転生したら幽霊だった件……なお性癖は曇らせ愉悦   作:性癖拗らせ愉悦部

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悪意無き地獄
子供とは無知であり、悪意無し
しかし、その無知は時に善にも悪にも成りうる

By 無知蒙昧な神


食休み外伝・いつかの過去と未来
過去・・・人はそれを天災と呼ぶ


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……わからぬ

 

 

 

 

 

なぜあの女が我に挑んだのか

 

 

 

 

 

勇気と無謀は違う

 

 

 

 

 

我に挑むなど、脆弱な人間からすれば勝ち目など無いであろうに

 

 

 

 

 

我とて己を最強とは驕っていない

 

 

 

 

 

しかし、やはり無謀である

 

 

 

 

 

人間の中にも強者がいる事は知っている

 

 

 

 

 

魔王や勇者がいい例であろうな

 

 

 

 

 

だがあの女は違う

 

 

 

 

 

己を冒険者と名乗り、我に挑んだ勇気は称賛に値する

 

 

 

 

 

我に挑んだ者など、数える程しかおらぬのだから

 

 

 

 

 

ほとんどの者が竜である我に怖気つき、我の前に立つことすら叶わぬ

 

 

 

 

 

そういう意味で言えば、あの女は確かに強者であった

 

 

 

 

 

しかしそれは、人間の枠組みでの話

 

 

 

 

 

竜である我に挑むなど蛮勇、愚の骨頂である

 

 

 

 

 

しかし、あの女は逃げなかった

 

 

 

 

 

我の攻撃を少しの間捌いたあの女であれば

 

 

 

 

 

我から逃げる事など、そう難しい話しでもないであろうに

 

 

 

 

 

……わからぬ

 

 

 

 

 

今も尚、目の前で泣く女が

 

 

 

 

 

己を召喚者と名乗り、泣く女が

 

 

 

 

 

勇者と呼ばれし存在が、我に怒りと殺意を向ける理由が

 

 

 

 

 

我に勝った女が

 

 

 

 

 

我を負かした女が

 

 

 

 

 

我を圧倒した女が

 

 

 

 

 

あれ程の殺意を向ける女が

 

 

 

 

 

なぜ我を殺さず封印したのか

 

 

 

 

 

……わからぬ

 

 

 

 

 

既に息絶えた

 

 

 

 

 

あの女の亡き骸を抱え、泣く女が

 

 

 

 

 

……わからぬ

 

 

 

 

 

あの女は、泣く女にとって大切な物?という事なのだろうか?

 

 

 

 

 

我を負かす程の女が、泣くほどの

 

 

 

 

 

難儀なものよな

 

 

 

 

 

我には大切な物など無い

 

 

 

 

 

故に失う辛さも、怖さもわからぬ

 

 

 

 

 

いつか、我にも大切な物が出来れば

 

 

 

 

 

あの女が、泣く理由が

 

 

 

 

 

わかるのだろうか?

 

 

 

 

 

…………わからぬな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───これは過去

 

 

 

 

 

───とある幽霊とスライムが織り成す物語

 

 

 

 

 

───そのおよそ数百年前

 

 

 

 

 

───生前の彼女が冒険者として

 

 

 

 

 

───黒き天災に挑み、散った

 

 

 

 

 

───そんな一幕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

澄みわたる青空に少しの雲

 

 

「う〜ん〜いい天気。開店日よりだ、OPEN初日が雨だったら嫌だしね〜」

 

 

冒険者を引退した俺は、故郷の街に帰り、冒険者時代の貯金を使い酒場をOPENした

 

 

「おかげで貯金がすっからかんだけどな〜まぁ内装とかに手は抜きたくなかったし必要経費と割り切るか」

 

 

冒険者時代に出来た些細な夢

 

 

「看板の角度はこんな感じかな」

(ふ〜ふ〜んふ〜)

 

 

「よぉ〜嬢ちゃん!おはよう!どうしたんだい?今日はえらく機嫌がいいじゃね〜か」

 

 

「おはようおっちゃん。今日は俺の酒場の開店日、OPEN初日なんだよ。だから気合い入れてんの」

 

 

「おお!そうか、今日だったのか。ヨシ!じゃあオレがお客様第一号になってやろうか?」

 

 

「悪いが先約があるんでね、遠慮しとくよ。昼頃から開店だから、また後で来てくれよ。安くするぜ?てゆーか金を下ろしてくれ。こちとら素寒貧なんだ」

 

 

「ガッハハハハ!そうかそうか!スマンな!じゃあまた後で来るよ。そろそろ戻らねぇとカミさんにドヤされちまうからな。」

 

 

「あぁ。またな」

 

 

「おう!」

 

 

自慢じゃないが俺の故郷は治安がいい。こんな感じで街の人は気さくで穏やかだし、この国も街と呼べる位には発展している

 

 

「転生した時は、中世とかマジかって軽く絶望したけど案外悪くないもんだな。やっぱ人は慣れる生き物だ、慣れって恐ろしい」

 

 

何気ない穏やかな日常

 

 

「後輩ちゃん元気かな〜冒険者引退してから会ってないから数ヶ月ぶりくらいか?手紙は返ってきたから今日来るはずだけど、この世界スマホ無いから不便だな〜やっぱり。でも、楽しみだな」

 

 

当たり前の日常

 

 

「なんだかんだ久しぶりだからな〜連絡が取りずらい以上、急に会えなくなる事なんてザラだし」

 

 

しかしそれは

 

 

「後輩ちゃんって何が好きなんだろ?俺のレパートリーにあるかな?」

 

 

簡単に

 

 

「すっぽかされたら俺泣いちゃうなーあんなにお姉ちゃんて慕ってくれたのに」

 

 

崩れ去った

 

 

「さて、次は内装を」

 

 

 

 

 

 

ズウウウウン

 

 

 

 

 

 

「イッ!?」

 

 

(なんだ!?このバカでかいオーラ!?)

 

 

 

 

 

 

───生前、とある幽霊とスライムが出会う数百年前

 

 

 

 

 

 

───彼女の故郷に

 

 

 

 

 

 

「...黒い?竜?」

 

 

 

 

 

 

───黒い竜襲来

 

 

 

 

 

 

(なんだ?アレ?生き物?なのか?魂の格が、次元が、違い過ぎる)

 

 

 

 

 

 

後の竜は語る

 

 

 

 

 

「うっかり街をひとつ灰にしちゃってな」

 

 

 

 

 

予め言っておくと、黒き竜は決して、国を、街を、人を滅ぼしに来たわけではない

 

 

 

 

 

竜曰く、知的好奇心を満たす為に、街を見物しに来ただけ、らしい。しかし

 

 

 

 

 

 

人にそれがわかる訳もなく、誰かはわからぬが

 

 

 

 

 

 

黒き天災と呼ばれ、恐れられる竜に対し

 

 

 

 

 

 

引き金を引いてしまった

 

 

 

 

 

 

記録として、その街は残っていない

 

 

 

 

 

 

それは勇者が黒き竜と戦い、竜を封印した大地でしかない

 

 

 

 

 

 

しかし、確かにその国は、街は、人は存在したのだ

 

 

 

 

 

故に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガアパ

 

 

 

 

 

 

(口を開いた!魔素が集中していく!!まずい!!!)

