星屑の円環 −モブトレとモブウマ娘の話−   作:華月響音

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4章2話 歳晩の歓語

 

通りが色とりどりのイルミネーションに飾られ、人びとが行き交う。大型ショッピングモールの中には大きなツリーが設置され、こちらもカラフルな電飾が燦々と季節をアピールしている。

 

「買い物、これで全部です?」

 

「んっと、メモ頂戴?」

 

長身で癖毛が目立つロングヘアの栗毛のウマ娘の言葉に、比べて少し背の低いセミロングの青鹿毛の娘が尻尾を揺らしながら言葉を返し手を伸ばす。

 

周りは冬の祝祭ムード。彼女たちが手にしているスポーツ用品店のロゴが大きく描かれた紙袋に入っている。

しかし中身は大量のカラフルではあるが無地のタオルやバンテージ、サポーターの類など全く周りの雰囲気にそぐわないものばかり。

 

顔立ちの整ったウマ娘が2人連れ。しかも今日は普段の制服でなく私服姿。となれば声をかける不心得者も現れそうなものだが、彼女たちの抱える荷物を見て踏みとどまる。

純度100パーセント混じりっけなしの競走ウマ娘だと分かるその荷物。という事は必ず近くに居るはずの人物。

 

「こっちの荷物は全て小屋に送って貰う事にしたから、後は漏れが無いか確認して撤収だな」

 

ヒラヒラと手を振りながら2人連れウマ娘に近付く男性。彼だけはフォーマルなスーツに身を包んでいる。襟章には小さな鈍色の蹄鉄、競走ウマ娘の学び舎トレセン学園所属のトレーナーの証が光る。

 

「遅いです、トレーナーさん。こちらはもう揃ってるですよ?」

 

癖毛の栗毛の娘が僅かに棘のある様に言う。休日に備品の買い出しに付き合わされた事が少し納得できないらしい。正確には付き合わされるに至った経緯、だが。

 

トレーナーとの買い出し、となれば何を差し置いても優先しそうな小柄芦毛の3年の先輩が捕まらず、喜んで同伴しそうな2年の先輩方は各々別に練習があるからと振られて回ってきた鉢だ。

 

今積んでしまってる小説をある程度消化しておきたかったですけどね。潰れた休日の予定を思い返しながら、それでも拒否しなかったのは同級生1人だけを共にしてトレーナーが買い出しに向かうのを阻止するためだ。

 

もう1人の同級生は3年の先輩に拉致されてトレーニングに励んでいる事が分かり、自分の予定を優先すると自分の隣でゆらゆら尻尾を揺らして買い物とメモを照らし合わせてるご機嫌な青鹿毛の同級生だけがトレーナーとの買い出しに出ることになってしまう。

 

それは、よくない。とても。

 

積んである姫騎士の冒険譚や追放王子の逆転劇も気になるが、身近で魔女裁判が行われるかもしれないとなればそれは流石に二の次だ。

機を逃した3年の先輩も、恐らくお互い牽制し合った結果、共同することも抜け駆けすることも出来なかった2年生も、『トレーナーと2人きりでの買い出し』なんてイベントを許してくれないだろう。まして世間はクリスマスだし。

 

「全部揃ってますね。後は…」

 

そんな気遣いも構うことなく青鹿毛の同級生はさり気なくトレーナーの右横に付いて上目遣いに見上げている。

機を逸した逃げ、牽制しあって沈んだ差しと追い込みに対して堂々の先行策。状況が作り出したとはいえ今日のレースは勝確だろう。

 

いつからどうしてこうなった。栗毛の毛先をクルクルと指で触れながら明らかな漁夫の利を甘んじて受けいれて、ご機嫌の同級生を斜め見る。

 

「買い揃えたなら学園に戻ってもいいんじゃないです?」

 

「え、でも…」

 

冷たくトレーナーさんの言葉に乗っかりながら解散を促す言葉に、さり気なくスーツの袖を掴もうと伸ばした手を止める同級生。その引き止める仕草の途中の様子に背を押すべきなのか思い留まらせるか逡巡する。

 

ウマ娘がトレーナーを思慕する。そういう創作は多いし、それは幻想なんかじゃなくて現実にも十二分にありえる事だって言うのは分かる。

 

なんと言ってもトレーナーさんはわたしたちの夢の随伴者だ。わたしたちの想いに共感したり理解したりして、それをレースという場所で表現するのを、それこそ身を粉にして助けてくれる。

 

