星屑の円環 −モブトレとモブウマ娘の話−   作:華月響音

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2章3話 灼夏の冷熱

 

空が青い、とても。引っ掻いたような高層雲が僅か浮かぶだけ。短く手入れの行き届いてない芝の上に、大の字になってわたしは見上げる。同級生や先輩たちの声が遠くに聞こえる、ような気がする。

 

「あれだけ食べるのに、スタミナは空っぽですね。どこに付いてるのか羨ましいんですけど」

 

自分でも思う、からバッサリ言うのは辞めて貰えないだろうか。抗議の声を上げたくてもまだ掠れた呼吸音以外出せそうにない。

 

「その割に、脚の消耗はそこまでじゃないとか、悪い先輩によく似ている事で?」

 

トレーナーさんとは違う小さな手が、それでも的確に筋肉の張りを捉えて押し込み均らしていく。

 

「あ、はぁ…ありがとう、ございます…」

 

辛うじて礼だけは伝える。恨み辛みでもありそうな声と裏腹、すごく真面目な顔で、わたしの太もも、膝からふくらはぎまでを指圧している。

 

「水泳とかの方がいいのかもね、呼吸、戻った?どっちかって言うと足りないのはそっちかな」

 

途中でフワッと声が少しだけ遠くなる。脚を見てくれていた栗毛の卒業生は振り返ってこちらに向かい歩いてくるトレーナーさんに言っているようだ。ふむ、と思案顔で地面に大の字のわたしを見下ろしている。

 

「10月まで引っ張るか…メイクデビューが上手くいき過ぎたかもしれないな?」

 

「脚が強くてスタミナ不足、ま、違って真面目ちゃんみたいだけど」

 

少し迷うような言葉に、栗毛の卒業生が小さく悪戯っぽく微笑む。同じ短距離を志す小柄芦毛の先輩を引き合いに出されて、それに対してトレーナーさんは微妙な顔だ。

初出走で初勝利を飾ったわたしだけれど、その後のプレオープンはずっとお預けにされている。初めは同級生との関係を心配されてるのかと思ってしまったけれど、どうやらわたし自身の問題らしい。

 

「あの、お腹、すきました…」

 

真面目な顔で話している2人に声をかける。プッと軽く吹き出す栗毛の先輩。トレーナーさんも違った意味での困惑顔に変わる。

 

「えぇ? ホント、食べるの好きね?」

 

「昼メシまであと少しだろうに。」

 

それぞれに呆れたように言いながら、手際よくドリンクのストローが口元に差し入れられる。それを齧るようにしながらふんわりと目を閉じる。

わたしは空気を壊す。読まない。わざと。本当はこんな、トレーナーさんが付いたり、チームに入ったりする様なウマ娘じゃないから。ここに居るのは同級生が居てくれたから。

 

『わたしを誘って頂けるのです?であれば出来たら幼馴染も一緒にって、無理です?』

 

『わたしを誘うなら、見て欲しい娘がいるんですけど、いいですか?』

 

別々に声を掛けられて、それぞれに重複していた幼馴染、そしてわたし。2人から推薦はされたけど、トレーナーさんの目からは零れていたわたし。

3人での模擬レースでも3着。飛び出しだけは1番、でも結局追い抜かれていい所なんて見せれなかった。後でトレーナーさんからは模擬レースをする前から獲ることはほぼ決めていたと言われても、結局2人と抱き合わせのわたしなんだって思いはまだ消えない。

 

「お昼の前に甘いもの食べたい、です」

 

被せて言ってみる。ホントは満面の笑みで言いたいところだけど、力尽きるみたいな言い方になる。それにしょうがないね、とストローが離れた唇に飴玉が押し込まれる。

 

「シュガーレスだけど何も無いよりマシでしょ」

 

栗毛の卒業生が呆れた顔のままで言う。トレーナーさんは柔軟を延々と課されている同級生たちの方に向かうようだ。背を向け歩きながらヒラヒラと手を振っている。

 

「あと、わたしのトレーナーもそんなに甘い人じゃないからね?」

 

トレーナーさんと十分距離が離れてから、まだ併走を繰り返している先輩たちに視線向け、ポツリと栗毛の大先輩が零す。なにか見抜いたような言葉、だけど顔は優しげにトレーナーさんの背中を見ていた。

 

 

 

 

「さ、向こうに戻りましょうか。スタート係お願いね」

 

手を差し伸べて助け起こす。口の中で飴玉を転がしているゆるふわおさげの1年生にそう言うと、ゆっくりとした歩みでゴール地点に向かう。

ちょうど縺れるようになだれ込んだ小柄芦毛の3年と短髪赤毛の同期を迎える。併走の回数を聞きながら目でも会話して、腕の時計を見る。クラシカルな手巻き時計はそろそろ正午だと告げていた。

 

「それじゃ、あなたも走りなさい。スタートだけ本気、あとはゆっくり流しながら背中を見て、ね」

 

ストップウォッチと画板で武装している眼鏡青鹿毛の後輩に声をかける。えっ、と少し遠く、1年生2人と和やかに体操をしているトレーナーへと目向け、戸惑うような仕草を見せる。それに対してわざとらしい笑い顔を作り、言葉を続ける。

 

「…直接言われたかった?大丈夫、話してあるから。それに…コースの中でも見たいでしょ?」

 

始めは揶揄う様な言い方で、後半は真面目に告げると、ピクピクと青鹿毛の耳と尻尾が揺れる。

そして大人しく武装解除すると軽く手足を回して同級生のサイドテールに声をかけてスタート位置に入る。

 

飴玉を口に転がしている1年がスタート係で手を挙げる。振り下ろされて地面を蹴る音が響く。午前中最後の一走、同期はどうやら引き摺り回す事を選んだらしく先頭を譲らず、後輩たちがその背を追う。

 

ゆったりとゴール地点で待ち受ける。自分たちが果たせなかった想いを引き継いでくれることを願いながら、駆ける脚音に耳をすませた。

 

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