数千回目のループに疲れたので休暇をもらったら、何故かみんなの様子がおかしくなりました 作:ド級のリトライ
狂い出す歯車
「────」
アラームが鳴る。カーテンの隙間から差し込む陽光は新たな日の到来を告げ、吹き込む風は半分眠っている血液を急速に循環させる。
「ん、おはよう」
窓を開け、ベランダの取っ手に留まる鳥に朝の挨拶をした後、再び振り返り───
「
………誰に挨拶してるんだろう、私。一人暮らしなんだから、挨拶を返してくれる
「…………もしかして、お化け?」
ん、これはホシノ先輩に相談しなきゃ。
♾️
最近、奇妙なことばかり起きる。
たとえば、今朝みたいに誰かの気配を感じたり。
たとえば、サイクリング中に、ふと隣を見ることが多くなったり。
たとえば、アビドス対策委員会のみんなが集まったとき、妙に少なく感じて寂しくなったり。
たとえば、たとえば、たとえば。挙げればキリがない。どれもこれも些細な違和感だけど、それが重なれば偶然ではないように思えてしまう。
「では、今日の会議は以上で………シロコ先輩?」
「シロコちゃ〜ん?だいじょうぶ〜?」
「ッ」
気づけばホシノ先輩が下から覗き込んでいた。そうだ、今はアビドス対策委員会の定例会議の最中だった。
「ん、ごめん。何か言った?」
「いえ、特には……。ただ、最近何もないところを見ていることが多くなったような気がして……」
そうなのだろうか。全く身に覚えのない話に困惑する。
ただ、みんなも心配そうな顔をしているし、アヤネの言ったことは多分本当なのだろう。
「大丈夫、心配しないで」
「ですが……」
「シロコ先輩、最近心なしか元気なさそうに見えるし……」
「────ハッ!?もしや、恋!?いや〜、シロコちゃんもとうとう甘酸っぱいことも知るお年頃か〜。おじさんには眩しくて眩しくて……」
「違う」
ホシノ先輩の妄言をキッパリと断ち切る。ホシノ先輩はいちいちおじさんっぽい。
「誰しも言いたくない秘密の1つや2つくらい持っているものです。ですので、シロコちゃんが話したいと思った時に話してもらえると、私としては嬉しいです☆」
……違う。言いたくないわけじゃない。ただ、自分でも理解しきれていないのに、誰かに話すのも変だと思っただけで。
「最近、少し違和感があって」
「違和感?」
「ん、聞いてくれる?」
こうして赤裸々と、最近感じる違和感について打ち明けた。
話していくにつれ、少し心が軽くなったように思えた。ん、やっぱり悩み事は抱え込んじゃダメ。
「それで、その、悩み事って言っておいてあれだけど、迷惑してるわけじゃない。むしろ
悩み事を打ち明けるのが妙に気恥ずかしくて、ずっと下を向いていたから分からなかった。だから、言い終わって、やっと顔を上げたことで分かった。
みんな、驚いていた。目を見開いて、口も開けて。ホシノ先輩に至っては身体を起き上がらせていた。
「……どうしたの?」
「いや〜、ね。みんなの表情見て、なんとなく察しちゃった」
「そうですね……」
「ということは先輩たちも?アヤネちゃんもそうなの?」
「うん……」
イマイチ分からない。あんまりピンと来ない。
そんな私の心情を察してくれたのか、ノノミが少し真剣な表情を作り、
「その、実は私にもあるんですよ。シロコちゃんの言う
周囲に顔を向ければ、みんな頷いた。
………意味が分からない。こんなこと、あり得るのだろうか?
「アビドスの流行病?」
「いや〜、それは流石に………どうしよう、否定しきれないや」
「でも、今のところなんともないわよ?」
「うん。むしろ……」
「シロコちゃんが言ってくれたように、何故か安心するんですよね」
ますます怪しい……
「今度検診に行くべき」
「え〜?おじさんゆっくりしていたいな〜」
「ダメ」
こうして、今度みんなで病院に行くことが決定し、今日の定例会議は閉会した。
シャワーを浴び、寝巻きに着替え、明日の準備も済ませ、後は寝るだけになった後も、モヤモヤした気持ちはずっと残ったままで。
いつから、とか。キッカケは、とかは思い出せない。ただ、ある日突然、私の日常にこの違和感が入り込んで来ただけ。
違和感の筈だ。異物の筈だ。本来なら拒絶して然るべきだ。
なのに、この違和感に溢れる日常こそ、
「……寝よう。今日も良い夢、見れるかな」
最近は睡眠が捗っている。夢の内容は覚えていないけど、夢から醒めたくない程度には良い夢を見れているんじゃないだろうか。
こうして今日も祈りながら眠る。
今日もまた、良い夢を見れますように、と。あわよくば、その夢を覚えていますように、と。
『シロコ、たとえ君がどんなことをしても、僕だけは君の味方だ』
♾️
「あの………生きてる?」
登校中、砂漠のど真ん中で倒れている人を発見した。多分死んでる。
「うぅ……」
「あ、生きてた」
どうやら遭難したらしい。そして、そのまま空腹と脱水で倒れたと。
えっと、こういう時はまず水を飲ませて、日陰に避難させて関節を冷やすんだっけ。ホシノ先輩から
「はい、スポーツドリンク。ライディング用なんだけど、今はそれしか────」
「あり、がとう……カイ、ト……」
「─────
聞いたことのない名前。私は砂狼シロコだから、誰かと人間違いしている。
無理もない。意識朦朧とした中、他人を親しい友人と見間違えることもあるかもしれない。そもそも、この人は私の名前を知らないし。
ただ、その名前が。何の変哲もない、ただの名前が。何故か、どうしてか、どうしようもなく、頭に残った。どうしようもなく胸が締め付けられる。この痛みが、今の名前が心に刻み込まれたことの証左なのだと思った。
夢と現実の境界線が、たった今、合致したように思えた。