カレンブーケドールに、花束を   作:アマシロ

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第1話 プリムラの花束を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――模擬レース。

 

 

 それは、ウマ娘にとっては実力を見せつけてトレーナーを見つけるチャンスであり。

 トレーナーにとっては、多くのウマ娘の中から輝く原石を見つけるチャンス。……なので、模擬とはいえ軽んじて良いレースというわけではない。将来を賭けた、スタートダッシュとでも言うべきものだった。

 

 

 

 

 

『外からダイノンキング! その更に外からカレンブーケドールも迫ってくる! だがダイノンキング譲らない! ダイノンキング、1着でゴールイン!』

 

 

 

 

(―――――すごい!)

 

 

 

 

 レベルの高い勝負だった、と思う。

 ダイノンキングの瞬発力、スピードはかなりの物。間違いなく、と言えるほどの経験はないがGⅠ級と言っていいのではないだろうか。それを証明するように、名の知れたベテラントレーナーたちが声を掛けに言っている。

 

 

 けれど、自分にとってそれより印象に残ったのは―――――恐らく体幹、バランスが良いのだろう。良い脚を長く使うことのできていた、2着の少女――――花の耳カバーが印象的なカレンブーケドールだった。

 

 今の条件は芝の1600m、彼女には少しせわしない距離だっただろう。距離延長すれば、彼女の良さはもっと引き出せる――――そして何より――――彼女の“目”が、とても印象的で。是非スカウトしたい。そう意気込んで、一歩前に踏み出し――――。

 

 

 

 

 

「すごく良い脚が使えてたね。君なら距離延長すれば彼女にも勝てるよ!」

「カレンブーケドールさん、是非私と一緒にクラシック路線を――――」

 

「――――えっと、………あの……――――」

 

 

 

 

 

 一着になった子と、同じくらい囲まれていた。

 ……当然か。自分のような新人トレーナーでさえ分かるくらい、彼女は有望株だった。トレーナーだって、少しでも強いウマ娘を育ててみたいという欲はある。

 

 

 

 

(……これは、無理かな……)

 

 

 

 

 どうにも、こういう時に押し入ったりするのは苦手だった。

 ちらり、と他の子たちにも目をやって――――。

 

 

 

 

(――――しまった! 見惚れてたせいで何も覚えていない!)

 

 

 

 

 

 完全に、カレンブーケドールに視線を奪われていた。そうさせるだけの『何か』が彼女の走りにはあって。………悔しそうにしていたり、落ち込んでいたり。他の敗れたウマ娘たちに掛けてあげるべき言葉を、今の俺は持ち合わせていなかった。

 

 慌てて撮影していた端末を取り出し、再生。

 せめて最終直線だけでも、何かトレーナーとしてウマ娘にしてあげたかった。

 

 

 

 

 

「――――ごめん、良ければなんだけど――――!」

 

 

 

 

 一人ずつ声を掛けると、スカウトかとぬか喜びさせてしまうかもしれない。

 端末を掲げて、精一杯の声で、言った。

 

 

 

 

「今トレーナーと話していない子たちで、今のレースの振り返りをしないかな?」

 

 

 

 

 困惑したような気配が広がる。

 負けたばかりで、そんな気分じゃない子も多いと思う。だから、少し気は引けたけれど。

 

 

 

 

 

 

「例えば君――――コーナリングが凄い良かったよね」

「わ、私ですか? ……あ、ありがとうございます。コーナリングは自信があって…!」

 

 

 

「だから君の場合、道中の位置取りか最終直線での進路取りが良くなるともっと上を目指せると思う。次にそこの君は――――末脚、凄く良いね。この辺りで減速しちゃったのは……ちょっと左にモタれちゃった?」

 

「は、はい……その、どうしても苦手で」

 

 

 

 

「そこさえ直せれば、もっと長くいい脚が出せると思う。メニューは、こういうのがあるんだけど……こんな感じで、それぞれ思うところを話し合ってみない?」

 

 

 

 

 

 返ってきたのは、困惑。

 でもトレーナーが囲っているのは1着、2着の子たちくらいだ。

 

 なんとなく自分の周りにウマ娘たちが1人、2人と増えてくると引き寄せられるように残りの子たちも集まってきてくれた。

 

 

 

 

