適当極まりないおっさんでも、TS転生すれば少しはマシになるって本当ですか?   作:ソナラ

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10 少しはマシになりな

 それから私とばあさまは、一日の大半を一緒に過ごすようになった。

 魔術の制御は、方法はともかくある程度できるようになっているし、魔術に関する知識を私は概ね頭に叩き込んでいる。

 まぁしばらくしたら忘れるものも多いけど。

 それよりも、優先すべきは家事だ。

 ばあさまがもう無理できないし、何よりこれから私は家事が必要になる。

 だから最後の確認とばかりに、ばあさまは色々と私に家事をさせた。

 私自身、ばあさまに無茶をさせたくないから、率先して家事を受け持っている。

 こんな風に誰かのために家事をすることがあるなんて、ましてやそれを”楽しい”と思う日がくるなんて。

 かつての私は、思っても見なかっただろう。

 

「焼き加減が雑だねぇ」

「でもこれくらいなら十分美味しいぞ」

「減らず口を。まぁ、お前さんならそれで十分だろうさ。別にまずいとは言ってない」

「なら、よかった」

 

 そんな風に話をしながら、毎日を過ごす。

 家事をしている時も、そうでない時も、二人の会話は絶えなかった。

 家事に対する評価、ばあさまの過去の話、魔術に関する話、外の世界の話。

 それから――これからの話し。

 

「お前さんは、これからどうするつもりだい?」

「まだ、ちょっと悩んでる。一生ここで引きこもっていけるだけのお金は……あるし」

「流石にそいつは適当すぎんだろう。あたしは昔、お前さんに外へ出るのを止めたけどね、今はもうそんな事は言わないよ」

「その頃は、言われなくてもずっと書斎に引きこもってたじゃないか」

 

 これから、私はどうするのだろう。

 今はばあさまとの生活を楽しむことを優先しているけれど、その先。

 一番簡単なのは、冒険者になること。 

 異世界ならそれが一番安易だし、暮らしていくのも私の実力があれば簡単だ。

 まぁ実戦経験はないんだけど。

 ラグザさんについていくというのもアリだろう。

 あの人は色々と甘いし、多少サボってても怒ったりしないはず。

 冒険者をしつつラグザさんを頼るってのもアリだ。

 というか、最初のうちはラグザさんから色々教えてもらわないと、こっちの世界の常識がない私はやらかす可能性が高い。

 ただまぁ、それはいつでもできることだ。

 最初にやることは、決めていた。

 

「……ゴーレムに、色々と指示を出そうかと思って」

「あの子にかい?」

()()()()()()()って」

「……なるほどね」

 

 言うなれば、それは墓守だ。

 ゴーレムに色々とプログラミングをして、私が魔力を注ぎ込み続ければ十年は持つとばあさまは言っている。

 それくらい私の魔力量が多いということでもあるけど、同時にゴーレムの完成度が高いということでもあった。

 十年以上ほったらかしておいても、ばあさまが少し整備すれば動くのだ。

 耐久性も抜群である。

 

「それが終わったら……その時、また考える」

「ま、指示を出すためにゴーレムの制御を完璧にするにしても、まだまだ時間がかかりそうだしねぇ。ゆっくり考えればいいさ」

 

 なんだか失礼なことを言われているが、私も同じ事を考えている。

 その間にラグザさんから最低限の冒険の知識を教わって、準備をするのだ。

 今のところは、そこまでしか考えていない。

 

「それよりばあさま――外に出かけよう」

「街に出るのは、流石にムリだよ」

「解ってる。――とうさまとかあさまのお墓に行きたいんだ」

 

 私の言葉にばあさまは、そうかいと静かに返すにとどまった。

 

 

 ◯

 

 

 とうさまとかあさまの墓には、毎年一回墓参りに行くのが定例になっている。

 私が魔術の制御を初めた頃から、そうだった。

 今年は少し早いのだけど、ばあさまの側に私が寄り添うようになって半年、時期を考えるとそろそろ行っておきたい。

 ばあさまを支えながら治癒魔術を使って、ばあさまも杖を使いつつ歩を進める。

 去年よりもゆっくりになった歩幅を、なぜだかばあさまは少しだけ嬉しそうに見えた。

 

