【王様】
にゃんこ王国の王様。
今作の主人公
【ドクターナスル】
にゃんこ王国の医者。
良識派として、他の医師たちからも高く評価されている。
【リオーネ副大臣】
王国の優秀な女性政治家。
王様が大軍拡したせいで経済界を宥めたり、
急拡大した軍組織を維持する為の制度を整えたり、
四男と次女が同時に風邪を引いたりしてて、
精神手に疲労が溜まっている。
その疲労分は夫に癒されて回復してる。
【黒猫の貴族】
現在はほぼ死語である貴族言葉を巧みに使う、由緒正しき名家出身の黒猫。
エイリアン対策室の室長から、軍学校の校長に栄転したが、彼はエイリアン対策室でもっと働きたかったので不満たらたら。
にゃんこ王国の王は少し前まで、よく医師にメンタルケアのためのカウンセリングを受けていた。
それは王国内の問題と愛する妻からの圧力で困っていたからである。
具体的に言うと軍隊が貧弱すぎて国防的に大問題があり、それに妻がキレて王に圧力を掛けていたのだ。
しかし王は最近になって増税をしてその金で大軍拡を行い、軍事的な脆弱性と妻からの圧力の問題を解決した。
これにより王は悩みがなくなり、医師のメンタルケアを受ける必要がなくなったのだ。
代わりに経済界の大物や政治家の一部の猫達は増税問題で新しい悩みができて、彼らが医者のメンタルケアを受けることになったので、医師の負担は減るどころか逆に増えたのだが……。
こうした背景から、そんな忙しい筈の医者達の代表が王に謁見を申し出た時は、最初王も医師から小言や嫌味を言われるのでは無いかと考えて、最初断ろうとした。
しかし、王妃であるターニャから
「そんなに医師達が貴重な時間を使ってわざわざ嫌味をあなたに言うほど暇じゃ無いと思うわ。
むしろ嫌味を言うとしたら、この忙しい時期が終わったもうちょっと後のはずよ?
逆に今医師達に会っておかないと、次の謁見の時にあえて会わなかった分の嫌味まで言われるはずよ」
とアドバイスを貰った。
その為に王様は気が進まないながらも、医師の代表の謁見を認めたのであった。
にゃんこ王国の首都にある宮殿の謁見の間。
そこの煌びやかな玉座に1匹の猫……俺が座っていた。椅子は素材のおかげで座り心地はいいが、俺の気分は晴れない。
俺は本来こんな椅子に偉そうにふんぞり返って、この王国を導く指導者の椅子に座る資格なんてないはずだ。
確かに軍人としては一応優秀だろう、大学宇宙海賊時代を解決した実績はある。
だが……それは俺一匹の功績じゃない、俺に引けを取らないくらい優秀な戦友達がいたから出来たことだ。
軍事以外の事が俺には全く出来ないだろう、だから俺は政治などは基本的にナバーロ大臣やリオーネ副大臣に任せている。
大宇宙海賊時代の終焉はともかく、その後の復興は政治家達やこの王国の民自身の功績だ。
にも関わらず、彼らではなく俺が称賛されるのはどう考えてもおかしいだろう……。
そのことに関してだけは、あの戦艦オリオンの艦長であるろくでなしのヌモスとさえ意見が一致した。
『盗人にも三分の理』や、
『壊れた時計でも1日に2度同じ時刻を指す』など、
ご先祖様が残したお言葉にこれほど共感したことはなかった。
俺がそんなことを考えてぶかぶかの玉座に座りながら現実逃避をしていると、
謁見を願い出た医師のありきたりな儀礼的前置きなどが終わり、彼は本題に入るようだ。
俺は気を今まで以上に引き締めて、このメガネをかけた医師の猫の言葉を聞き漏らさないようにする。
いかなる者の謁見の際の頼みを軽く扱う気持ちは俺にはない。
だがこの多忙の時期にわざわざ時間を作って謁見を申し出るならば、数ある謁見の中でも特に重要な話なのだろう。
俺はその医師の猫のメガネの向こうにある瞳に、確かな決意の炎を感じていた。
そしてその医師の猫は語る。
「王様……単刀直入にいいます。
『医療への投資の拡充』を求めます。
もしこの問題が解決できるならば……王国のにゃんこ達の数は一気に増加するでしょう。
つまり、もし適切な王国からの支援があればこの未曾有の大好景気をさらに長期的かつ強力なものにする為に必要な、このピンチである『にゃん口(人口)不足問題』を解決するどころか、
逆に『にゃん口(人口)爆発』を達成するチャンスが訪れるのです!」
「『にゃん口(人口)爆発』……?」
俺はこの医師……ナスル医師が熱く語る『にゃん口爆発』というワードに興味を持った。
私はナスル、このにゃんこ王国の医師だ。
最近この国では経済界や政界の大物達が、王様の行った法人税の増税で色々と悩んでいてメンタルケアを受ける猫達が続出しているらしい。
私には政治の話はあまりわからない。
ただ、目の前にいる猫を救いたいという気持ちがあるだけだ。
この増税の影響は大企業にのみ限定的であり、増税のせいで業績が下方集積された企業はあっても倒産したり、その余波で庶民の暮らしが悪くなるなどはなかったそうだ。
私はそれを聞いてひとまず安心したが、増税をするならもっと医療に投資して欲しいと思ったりもした。
そんな風に考えて王さまや政治などは、どこか遠い話で自分とは無関係だと考えていた。
しかし、ある医師の同僚から聞いた話が私を王と関わらせるきっかけを作った。
「精神科医の仕事をしていてね、最近大物の政治家のカウンセリングをしているのだが……。