 

 

 

 

 

 

キュイーン

 

 

 

 

 

 

(あ、死んだ)

 

 

 

 

 

 

《それはとっさの判断だった》

 

 

《彼女の冒険者として培った、危機感、直感、生存本能、反射神経のようなもの》

 

 

《結界を自身の周囲ではなく、己の前方にのみ集中》

 

 

斜伏防御(しゃふくぼうぎょ)と言われる技術がある》

 

 

《二枚の結界を先端で重ね合わせ、威力を受け流す技術》

 

 

《更にユニークスキル縛鎖者(シバルモノ)で即興の縛りを結び、結界の強度を底上げする》

 

 

《彼女にとってここが分水嶺だった》

 

 

《判断が遅れていれば、防御を誤れば、縛りを結ぶのに失敗していれば》

 

 

《なにか一つでも違っていれば彼女は》

 

 

《直撃ではなかった事も幸いし》

 

 

《彼女はここで死ぬ事は無かった。しかし》

 

 

《彼女にとって、それが幸せだったかどうかは》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドーン!!!!

 

 

 

 

 

 

天空から竜の巨大なブレスが降り注ぐ

 

 

 

 

 

 

街の中心に降り注いだ炎は拡散し伝播していく

 

 

 

 

 

 

竜が街に飛来し、時間にして僅か数秒

 

 

 

 

 

 

「くっ!……なにが!?………………は?」

 

 

 

 

 

 

彼女の故郷は

 

 

 

 

 

 

「うそ、...だろ?」

 

 

 

 

 

 

崩壊した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メラメラメラメラメラメラ

 

 

 

 

 

 

燃える街、崩壊した街

 

 

 

 

 

 

「......たった、一撃で」

 

 

 

 

 

 

〖誰かー!〗

 

 

〖助けて!〗

 

 

〖妻が!妻が瓦礫の下敷きに!〗

 

 

〖どこに逃げればいいの!〗

 

 

〖逃げ場なんかねぇよ!〗

 

 

〖痛い、痛いよ〗

 

 

〖おか"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁさぁん死んじゃやだ〜!〗

 

 

〖痛いよ、苦しいよ〗

 

 

〖駄目よ!私を置いて行かないで!〗

 

 

〖アツい、アツいよ〗

 

 

〖生きて。アナタ〗

 

 

 

 

 

(街中から、大きな魂の叫びを感じる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうする?どうすればいい?避難誘導?いや、そんな時間はない。どうする?俺に何ができる?逃げる?論外だ、街中の人が死にかけてるのに俺だけ逃げるなんて、そんなのありえねぇだろ!ならどうする?あの竜を倒す?無理だ!格が、次元が違いすぎる!今まで戦ってきたドラゴンとは比べ物にならない!明らかに存在として別物!勝つ事は不可能、避難誘導も一人一人助けるのも時間がない!どうする?どうすればいい!俺は.........

 

 

 

 

 

 

「嬢ちゃん!!」

 

 

 

 

 

「!? ……おっちゃん」

 

 

 

 

 

知り合いのおっちゃんが駆け寄ってくる

 

 

 

 

 

「無事、だったのか」

 

 

 

 

 

「…………なんとかな。一体、なにが起こってんだい?」

 

 

 

 

 

「さぁな。だが」

 

 

 

 

 

天空を見上げる

 

 

 

 

 

クァーハハハハハハハハ!!

 

 

 

 

 

黒き竜が人を嘲笑うかの様な高笑いを上げている

 

 

 

 

 

「あの羽付きトカゲが原因ってのは、わかる」

 

 

 

 

 

「羽付きトカゲって、嬢ちゃん!アレは!」

 

 

 

 

 

「わかってる!!」

 

 

 

 

 

「?!」

 

 

 

 

 

「わかってる、わかってるから、ちょっと黙っててくれ」

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

「…………おっちゃん。避難誘導を頼んでいいか?」

 

 

 

 

 

「嬢ちゃん?」

 

 

 

 

 

俺は急いでほぼ原型の留めていない店に駆け込む

 

 

 

 

 

「まさか、またコレを着ることになるとはな」

 

 

 

 

 

そこには、俺の冒険者時代のコートと、剣が立て掛けて合った

 

 

 

 

 

「アンティークにするつもりだったんたがな」

(まさかOPENも出来ずに閉店とはな)

 

 

 

 

 

黒のコートを羽織り、剣を腰に刺す

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 

プルプルと腕が、身体が震えている

 

 

 

 

 

「フッ。身体は正直だな」

(こえーなー。行きたくねぇーなー。死にたくねぇなー)

 

 

 

 

 

「ふぅーーーヨシ!」

 

 

 

 

 

準備を整え店を出る

 

 

 

 

 

「おっちゃん。後のことは頼んだぜ」

 

 

 

 

「……行くのかい?嬢ちゃん?」

 

 

 

 

「あぁ、これでも元冒険者だからな。実はそれなりに強いんだぜ?」

 

 

 

 

「死ぬぞ?」

 

 

 

 

「……かもな」

 

 

 

 

「なんでだい?嬢ちゃんが戦わなくても、この街はもう終わりだ。避難誘導つったって、生き残りも少ねぇ。それなのに、嬢ちゃんはなんのために戦うんだい?」

 

 

 

 

「……なんのため、か。正直、自分でもよくわかんねぇ」

 

 

 

 

「わかんねぇて」

 

 

 

 

「大層な綺麗事並べるのは簡単だけど、たぶんそんなんじゃない」

 

 

 

 

「じゃあなんだい?」

 

 

 

 

「ムカつくんだよ」

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

「ムカつくんだよ、あの竜が。見下しながら笑ってやがるあの竜が、ただただムカつくんだよ。理由なんて、たぶんそんな感じだ」

 

 

 

 

「……ハハハハハハハハ!そうかそうか!確かに、それは綺麗な理由じゃねぇな。汚ねぇ理由だ!」

 

 

 

 

「だろ?」

 

 

 

 

「まかせな!避難誘導くらいこっちでやってやるよ!瓦礫に埋もれてる奴も一人でも二人でも避難させてやる」

 

 

 

 

「悪いな」

 

 

 

 

「な〜に構いやしねぇ!これでも体力には自信があんでい!だから嬢ちゃんもコッチは気にすんな!あのトカゲに一発かましてこい!」

 

 

 

 

「フッ、アンタいい漢だな。惚れちまいそうだ」

 

 

 

 

「よしてくれい、オレはカミさん一筋なんだよ」

 

 

 

 

「残念…………ありがとな、おっちゃん」

 

 

 

 

「おう」

 

 

 

 

おっちゃんに背を向け天空を見る。そこでは今も竜が高笑いを上げている

 

 

 

 

「それから、おっちゃん」

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 

「さっきは、八つ当たりして、ごめんな」

 

 

 

 

「気にしちゃいねぇよ。ありゃお互い様ってやつだ。悪いもクソもねぇ」

 

 

 

 

「そっか、ありがとう。行ってくる」

 

 

 

 

「嬢ちゃん」

 

 

 

 

「なに?」

 

 

 

 

思わずおっちゃんの方を振り替える

 

 

 

 

死ぬなよ

 

 

 

 

「……フッ、アンタ本当にいい漢だな。ああ!もちろん!死ぬ気はねぇよ!おっちゃんもカミさん大切にしろよ!」

 

 

 

 

「…………当たり前だ!死ぬんじゃねぇぞ!行ってこい!!」

 

 

 

 

「ああ!」

 

 

 

 

 

天空に向かって()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ぬなよ。嬢ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハァッハァッハァッ、ウッハァッハァッハァ

 

 

 

 

 

炎が燃え、崩壊した街を、仮面を手に持った女が息を荒くして走る

 

 

 

 

 

どうして忘れていたんだろう

 

 

 

今日がその日だって

 

 

 

違う

 

 

 

私は知らなかったんだ

 

 

 

だって私にとってその街は、滅びる街

 

 

 

あの竜に滅ぼされる街でしかなかった

 

 

 

だから知ろうとしなかった

 

 

 

繰り返す時の中で

 

 

 

いくらでも

 

 

 

知る機会は合った筈なのに

 

 

 

私は知ろうともしなかった

 

 

 

竜が出たって聞いたら、向かえばいいって

 

 

 

そうやって後回しにして

 

 

 

知ろうともしなかった!

