戸を開け外に出れば、鋭い海風が頬を撫でる。変わらない…数日、代わり映えのない風景。
でも別のところに目を向ければ水面を走る魚たちが変わって、波の色が変わって、指を伝う温度が違う。
「ステゴ。…冷えるよ?」
甲板の方で星を眺める彼女に缶コーヒーを差し出す。
「ん?あぁ、ありがとうな」
熱が移る。アルミが破裂する音が被さる。ほんのり立った湯気は船から置き去りにされていく。
「んっ……半端にあったかいと気持ち悪いな」
「船の上じゃね。でも冷たいの飲むよりかはいいんじゃない?」
安い船を使ってるからか自販機の性能は良くなかったようだ。冷たい塊を喉奥に流し込みながら少し、ステゴの星の話に耳を傾ける。
旅先で見かけた星空の話や星を目印にたどり着いた街の話。彼女の思うがまま、感じてきたままの話をつらつらと…。
「おっと…」
「おっ…危ないな…私の体じゃ支え切れるか分からないんだぞ…」
波が少し立ってきたか、バランスを崩し転びかけてしまった。幸い、彼女が支えてくれたが…客室に戻る方が安全だろう。
ステイゴールドに手を取られながら船内に戻る。
客室、と言ってもカプセルホテルみたいなもんで、何か空間が壁で仕切られてるという訳でもなくカーテンで別れてる程度だ。
男女別になってるためその別れ口でステゴの手を離してもらおうとしたが…。
『寝ててベットから落っこちでもするんじゃないか?』
という冗談で男の客室に押し込まれる。
『ほらほらもうここまで来ちまったんだ。いいだろ?あんたのベットはどこだ〜?』
さらにそのまま同じベットにまで連れ混んだ?詰め込まれた?とにかく同じ布団を被る事態になってしまった。
「…ふっ、あんた、顔真っ赤だぞ」
「あ…当たり前だろ…」
俺を押し込んだ後、ステゴは俺の腕の間に挟まるように潜り込んでくる。こんな大胆なことする癖にどこか初心で、ステゴは奥まで潜り込み暗がりで顔が見えない。それでも…。
「…ステゴこそ」
「そりゃあ…なぁ」
彼女の体温が胸から足にかけ伝わる。丁度…頭を抱くのが収まりが良さそうな…そんな位置に彼女がいる。
「寒い」
「嘘つけ…俺より体温高いくせに」
ステゴが弾んだ声で寒さを訴えてくる。何を嬉しそうにしているのか、分からないが。
とはいえ今の彼女が薄着なのもまた事実、あと少しで日本に帰るというのに風邪を引いてしまうのも困りものだ。どうしたもんか、ひとまず布団を深くかけなすと背中の肌が細いものを感知した。
「ちょっ…ステゴ…!」
「もっとくっつけ」
彼女が頭を胸にグリグリ押し付けてくる。ドキドキしているのか、尻尾も忙しなく動き布団が絡め取られそうだ。
咎めようと布団を少しまくり彼女の顔を覗けば、その顔はなにかに満ちてこちらを見つめる。
真意は…分からない訳じゃない。こうして密着するのも旅の中じゃ1度や2度じゃない。
だが望みを叶えてやらねば真意も教えてくれぬだろう。腕をのばしそっと抱いてあげる。
「んっ…」
「ステゴ…なんでったってこんな…」
「…さっき、あんたの顔を見た時…ほっとした。随分な間、あんたと旅してきたけど…私には…トレーナー、あんたが必要なんだって思わされた」
ステゴの口からぽつり、ぽつりと言葉が紡がれていく。俺と再び、道を同じにするまでの日々の記憶、共に走った3年の日々、思うがまま旅に行きた過去、そして…脳に流れる『遠き自分の記憶』。
振り返った時、俺が何よりも大切な相棒で、楽しい楽しい同行者で、一緒にいたいここに帰りたい家族だそうで…。
「ステゴ…」
「日本に帰るっていざなったら…焦ってな…」
「俺も」
なにか1人、勝手に完結しそうなステゴの口を塞ぐかのごとく言葉を発する。ここで終わらせない、まだまだ、君の口から沢山聞きたい。
糸を引き出すように自分の持つものを伝える。
「は?」
「俺も、ステゴといたい。じゃなきゃこうして君を追いかけてこないさ。ずっとずっと
彼女の目が少し大きく開かれ、やがて細くこちらを見つめてくる。淵に涙が溜まり震えが抱きしめる手に伝わる。
「なんだよそれ。洒落に逃げすぎだろ」
伝う涙のように笑いがこぼれて、それでも彼女の顔は輝いていて…。
「なっ…」
「いいさ…私もまだ…口にするのは恥ずかしい」
背中の腕の力が強まる。それに釣られ、俺もギュッと抱きしめる。温かな彼女の体温が何より心地がいい。
輝きを束ね黄金に輝く栄光の道。永遠に続き次の誰かの旅路に繋がる獣道。道の中、例え間柄が変わろうと道を歩くことに違いなし。
最終話です。ここまでお付き合いありがとうございます
黄金一族が現代トレセンに集まりすぎててトレステ夫婦逆に子ども居なさそうだよねって言う最低な話をしたい
僕は好きですよ子どもいない夫婦も。それはそれで…愛、だよね
ご拝読ありがとうございました!お気に入り評価感想してくだされば幸いです!!