬は通学路を歩きながらスマホの画面を見ている。今回の騒動でアクアが自分の為に無理をしてくれたので労いの言葉でも伝えようとしたが、LINEを送っても反応が無く教室に行っても登校していない

 

 

「(何かあったのかしら?)」

 

 ルビーのいる教室に向かっても早退したことが告げられた。自分が疎外感を受けているようで寂しく感じてしまう。今日の予定が白紙になってしまったので生活消耗品でも買いに行こうとドラッグストアに向かおうとするとスマホが鳴動し

 

「(姫川?)」

 

 ディスプレイに写った名前を見て頭に疑問符を思い浮かべる。四国で撮影中のアイツがなんで自分に電話を掛けてくるのか?とりあえず理由を聞こうと思い通話ボタンを押した

 

 

『おい!星野はどうした?電話に出ないぞ‼』

「ちょっと待って、いきなり何よ?」

 

 早口で巻き舌気味な声に困惑する有馬は、電話口の相手を落ち着かせるように言葉を選び内容を精査していく

 

『あいつ黒川と別れただろ?落ち込んでいると思って、お土産でも買って元気づけようと思ってリクエストを尋ねようとしたんだが』

「繋がらないのね?」

『同じ事務所だろ?』

「こっちも繋がらないの!学校にも来てないし」

『なぁ、まさか黒川と別れたことで…』

 

 姫川の言葉に有馬は笑い飛ばし

 

「あいつがそんな奴に見える?」

『あぁ…そうだよな、でも気になるから顔を見てきてくれないか?』

「分かった!電話を返すように伝えるから」

 

 通話を終えた有馬だがスマホを持つ手は震えていた。姫川に笑い飛ばしていたが彼女の頭の中では”もしも”が浮かんでいた。あかねと別れる少し前からアクアの様子は変で情緒不安定に感じてしまった。彼が言うように自棄になって…

 

 

「(あいつのことは私がよく知ってる)」

 

 初共演の映画の頃からアクアのことを気に掛けていた。家族以外で長い付き合いのある関係で軽口も言い合える仲で深く……知って、

 

 

「(いるつもりだった)」

 

 とりあえず行動しようと思った彼女は早退したルビーのスマホに電話を掛ける。しばらくコール音だけが続き消そうと思ったが、ようやく繋がる

 

 

「ルビー!アクアは」

『先輩……先輩のせいで』

「ちょっと何?私が―――」

『お兄ちゃんが……』

「アクアがどうしたの?あいつ姫川からの電話にも出ないで、私の」

『先輩のせいで、お兄ちゃんが消えちゃったんだ‼』

 

 

 

 

 警察署に戻った3人は受付けに話を伝えると別室に通された。そしてビニール袋の中に入ったスマートフォンを提示されミヤコとルビーは膝をついてしまい倒れてしまった。MEMちょは署員の手を借りて2人を座らせ落ち着かせる為に飲み物を渡す

 

 

「…ぱり」

「ルビーちゃん?」

「どうしよう、お兄ちゃんが死んじゃ―――」

「言わないでルビー!」

 

 金切り声で彼女の言葉を封じるミヤコの目は血走っていた。落ちていたのはアクアのスマホで自宅から五反田家までの道のりで落ちているのを散歩中の男性が発見し交番へ届けてくれた。ルビーは最後の望みを託して自身のスマホから電話を掛けてみると机のモノが鳴動した

 

 

「大丈夫よ、きっとアクたんは」

「無事じゃないよ!だってこれが落ちているってことは」

「でもまだ…」

 

 解決の見えない口論だが割り込むようにルビーのスマホが鳴り響く、ディスプレイには『有馬かな』の文字が浮かんでいて出たくなかった

 

「ルビー出なさい」

「うん」

 

 耳に当てると有馬の声が響いてくる。そして次第に嫌な感情と怒りがこみ上げてくる。彼女がシマカンの誘いに乗らず無視していたら今回のことは起きなかった。女優としての仕事がない?実力不足なだけでしょ?男の言葉に惚けてしまい出て来たところをカメラマンに写真を撮られてしまったからアクアは自分たちの過去を世間に明かすことで相殺させようとした。

 

 

”有馬かなのせいだ”

 

 そう彼女のせいで兄が苦しんだ!

 

”恩を仇で返された”

 

 女優として下火で干されていた彼女に手を差し伸べたのはアクアなのに、彼女は何も返していなかった。幸せを受け取るだけだった

 

”返してよ!あの日の頃をアクアを返して”

 

 少し前まで笑って暮らしていたのに彼女のせいで狂ってしまった。彼が彼女をスカウトしなければ今日のことは起きなかった。B小町に入るべき女じゃなかった。選んだことが失敗だった。

 

 

「アクアがどうしたの?あいつ姫川からの電話にも出ないで、私の」

『先輩のせいで、お兄ちゃんが消えちゃったんだ‼』

 

 

 特大の呪詛を込めて語った言葉は確実に全てを蝕むものだった

 

 




本編を書くよりも筆がのってしまう

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