どうやら彼らのような上流階級の猫達でも、子供が幼くして病気や事故で死んでしまうケースが多いそうだ。
最近のストレスとしては、王様の増税があるようだが、彼ら自身も気がついていない奥深くのトラウマとして、自分の子供の死などもあるみたいなんだ。
我ら『猫類』は多産多死の傾向があるからね、いくら金があってもこの宿命からは逃れられないのかもね。」
その同僚の話は患者のプライベートなどに気を遣い個人名などを伏せており、あえて漠然とした内容であったがそれでも衝撃的な内容だった。
自分の専門は猫以外の動物を担当する獣医であり、猫に関する最新医療の話はあまり気にしていなかった。
だが自分は漠然と昔よりも医療技術が進歩していると思い込んでいたのだ。
そして私は、その話を聞いた後に色んな医師やその医師の知り合いと相談して、医療技術を高めるにはどうすればいいかというテーマについて話し合った。
そして一つの結論が出た。
「この好景気を支える為に、『にゃん口(人口)増加が必要であることは明白である。
そして医療の拡充で『にゃん口問題』を解決できることを王に訴えるのだ」
この王に『にゃん口問題解決のための医療拡充』を訴える役目を誰に任せるかが議論になった。
だが、最終的に私を除く全てのメンバーが『ドクターナスル(私)が相応しい』と言った。
私は交渉ごとなど得意ではないと必死に主張したのだが、
「ナスルさんが発起人なのだからナスルさんが行くべき」
「ドクターナスルは政治と距離を取ってるから、変に派閥問題に発展せずにスムーズに行くと思う」
「最も優れた王であり、最も優れた軍人であるジョン国王陛下の説得をできるのは、
この国で最も優れた猫(人)格者であるナスル医師以上に相応しい人はいない」
などなどの意見から結局、私が折れる形になった。
……私はただの獣医なのに猫(人)格者扱いされるのはなんでなのか今でもよくわからない。
そして私は今、王宮の謁見の間にいる。
玉座に座る1匹の猫からは見るからにただものではない事がわかる圧倒的な格の違いやオーラが漂う。
私はテレビニュースやネットの記事などでしか、王様のことを見た事がなかったが、直接会ってようやくこの猫、ジョン王の凄さを肌で体感した。
彼はそこにいるだけで全ての猫を圧倒し、私は緊張しながら王に『にゃん口問題解決の為の医療拡充』を訴えた。
そして王は優しく微笑みながら、玉座から立ち上がり私のそばに歩いて近寄り言った。
「ドクターナスル……君の提案はとても貴重な意見だった。
その見識溢れる医療政策は、我が王国が大至急取り組むべき者であると私は判断した。
感謝する……心から感謝する。
この国は私だけでなく、多くの王国の民によって支えられている。
だから必ずその政策が実行できるかは断言できない。
だが、これだけは先祖の名誉にかけて誓わせてもらう。私はこの提案を全力で支持し、この政策実現の為に我が身を尽くす!」
その王の言葉には確かな重みがあり、私に対する信頼を感じさせた。
私はこの時に初めて、彼を熱狂的に支持する者達のことを理解できた。
その謁見の後は何もかもが早かった。
自分の子供の健康を心から望み、無病息災を祈らぬ者はこの王国には何処にもいない。
貴族も、政治家も、経済界の大物も、庶民も、聖職者も、皆が赤子や幼子が死にゆくところなど見たくなかった。
良識派のナバーロ大臣や、子どもを持つリオーネ副大臣。
サカイ議員やシェーバ議員、果てはコスタ議員ですらこの医療拡充政策を支持した。
経済界の大物も最初はこの政策の財源の為に法人税が増税されることから二の足を踏んでいたが、リオーネ副大臣が
「この医療拡充は単なる長期的な利益だけでなく、短期的な利益も齎します。
医療サービスには国費が大量に注がれることから、医療関連事業は一大産業として成長して経済を支える柱となるでしょう」
と経済界に新しい利益を生み出す事を仄めかした事で、状況は一変。
大企業達はこぞってこの政策を熱烈に支持した。
そしてこの『にゃんこ王国』が行った大規模な『医療拡充』は幼少の『にゃんこ達』の病死を防ぎ、多産多死から多産少死へと『にゃんこ王国』の社会モデルを切り替えることに成功した。
その結果、目論見通りに『にゃん口爆発』が起きた。
いや、目論見以上に人口が増加して『にゃん口大爆発』と評された……。
にゃんこ王国の辺境にある星系にて、一匹の猫貴族が故郷に帰省していた。
現在のジョン王は多くの問題のある貴族や政治家、高級軍人達を閑職に追いやるという事がよく見られた。
しかし彼は逆に閑職から栄転して、『にゃんこ王国』の宇宙軍の軍学校の校長職に抜擢されたほどの男であった。
彼は圧倒的な才覚と高貴な家柄を備えていた人物であり、猫々(人々の意)はこの貴族の猫が王国宇宙軍校長に指名された事を心から喜んだが、当の彼は渋い顔をしたという。
「麻呂は確かに夷狄や賊徒と戦う術は心得ておるでおじゃる。
(確かに私はエイリアンや宇宙海賊と戦う事はできる。)
されど同じ事は他の者たちにも言える事、
まだ見ぬ夷狄どもとの遭遇に備えて、策を練るは麻呂にしか出来ぬ。
(だが私以外にもそれが出来る者は他にもいるじゃないか、
まだ出会っていないエイリアンとの遭遇に備えて、ファースのコンタクトの手順を考えたり対策を整える事ができるのは私くらいしかいないと思うんだが?)
