星屑の円環 −モブトレとモブウマ娘の話−   作:華月響音

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3章2話 色取月の結尾

 

小柄、というのは競技事にとって不利な材料になりがちである。筋肉の総量にしてもそうだし、1歩の歩幅という走ることに関してかなり致命的な弱点を孕む。

まずは弾き飛ばされないようにスタートを決めなければ埋もれてしまうし、その後も後続に飲み込まれでもしたら一巻の終わりだ。

勿論、そこからバ群の隙間を稲妻の様に駆け抜ける者も居たりするが、それはあくまで例外事項。

 

スタート1番、後は逃げて逃げて脚を回して、周りのペースをぶち壊して誰よりも早くゴール板の前まで辿り着く。これが経験上の勝ちパターンだ。

もっともそれが通用したのは未勝利を抜けてオープン戦に走り始めたほんの数戦だけ。先頭を走っていた筈が、最後の直線迄に背後に取り付かれ抜かされてしまったり、そもそも先頭を取れずに追い縋る展開からズルズルと後退してしまったりと冴えない戦績が実力を表している。

そうは言っても入着はそこそこ常連、だけれども1着は縁遠い、そんなわたしがこんな所に居てもいいんだろうか。

 

セントウルステークス、阪神レース場1200メートル。サマースプリントシリーズの終着点はGⅡレース、今まで以上に格上の相手との勝負になる。故障が無ければ6月の函館から順番に遠征続きだったはずの夏。

むしろギリギリ間に合わなくもなかった、なかったのだが、わたしの走りに何か懸念材料でも見つけたのか合宿最終日に組み込まれたキーンランドカップまで塩漬けにされた。

 

そこでも好走した、とは言われたが結果2着、恐らく故障した原因のあの真っ暗な中で走る幻覚もある程度制御出来た、いやどちらかと言えば破壊されたような気がする。あの、一等星の羽ばたきに。レース後に控え室に来てくれた先輩2人は珍しく苦言も少なく労ってくれたが、肝心のトレーナーさんはライブ最前列には居たものの、顔を合わせたのはレース場を引き上げる直前だった。

 

「わかってる、わかってるんだけど、さ。」

 

パドックでのお披露目を終えて、トレーナーさんと一言二言、言葉を交わし、柵越しにコツンと拳をぶつけ合う。今年に入って初じゃなかろうか、2人だけで遠征していた時のルーティンだ。

 

ターフに降り立つとゆっくりとゲートへと足を向けていく。今日の要警戒は一等星3人に、夏前に1着でオープン戦を終えた娘が2人。前走で自分を差し切った一等星ウマ娘は脚を休めて本番といえるGⅠに備えたようだ。

代わりに3着の娘が、ああ、凄い目で睨み付けてきてる、背負うものがあるもんね、お互いに。ゲートに収まり、目を閉じて集中力を研ぎ澄ませる。

 

「そりゃ、ね、うん…」

 

雑念を振り払う様に口に出して息を吐いて捨てる。レース後に先輩たちだけを派遣したトレーナーさんは、最近2年生の2人にかかりきりだ。

 

常時自信喪失の甘え娘に脚部不安持ちのデータオタクのメガネ娘。どちらかだけでも手がかかるのが明らかなのが揃っている。

それに、2年ということはもう一回りレースは巡ってくる。今年が最後のわたしの伸びしろを考えれば放置気味にされてもあまり文句は言い難い。

 

まして、あの二人、は、今ここでゲートに入ってスタートを待つ一等星たちに負けず劣らずの光を見せている。特に甘えたサイドテールの方は眩しい位の輝きを放つ様になり始めた。自分が見初めた綺羅星、だけど追い抜かれるのはやっぱり癪だったりもする。

 

金属音が鳴りゲートが開く。スタート一番飛び出してハナを狙うが同速かそれ以上に飛び出してくるのが2人。一等星とオープン娘、その後にわたし、前走で二人旅をした3着娘は真後ろ、前回と逆の展開を仕掛けてくる。

 

相当恨まれちゃったか…同じ負けるにしてもこんなどこのウマの骨とも知れないのに後塵を拝するなんて、一等星に属して居るのに悔しいよね。

 

「だからさぁ、これ、止められないんだよねぇ…」

 

唇が笑みの形を作る。脚を外へと向けて一気にカーブにさしかかる。自分でも随分性格が悪くなったものだと思う。

 

純粋に一等星のキラキラに憧れて眺めていたわたしは何処に行ってしまったのか。眩しくて綺麗だよ、だけど見てるだけなんて詰まらない。掴まえて、叩き落としてやる。どの星よりもわたしがここに居ると、教えたい。

 

コーナーを抜ける辺りから背後の圧が高まってくる。下り坂でさらに加速して限界以上の速さで逃げ続ける。道中に前の2人は追い抜いた。真後ろの足音も一旦は遠ざかっていたが、数が増えて迫ってくる。

 

決戦は短めの直線、真っ先に辿り着くが急坂が待ち受ける。一歩一歩脚を回して駆け上がる、が、背中の圧が弾けた感覚に、眩い輝きに一気に周りを囲まれる。

まずい、マズイ、不味い。何度となく味わった負けパターン。根性で坂を登りきっても残りは僅か、目の前には4人。取り囲まれて一気に抜かれてしまった。

 

「こん、のぉぉぉ」

 

女子にあるまじき雄叫びを上げて追い縋る。いつもの昏い帳が今頃包んでくる。遅いよ、坂登ってる時に来てよ。数秒の争いの中で光の明滅を追う。カチリ、いつもの幻聴の歯車が噛み合った。

 

自分の踏み出した一歩が思い切り芝に食い込む。一歩、二歩、三歩、跳ぶように駆けて身体ごとゴール板を通過する。その後は制御を失って頭から突っ込んでゴロゴロと転がり、やがて止まる。頭を守ろうと両手で庇ったせいで擦り傷だらけだ。脚は、うん、大丈夫そう。震えるが立てる。立って掲示板を見上げる。

 

「4着…か…」

 

ハナ差で抜きクビ差で届かず。これがわたしの精一杯、か。呆然と立ったまま、動きもしない様子に心配げに走り終えた娘たちが寄ってくる。

 

「あ、うん、大丈夫…ちょっと痛むけど、うん。医務室行くよ、大丈夫、1人で」

 

少しよろけながら地下通路へと向かう。途中スタンドへと視線を向ければトレーナーさんとおぼしき背中が慌てて走っているのが見えた。

 

うん、出迎えて、そうじゃないと、わたし、限界かも。

 

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