歌う使い魔 【凍結】   作:夢物語

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初めまして、異世界
プロローグ


 僕はどれだけ泣いたのだろう。

 この声がかれるまで泣いたことはざらにある。

 視界が真っ赤に染まっていくような感覚は、その勢いの強引に正気に戻される。

 僕は病気だった。

 悲しんだし、苦しんだし…

 それに、何より恐怖した。

 僕は間違いなくもうすぐ死ぬ。

 それは怖くない。

 僕が一番怖いのは、僕が死んだことによってただ一人残された母親に大きな傷跡を残してしまうのではないかということだ。

 

 僕は歌うことが好きだ。

 人を笑顔にできるし、何より楽器ができなくても周りの音と共に常に僕のそばにいる。

 さっき言ったように僕は病気だ。それもいつ死んでもおかしくないぐらいの…

 ただ、運よくこの声は潰れることはなかった。

 そういえばあの時楽しかったな。

 お父さんがいて、お母さんがいて、生まれつきの病に侵されていたとは言え僕もその家族一人だった。

 だけどお父さんは仕事の帰りの時事故で。

 

「あなた!!」

 母さんは僕の手を引きながら病室に飛び込んだ。

 あの時の必死な、不安そうな母の顔を僕は忘れることができない。

「奥さん!ちょっと持ってください。不安なのはわかりますが今あなたの夫に触れないでください。忘れましたか? あなたの夫は今危篤状態です。わたくしたちもできるだけの処置は致しましたが、あと二日が山場です。そんな状態の人に不用意に触れるということは、大変申し上げにくいですが命に係わります」

 お母さんの顔色は蒼白に染まっていった。

「夫は…夫は助かるんですか!?夫は治るんですよね!?そうでしょう?そうでしょう!!?」

「・・・・・・・・・・・・」

 お医者さんは何も答えることができず、終始無言だった。

 その顔に申し訳ないという色を滲ませながら。

 それから僕のお父さんは、医者から二日しか持たないといわれながら三日間生き延びた。

 その日お父さんは目が覚めて… 僕を撫でて……お母さんはずっと泣いていて…………

 

 それからお母さんは女手一つで僕のことを育ててくれた。

 僕が唯一できそうなことと言ったら、お母さんのことを安心させようと、ただ笑いながら歌い続けること位だったんだ。

 

 

「ユ…………優………かりして」

 お母さんの声が聞こえる。

 はっきりしていないけど、僕の近くにお母さんがいる。

「お…母…さん」

「優!しっかりして!! なんで私は何もできないの?なんで私から大切なものがなくなっていくの!? お願いだから…… お願いだから優までいな…くならない…で…よ」

 お母さんは涙交じりに僕に話しかけてくる。

 僕は何もできない。

 もうすぐ死ぬことがわかっているのに、何もできない

 だからせめて…

「……お母さん」

「…どうしたの…… !?」

 僕は笑っていようと思った。

 お母さんが心配しないように、っていうのもあるけど、それ以外に今までありがとうっていう思いのほうが強いと思う。

 僕はうまく笑えているだろうか。

 僕の声は母まで聞こえているだろうか。

 僕は、せめて最後くらいはわがまま言いたかった。

 お母さんが安心できるように最後のわがままを言いたかった。

 だからいわせて。

 

 最後のわがままを――――――――――――――――――

 

「おかあ…さん笑ってくれないと、僕… 安心、できないよ。だから笑って?」

「優…ちゃん?」

「僕ね? とても楽し…かったんだ。 幸せ…だったんだ。もういないけど、お父さんと、お母さんが…僕の、お父さんと、お母さんで…

「ぅん。私も楽しかった。楽しかったからこれからもそんな生活を続けようよ」

 お母さんは涙を流しながら僕にそう返す。

 そう言ってくれるのは嬉しいんだ。

 でも、もう。

「駄目だよ…おかあ…さん僕はもう」

「そ…んな」

「ねぇ、笑って? そして…歌って? そうしたらきっと。 きっと僕に届くから。 そしたらぼくも、きっと歌うから」

 あぁ、もうほとんど視界ないや。

 お母さんの手、温かいなぁ

 

 

 

 僕は今日病院のベッドで死んでしまった。

 でももう未練はないんだ。

 だって、最後にお母さんは僕に笑ってくれたのが見えたんだから。

 

「ありがと」

 

僕はお母さんに最後にそうつぶやいた。

 




いきなり主人公は死んでしまいました。
さて、この主人公はこの後どうなってしまうのやら…
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