テレビも、ラジオも、新聞も、あらゆるメディアが大騒ぎをしていた。
当然のその中のメディアには俺が規制を緩めたことで、
まるで担任どころか学校から一匹も教師がいなくなった小学生のように、好き勝手に思い思いの事を話し、憶測や妄想やデマをまるで確定された真理のように語る。
そんなSNSや個人運営ブログサイトなどに見られるネットメディアも含まれていた。
『王国、宇宙開発が本格的にスタート!資源不足に終止符か?』
『国王陛下!ついに宇宙人を征服し、にゃんこ王国を拡張へ!?』
『軍有力者は語る……「王はついに乱心した」
「彼は先祖の故郷を捨てようとしている」』
『科学界はこの宇宙開発に歓喜、
セティン博士「宇宙人に纏わる知見が得られる可能性も」』
『スキャンダル!?王様は王妃という結婚相手がいながら、自分の軍艦の艦長にゾッコン!?
三角関係か……!?』
『経済界は新天地開発に意欲!好景気に期待!』
『戦艦オリオン、再びスキャンダル。
事故を隠蔽か?』
威勢の良すぎる記事もあれば、まともな記事もあるし、最後の記事に関しては思わず噴き出してしまいそうだった。
だが、今回の新天地たるフェザーン星系開拓以外の記事もそこそこ見られる。
「まったく、まるで蜂の巣を突いたかのような大騒ぎだな。
しかも……くだらん馬鹿みたいなゴシップまである。
まったく、言論の自由化政策に慎重だった政治家達の言い分が今更分かってきてしまった。」
俺はそう言いつつも、自由化政策や緩和政策を止めるつもりはなかった。
極度に締めつけて、考えることや話す事を禁じれば、判断を下して成長する機会が奪われる。
俺は秩序を重んじるタイプだが、
縛るだけでは決して国は成り立たないと考えている。
そんな玉石混合のニュースが多数表示される情報端末のタブレットを、フニフニとした肉球で操作していると、明るい女性の声がした。
「どんな記事を見てるの?面白い記事はあった?」
その声の方向に目を向けると、一匹の美しい二足歩行の女の猫がいた。
彼女はこの国の王妃だった。
「ああ、なんでもこの『ニャンヨークタイムズ』とかいうメディアによると、君は寝取られているらしい。
なんでもドーントレスとかいう巡航戦艦の艦長に、君の夫はゾッコンだそうだ。」
それを聞くと王妃様は笑いながら言った。
「それは酷い話ね。確か……そのドーントレスの艦長は、司令長官である貴方の部下よね?
彼女からは悪い話をよく聞くわ。
なんでも、親戚に出版社勤めの編集者がいるって噂よ?
それだけでなく、その艦長とやらも一歩間違えば編集者になってたかもしれない人だとか……。」
それを聞いて王様はニヤリと笑った。
「それは初耳だな、それじゃあそのドーントレスの艦長を『ニャンヨークタイムズ』の編集者として送り込む事も検討してみるか。
編集者ならきっと作家だけでなく、記者達も苦しめてくれるだろうからな。」
猫の王妃様は自分の舌でペロペロと毛繕いをしながら言った。
「優秀な編集者は、作家や記者をとことん苦しめる物だから、『ニャンヨークタイムズ』の猫達は地獄の苦しみを味わうでしょうね。
その作家や記者が優秀であれ無能であれ……ね。」
王様は時計を見て、そろそろ時間だと気づき自分も毛繕いをして身だしなみを整えることにした。
「それじゃあそろそろ行こうか。
スピーチの時間だ。」
「ええ、みんな待ちかねてるわ。」
にゃんこ王国首都
その式典会場には何百万匹の猫達が集まっていた。
古今東西、猫というのはお祭りが好きなのだ。
おそらく、知的生命体であれば……それが犬であれ、牛であれ、魚であれ、きっと何かにかこつけて馬鹿騒ぎをしたがるだろう。
もし、この宇宙に猫族以外の知的生命体がいればだが……。
少なくとも、この『にゃんこ王国』に住む猫達は、馬鹿騒ぎができるお祭りが好きだった。
多分、王への敬愛や忠誠などが目的でこんなに大勢の猫が集まったわけではないだろう。
壇上に上がる俺を、まるで最も偉大なご先祖様よりも偉大なものを見る目で見つめてるのは、
社会的な配慮であって周りの目を気にして、そう振る舞ってるだけだ。
そうに決まってる。
俺はそんな目で見つめられるようなほど、偉大な猫じゃない。
すごいのは俺の先祖であって、俺じゃないことなんてわかってるはずだろ?
だからそんな目で俺を見るのはやめてくれ……。
政治が上手くいって豊かになってるのは、リオーネ副大臣やナバーロ宰相のおかげだ。
讃えられるべきは彼らなんだ。
俺は仲間の手柄を盗んでいるような、恥ずかしい気持ちを抑え込みながらもスピーチを始めた。
「我らが先祖に名誉あれ。」
俺はお決まりの挨拶から始めた、
「私はにゃんこ王国司令長官、そして国王のジョン・ギアリーです。
みなさん……我々の先祖は、かつて星々の海を、より広大な大地を手にしようと夢見ていました。
そして、その偉大な目的を再び思い出し、
先祖のように航海をやり直すべき時が来ました。
私はここに宣言します。
フェザーン星系開拓プロジェクトの開始を!
我々は再び、【開拓の時代】を迎えるのです!
我らが先祖に名誉あれ!」
そして俺の演説を聞いた民衆は歓声を上げて喜んでいる。
落ち着け、彼らだってただ俺が偉大だから喜んでるんじゃない。
希望ある未来に歓喜してるだけだ。
あの中で俺のことを本気で偉大な名君だと思い込んでる奴なんて1割もいないはずだ……。
それでも数十万匹……。
ご先祖様お助けください……。
どうすれば彼らは、偉大なのが俺ではなくご先祖様であると理解してくれるのでしょうか?
俺が大勢の民衆に圧倒されていると、
俺の腕に柔らかい肉球が触れた。
この銀河で一番美しいであろう女性の猫が……俺の最愛の王妃が、俺を気遣ってくれているのだ。
「ターニャ……」
「緊張してるでしょ?」
「ああ……やっぱりわかるか?」
「わかるわよ。エイリアンに出会わないか心配なんでしょう?
でも、もっと肩の力を抜いていいわ。きっと貴方なら勝てるわ」
俺の心配とは別の角度で、彼女は考えていたらしい。
俺は戸惑いながらも尋ねる。
「どうしてそう思う?どうして俺がエイリアンに勝てると?」
そして俺の最愛の猫は言った。
「決まってるわ、私が貴方には出来ると信じてるからよ。
『わたくしはいつだって正しい』
そうでしょう?」
王様は笑顔で答えた。
「ああ、そうだ君はいつだって正しい。
ドゥエロスやチュレブ、クレシダ、
そして君……。
他にも多くの艦長達がいるからこそ、俺は勝てるんだ。
俺には王国史上最も勇敢で心強い、戦士達がついている。
悩む必要なんてないな。
もしエイリアンどもが出てきたら、
隣の銀河まで蹴り飛ばしてやろう。」
俺は気分が楽になった。
俺は孤独じゃない……
誰もより頼れる仲間がいる。
そして、俺を見守る命ある星々やご先祖様もついている。
そう考えると、悩んでる自分が馬鹿らしく感じた。
ご先祖様よ……どうか俺たちをお導きください。
スーパーイベント:開拓の時代
条件:重要星系への開拓を開始する