 

 

 

お姉ちゃんに故郷の名前を聞いても

 

 

 

全く!何も感じなかった!

 

 

 

当然だ!だって私は知らないんだから!

 

 

 

この時期だって事はわかってた!

 

 

 

でも!

 

 

 

今日じゃ、なくても

 

 

 

お姉ちゃんの街じゃ

 

 

 

なくても

 

 

 

嬉しかったの。手紙をくれて

 

 

 

昔、冒険者の頃に言っていた夢

 

 

 

酒場をOPENするって夢を叶えて

 

 

 

そのお客様第一号になって欲しいって

 

 

 

だから嬉しかったの

 

 

 

楽しみにしてたの

 

 

 

だからお願い

 

 

 

死なないで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

999

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クァーハハハハハハハハ!!

 

 

 

 

 

「随分機嫌が良いんだな?クソトカゲ」

 

 

 

 

 

天空に駆け上がった俺は竜に話しかける

 

 

 

 

 

「ん?ほう、我に向かって来る者がいるとはな?」

 

 

 

 

「そんなに不思議か?」

 

 

 

 

「無論。人間は脆弱な生き物である。まして我のオーラを前に立っていられる人間等そうおらんのでな」

 

 

 

 

 

「なら俺は合格って事か?」

(オーラはスキルでなんとかなる。とはいえその痩せ我慢もいつまで続くか)

 

 

 

 

「合格?クァーハハハハハハハハ!!面白い!面白いぞ人間!我を前に怖気づかぬとは。ああ、合格である」

 

 

 

 

 

「そうか。なら合格ついでに俺の願いを聞いてくれ」

 

 

 

 

 

「願い?」

 

 

 

 

 

 

「俺は冒険者!黒の剣姫!!汝に一騎討ちを申し込む!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「一騎討ち、とな?」

 

 

 

 

 

「あぁ、一騎討ちだ」

(できるだけコッチに注意を惹きつけないとな)

 

 

 

 

 

「...なるほど。人間。貴様の狙いは下の街の人間を護ること。いや、その為の時間稼ぎか」

 

 

 

 

 

「どうだかな」

(バレてら)

 

 

 

 

「まあよかろう。余興にはちょうどよい。それに、我もお前に少し興味がある。付き合ってやろう」

 

 

 

 

 

「余興、ね」

 

 

 

 

 

「一騎討ちだからな。貴様の覚悟に免じて、貴様が死ぬまで下の街の人間共には手は出さぬと、暴風竜の名に誓ってやろう」

 

 

 

 

 

「暴風竜?」

 

 

 

 

 

「いかにも!我こそが!この世に四体のみ存在する竜種が一体!暴風竜ヴェル...

 

 

 

 

 

「興味無い」

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

「アンタの偉そうな口上にも、名前にも、俺は一ミリも興味が無い」

 

 

 

 

 

「え?そうなの?我に興味無いの?竜の我に?四体しかいないのに?え〜?」

 

 

 

 

 

剣を鞘から抜き竜に向ける

 

 

 

 

 

「俺が興味があるのは、アンタの命、それだけだ」

 

 

 

 

「え〜?ハ!んッんんッ!オッホン。ほう、脆弱な人間の身でありながら、不遜にも我の命に刃を向けるか。身の程とゆう物を教えてやろう、人間」

 

 

 

 

 

「なら、場所を変えないか?ここだと被害がでる。アンタの名に誓った以上、ここで戦えばソレに背く事になるぞ?」

(さて、できれば乗ってくれると嬉しいんだが)

 

 

 

 

 

「ふ〜む、そうだな。我も手加減は得意ではない。よかろう」

 

 

 

 

 

「ありがとさん」

(言質取った)

 

 

 

 

 

「して、何処に移動する?」

 

 

 

 

 

「いや、移動はコッチでやる」

 

 

 

 

 

「ほう?」

 

 

 

 

 

ユニークスキル縛鎖者(シバルモノ)発動

 

 

 

 

 

「ここら辺でいいだろ」

(もう少し離したかったが、この程度の縛りじゃコレが限界だ)

 

 

 

《ユニークスキル縛鎖者(シバルモノ)、その効果はあらゆる事象を縛ること》

 

 

《彼女の保有するスキルの中で群を抜いて応用力のあるこのスキル。その効力はプラマイのパラメータを弄るがごとく変動する》

 

 

《己にかす縛り、他者間との縛りなどで効果は変わるが》

 

 

《縛りは、他者に直接的な害を及ぼさ無い物程、その効力は増す》

 

 

《座標の移動はソレに該当し、当人の承諾があれば尚のこと》

 

 

 

 

 

「ん?ほう、ここは」

(空気が変わった。移動したのか?ふむ、街が後方に見える、さして距離は離れていないな。およそ5Km弱、転移魔法?いや、魔法を受けた形跡はない。ならばスキルか、だが、我を強制的に移動させる程のスキル、アルティメットスキルか?…………ないな。恐らくは、限定的な条件下でのみ発動するスキルなのだろう。でなければこんな近場ではなく、我を街からもっと離したはずだ。そしてその条件とは、先程の我の承認か。つまり)

 

 

 

 

 

「面白いスキルだな。人間。ユニークスキルか」

 

 

 

 

 

「……なんのことだ?」

 

 

 

 

 

「クァーハハハハハハハハ!!隠さなくてよい。人間でユニークスキルの保有者は少ない。それだけでも称賛に値する。まして、それが限定的とはいえ、我に影響を与える程のスキルなら尚のこと」

 

 

 

 

 

「だからなんのことだ?」

(まさか、一回で見抜かれたっていうのか?)

 

 

 

 

 

「あくまでシラを切るか。我のユニークスキル究明者(シリタガリ)にかかれば、他者のスキルの解析など容易よ」

 

 

 

 

 

「シリタガリって、ユニークスキルまで持ってんのかよ。ますますチートだな」

(しかも知識系のスキルって、こんな化け物に知恵を与えるとか、世界は何を考えてんだ!考えるのは人の特権じゃねぇのかよ!)

 

 

 

 

 

「チート?」

 

 

 

 

 

「……コッチの話しだ。忘れてくれ」

 

 

 

 

 

「ふぅん?まぁいい。では我から一つ問おう」

 

 

 

 

 

「なんだよ?」

(会話で時間が稼げるなら御の字だ)

 

 

 

 

 

「人間よ、何故逃げなかった?」

 

 

 

 

 

「………………は?」

 

 

 

 

 

「我には人間の強弱などわからぬが、少なくとも我の前に立てる貴様ならば、逃げる事など容易だろう」

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

 

 

「現に我は、貴様が向かって来るまで貴様を認識していなかった。街の人間達を護る為とはいえ、何故逃げず、我と一騎討ちなどと、戦う事を、死を選んだ?」

 

 

 

 

 

「……アンタ?大切な物はないのか?」

 

 

 

 

 

「ないな」

 

 

 

 

 

「護りたい物は?」

 

 

 

 

 

「ない」

 

 

 

 

 

「なら何かに恐怖した事は?」

(ないだろうけど)

 

 

 

 

 

「……………………ない」

 

 

 

 

 

(なんか今、妙な間がなかったか?まぁいい)

「ならアンタには、少なくとも今のアンタには、一生わからねぇだろうさ」

 

 

 

 

 

「……そうか。対話は終わり、で、よいか?」

 

 

 

 

 

「ああ!その鱗剥いでやるよ!!」

 

 

 

 

 

「やってみるがいい!人間!!暴風竜からは何人(なんぴと)も逃げられぬ事を教えやる!!クァーハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 

 

 

「ナチュラルに見下してんじゃねぇよ!この!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「化け物め!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(正直、よくやった方だと思う)

 

 

 

 

 

《彼女の持つユニークスキルは三つ》

 

 

《魂に干渉する魂霊干渉(こんれいかんしょう)

 

 

《無数の閃きを与える閃知者(ヒラメクモノ)

 

 

《あらゆる事象を縛る縛鎖者(シバルモノ)

 

 

《それら三つのスキルをこの世界に転生し、赤子の頃からのたゆまない鍛錬と冒険者時代の経験を糧に、彼女は応戦していた》

 

 

《その時間、凡そ10分強、彼女は竜の攻撃をしのぎ続けていた》

 

 

《だが》

 

 

 

 

 

クァーハハハハハハハハ!!