ましてや『勝たせてくれる』トレーナーはウマ娘から寄せられる想いも深くなりがちだ。

 

「お茶にしましょっか。トレーナーさんもいいです?」

 

背を押す訳ではないが、一呼吸入れた方がいい気がして栗毛癖毛のウマ娘は言う。掛かってないといいのですが、など名物解説の常套句を思い浮かべつつの提案。

それに同級生は少しほっとした顔を見せ、一方のトレーナーは二つ返事で頷く。

 

そのままの流れで学園のウマ娘御用達のカフェの名前が挙がり、トレーナーの奢りで向かう事になった。

 

その店では量を食べたいウマ娘には特大のシフォンケーキを、甘味に一家言あるお嬢様方には多様な味の一口サイズのミニケーキなどウマ娘との過去の経緯からメニューが充実しており、ショッピングモールに来たら必ず訪れる娘が居るほどの人気店だ。

 

多少の行列の後で店内に案内されるとソファーで区画されたボックス席に落ち着く。メニューを見ながら耳をピコピコ動かしている青鹿毛の同級生。さり気なくトレーナーさんの隣に座っているが、そこはもう不問にしておこう。

 

「美味し…一度来てみたかったんです」

 

「評判いいの、わかりますね」

 

注文したミニケーキとコーヒーが届けられると、お約束の様に何枚か写真をSNSへと上げる。

その後は向かい側の同級生と感想を言い合いながらパクパクと食べ進めていく。立て続けに3回ほど種類を変えてお代わりをして、撮影会をしながらようやく一息ついて今日の買い物の話などをし始める。

 

トレーナーさんははじめ相槌を打つ程度だったが、やがて話題が日々の練習やレースに移っていくと徐々に話に混ざってくる。

 

「…2500を越えるレースは夏までないからな。希望するならそれまでに相応のスタミナをつけておかなければだぞ?」

 

「となるとプール練を増やして貰うとかです?」

 

「そうだな、それに坂路も、か…ただクジ運悪いからな」

 

コーヒーを啜りながら少し自虐気味に笑うトレーナー。週間の練習スケジュールは抽選の当たり外れに思い切り左右される。

 

例えば悪天候が続きやすい梅雨時や炎天下となる夏場にグラウンドを連続で引き当てたりすれば出来ることがかなり制限されてしまう。

走るのに適した冬の季節でも降雪や雨天に当たれば屋内の場所借りに奔走するはめになる。

この辺りのメニューの組み換えは慣れたものであるが、特定の施設で集中的に鍛えたい時などはやはりクジ運の悪さは足枷となる。

 

「お祓い…、お参りとか行きましょうか?あ、そう言えば…」

 

「…初詣は全員参加です?」

 

トレーナーの言葉に顎に指を当ててなにか思いつたような顔をした青鹿毛の言葉が被せ気味に押し込められる。金魚の様に口だけを動かし声が出せないその様子に癖毛栗毛の目が生暖かいものになる。

 

やっぱりか、さり気なく抜け駆けようとしたですね、最近なんだか油断も隙もないですね?ホント先輩たちにフクロにされても庇わないですよ?

 

「初詣か、学園の近くの神社が定番だな。3年は実家に帰省すると言っていたから、2年と1年全員で行くか」

 

学園お膝元の商店街からもう少しだけ外れにある神社。常から必勝祈願などでウマ娘が絶えない定番中の定番だ。

 

それだけに特別感もなくチームの行事ごととして話が進む。やや恨めしげな青鹿毛の視線に、貴女のためなんですけど、と思いながらトレーナーさんと軽く元日のスケジュールを取り決めていく。

 

「ああそうだ、年明けから本格的に路線も定めて貰わないといけないぞ。クラシック路線かティアラ路線か、どっちにしても3つ獲れとは言わないが、ひとつは絡めるくらいになってもらわないとな」

 

神社の出店などの話に花を咲かせていると、ふと、思いつきのように言ってくるトレーナーに、隣と正面の教え子たちの顔が固まる。

 

「そ、ですね…わ、私はまず重賞めざして…」

 

「あ、はい…一勝クラスから、です…」

 

そう、ふんわりと話していて忘れかけていたけれど、うちのトレーナーさんは自分のウマ娘に寄り添い理解を示してくれる代わりに、多大な期待を背負わせてくる人だった。

 

それは例えば、何度全滅しても生き返らせてくれる代わりに魔王の討伐を要求してくる冒険物語の国王陛下の様に。

 

「目の前はそれでいいがな。書き初めでもしてもらうかな、GⅠレース限定で。」

 

