【王様】
ご先祖様へのリスペクトが半端ない猫。
昔の民主主義国家だった時代への憧れもある。
嘘が死ぬほど苦手。
【クレシダ艦長】
王様の部下の女性軍猫で、科学に関する知識も豊富。
姉と色々研究してたら、FTL技術について新発見があった。
【リオーネ副大臣】
女猫の政治家。
宇宙猫(エイリアン)対策で現在奮闘中。
開拓が終われば、本国に帰る予定だったが、フェザーンが最前線になる可能性が出てきたので、防備を整えたり、避難のための計画を立てたり、いろいろな調整のために本国に帰らずにフェザーンで頑張ってる。
5話 初めて手にする新しい物、再び取り戻す失われた物
【にゃんこ王国】の王である俺は悩んでいた。
『オリオン腕(腕=大陸に相当する)』の端にあり安全と思われていた【フェザーン星系】西方は、隣の『サジタリウス腕(=別の大陸みたいなものだ)』との航路が確認されてもはや安全地帯ではない。
フェザーンの方角にある、王国から見て西方の宙域の開拓が終われば、後は開拓リソースや軍隊を気兼ねなく東に集中する事ができた筈だった。
しかし、最早それは不可能であり『サジタリウス腕』の開拓や西方への軍隊の配備も考えなくてはならない。
もし救いがあるとすれば【にゃんこ王国】のある『オリオン腕』と、何があるかも分からない『サジタリウス腕』。
この二つを結ぶ航路は必ず【フェザーン星系】を通る必要があり、今のところは【フェザーン星系】さえ守られれば、フェザーンより西にある【にゃんこ王国】の領土は安全であるという事だ。
俺は一先ずの対策として、【フェザーン星系】の開拓の際に俺が引き連れてきたこの大規模な艦隊。
これを引き続き【フェザーン星系】に駐留させて、万が一『サジタリウス腕』からエイリアン(宇宙猫、知的異星種族などとも言う)の艦隊が来た時に備えさせた。
それ以外の対策としては『元エイリアン対策室』の室長を務めていた名家出身の黒猫貴族……。だめだ、彼の本名に馴染みが無さすぎて思い出せない。
確か【レイヴン】と呼ばれてたあの男を、軍学校の校長から再び【エイリアン(宇宙猫)対策室】の室長に戻した。
本来なら軍学校の校長から、再び閑職として扱われている【エイリアン対策室】に戻せば、体裁の整った左遷や粛清と思われ、物凄い反発されるだろう。
実際俺はこの栄転の皮を被った左遷という手段で、問題児だが政治的に表立って辞めさせられないの猫達(補給官のガンデルや古参艦長こファルコなど)を処理してきた……。
だがあの黒猫はむしろ大喜びで【エイリアン対策室室長】に戻ってくれた。
勿論、そこで働く職員や予算、権限などを増やすという条件なども提示されたが、当然受け入れた。
最早【にゃんこ王国】の活動領域は、今までのごく限られた宙域に留まらず、拡大する一方だろう。
その分、猫族以外の知的生命体や文明に遭遇する確率は飛躍的に上昇する。
『夷狄(エイリアンのこと)対策に注げる国力が限られていたとはいえ、寧ろ遅すぎたというべきでおじゃる。
麻呂が防猫(さきもり?多分だけど軍のことだと思う)校長時代に多少、生徒達に夷狄と遭遇した際の手順などを教えていたでおじゃるが、
これからは古参の兵たちにも改めて一から教える必要があるでおじゃるな。
無論、王(=おほきみと発音してた。……なんでこいつはいちいち、古めかしい言葉で喋ってるんだ?)も同様に、いや寧ろ手本となるべく率先して学ぶ必要があるでおじゃる!」
とあの【レイヴン】とかいう黒猫の貴族は、俺が【エイリアン対策室室長】に任命した時に熱く語っていた。
一度もエイリアンと会ったことのないエイリアンの専門家の言葉が、一体何処まで信頼できるのかは疑問だが、今は藁にも縋りたい気分だ。
あの【レイヴン】に対する第一印象は「なんか物凄くキャラの濃い変な奴」だったが、
そんな第一印象を吹き飛ばすくらい豊富な見識や深い教養があの黒猫にはあった。
それに、軍事に関する能力も極めて高い。あの男の軍才を腐らせておくのが勿体無いので、【エイリアン対策室室長】に戻すのを渋っていたが、今はあの黒猫の貴族が軍事的にも秀でた才を持っている事がありがたい。
軍事的視点を含む、幅広い視野でエイリアンに対する策を練ってくれるだろう。
とりあえず俺はあの黒猫の貴族【レイヴン】が開発したという、エイリアンとコミュニケーションを目的とした翻訳器具だがなんだかを、全ての艦に配備する計画を承認した。
他にも俺はエイリアン対策の一環として、さまざまな基礎科学の発展に投資することを決めた。
科学力はいくらあっても困ることはない。
【フェザーン星系】を獲得した事で多少、ノータッチでも進歩するだろうが、後押しして困ることなどない筈だ。
この決定をした時、クレシダ艦長だけでなく、その姉も心なしか嬉しそうだった。
ジィレイン・クレシダ艦長が息を切らして俺の執務室に駆け込んできたのは、俺の演説が大失敗した直後の話だった。
俺は国民に更なる軍拡を認めさせる為に、今後発生するかもわからない宇宙海賊対策を理由にして、その必要性を訴えた。
だが国民は教師が1+1=200だと言い始めた時の教室の生徒のように困惑していた。
当たり前だ。あんな無茶苦茶な理由で軍拡を認めさせるだなんて、今思返せば上手くいくわけがない。
まだ見ぬエイリアン(宇宙猫)への危機意識が先走り、俺は暴走気味だったようだ。
あんな大失敗の後はしばらく1匹で部屋に閉じ籠りたいが、クレシダ艦長が息を切らして肉球が擦り切れるほどの速さで走ってきたのだ。
きっととても大切なことだ。
俺は一呼吸した後に、覚悟を決めて大切な戦友クレシダ艦長を執務室に入れた。
そしてクレシダ艦長はとんでもないことを言い出した。
「FTL技術に関して新しい発見がありました!