 

 

 

 

 

(なにも!通じない!!)

 

 

 

 

 

《相手は竜であった》

 

 

《彼女は決して、弱い訳ではない》

 

 

《彼女は冒険者時代、実質最高位のAランクにまで到達していた》

 

 

《更にユニークスキルを三つ保有するという事からも、彼女の実力が伺える》

 

 

《知識、経験、戦闘技能、あらゆる物を彼女は伸ばしてきた。しかし...》

 

 

《相手は竜であった》

 

 

 

 

 

「大したヤツよ、ここまで粘るとはな。余興とはいえ、それなりに楽しめたぞ」

 

 

 

 

 

「クッッソ!!」

 

 

 

 

 

《竜とは生まれながらにして頂点》

 

 

《完成された存在》

 

 

《この世に四体しか存在せず、中でもかの黒き竜は》

 

 

天災(カタストロフ)、黒き天災と恐れられし存在》

 

 

《相手が悪すぎた》

 

 

《竜が本気をだしていなかったのは、せめてもの幸運だろう。しかし》

 

 

《そもそもの話、最初から彼女に》

 

 

《勝ち目など無いのである》

 

 

 

 

 

「褒美として我の技をくれてやろう」

 

 

 

 

 

「は?…………技?」

(嘘だろ!今までのは技じゃなかったていうのか!?)

 

 

 

 

 

「とくと味わえ!」

 

 

 

 

 

(ヤバイ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

破滅の嵐!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっっっっっう!?天災が!!」

 

 

《彼女は瞬時に自身の周囲に結界を展開》

 

 

《しかし、それでは耐えきれないと判断した彼女は、結界を周囲にでは無く、自身の身に纏う事で技の中和を選択した》

 

 

(耐えろ!耐え抜け!ブレスの時のように受け流す事は不可能!コレだけの全範囲方位攻撃だ!そう長くは持たない、はず、はずだ!そう思いたい!なら後は根性だ!とにかく受けきれ!技を中和しろ!ダメージは前提として考えろ!!そうすれば...)

 

 

《結果的にそれが正解だった》

 

 

《技の中和。言うのは簡単だが、そう簡単な話しではない》

 

 

《そもそも前提として、この世界の技に対する防御は避けるか防御魔法、又は結界によって防ぐのがセオリーである》

 

 

《中和とは受けること前提、防御とは違い、直撃してからの中和な為、ダメージは避けられない》

 

 

《また非物質、炎、風、雷、等は中和出来ても物質、水や岩といった質量を持つものは中和出来ない》

 

 

《直撃した瞬間に中和、不可能では無いだろう》

 

 

《だが、かの黒き竜の技を、直撃した瞬間に中和など》

 

 

《不可能である》

 

 

《だが、それでも彼女は中和を選択した》

 

 

《それは彼女のスキルによるものか、はたまた経験からくる直感か》

 

 

《結果として彼女は》

 

 

(痛い痛い痛い痛い!苦しい、辛い、気持ちが悪い!吐き気がする!弱音がどんどん出てくる!いつ終わるんだよ!この嵐は!)

 

 

《絶え間なく浴びせられる暴風の斬撃を》

 

 

《嵐が止むまでの》

 

 

《凡そ一分、受けきった》

 

 

《結果的にその選択が功をそうしたとはいえ》

 

 

《それは結果論である。なぜなら...》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ

 

 

 

 

 

《彼女は既に、虫の息であった》

 

 

 

 

 

(血が止まらねぇな。……腕は、...一本、持ってイカれたか。まぁ利き手じゃないだけ、まだマシか)

 

 

 

 

 

「ほう、驚いた。まさか我の破滅の嵐を受けて生きているとはな」

 

 

 

 

 

「…………まぁな

 

 

 

 

 

「だが、もはや死に体であろう。そろそろ終わらせるとしよう。本当に、それなりに楽しめたぞ。人間」

 

 

 

 

 

「……フッ、そう言うなよ竜さんよ〜」

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 

「俺はまだまだ楽しめるぜ!!!」

 

 

 

 

 

 

剣を鞘に仕舞い、竜に向かって天空を駆け出す

 

 

 

 

 

 

「悪あがきを、何をしても結果は変わらんぞ。潔く死んでおけ」

 

 

 

 

 

「悪あがきかどうかは!わからねぇだろ!!」

 

 

 

 

 

(ん?魔素が奴の手に集中していく、何を?)

 

 

 

 

 

「くらえ!!」

 

 

 

 

 

《魔光現象と言われる現象がある》

 

 

《高濃度の魔素が発光する現象》

 

 

《魔鉱石などがいい例である》

 

 

《生来として、魔素の保有量の多い魔王や竜種も魔素が可視化される程の高濃度の魔素を保有している》

 

 

《それはあくまで現象であり基本的に攻撃性は無い》

 

 

《そもそも彼女の保有する魔素量は多くない》

 

 

《目の前の黒き竜と比べれば雀の涙程度》

 

 

《そもそもとして可視化される程の魔素量を保有していない》

 

 

《故に、本来であれば魔光現象は彼女と無縁の物であった》

 

 

《しかし、彼女はそれを、魔素の圧縮と膨張で解決し》

 

 

《攻撃性を持たせることに成功した》

 

 

《彼女はそれを》

 

 

 

 

 

魔光(カノン)!!!」

 

 

 

 

 

「ぬ!?」

(青白い光?目くらましか!?馬鹿め!魔力感知を持つ我に目くらましなど無意味!)

 

 

 

 

 

光が消える

 

 

 

 

 

「ん!?いない!?何処に!?この我が見失っただと!?」

 

 

 

 

 

《囮に使った》

 

 

《先程も説明したように、魔光とは高濃度の魔素である》

 

 

《彼女は圧縮し膨張した高濃度の魔素を周囲に拡散させ、自身の魔素を隠蔽した》

 

 

《生来の保有量の少なさも幸いし、一時的に彼女は黒き竜の目を欺いた》

 

 

 

 

 

「逃げたのか?いや、あの人間がそんなつまらぬこと……ぬ!?」

(後方から魔力反応!?)

 

 

 

 

 

竜が後方を振り返る

 

 

 

 

 

そこには、既に豆粒程の大きさになった人間が存在していた

 

 

 

 

 

「やはり逃げたのか?いや、そもそもいつの間にコレ程の距離を?」

 

 

 

 

 

《彼女は先程、手に魔素を集中させる時、背中にも魔素を集中、圧縮していた》

 

 

《強者ゆえの慢心が招いた隙》

 

 

《黒き竜にとって雀の涙程度の魔素しか保有していない彼女の魔素を見誤り》

 

 

《彼女が背中に集中させた魔素に気づかなかった》

 

 

《彼女はその膨張した魔素を背後にのみ放出させ、一気に加速、高速移動を可能としていた》

 

 

《それを繰り返し彼女は、黒き竜から距離をとった》

 

 

 

 

 

「逃げ、か、興醒めだな。やはり人間など所詮…………いや待て、何故そちらに逃げる?」

(我の後方、つまり、貴様の街しかないではないか?何故その方向に逃げる?我を街から離したいのであれば、我の前方に逃げるべきであろう。逃げたのではないのか?なにか他に狙いが……ん?)

