彼だけが救われる物語   作:大気圏突破

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勢いだけでやっちゃった


悪夢と崩壊

『星野アクア休養について』

 

 

 弊社所属のタレント星野アクアは病気療養の為しばらくの間タレント活動を控えさせていただきます。2年進級時の頃から体調を崩すことが度々あり本人は「大丈夫」と口にしていましたが、検査の結果しばらく入院することが必要であることが判明し、今回の処置に至りました。彼には落ち着いてもらうべく情報機器などから距離を置くこととなり個人のSNSアカウントに問い合わせないよう配慮をお願い申し上げます

 

 

 

 

「うそでしょ?…アクアが」

 

 

 事務所に全員が集まり有馬は警察署から帰ってきた3人からアクアのことを聞かされた。最初はたちの悪い冗談だと思い笑っていたがミヤコとMEMちょの暗い顔とルビーの侮蔑的な視線により本当のことだと察してしまう

 

 

「帰ってくるよね?」

 

 その問い掛けに答える者はいなかった

 

 

「あのバカを探さないと!」

「馬鹿って誰のこと?」

「だからアクアの」

「本当の馬鹿は私の目の前にいる」

 

 瞳に漆黒の意志が宿っていたルビーは、有馬のことを見下すように感情を殺し淡々と言葉を紡いでいく

 

 

「先輩が週刊誌に写真を撮られたせいで」

「私のせいだって言いたいの?」

「あんな男にホイホイ着いていったせいで」

「だから…あれは」

 

 彼女の声に有馬は次第に苛立ちを感じるが述べられていることは事実なので強く反論することが出来ない

 

 

 

「有馬かな…あんたのせいでアクアは…お兄ちゃんは」

「はっきり言いなさいよ!」

「ちょっと2人とも」

 

 ヤバそうな雰囲気にMEMちょがルビーと有馬の間に入ろうとしたが、それより早く

 

 

「この疫病神が!あんたのせいで全員が苦しんでお兄ちゃんは私たちのことを週刊誌に」

「この馬鹿もう一度言いなさい!」

 

「あんたなんて消えちゃえばよかったんだ!」

 

 その言葉が引き金となり2人の取っ組み合いが始まった。ルビーは突き飛ばして尻もちをつかせると有馬の腹の上に跨り往復ビンタを繰り出し、泣きながら連続叩き頬を赤くさせていく

 

「ルビーちゃん止めて!」

 

 MEMちょの言葉に反応することはなくビンタが終わると両手は彼女の首を強く絞め上げていく

 

 

「入試のときに声さえかけなければ、落ちぶれた元天才子役の声に耳を傾けなければ、お兄ちゃんは今もここにいたのに」

「く……るびぃ」

 

 限界を超えた力で気道を圧迫され空気を取り込むことが出来ない有馬の顔は段々と青くなり意識が霞んでいく、そもそも決定打になったのはルビーの発言や態度によるものだが自分だけ苦しむは嫌だと捌け口を求めていた

 

 

「(わた……しの、せ)」

 

 

 沈んでいく意識の中で有馬は今までのことを思い出していた。自分のスキャンダルを止める為にアクアが身を削ってくれた。東京ブレイドの時も咄嗟のアドリブに上手く合わせてくれた。アイドルフェスで推してくれた。行き場のなかった自分に新しい道と場所を与えてくれた

 

「(あの日に…であ)」

 

 

 求めるものが無くなり全てが止まりそうになる。最悪に陥る寸前にMEMちょのタックルでルビーは離れ間一髪のところで彼女は現世に残ることが出来た。暴れるルビーを組み伏せるとミヤコが肩を貸して椅子に座らせて背中を摩る

 

 

「どいてよ!あいつが」

「ルビーちゃん落ち着いて!」

 

 なおも暴れる彼女に平手打ちで沈静化させると室内に静けさが戻る。結局のところ何も解決することはなく有馬はMEMちょが面倒を見る形で引き取り自宅に連れていった。残った2人だがミヤコはルビーの正面に立って頬を叩く

 

 

「何をしたか分かっている?」

「あいつが…あの女が」

 

 もう彼女のことを”先輩”や名前呼びすることはなかった。有馬を追い詰めたところでアクアは帰ってこない、そんなことは百も承知なのに行き場のない感情が出口を求めてしまい彼女を攻撃してしまった。彼がB小町を守るために動いたのに自分たちは突き放して今の状況を作り上げている。秀才や天才を集めても答えが見つからない難問は2人の前に大きく立ちはだかるのであった

 

 

 

 

 

 

 

「活動休止?なんで?」

 

 苺プロから発表された星野アクアの活動休止報告の文面を見て黒川あかねの頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。あの日から連絡を取り合っていない元カレが体調不良なんてあり得ない、書かれているような素振りを1つも見せてなかった。ベッドの上でスマホ画面を見ながら横になっていると玄関のドアが開く音が聞こえ父親が帰ってきたことを知らせる

 

 

「どうしたのあなた?」

「別部署にいる大学の後輩から聞いたんだけど」

 

 1階から両親の話声が聞こえてくる。ベッドの脇にスマホを置いて部屋の灯りを消して寝ようとするが

 

 

「あかねと付き合っていたアクア君が行方不明だって!」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間一気に睡魔が消え去り両親のいる部屋に駆け込んだ!2人は娘の顔を見て驚いているが父親の理は全てを話した

 

 

「嘘だよね…同姓同名じゃ?」

「苺プロの社長さんも来ていたから本人のはずだ」

「行方不明って事件に巻き込まれたのかしら?」

 

 

