マンダレイの弟はゲッターの尖兵 〜ピクシーボブによる逆光源氏計画遂行中〜 作:お粥のぶぶ漬け
雄英高校、職員室。
大型モニターには、過日の入試で圧倒的な記録を残した送崎竜の映像がリピートされていた。
「……不可解だね。送崎竜くん。君たちは彼の個性をどう把握しているんだい?」
根津校長が、紅茶のカップを置かずに問いかける。その視線の先には、特別に見学を許された送崎信乃と土川流子がいた。
「五歳の頃の診断では、精神接続(コネクト)系の因子があるとされていました」
信乃が、プロヒーローとしての真剣な面持ちで答える。
「本来なら私のようなテレパスか、あるいは何らかの情報を引き出す個性になるはずだった。……ですが、あの日、彼は『何か』と繋がってしまったんです」
モニターの中では、人間大のゲッター1へと換装する竜の姿が映っている。
「あれだよ。あの装甲だ」
流子がモニターを指差す。
「あれは機械じゃない。竜の意志と細胞が、どこか遠い場所にある『意思』と同期して作り出している外殻(カラ)なの。校長、竜の個性はもう、人の理解の範疇に収まってないわ」
根津校長は鋭い目で映像を一時停止させた。
「……ゲッター線。彼はそう呼んでいたね。意志を持った進化を司るエネルギー……。彼の肉体は、そのエネルギーをこの世界に引き込むための『門(ゲート)』であり、情報を送るための『端末』に作り替えられている、という解釈でいいのかな?」
校長への告白
「……概ね、その通りだよ。校長」
いつの間にか、職員室の入り口に竜が立っていた。入試後、2日してから2者面談に呼ばれたのだ。
別で呼ばれた姉たちと合流するために現れた彼は、相澤消太の背後を通り抜け、根津校長の正面に立つ。
「竜、まだ話し合いの最中よ」
「いいんだ、信乃姉。自分のことは、俺が説明した方が早い」
竜は根津校長の机に手をついた。その瞬間、彼の掌から微かな緑の光が漏れ、机の表面が小さく震える。
「俺の元の個性は、おそらく他者の精神や情報にアクセスする『接続』だった。だけど、接続先が悪すぎた。俺が繋がったのは、ここじゃない別の次元……果てしない闘争と進化を繰り返す『ゲッター線が生み出した艦隊』の意志だ」
根津校長が目を細める。
「……彼らは、この世界の『個性』という因子に興味を持った、ということかい?」
「ああ。ゲッターにとって、この世界の特異体質は新たな進化先を増やす最高の解析対象だ。だから俺を『端末』に改造して、この世界のデータを集めようとしている。……あの装甲も、ゲッタービームも、彼らが俺を死なせないために、そしてより多くの『情報』を食わせるために与えたもんだよ」
静まり返る職員室。
竜の言葉は、単なる「個性」の域を完全に逸脱していた。
「……では、君自身の意志はどこにあるんだい? 君はゲッターの操り人形になるつもりかい?」
校長の問いに、竜は不敵な、それこそ悪魔のような笑みを浮かべた。
「まさか。俺は、あいつらを逆に利用してやるつもりだ。進化のエネルギーだろうが、宇宙の知識だろうが、全部俺が飲み込んでやる。あいつらに操られるんじゃなくて、俺がゲッターを手玉にとって、最強のヒーローになってやるよ」
その瞳に宿る強靭な光を見て、根津校長は「愉快だね」と短く笑った。
「よろしい。雄英は、君が『端末』から『手綱を握る者』へと進化する場所として機能しよう。……相澤くん、まずは1年、彼をよろしく頼むよ」
背後で様子を伺っていた相澤が、面倒そうに頭を掻いた。
「……ああ。合理的じゃねぇが、見込みはありそうだ」
姉たちは、そんな竜の背中を誇らしげに、しかし危ういものを見るような複雑な表情で見守っていた。