 

 

 

 

 

「そこは先程、我がいた場所?なにを?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔光(カノン)!」

 

 

 

 

魔光(カノン)を推進力とし加速するこの技には当然リスクがある》

 

 

《魔光現象と言えば聞こえはいいが、極論これは、ただの魔力暴走である》

 

 

《操作を誤れば自爆もありえる》

 

 

《なにより爆発を推進力とする以上、急には止まれない》

 

 

《リスクの多い技である。しかし、今の彼女には》

 

 

 

 

「僥倖!止まる必要はねぇ!!とにかく進み続けろ!」

 

 

 

 

 

魔光(カノン)!!」

 

 

 

 

 

《好都合であった》

 

 

 

 

 

「見えた!あそこか!!」

 

 

 

 

 

剣を抜き構える

 

 

 

 

 

「ラストカウント (テン)!」

(コレが最初にして最後のチャンス!!)

 

 

 

 

(ナイン)!」

(この一振に俺の全身全霊!全てを込めろ!!)

 

 

 

 

 

(エイト)!」

(この技を使えば、俺は縛りの反動で動けなくなるだろう!構うな!後のことは気にするな!)

 

 

 

 

 

(セブン)!」

(今ここで!あの竜に勝てば済む話だ!)

 

 

 

 

 

(シックス)!」

(黒き竜よ、話してみてわかったが、アンタは子供だ!)

 

 

 

 

 

(ファイブ)!」

(悪意無き悪意!まるで子供が楽しいから楽しむかのごとく、そこに悪意がない!有るのはどこまでも純粋な好奇心!悪意なんてものは無い!!)

 

 

 

 

 

(フォー)!」

(あぁ!きっとアンタにとってはそれが正しいのだろう!生まれながらにその暴挙が許される存在として生まれたんだろう。だが!)

 

 

 

 

 

(スリー)!」

(悪意なんて物が無くても、アンタは俺を、街を、そこに生きる人々を嘲笑った!!)

 

 

 

 

 

(ツー)!」

(つまりその行いは、俺達人間にとって、どうしようもなく悪ってことだ!!!)

 

 

 

 

 

(ワン)!」

(その罪を!罰を!報いを!この街に眠った命!魂の重さを!)

 

 

 

 

 

(ゼロ)!」

(この一撃で!とくと知れ!!)

 

 

 

 

 

《彼女がこれから行うのは、彼女の奥義の一つ》

 

 

《三つのユニークスキルを掛け合わせた、彼女のオリジナル》

 

 

《ユニークスキル魂霊干渉(こんれいかんしょう)により魂を知覚》

 

 

《彼女はそれにより魂への直接攻撃を可能としていた》

 

 

《更にユニークスキル閃知者(ヒラメクモノ)を掛け合わせ、魂の正確な位置を把握、そして秒数の正確なカウント》

 

 

《そこにユニークスキル縛鎖者(シバルモノ)の縛りを加える事でこの技は完成する》

 

 

《今回彼女が結んだ縛りは三つ》

 

 

《一つ、この一撃を持って彼女は黒き竜に対し、以後攻撃する権利を失う》

 

 

《二つ、この技の使用後、一時的な行動不可》

 

 

《三つ、この攻撃を成功した場合に限りの威力底上げ、及び失敗した場合のペナルティーの増加》

 

 

《これらの縛りにより彼女は一時的な制限のもと》

 

 

《過去への干渉を可能とした》

 

 

《本来であれば、そんなものに意味は無い》

 

 

《過去へ攻撃をしようとも、ダメージを与える手段が無ければ無意味》

 

 

《つまり、黒き竜には意味が無い。だが》

 

 

《彼女の攻撃は魂に響く》

 

 

《カウント999秒》

 

 

《彼女がカウントを開始してから999秒後に一度、コンマ0秒にも満たない一瞬に限り、過去への干渉が可能となる》

 

 

《彼女の狙いは999秒を耐えしのぎ》

 

 

《竜が999秒前にいた地点》

 

 

《つまり、街の中心、その天空に》

 

 

《渾身の一撃を叩き込むことであった》

 

 

《その技の名を》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回想!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回想(かいそう)は過去を切る剣》

 

 

《彼女のスキルの集大成の一つであり奥義》

 

 

《寸分の狂いも無く999秒前の過去の座標を切りつけるという、まさに神業の上に成り立つ技》

 

 

《その斬撃は直接過去へと切りつけ、攻撃を与える》

 

 

《防ぐ術なし、正に確殺必中となる》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《はずだった》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキッーン!

 

 

 

 

 

「...あ、そんな」

 

 

 

 

 

《砕けたのは竜の魂ではなく》

 

 

《彼女の剣であった》

 

 

 

 

 

「剣が悪かったとか、俺が技をミスったとか、そんなんじゃない、硬すぎる!!」

 

 

 

 

 

「魂が!!」

 

 

 

 

 

《彼女の技にミスは無い》

 

 

《まさに最良の選択、彼女が黒き竜にダメージを与えるうる、最後の可能性だった》

 

 

《彼女に誤ちがあるとすれば、それは》

 

 

《竜を竜と思ってしまったこと》

 

 

《竜とは竜種であって正確には竜ではない》

 

 

《その正体は精神生命体》

 

 

《魂そのものである》

 

 

《生まれながらにして魂の強度が、格が、次元が違うのである。防御する必要など無いほどに》

 

 

《彼女が魂を知覚し、魂に直接攻撃をしようと》

 

 

《全くもって、無意味》

 

 

《故に》

 

 

 

 

 

刀身から砕けた剣を呆然と見つめる

 

 

 

「......ごめんな、相棒。俺も、きっと……」

 

 

 

 

 

《こうなるのは必然である》

 

 

 

 

 

「……身体に、力が入らねぇ。 ゲホゴホ!! ヴッ、いて〜」

 

 

 

 

 

「今ので、あの竜に対する攻撃権を失った」

 

 

 

 

 

「しかも、縛りで身体がうごかねぇ。ミスったからペナルティーでもっと動けねぇだろうな」

 

 

 

 

 

「…………詰み、か」

 

 

 

 

 

「クァーハハハハハハハハ!!!!面白い!本当に面白いぞ!人間!!」

 

 

 

 

 

「うるせぇな。もう来やがったか、もうちょい時間かけてくれもいいんだぜ?」

 

 

 

 

「クァーハハハハハハハハ!!!!この程度の距離、我にとって瞬きのように一瞬よ!クァーハハハハハハハハ!!」

 

 

 

 

 

「……?随分機嫌が良いんだな?なにか良い事でもあったのか?」

 

 

 

 

 

「よくぞ聞いてくれた!!クァーハハハハハハハハ!!!!機嫌が良くて当然よ!!なにせ傷を負うなど久方ぶりゆえな!まして、ソレをやったのが人間ならば尚のこと!クァーハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 

 

 

「きず?俺は、お前に傷をつけられたのか?」

(俺の技は成功してたのか?なら、どうして)

 

 

 

 

 

「ん?あぁ、ほんの少し、ほんのちょびっとだけな、チクっとな。痒かったぞ、人間!クァーハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 

 

 

「...か、ゆ?」

 

 

 

 

 

「しかし本当に驚いたぞ人間!いかなる方法かはわからんが我の魂を直接攻撃するとは!クァーハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

「しかしまぁ相手が悪かったな。並の敵、それこそ下位クラスの魔王であれば有効打になったであろうに、だが!我は竜!この世に四体のみ存在する竜種が一体である!!文字通り格が!次元が!貴様ら人間とは違うのだ!!そう!我こそは!!暴風竜ヴェ...」

 

 

 

 

 

「興味ねぇつってんだろ!!」

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

「たのむから、ちょっと黙ってくれよ。たのむから」

 

 

 

 

 

「え〜?」

 

 

 

 

 

「…………」

(全身全霊!渾身の一撃だぞ!!俺の一撃はコイツに!!痒みしか与えられなかったてゆうのかよ!?)