 母親は他人事のように呟く、あかねは部屋から去って自室に戻るとアプリの電話帳からアクアの名前を選んでタップする。父の言葉を信じたくなかった!きっと伝言ゲームの間違いが伝わってしまったせいだと思ってる。何度もコール音が響くが彼の声が聞こえることはなかった

 

 

「(かなちゃんやルビーちゃんは?)」

 

 

 画面を切り替えて今度は有馬かなの方へ電話を掛ける。彼女に出てほしい自分を安心せてほしい、父の言葉が間違いであることを明らかにしてくれないと自分は…

 

 

 

「あかね」

「なんでMEMちょが?」

 

 ディスプレイを見ると確かに『有馬かな』と記されている

 

「有馬ちゃんに用事なんだよね?」

「今事務所なの?」

 

 時刻は22時を過ぎる頃でレッスンだとしても遅い時間である。頭の中では様々な可能性を模索しているがピンとくる答えが見つからない

 

「違うよ私のところ、あのね電話に出るのはちょっと無理だと思う」

「ねぇアクア君は?事務所にアクア君は」

「……アクたんは……その病気で」

 

 一瞬の間と動揺が伝わり彼女は真相を問い詰めるように、かつての共演者に対して

 

 

「実はさっきアクア君からLINEが届いたんだけど!」

「えっ‼嘘…そんなこと」

「何が嘘なのMEMちょ」

 

 試合開始のゴングで顎に右ストレートをもらい脳みそ揺さぶられる感覚に近かった。立っているが腕がダランと落ちてノーガード状態になっている

 

 

「アクア君は本当に入院してるの?」

「そっ……そうだよ!いやだな疑っちゃって」

「私の父親の職業って知ってるよね?」

「……うん」

 

 嫌な汗がダラダラ流れ頬から床に滴り落ちる

 

 

「行方不明になんかなってないよね?」

 

 

 MEMちょは反射的に通話ボタンを消してしまった。その反応に彼女(あかね)は床に膝をついてしまう。彼との出会いから今までも思い出が脳内を駆け巡り別れた時の言葉が最後に出てきた

 

 

「(仲間が必要だ!)」

 

 アクアのことを最も大切に想う人物の名前をタップするのであった

 

 

 

 

 

 事務所での騒動は終わったがB小町の2人は学校に行ける状態ではなく、有馬は引き続きMEMちょ部屋で寝泊まりしルビーも自宅から外に出ることはなかった。ミヤコは事務所での仕事を終えると1度帰宅し外に出てアクアのことを探している。殆ど寝ていない彼女はふらつく足でスマホが見つかった場所から散策を始めた

 

 

「(お兄ちゃんどこにいるの?)」

 

 自宅には彼女しかいない、暗くなった室内だが電気を灯す気力すらわかなかった。もしかしたら彼の部屋に手掛かりがあるのかも?しかし

 

 

「綺麗に片付いている」

 

 ”亡くなる前に身辺整理をする”大切なモノや要らないモノを分別する人がいる。自分の発した言葉のせいで追い込んでしまった。出し尽くしたはずなのに再び涙で床を汚してしまうのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルビー起きろ!ルビー」

 

 誰かに揺さぶられる感覚にムッとした彼女は目を開ける。文句の1つでも言おうと顔をあげるとそこにはアクアがいた。突然のことで言葉を失ってしまうが泣きながら抱き着いてしまう

 

「おいどうした?」

「お兄ちゃんだよね?本当に」

「大丈夫か?」

 

 彼が自分の心配をしてくれる。目の前にいて抱きしめてくれている。もう絶対に放さない!みんなに兄が無事であることを伝えようとするがポケットの中にスマホがない

 

 

 

「どうしたのルビー?アクアに抱き着いて」

「……ママ?」

 

 ドアの開く音がして視線を向けると立っていたのは亡くなったはずの母親のアイがいた。突然の登場に思考が止まりルビーの口はパクパクと動き酸素を求めている

 

 

「ママだよね?」

「私がパパにでも見えるの?」

 

 声や雰囲気はまさしく星野アイそのものだった

 

「(きっと今まで長い夢を見ていたんだ!あの日にママは死んでなかった、家族3人でこれからも毎日一緒に)」

 

 今度はアイの方に抱き着こうとするが何故か目には見えない透明な壁に阻まれてしまう。壁を叩く仕草をするルビーにアイはステージで見せた笑顔を作るとアクアを引き寄せる

 

 

「じゃあ元気でね!」

「えっ?ママ」

 

 その言葉を理解することが出来なかった

 

「アクアのことは"家族"の私が守るからルビーは"独り"で生きていってね!」

「待って私だって」

「頑張ってきたアクアのことを傷つける子供は家族じゃない」

「私も…」

 

 自分も頑張ってきた!誰より母親に魅せて伝えたかった。いつか2人で同じステージに立って一緒に歌いたかった。目の前に愛しくて甘えたい憧れがいるのに手が届かない

 

 

 

「行こうアクア!」

「うん」

「ねぇどんなことを頑張ってきたか私に教えてくれる?」

 

 視線の先にいるアクアは彼女が亡くなった時と同じ背丈になって母親の手を引いていた。玄関のドアが開かれ2人がどんどん遠くに行ってしまう

 

 

「待って!」

 

 

 朝日の差し込む兄の部屋で彼女の目は開かれた

 

 

 

 

 

 

 




アクア君が向こうで幸せを踏みしめる度に現実は辛く苦しくなります。

ヤンデレかなちゃんの執筆も止まっているので、そっちも執筆しながらやっていきます

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