にも関わらず、その役目の任を解かれるとはいと口惜しきことぞ……。
(それなのに王国軍のエイリアン対策室のトップの地位から退かなくちゃいけないなんて、私としてはとても残念で仕方がないよ。)
されど今の御国は乱れ、心ならずも防人を導きし大任承るを得ないでおじゃる。
(だけど今のにゃんこ王国は混乱期にあるから、不本意だけど軍学校の校長をやるしかないか……。)」
と語ったという。
そんな大昔の言葉遣いを日常的に使うこの男は、この彼の所領がある星系で部隊を訓練していた際に、自分の領地に顔を出すことにしたのだ。
「みんなぁぁぁ!領主様が帰ってきたんぬ!お祭りの準備するんぬー!」
「領主様なんぬ!全身真っ黒なにゃんこなんぬ!」
「やったー!最近暇だったからこれを機にお祭りするんぬ!マタタビジュースやカリカリいっぱい食べるんぬ!」
貴族の男が自分の所領に帰ると、それは彼が今まで見たこともないほどの活気に満ちていた。
確かになかなか所領に帰れない貴族猫が、たまに故郷に帰れば領民の猫達は、はしゃぐ口実として所領全体で歓迎の為のお祭りをすることはよくあった。
しかし、今回は明らかに盛り上がり具合が違うのだ。
彼の猫生でこの時ほど所領の猫たちが活気に満ちていた事はない。
そして黒い毛並みをしたこの貴族猫は、手厚い歓迎をされながらも、所領の様子をじっくり観察した。
(なるほど……。数え切れないほどの子猫達が元気に麻呂の領地で走り回っているでおじゃるな。
これは王(おおきみ)の政(まつりごと)の効果の現れでおじゃるな?
一時はどうなることかと思ったが、ここまで上手くいくとは、いとめでたきかな!
それに麻呂の領民達も心なしか毛並みが気品あるものに見える……。
これは医師(くすし)たちが唱える、薬水や泡で身体を清めて汚れを祓い、細菌やうぃるすなるモノノケから病魔に犯されぬようにする、
疫病対策の数々がしかと実践されていることの表れ……!
否、それだけにあらず!
皆の体つきが昔より逞しいものになっているのは、栄養状態の改善の証!
代理で所領を治める者たちからの報告で、麻呂の所領における経済状況の改善については把握していたが、まさかここまでとは!
収入が増えたのは単にインフレに伴う物価上昇により、民が作った作物や製品の売れる値段も共に上がったものと考えていたが、そうではない!
私の所領で生産された作物も大きく増加している……!工場も増え物の生産量も増えたことで、農業用のコンバインをはじめとした様々な農業器具が私の民も買えるようになり、農業生産高も増加している!
流通網も改善されていて、私の所領でもしっかりと様々な商品が買える値段まで抑えられているのか!
なんだこれは!?まさか収入は増えているのに物価は下がっているというのか!?
あ……しまった、驚きのあまり貴族言葉忘れてた。
……麻呂とした事が、心中とはいえ貴族らしき言葉遣いを忘れるとは、いと恥ずかしきことかな。
されどかつて民が古着を継ぎ接ぎし着古していたのも今は昔、
皆が今までよりも品のある羽織を着て、こうまで幸せそうに暮らせるとは……。
当代の王(おおきみ)の偉業、改めて肌身に感じること果てなきことなり……!)
故郷に帰った黒い毛並みの貴族猫は、しっかりと豊かになった故郷を見て、それ以降は彼が所属していた【エイリアン対策室】の室長の任を解かれた事を理由に、王に対する不満を口にする回数が週一から月一に減少したという……。