年が明けて迎える2年生の時期は名前の通った大レースが幾つも存在している。それらの頂きを狙うのは一等星の上澄みウマ娘達だが、わたしたちにだってチャンスがない訳では無い。その限りなく細い糸を掴んでみせろ、という訳だ。

 

「あー、居た、やっぱり居たっ。トレーナーあたしも奢ってよー」

 

「このお店で間違いなかったですね。パフェ貰いましょうか」

 

年明けへの意気込みとプレッシャーを新たにしていたところに聞き慣れた声が向けられる。振り向けば携帯片手にコート姿の黒鹿毛サイドテール先輩と青鹿毛メガネ先輩の2年生コンビ。

 

了解を取ることもなく2人はわたしの隣、つまりトレーナーさんと同級生の向かい側に座り、店員を呼んで注文を通していく。

 

どうやって嗅ぎ付けて来たのかと思えば握りしめてる携帯の画面はさっき撮ったミニケーキの写真。そうか、有名店だけあって見たら特定できちゃうですか。特にメガネ先輩、そう言うの得意そうだし。

 

「なんだ、結局2人で自主練していたのか?」

 

好き勝手に甘味を頼んでいく2人をコーヒーの入ったカップ片手に見ていたトレーナーがどこか呆れ調子で尋ねる。

 

年明けのレースまではチームメイトだけどライバルだから、とか、いつだってそうだろうと突っ込みたい事を明言して別行動、別練習を要望してきたりと手間を増やさせてくれたのが揃って登場はどういうことかと。

 

「ん?たまたま、買い物に来てたらバッタリだよ。」

 

「宣言通り、レースまでは別ですから。」

 

ご覧の通り私服だし、とコートを脱いで細めラインのワンピース姿を見せるサイドテール先輩とジーンズにカットソーのメガネ先輩。いや、結構余所行きじゃないです?うっかり化粧もしてますよね?なんて聞くことは何となく視線で抑え込まれとりあえず紅茶で口直しをしながらチラッと青鹿毛の同級生の様子を伺う。

 

うん、プルプル震えながらもカップに口をつけてケーキの残りをつついてる。表情はかろうじて変化ないものの、正面から探るような2対の目で見られてウマ耳があっちこっちに向きを変えて落ち着かない。

そりゃそうだ、しれっとトレーナーさんの隣を盗ったのだから、先輩方の圧が半端ない。だから抜け駆けは危険が危ないと言ったですのに。

 

 

 

「あーあーあー、クレープ頼んじゃっていーかなーぁ?」

 

「走りすぎてお腹空きました…」

 

暫し買い物の成果について先輩方に事情聴取、もとい報告連絡をしていたところ、今度は間延びした声に、聞き覚えのある直ぐに空腹を訴えてくる声。

ああ、ラスボスまで嗅ぎつけちゃったか。差しと追い込みが上がって来たところに、出遅れからのとんでも走りで突っ込んできましたか、うん、抜け駆け先行は削られて沈むですね。自業自得。

 

ジャージ姿の小柄芦毛の先輩が現れるなり何一つ構う様子もなく青鹿毛の同級生の隣に座る。トレーナーさんと同級生の間の距離は詰まるが、隣からの圧は半端ない。その上で先輩はトレーナーさんにだけ話しかける。

 

「カフェに寄るなら先に言ってくれてもいーよね?だったら絶対来たのにさー。ていうか買い物なら先に声かけてよねー。…あ、季節のフルーツクレープ、ウマ盛りで」

 

「先輩、多分圏外だったと…。ネットの動画見れないとか騒いでたじゃないですか。…あ、わたしはミニケーキ、ここから、ここまで…ください」

 

隣の青鹿毛を居ないものとしてトレーナーさんと会話を続けながら、普通に注文も店員に伝えてる小柄芦毛先輩とフォローしつつも自分もしっかりオーダーを通すゆるふわおさげの同級生。カフェで「ここからここまで」なんて言うですか、そうですか。

 

結局その後はチーム全員で買い出しを仕切り直して1日ショッピングモールで過ごすことになった。

有形無形の圧に当てられ削られて青鹿毛の同級生は帰る頃にはゲッソリと絶不調で耳も尻尾も気の毒なくらいにヘタっていた。

 

帰りの道すがら幼馴染のそんな様子を見ながらわたしは、こっそり買ったレースの時のトレーナーさんのネクタイと同じ色のリボンで言うことを聞かない癖毛を少しまとめた。

 

「今日の自分へのご褒美、です」

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