 

 

 

 

 

「…………ちくしょう

 

 

 

 

 

悔しさか、それとも自身への無力感からか涙がでてくる

 

 

 

 

 

「……もうよいのか?」

 

 

 

 

 

「フッ、なんだ、律儀に待ってくれてたのか。意外と紳士なんだな」

 

 

 

 

「我を楽しませてくれた礼よ。本当に、ここまで笑ったのは久方ぶりゆえな。クァーハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 

 

 

「…………そうかい。そらなにより」

(下から魂の声は聞こえない。避難は済んだんだな、おっちゃん。でもごめん。俺、身体動かねぇよ)

 

 

 

 

 

「だからこそ惜しい。難儀なものよな、愉悦、楽しい時間とゆう物は、一瞬で終わってしまうのだから」

 

 

 

 

 

「……そうだな」

 

 

 

 

 

「……なにか、遺言は無いのか?」

 

 

 

 

 

「遺言?なんで?」

 

 

 

 

 

「人間は、死ぬ時に言葉を残す物なのだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふっふふっフフフッフッフハハハハハハハハハ!!!」

 

 

 

 

 

「何故笑う?」

 

 

 

 

 

「いや、悪い悪い。なんだかもう笑うしかないってゆうか、かわいい奴だなって思って」

 

 

 

 

 

「かわいい?我が?」

 

 

 

 

 

「あぁ、子供みてぇだ」

 

 

 

 

 

「我は竜種である。子供の時期など無い」

 

 

 

 

 

「そう言う意味じゃねぇよ」

 

 

 

 

 

「そうなのか?」

 

 

 

 

 

「そうさ」

 

 

 

 

 

「……そうか」

 

 

 

 

 

「遺言だったな。遺言、遺言か………………」

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

「…………後輩ちゃん

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 

「かわいい後輩がいてさ」

 

 

 

 

 

「後輩?」

 

 

 

 

 

「そう。後輩。かわいい奴でさ、まぁ俺はアイツの名前も知らない......とゆうか教えてくれなかったんだけど、だから後輩ちゃんって呼んでる」

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

「本当に可愛いくてさ、俺のことをお姉ちゃんお姉ちゃんて呼んでくれて、なんかこう、心が暖かくポカポカするってゆうか、実の妹みたいに思ってんだ」

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

「今日俺の酒場のOPEN日でさ〜まぁ燃えちゃったけど、会うのが楽しみでさ〜悩んでたんだよ。俺のレパートリーに後輩ちゃんの好物があるかなって」

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

「こうして考えてみると俺、後輩ちゃんの事良く知らねぇなって思ってさ、思っててさ。だから」

 

 

 

 

 

「だから?」

 

 

 

 

 

「まだ、こんな所で死ぬ訳にはいかねぇんだよ!!!」

 

 

 

 

 

「…………最後に、貴様の名を聞いておこう。人間」

 

 

 

 

 

「てめぇに名乗る名なんかねぇよ!クソトカゲ!!」

 

 

 

 

 

「……そうか、残念だ」

 

 

 

 

 

「思ってもねぇ事言いやがって」

 

 

 

 

 

「去らばだ!勇敢で愚かな蛮勇よ!!」

 

 

 

 

 

ガアパ

 

 

 

 

 

「またブレスかよ。芸のないやつ。どっちみち俺は身体がうごかねぇから防ぐことも、!?

 

 

 

 

 

《彼女の身体が今まで動かなかったのは縛りのペナルティーによるもの、では無い》

 

 

《行動不可は技の発動時に結んだ縛りの一つでしかない》

 

 

《仮に彼女が技を外していたのなら、ペナルティーはこの行動不可に適用されていた》

 

 

《だが先程、かの黒き竜は言った。痒かったと》

 

 

《つまり、彼女の技は確かに成功していたのである》

 

 

《よって三つ目の縛りは威力の底上げに適用され、ペナルティーの増加はおこなわれていない》

 

 

《ダメージは微々たるものだったのかもしれない》

 

 

《だがしかしそれは、彼女が黒き竜に一矢報いた証であった》

 

 

《よって今この時を持って彼女は》

 

 

《自身の身を縛る鎖から、解き放たれた》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(身体が!動く!?なんでだ?いや、今はいい。そんな事よりもこの状況をどう切り抜けるかに頭を回せ!!)

 

 

 

 

 

ゴオォォォォ

 

 

 

 

 

(ブレスが放たれるまでもう時間が無い!どうする?さっきみたいに中和で耐えきるか?無理だ!さっきまでなら兎も角、今の俺は満身創痍!さっきまでとは前提が違う!さっきとは、さっき……さっき?)

 

 

 

 

 

俺の脳に、竜が街に飛来した時の光景が流れる

 

 

 

 

 

(そうださっきだ!俺は最初にこの黒い竜のブレスを見てる!!なら俺のスキルで受け流せるはずだ!!)

 

 

 

 

 

《彼女のユニークスキル閃知者(ヒラメクモノ)は今までの経験とスキルに内包される無数の情報からシミュレーションし、その場の最適解と閃きを与える》

 

 

《彼女はこのスキルを使い最初の結界防御同様、ブレスの受け流しを選択》

 

 

《しかし、100%ブレスを受け流すには、一回の記録だけでは最適解を導き出せず、スキルは発動しなかった》

 

 

《故に彼女は、自身で演算を行いブレスの軌道を解析、受け流さなくてはならない》

 

 

 

 

(できるか?俺に?いや違う!できるか、できないかじゃ無い!やるんだよ!!)

 

 

 

 

 

ユニークスキル閃知者(ヒラメクモノ)発動

 

 

 

ユニークスキル縛鎖者(シバルモノ)発動

 

 

 

 

 

《直感的に閃知者(ヒラメクモノ)の思考加速と高速演算では足りないと判断した彼女は縛鎖者(シバルモノ)を発動》

 

 

《この演算の終了後、成否に関わらず両二つのスキルの再使用を一時的に不可にする縛りで閃知者(ヒラメクモノ)の演算領域を底上げした》

 

 

 

 

 

(ぐっっ?!あた、まが、あたまが、かち割れそうだ!!)

 

 

 

 

 

《仮にいつかの未来の大賢者が同じ演算を行ったのなら100%成功するだろう》

 

 

《かの大賢者の演算がExcelなら彼女は算盤(ソロバン)

 

 

《その難度の高さゆえ普段の彼女であれば解析を1%進めるだけでも困難だろう》

 

 

《だが縛りにより底上げされた演算領域》

 

 

《そして、この極限状態が彼女の集中力を高め》

 

 

《ブレスの軌道解析を》

 

 

《99%にまで終了させた》

 

 

《残り1%》

 

 

《それでブレスの解析は終了する》

 

 

 

 

 

(もう、少し、もう少しで!解析が完了する!!このブレスを受け流したら後は逃げればいい!痛みは今は忘れろ!後で好きなだけ休めばいい!身体が、頭が痛みでどうにかなりそうなら!超えろ!今!!今ここで限界を超えろ!!後、もう少しなんだ!後、あと、もう少しで!!…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(!?)