 そこは、家から少し離れた開けた場所で、昔からとうさまはここでやんちゃをしていたのだという。

 森の奥にぽっかりと開いた穴から陽の光が降り注ぎ、なんだか幻想的な光景に思えてならなかった。

 二人でこの世界のやり方にしたがって死者へ祈りを捧げ、それからぽつりとばあさまが口を開く。

 

「思えば、あの子達がなくなって随分と経ったね。今でも信じられないくらいだ」

「ばあさま……」

「悲しいって気持ちは、もうとっくの昔に薄れちまったけどね」

 

 いいながら、私の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 

「お前さん達が、この子を残してくれたおかげさ。おかげで……最後くらいは、ゆっくりとした時間を過ごすのも悪くないんじゃないかと、そう思ってる」

「わふ……」

「でもやっぱり……お前さん達が死ぬのは、あまりに早すぎたと思うけどね」

 

 やっぱり、なんて。

 私はそんなふうにばあさまが弱音を零すところを、初めて見た。

 それこそやっぱり、私はばあさまの抱えてきたものなんて、何も知らなかったんだ。

 知らなすぎたんだ。

 それは――両親に対しても言える。

 私は一歩前に出て、もう言葉を返してくれない両親に問いかけた。

 

「とうさま、かあさま。私はこんなに大きくなった。でも、今でもわからないことがある」

 

 頬を、そっと風が撫でる。

 まるで二人が、私をあやしてくれているかのように。

 

「どうして、二人はあのゴーレムを作ろうとしたんだ?」

「……」

「どうして、光の大精霊と契約しようとしたんだ?」

 

 ばあさまは、私の言葉を黙って聞いていた。

 

「どうして――あの事故は起こってしまったんだ」

 

 私も、ばあさまも。

 二人が何を思って、あのゴーレムを作ろうとしたのかはしらない。

 気がつけば事故が起きて、大事な資料はその事故ですべて喪失していたそうだから。

 だからその場には、亡くなったとうさまと、かあさま。

 そして、無傷のゴーレムと――

 

 

「どうして私は、生き残ったんだ?」

 

 

 私だけが、残されていた。

 ずっと疑問だったんだ。

 どうして私には前世の記憶があるのか

 どうして両親が研究していた光の大精霊を思わせる固有魔術を私が使えるのか。

 どうして私だけが――生き残ったのか。

 二人が全力で私を守ったという考えもできる。

 だけどそれなら、そもそも私を危険な研究の場においておくこと自体がありえないことだし、二人が成すすべもなくやられてしまう事故に私が耐えられるとも思えない。

 そもそも、これは口にすることはできないけれど――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あの時なくなるはずだった赤ん坊に、見知らぬ誰かの魂が入り込んでしまっただけ、なんて。

 そんなこと、想像したくない。

 

「……」

 

 答えはここにない、祈りは死者に届かない。

 それでも、きっとどこかに答えはある。

 だから、私は――それが知りたい。

 

 ばあさまが、私に明日を臨んだ。

 ここにない場所に、答えがある。

 アシェットは、私に命をくれたのかもしれない。

 だったら、私は適当極まりないままでは、居られない。

 

 なぁ、とうさま、かあさま――もしも”私”がアシェットになったら。

 

 

「私は、明日に進むよ」

 

 

 ――少しはマシに、なれるかな?

