星屑の円環 −モブトレとモブウマ娘の話−   作:華月響音

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3章8話 凍月の暁暗

 

パチリと目が醒める。携帯を見れば午前5時半、普段起きている時間だ。学寮とは違う天井をぼんやりと見上げ、体の気だるさにレース明けだと言うことを思い出す。

 

客席から見て中央のすぐ左側、1着センターの介添となるその場所で歌い踊った事が脳裏に浮かぶ。二、三振り付けを間違えたっけ。未勝利戦でのセンターで頭から床にダイブしてしまってから、どうにもウイニングライブは苦手意識が出来てしまったかもしれない。

 

重賞レースのライブでセンターを務めたい。そしてそれを両親に生で見てもらいたい。少し身の程知らずでささやかな、わたしの夢だ。

 

そのためにはもっと速く、もっと確かに駆けなければいけない。先輩がたには申し訳ないけれど教材そのもの。サイドテール先輩の大舞台となる今日のレースも楽しみでしかたない。

 

日課のランニングも今日は休みだというのに、習慣で起きてしまったのが恨めしい。ただでさえ、昨日の夜は寝つきが悪かったと言うのに。

 

「二度寝しちゃおっかな…」

 

ツインの部屋にもう1つベッドを突っ込んで強引にトリプルにしてもらったこの部屋で左右から聞こえる寝息と寝言を環境音楽にしてもう一度瞼を閉じる。

 

 

 

微睡んで暫し、扉の開く音にウマ耳がピクリと動く。多分、向かいの部屋。ってことは先輩…いやまぁ全員先輩か、ともかく小柄芦毛の3年生が一人部屋で宛てがわれた部屋。

ホテルの深い絨毯に足音を隠そうとした歩調。これは気になる。

 

微かな足音がある程度離れたところで薄く扉を開けて様子を伺う。既に制服に着替え済みでエレベーター前の部屋の扉をノックしている。ご機嫌である事を示すように尻尾は左右に大きく揺れている。

 

激戦だったGIレース後、練習には欠かさず来るものの走る事なく計測やサポート係に徹してる先輩。レース最終盤で見せた観衆全員の目を釘付けにするような爆発的な加速は、普段はアレな事が多いけどやっぱり先輩は凄いのだと実感した。ただ、自慢の先輩かと言われると微妙な気がするのだけれど。

 

そんなこんなを考えてるうちに、開いた扉から顔を覗かせたのはトレーナーさんだ。既にワイシャツ姿。ネクタイはしてないが、そのオフっぽい感じがとてもいい。扉口で二三言会話をしたかと思うと、先輩の両手には多くの紙束が載せられる。トレーナーさんはノートパソコンを抱え、その後は2人並んでエレベーターに乗りこんで姿を消した。

下っていくエレベーターの表示が止まるのはロビー階。併設のカフェを仕事場代わりに使うつもりだろうか。

 

これは、どういうことだろうか。先輩がトレーナーさんに構われようとするのはいつものことだし、なんなら永続的なお付き合いを狙ってることはわたしたちの間では周知の事実だ。

 

トレセン学園ではままある事ではあるし、2年生の先輩たちも怪しいっちゃ怪しい。特には今日出走予定のサイドテール先輩。だけど夏以降本格的に練習に参加するようになった眼鏡の先輩も油断ならない、とわたしたちは睨んでいる。

 

だから常に2年と3年は冷戦気味で、わたしたち1年は常時メンタルトレーニングを課されている。個別にはいいひとたちなんだけど。

 

わたしたちの夢を、わたしなんかのささやかな夢を尊いものとして実現に向けた道を創ろうとしてくれるのがトレーナーさんだ。だからそういう気持ちが向かってしまうのも仕方ない。仕方ないったら、仕方ない。

 

…話が逸れた。常から構われようとする先輩でも、トレーナーさんの『仕事』の領分には今まで踏み込もうとはしてなかったはずだ。両手いっぱいに抱えさせられてた紙束は多分、昨日と今日のレースに関する資料、それに今後の物も含まれてそうな物量だった。

 

秘書的な仕事など全く似合わない先輩が…。これは作戦会議が必要だ。そう思い至ったわたしは『にんじん、おなかいっぱい』とか幸せな寝言を漏らすふわふわ黒髪の幼なじみを擽り起こす。

そして、顰め面で「気合いです…その背中について行く、です…」と夢の中でまで駆けているらしい、四方八方寝癖が鬣の如しの栗毛のもう1人の幼なじみの布団を2人がかりで引き剥いで叩き起こす。

 

そして寝ぼけ眼の2人に今しがた見かけた事を伝え、強引に額を寄せ合い今後の策を練るのだった。

 

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