 

 

 

 

 

《一瞬》

 

 

《脊髄反射、反射神経のどちらか。或いはその両方か》

 

 

《彼女は無意識に自身の後輩に》

 

 

《意識を向けてしまった》

 

 

 

 

遥か下の大地に、仮面を持ち、走る女性が見える

 

 

 

 

(後輩、ちゃん)

 

 

 

 

《誰が責められよう》

 

 

《自身を姉と慕い、心配する者の声を》

 

 

《実の妹のように思う者の》

 

 

《魂の叫びに》

 

 

《意識を盗られてしまうことを》

 

 

《誰が責められよう。誰が悪いのだろうか?》

 

 

《姉と慕う者に心配の叫びを上げる事は》

 

 

《悪い事なのだろうか?》

 

 

《だが結果として彼女は》

 

 

《一瞬とはいえ》

 

 

《演算から意識を逸らしてしまった》

 

 

《先程も説明したように、彼女の演算は算盤のようなもの》

 

 

《一瞬でも意識を逸らしたが最後》

 

 

 

 

 

 

 

ERROR パリーン!!

 

 

 

 

 

 

 

《彼女の演算は》

 

 

《失敗した》

 

 

 

 

 

「しまっ!?」

 

 

 

 

 

《運命のイタズラ》

 

 

《もし》

 

 

《彼女の演算が後1秒早ければ》

 

 

《声をかけられるのが1秒遅ければ》

 

 

《演算は成功していただろう》

 

 

《しかし今この時をもって》

 

 

 

 

 

 

 

 

ペナルティー発動

 

 

 

ユニークスキル閃知者(ヒラメクモノ)一時的使用不可

 

 

 

ユニークスキル縛鎖者(シバルモノ)一時的使用不可

 

 

 

 

 

 

 

 

《彼女は魔法、魔素を操る才能が無い》

 

 

《故に彼女はそれをスキルで補っていた》

 

 

《そして、その内の二つのスキルが使用不可》

 

 

《よって彼女は今》

 

 

《攻撃に対し》

 

 

《あらゆる防御手段を失った》

 

 

 

 

 

(ぁ、死)

 

 

 

 

 

その瞬間、俺は炎の極光に包まれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……ぁ、ぁ゛なん 、とか 、即、死、は、まぬ、がれ、た、か。)

 

 

 

 

 

 

《彼女はブレスの直撃の瞬間、最後の手段をとっていた》

 

 

《防御が無理ならせめて可能性を残す》

 

 

《緊急防御とすら言えないただの悪あがき》

 

 

《そもそもの話、彼女には基本あらゆる攻撃が無効になる》

 

 

《ユニークスキル魂霊干渉(こんれいかんしょう)は文字通り魂に干渉するスキル》

 

 

《前世の死因、魂の再構築を経験した彼女は魂を知覚していた》

 

 

《故に魂に響かない攻撃は無効となる》

 

 

《彼女は自身の魂を粘土の様な物と認識している》

 

 

《仮に相手が魂を知覚していようと》

 

 

《殴られようが元に戻せばいい》

 

 

《切られてもくっ付ければいい》

 

 

《彼女の戦い方は基本的に、技と耐久力でゴリ押しするゾンビ戦法が主なスタイルであった》

 

 

《攻撃系のスキルを持っていなかったのも原因だろうが、少なくとも今までの相手にはこれで勝ってきた。勝ってしまった》

 

 

《だが、相手は竜種。魂そのもの》

 

 

《知覚以前の問題である》

 

 

《黒き竜にとってそれは生まれながらに出来て当然のもの。自覚があったかも怪しい》

 

 

《だが確かに竜の攻撃は、彼女の魂に響いていた》

 

 

《つまり竜の攻撃全てが、彼女にとって致命傷に成りうる》

 

 

《先程の破滅の嵐で、すでにボロボロの魂にブレスの直撃をくらえば魂の完全な消滅はまぬがれない》

 

 

《燃やされた物は塵に帰るだけなのだから》

 

 

《故に彼女は魂の凝固反応、魂を固める事で消滅を防ごうとした》

 

 

《本来守るべき魂をむき出しにするとゆう正真正銘最後の手段》

 

 

《分の悪い賭けであった》

 

 

閃知者(ヒラメクモノ)の演算を行なえなければ》

 

 

縛鎖者(シバルモノ)による強度の底上げも出来ない》

 

 

《しかし、彼女の生存本能が功を奏したのか》

 

 

《彼女は賭けに勝ち》

 

 

《魂の完全なる消滅をまぬがれた》

 

 

《だが》

 

 

 

 

 

 

(まぁ、だか、ら、なん、だっ、て、はなし、だが)

 

 

 

 

 

 

《魂の完全なる消滅はまぬがれたが》

 

 

《彼女の魂は燃やし尽くされ》

 

 

《実に九割り九分》

 

 

《99%を消失してしまった》

 

 

《肉体も炭化してしまい原型をほとんど留めていない》

 

 

《即死をまぬがれようと》

 

 

《結末は変わらないだろう》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(こんど、こそ、かんぜん、に、おわり、か。まぁ、おれに、しては、よく、やった、ほう、だ……ん?)

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!」

 

 

 

 

 

後輩ちゃんが駆け寄ってくる

 

 

 

 

 

泣きながら、いつも付けている仮面も外していて、焦っているのが伝わってくる

 

 

 

 

 

(後輩、ちゃん。よか、った、無事、だったんだ、な)

 

 

 

 

 

後輩ちゃんが、ほとんど原型の留めていない俺を抱き上げる

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!しっかりして!!お姉ちゃん!!」

 

 

 

 

 

泣きながら、俺になにかを伝えようと叫んでいる

 

 

 

 

 

だが、何も聞こえない

 

 

 

 

 

(ごめん、な、後輩、ちゃん。俺、もう、耳、聞こえ、ねぇ、みてぇ、だ。視界、も、ほとん、ど、ぼや、けて)

 

 

 

 

 

「大丈夫!大丈夫だよ!!お姉ちゃん!!すぐに治す!治すから!!」

 

 

 

 

 

後輩ちゃんが懐から何かを取り出す

 

 

 

 

 

「ポーション!昔ね!先生がくれたポーションがあるの!どんな傷でも治るって!だから大丈夫だよ!!」

 

 

 

 

 

容器に入った液体。おそらくポーションだろう

 

 

 

 

 

(ありが、とう、な、後輩、ちゃん。でも、ごめん。俺、たぶん、ポーション、きか、ない、から、つかわ、なくて、いい、よ)

 

 

 

 

 

バシャ!!