 

 

 ◯

 

 

 その日は、ばあさまが私をおぶって帰ってくれた。

 今のばあさまには辛いだろうに、私が治癒魔術をかけてくれていれば大丈夫だから、とそんな事を言って。

 ゆっくりと、行きよりも更に遅い足取りで、家へと戻る。

 

「……最初のうちは、お前さんと接するのがおっかなかったんだろうね」

「ばあさまが?」

「息子みたいに家を飛び出されるのが怖かったのさ、笑えちまうだろ?」

「むしろびっくり、ばあさまでもそんなことを考えるんだ」

「今更気付いたことだけどね」

 

 また、二人で言葉を交わす。

 

「それから、魔術の制御を教えることになった。最初は手のかかる生徒が増えたと思ったよ」

「ごめん」

「流石にあたしの講義に飽きるとは思わなかったけどね」

「……」

「でも、そうやってお前さんが他とは違う子だと解ると、なんとなく親しみが湧いた。よくわからないけどね、嬉しかったんだよ」

 

 静かな時間だけが、流れていく。

 

「料理を作ろうとお前さんが言い出して、作った料理は美味しかった。お前さんの不器用な料理が愛らしかった」

「うん」

「お前さんが、自分の固有魔術に自力でたどり着いた上に、あたしすら想像もしていないことをやってのけて、純粋に関心した」

「うん」

「誕生日プレゼントを渡してくれて、嬉しかった。女子らしい悩みを聞けて、嬉しかった。お前さんが笑っているのを見ていると、嬉しかったんだ」

 

 いろんなことが、あった。

 一言では語りきれないくらい。

 でも、とても楽しい思い出が、あった。

 

「ゴーレムのことを口に出してきたときは、ついに来たかと思ったね。実際、そろそろあたしも限界だったから、いい機会だと思って色々話すことにした」

「私も、杖を送ったりしたな」

「いい杖だよ。……それからあの日、気付いたのさ」

 

 それはきっと、私がばあさまにすがりついた日。

 

「この世界には、いろんなやつがいる。あたしとお前さんは正反対さ。進み続けてきたあたしと、留まり続けてきたお前さん」

「……比べられると、少し恥ずかしい」

「どっちが悪いってこともないだろ。人の性格は環境で決まるもんだ。でもね、こうしてお前さんと一緒に暮らしていると、正反対の生活も悪いもんじゃないと思うんだよ」

 

 ――それはきっと、私自身もそう感じていることだ。

 ばあさまとの生活は、楽しい。

 終わってほしくない、とも思う。

 でも、同時に――

 

「ばあさま、私、すっごくひどいことをこれから言う」

「なんだい?」

「楽しみなんだ、少しだけ……外の世界を見に行くことが」

「あたしにはやく死ねってかい? あはは、そりゃ確かにひどいことだ」

「ごめん……ばあさまには死んでほしくない、どっちも本音だ」

「わかってるさ、わかってる。今更、言葉にしなくたって……」

 

 ばあさまの背は、温かい。

 一歩止まって、私を背負い直して、また歩き出す。

 

「だったら――とことん楽しみな。どんな人生でも別にいいけど、楽しめなきゃそれは生きた価値がないってもんだ」

「悲しいことだって、きっとあるぞ?」

「最後に笑ってりゃそれでいい。悲しいことを否定する必要なんてない。でもね、もしそうやって前に進むなら――適当極まりないままじゃ、行けないよ」

「う、解ってる」

 

 私が適当を選んだのは、前に進みたくなかったから。

 だったら、前に進むなら――

 

「だからね」

 

 私は――

 

 

「生きろ、アシェット」

 

 

 私は今だけは、ただ俯いて、涙を隠して。

 ばあさまの背中に、揺られていた。

 

 

 ◯

 

 

 ――それからばあさまは、少しして亡くなった。

 ベッドの上で、眠るように。

 私は朝起きてきて、ばあさまに声をかけてそれに気付いた。

 

 涙は、できるだけ流さないようにした。

 

 ラグザさんを頼って両親の墓地の隣にお墓を立てる。

 それから、一人になった家で、後のことの準備をした。

 

 ――私が旅立ったのは、それから一年と少し経った頃。

 年齢は十二歳になっていて、すっかり容姿は年相応でありながらも可憐な少女のものになっていた。

 これからのことは、何もわからない。

 でも、ばあさまは言ったんだ。

 生きろって。

 だから――私は少しだけ勇気を振り絞って、前に進むことにする。

 

 ここから、私の物語が始まる。

 だから、これは。

 適当極まりない元おっさんが、適当な生き方を見つける物語だ。




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