どうしてこんなことに、木の器に綺麗に盛り付けられた新鮮な野菜を口にしながら長方形のテーブルを囲んでの朝食の様相に脳内で頭を抱える。
四角の長辺にそれぞれ4人、5人の並びで向かい合うような着座だけどその配置が空気の元凶で。
真ん中にトレーナーさん、その左右に現地集合した大先輩2人、さらに外側に同級生の食欲女王ことゆるふわおさげの黒髪ウマ娘がベリーショートの大先輩の隣り、わたしは時々トレーナーさんを餌付けしている栗毛のサラサラロングヘアの大先輩の隣り。
「朝食こそしっかり食べないと1日の動きが変わりますからね。毎日キチンと食べてます?」
切り分けた果実をトレーナーさんの口元に運びながら、親か兄弟みたいな事を言っている。これって、あれ、なのかなぁ、うん、雰囲気そういうこと、なんだろうか、とか指し向かいのお通夜状態に察するものはありつつも視線の置き所に迷いながらトーストに手を伸ばし、蜂蜜ジャムを塗って口にする。普通に美味しい。
全くもって無言で沈痛な気配すら漂うのは、トレーナーさんの真向かいの小柄芦毛の先輩、左右に黒鹿毛とメガネに青鹿毛の2年生、そして隅っこ、私の正面にセミロング青鹿毛の同級生の並び。うん、幼馴染は多分人数合わせだと思いたいけど、かなり意図的な並びだと思う。
「こっちも食うか?」
「食うー」
口をパクパクさせて隣のベリーショート大先輩から野菜を貰う食欲女王。あなたはそうよね、空気とか、関係ないよね、食べれないから。
黙々と焼き魚の骨を外している芦毛の先輩はもう視線を上げることなくて完全にKO状態で席が定まった時から耳も傍から見ても申し訳ないくらいにヘタれている。
いえ、あなた、普段あんな感じですよ、鏡見てるみたいとか、思って、はないんですね、その凹み具合。女王様ぶってたら、本物が帰ってきちゃってボコボコにされた我儘王女様とか、居ないと思ってた第一継承者が帰還してボコボコとか、よく読んでる小説になぞらえてそんな感想を抱く。
隣のメガネ先輩は…スープを飲むフリしてメガネ外しますか、そうですね、見たくないものは見えなければ気にならないですものね。もう1人の先輩は、と目が合ってしまった。ん、このひとは、なんだろう、しょうがないよね、みたいな笑いをしてきましたね。うぅん、絶対しょうがないなんて、思って無さそうな顔してますけど、というか、朝からこんな事で合宿、大丈夫なんでしょうか、まだ、初日ですよ。
「さて、と、食ったら一休みして、走るからな?」
何事も無かったようにトレーナーさんが食後のコーヒーを飲みながら全員に伝える。うん、あまり食べた気はして無いですよ。みんなお皿は空っぽですが。というか、このひと天然なのか当たり前のように給餌されてお茶も淹れて貰ってましたね。慣れすぎてやしませんかね。
「併走なら任せなよ。短、中、長、まだまだ現役に負けないからな?」
ベリーショートの大先輩がカラカラと笑う。このひとは運送業に務めつつ、町内会対抗とか会社対抗とかそういった公式じゃない競走、草レースというらしい、を荒らし回って、もとい参加して回ってるらしい。
現役時代はパッとしなかったそうだけど、超格上に真正面から喧嘩売って叩き潰されてたそうで、知名度というか、さり気人気はあったらしい。
「走った後のケアはこちらで診ますから、トレーナーさんも安心してハードに責めて下さいね。」
サラサラ栗毛の大先輩は医療系、というか現場向けのケアマネージメントの道に進んだと聞いている。なんでもご自身の怪我の反省からだそうだけど、言い方に癖があると言うか、変に受け止めてしまうのはわたしの脳の一部が腐っているからだろうか。
「ま、そういう訳だ。それぞれ大きな目標を立てて貰ってるからな。先ずはそれを目指して練習漬けだ。」
そう言って先に席を立つトレーナーさん。秘書の如く後に付く栗毛大先輩。残されたわたしたち、ふーっと、誰となく溜め息が漏れる。
「ね、ね、昼ドラみたいで凄かったね」
お通夜側に組み込まれていた青鹿毛の同級生が食器を下げるタイミングで耳打ちしてくる。うん、確かに凄かった。テレビの中や物語だけかと思ってたよ、あんな状況。全く動じる気配の無いトレーナーさんは現実は小説より奇なり、なんだろうか。
食事のタイミングでポニーテールにしていた髪解いて元に戻すとあっちこっちに癖毛が方々向いている。大先輩見習ってイメチェンで切ってみようかな。愚にもつかないことを考えながら練習に向けて着替えるために席を立つ。
慰められてるのか座ったままの芦毛先輩の所にベリーショート大先輩が肩を叩いている。違うなあれは宣戦布告かな。
なになに、10回併走して勝った方がソフトクリーム奢る杯ですか、サイドテール黒鹿毛の先輩がわざとらしくこっちにも聞こえるように言っている。そしてあなたも参加するんですか、いや、そこはなんか別のレースになってやしませんかね?ああ、病み上がりの先輩は計測に回ってからの3回勝負ですか。やっぱりなんか別の挑戦権とか、賭けてないですか、先ずは私に勝ってみせろ的なやつ。健全に思えないのはわたしが悪いのですか?
「ぅ、っー、絶対、負けないっ」
立ち上がった小柄芦毛の先輩が拳を天に突き出して声を上げる。うん、やっぱりなんか違う勝ち負けを言ってそうな気がする。間違いない。