 

 

 

 

 

後輩ちゃんが俺にポーションをふりかける

 

 

 

 

 

きっと、俺の声は、聞こえていないのだろう

 

 

 

 

 

喉が潰れて、自分でも、声を出せているか怪しい

 

 

 

 

 

彼女の魂の叫びが聞こえてくる

 

 

 

 

 

悲しみ、後悔、絶望

 

 

 

 

 

色んな負の感情を混ぜ込んだような

 

 

 

 

 

そんな叫びだけが聞こえてくる

 

 

 

 

 

「ごめんね!私の所為で!!もっと、ちゃんと、知っておけば!いくらでも!その機会はあったはずなのに!ごめんね、お姉ちゃん」

 

 

 

 

 

「嬉しかったの!手紙をくれて!本当に、嬉しかったの。だから」

 

 

 

 

 

「だから、楽しみに、してたの。ずっと、苦しかったから、辛かったから。何度やっても、望んだ未来に、たどり、着けなくて」

 

 

 

 

 

「だから、楽しみにしてたの!今日を!楽しみに、して、たの。本当に」

 

 

 

 

 

「たぶん、私の、せいなの」

 

 

 

 

 

「私が、世界を、変えたから」

 

 

 

 

 

「だって、今まで、お姉ちゃんは、いなかったから」

 

 

 

 

 

「だから、ごめんね。お姉ちゃん」

 

 

 

 

 

「だから、だから、その、えっと、ね?お願いだから」

 

 

 

 

 

「治ってよ」

 

 

 

 

 

「教えてよ!先生!!」

 

 

 

 

 

「どうして!?治らないの!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《後輩と呼ばれた彼女は知らない》

 

 

《今回彼女がダメージを負ったのは物質体(マテリアルボディー)ではなく精神体(スピリチュアルボディー)、魂である》

 

 

《肉体に対してしか回復性能をもたないポーションが効かないのは当然である》

 

 

《仮に後輩が魂を回復する手段を持っていたとしても》

 

 

《彼女は99%の魂を消失している》

 

 

《消失である》

 

 

《彼女の魂はもはや1%しか残っていない》

 

 

《砕けた物、壊れた物ならば、なおす事も出来るだろう》

 

 

《だが、失った物、塵となった魂は回帰しない》

 

 

《よって彼女を助ける術は》

 

 

《ない》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「教えてよ、先生〜お願いだから、お姉ちゃんを、たすけて」

 

 

 

 

 

(泣か、ない、で)

 

 

 

 

 

すでに感覚が無い手を精一杯持ち上げ、後輩ちゃんの涙を拭う

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん?」

 

 

 

 

 

(俺、なんか、の、ため、に、泣いて、くれて、ありが、とう)

 

 

 

 

 

「そんな、こと」

 

 

 

 

 

(なんで、だろう、な。後輩、ちゃんの、顔を、見てる、と、幸せな、気持ちと、後悔が、溢れて、くる)

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん」

 

 

 

 

 

(料理、振舞って、あげた、かった、し、好物も。後、なまえ、聞けて、なかった、から、聞こうと、思って、どんどん、色んな、後悔が、溢れて、きて、まだ、死に、たくないって、思って、でも)

 

 

 

 

 

「お姉ちゃん!!私の名前はね!クロ……

 

 

 

 

 

(あぁ〜、まだ、死にたく、ないな〜。…………でも、俺の、ために、泣いて、くれる、人が、いるなら、それは、きっと、幸せな、こと、なんだ、ろう、な〜)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あああぁ〜しあ、わ、せ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───こうして

 

 

 

 

 

───かつて黒の剣姫と呼ばれた冒険者は

 

 

 

 

 

───誰かの心に確かな爪痕を残し

 

 

 

 

 

───その短くも儚い人生に

 

 

 

 

 

───幕を下ろした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





食休み外伝小話

かつて黒の剣姫と呼ばれた女
今回一番曇らせられた人。だって街は滅びるし、竜にはなにも通じないんだもん。希望があるって思って、それが希望じゃ無かった時の絶望した表情って唆るでしょ!しかも黒髪黒目美人男口調がやってくれるんだぜ!?想像してみ!絶対唆るから。てゆうか唆ったでしょ!ね!
彼女は魂を九割り九分、99%消失しているから未来の彼女はぶっちゃけ常に瀕死状態。結果理性が効かないというか多少幼児退行しているし、記憶も虫食い状態。黒い竜の事なんてブレスで殺されたぐらいしか覚えとらん。本来の彼女はもう少し理性的。まぁ曲がりなりにも前世と生前合わせて4〜50年は生きてるし、それでも短命だけど。
ちなみに彼女の曇らせの根幹は自身への自信の無さと寂しがりやな所から来ている。例えるなら
「そ、そんなのヤァダ!皆が俺を忘れるなんて!一生俺だけで曇っていて欲しい!俺が死んでも5年、10年位は曇っていてほし〜い〜」てこと



黒い羽付きトカゲ
うっかりで街を一つ灰にしちゃった(つ∀<。)テヘッ♪
幼稚とゆうか、まだ子供ナンダヨネ〜情緒
これから数百年の孤独で情緒を養うから大丈夫!
彼女とは出会い方が違えば友達になれたかもしれない。彼女は基本外見 に囚われない(TS転生したから)ため。意外と寛容だし。子供好きだし。教えるの好きだし。
まぁでも故郷燃やして、自分を殺した相手など普通に論外だけど

Q;人の心とかないんか?

A;トカゲにある訳ないでしょ。そんなもの('ω')



戦犯な後輩ちゃん
「ここでか〜」ってタイミングで来てしまった間の悪い後輩。そうゆうのは先輩が教えないと!(*•̀ㅂ•́)و✧
命をもって!取り返しがつかなくなるって事をね〜空気読むの大事よ、マジで。
アナタの所為です全部。アナタが話しかけたからミスったんです。もし1秒でも遅れていればとかifたらればの話は嫌いだ!!この世は結果が全てだ!
「アナタさえいなければ〜!!」
そもそも竜が出る街の名前くらい覚えとけよ!いくらでも機会あったろ!?じゃあやっぱりてめぇの怠慢じゃねぇか!
「油断!怠慢!すなわち怠惰!」
「アナタは自分の成すべき事を怠ったのです!」
「ア、ナ、タ、が殺したのです!」
「アナタの腕で、アナタの腕の中で、アナタがアナタがアナタが、アナタが、殺したのです」
「アナタ、怠慢デスねぇ〜」
みたいな感じかな。
ちなみに彼女の最後の内心は後輩ちゃんに死の間際の譫言のように聞こえていた。
「死にたくない」とか「ごめん」とか
先生から貰ったポーションを使ったのに効果無かったんだって。どんな怪我でも治るからってお守り代わりに渡されたのにねぇ〜
満面の笑みの彼女を看取った後、竜を殺意マシマシでボコボコにした。本当は殺したかったが先生の事を思い出して苦渋の決断で封印したとか。先生とお姉ちゃんを天秤に賭けて、仇をとる事もできず自身に対する失意と絶望と無力感でいっぱいになって彼女の亡骸の前で泣き続けた。
被害者ぶってんじゃネーヨ!てめぇの所為だろ!!(*^^*)



知り合いのおっちゃん
彼女が幼い頃から近所に住むおっちゃん。カミさんとの二人暮らしで、子供に恵まれ無かった事から元気な彼女を夫婦共々実の娘のように思っていた。
冒険者時代の活躍とか逐一確認してたし。ちなみにカミさんはブレスからおっちゃんを庇って死んだ。後を追おうとしたが「アナタ、生きて」の言葉が呪いとなり断念。彼女の無事を確認して安心したのもつかの間、彼女を死地に見送らなければいけなくなる。街の人のために殿を、時間を稼ぐ覚悟を止められなかった。
どんな心境だったんだろうね?
赤紙が来た子供を戦地に送り出す感じかしら?死地に。しかも娘のように思ってる子から死んだカミさんを大切にしろってさ!どうやって?( ´∀`)ハハハ
竜が封印された後、崩壊した街に戻ったら、彼女が死んでいたので勇者に「なんで嬢ちゃんを助けてくれなかったんだ!!」と八つ当たりしようとしたが、彼女の亡骸を抱きかかえ泣き続ける勇者に何も言え無かったとか



あぁ〜なんて、優しい世界〜

これこそまさに!愛なのです!!





食休みだよ?
だって彼女は曇らせ摂取してないもん(´>∀<`)ゝ





食休み外伝をご覧の皆様


ご満足、いえご満悦頂けましたか?


頂けたのなら幸いです


だって、それ以上の愉悦はございませんから


わかるでしょう?同志なら


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