 さて、誰から褒めようか――――そう考えたところで、最初にコーナリングを褒めてあげた子が、一人の子に話しかけた。

 

 

 

 

「あ、あの……さっきのスタート、すごく上手だった! 何かコツとかあるの…?」

「ありがと! えっとね、スタートの時は―――」

 

 

 

 一人、また一人。

 誰だって最初に声を上げるのはとても勇気がいることだ。それをやってくれた子に心の中で感謝しつつ、皆のモチベーションが少しでも高められるように見て回る。

 

 

 

「あんなに綺麗に蓋されちゃうとは思わなかったよー」

「ふっふっふ。だってアンタの末脚すごいし? 作戦ってヤツよ」

 

 

「本当だ。凄く綺麗に進路が塞がれてるね。こんな時、どうすればよくなると思う?」

「えっと、い、一旦下がる…?」

 

 

 

「うん。それも正解の一つ。ただ、今回のコースの場合は直線が長いから――――」

 

 

 

 

 

 

 ふと、視線を感じた気がして顔を上げる。

 複数のベテラントレーナーに囲まれたカレンブーケドールが、どこか安堵したような表情をしていて――――。

 

 

 

 

 

「と、トレーナーさん! 私の位置取りどうでした!?」

「コーナリング失敗しちゃって……アドバイス下さい!」

 

 

 

 

 声を掛られ、慌てて端末に目線を落とす。

 

 

 

 

――――こ、これは……嬉しいけど、大変なことになってしまったかもしれない!

 

 

 

 期待に満ちたウマ娘たちに囲まれて、同じような状況になっている彼女――――カレンブーケドールと、なんとなく似たような気持ちになっているような――――そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 模擬レースは、度々行われる。

 『レースに絶対はない』と言われるように、展開の向き不向きがあれば距離やバ場の合う、合わないもある。

 

 まだ担当を持っていないトレーナーとウマ娘としては、やはり大事なレース。

 

 

 

 

 

 そんな中に、“彼女”の姿があった。

 

 

 

 

 

(………カレンブーケドール?)

 

 

 

 

 

 てっきりこの前で担当が決まったかと思われた有望ウマ娘。

 そんな彼女は、どこかゲートの中で心ここにあらずのように見えて――――。

 

 

 

 

 

 

「あっ」

 

 

 

 

 思わず声が出た。

 カレンブーケドールは、ゲートが空いた瞬間に飛び出すことができず、慌てて走り出す。

 

 

 

 

―――――出遅れ。

 

 

 

 

 前回、先行策から長く伸びていたカレンブーケドールとしては致命的……とまではいかないだろうが、それでも失策。

 

 バ群に呑み込まれて、なんとか抜け出せないか探るものの、周囲を完全に囲まれて身動きが取れなくなってしまっていた。

 

 

 

 

 

 距離は、前回の1600から1ハロン延長で1800。

 府中と同じコースなので直線は長い。長いが――――。

 

 

 

 

 

 

 

(ダメだ、完全に塞がれてる!)

 

 

 

 

 

 右に行こうとすれば閉じられ、左に行くも内ラチとの間の隙間は通れるほど空いていない。強引に抜けることもできず、右往左往するカレンブーケドールに思わず拳を握りしめる。

 

 彼女がようやく包まれた状態から抜け出せたのは、既に1着、2着までがゴールした後のことで。それでも素晴らしい脚ですんなりと3着に。

 

 

 

 

 

 走り終えた彼女の顔にあったのは――――安堵?

 あまり悔しそうには見えない彼女だったのだが、どう見ても地力は彼女にはあって。

 

 他のトレーナーもそう思ったのだろう。

 1着、2着のウマ娘よりむしろ多くのトレーナーに囲まれて―――――困惑するような、悲し気に、打ちひしがれたような表情の彼女を、見た。

 

 

 

 

 

 

 

 ……模擬レースに出ている以上、スカウトされることが嫌、というわけではないハズだ。

 負けたのにスカウトされることが不満? そんな負けず嫌いのウマ娘も多い、けれど。

 

 

 

 

 

 

(……どう見ても、そんなタイプには見えない)

 

 

 

 

 

 彼女は、一体どうして――――。

 半ば教官のようにトレーナーにスカウトされていないウマ娘たちにアドバイスを送りつつ、悲し気なカレンブーケドールの表情が頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

(……もっと、彼女のことを知りたい――――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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