我々はFTL航法だけでなく、FTL通信技術も手に入れられるかもしれません!
もしこの技術が実用化すれば……我々はリアルタイムで他の星系での出来事を把握することもできます!」
クレシダ艦長の報告は、俺の憂鬱なんかを吹き飛ばすほどのビッグニュースだった。
私、ジュレイン・クレシダ大佐は戦友であり、上司であり、そしてこの国の王であるギアリー司令長官をはじめとした、多くの政府の要人が集まる会議室で、彼らに対して震える声で説明する。
会議室にある大画面に映されたデータなどの資料。それを操作する為に私の手元の情報媒体を肉球で操作するが、その肉球も震え気味だ。
「まず、基本的な話ですが我々が保有するFTL技術はFTL航法にのみ限られています。
FTLを行う為には船を光の速さで飛ばすことでのみ可能なのです。
その為にある星系から別の遠くにある星系に情報を送るには、直接船を最低一隻送らなければならないわけです。」
私は誰もが知ってる基本的なFTLに関する話をした。
しかし、この『誰もが知ってる』というのは宇宙船乗りや科学者や一部の政治家に限られていたようだ。
FTL技術に理解が深くないものもいたらしく、そのうちの1匹……チャーバン退役将軍が質問する。
「しかしだ……星系内であれば普通にFTL通信が可能ではないのか?
そうでなければ宇宙艦隊はどうやって連携しているというのだ?」
それに対してギアリー司令長官、いや国王陛下が質問に答える。
「宇宙艦隊は通信にFTL通信を使用していません。
光の速さで通信を行っています。
その為、我が宇宙艦隊がいる星系内で起こった戦闘についても、その戦闘の情報が届くのに数時間かかるという事はよくある事です。」
当たり前の話をギアリー王はしたのだが、その返答に一部の猫がざわつく。
「なんだと!?それでは宇宙戦闘は一体どうやって行ってるのだ!?」
その質問にもギアリー王が淡々と答える。
「そこはなるべく近く……通信の遅れができるだけ小さい距離で編隊を組みます。
数十分ほどの通信の遅れが出る場合は部隊をわけて、その指揮官に部隊の指揮を任せたりなどしているのです。」
その話を聞いた陸軍のチャーバン退役将軍は理解がうまくできないらしく、髭も尻尾も垂れ下がっている。
そしてリオーネ副大臣が彼女なりの現在のFTL技術についての理解を述べた。
「つまり、我が国の通信技術は単一惑星時代の頃……。
電報などの技術が発達しておらず、手紙などを直接届ける必要があった頃の地上の時代に似ているわけですね?
とても早く走れる蒸気船などは存在する。しかし電報はないので、情報を送るには必ず蒸気船や伝令に手紙を運ばせる必要がある。
同じ星系……地上で例えるならばこれは島ですが、
島での情報のやり取りは望遠鏡や狼煙を使って、蒸気船なしでも通信はできる。
しかし、島と島でのやりとりは必ず蒸気船が必要となる。
そしてミス・クレシダがおっしゃるFTL通信というのは、島と島との間で蒸気船に頼らずにリアルタイムで情報のやり取りができる……。
いわば情報革命を起こすというわけですね?」
この説明を聞いた猫たちは、ようやくこの新技術であるFTL通信の凄さを理解して、驚きと興奮を隠せないようだ。
相手に理解できる形でこうも物事を分かりやすく伝えることができるリオーネ副大臣……。
私はその凄さを改めて実感した。
昔の軍隊では政治家たちは等しく嫌われて侮蔑されていた。
しかし、最近はその風潮も変わりつつある。
リオーネ副大臣をはじめとした真面目で優秀な猫達が、この王国を政治家としてしっかりと発展させているからだ。
あの【大海賊時代】を招いた昔の悪しき政治家と、今の政治家達は明確に別物と認識する者は多い。
あの過激派のバダヤですら、リオーネ副大臣だけでなくナバーロ大臣をはじめとする複数の政治家を褒めているくらいだ。
王国に住む猫々は再び政治を単なる腐敗の象徴ではなく、我々の暮らしを良くする物であると認識を改めているようだ。
そんな中で一部の猫達は、 『政治を一部の猫に任せるのではなく、王国に住む市民が運営する議会に委ねるべきだ!
古き良き先祖が愛した民主主義を復活させるのだ!』
と主張している。
私はギアリー司令長官を、今の国王を名君だと認めている。
だが……それでも私は民主主義の復活を求める彼らの意見に、賛同してしまうのだ。
私は正直言うと、民主主義と今の国王、どちらを選ぶべきかを迷っていた。
だが、そんな迷いも王の発言で吹き飛んだ。
王はしっかりと、覚悟の伝わる声で言った。
「それでは本題に入りたい。
このFTLを活用して、私は古き良き民主主義を取り戻したいと思う。」
その一言は会議に参加している全ての猫達を、まるで尻尾を引っ張られでもしたかのように驚かせた。