退部届は自分の手で   作:砂廣ジュン

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Aの島へようこそ/シェードジャングル

 

『代わりに書いてやるよ……退部届』

 

 出された課題を期限までに終えられなかったにしても、そこまで言うかと思った。

 立ち去る部長を追いかけた先で売り言葉に買い言葉、バトルになった。

 

『本気になれないから弱い。一生そのまんまでいたら?』

 

 カミツオロチに蹂躙されて倒れた手持ち。その前で項垂れる僕に、学園チャンプは冷たく言い放った。

 

少年「それでメンタル病んで、アローラに傷心旅行しに来たってわけ」

 

ロトム「ジャングルで遭難してるのも負けたせいロト?」ジト

 

カジッチュ「かじゅう……」ジト

 

少年「なんとかなると思ったんだよ! ロトム、カジッチュ、許して! お願い!」

 

ロトム「のたれ死んでも知らないロトよ……本当」

 

 

 

ロトム「で、どうするロト?」

 

少年「誰か通りがかる人を待つさ。なんとかなるよ。カジッチュも居るし」

 

カジッチュ「かじゅかじゅ!」ガンガン

 

少年「痛い痛い! 叩かないで! 行き当たりばったりでごめんて!」

 

ロトム「そんな都合よく通りがかるわけ……」

 

???「アローラ。なにしてるの?」

 

少年「アローラ。誰かが通りがかるのを待っていたんだ。助けてくださいお願いします」ドドゲザ

 

ロトム「相手すら見ずに土下座したロト……」

 

???「落ち着かないから顔をあげてもらって良いかしら?」

 

 

 

 顔を上げると、ムーランドに乗った少女が、少年(と肩に乗ったカジッチュ)を見下ろしていた。

 

少女「初手土下座さん。一体全体どうしたら初手土下座になるの? 性癖?」

 

少年「遭難しちゃって。助けて欲しいんだ。あと、そこまで捻れた性癖はしてない」

 

少女「そーなの? なら良いけど。後ろのロトムさんもアローラ!」

 

ロトム「ぁ、ロト……」

 

少女「あ……引っ込んじゃった」

 

少年「控えめ、というより人見知りなんだ。"おや"に似たのかもね」

 

少女「多分、違うと思うけど……」

 

 

 

少女「いけない。私、『試練』中なの」

 

 島巡りの試練。アローラの風習、11歳になったら挑む通過儀礼。国語の授業で読んだ。

 

 この風習のおかげでアローラのトレーナーは強いと言われている一方、脱落者が道を踏み外す例も多いらしい。

 

 要は学生にとっての受験戦争のようなものなのだろう。

 

少年「そりゃ邪魔してごめん。手伝いから、外への道を教えてもらえないかな」

 

少女「手伝いは良いよ。この子がいるし」

 

ムーランド「ばふっ」

 

少年「確かに、こんな立派な"てもち"がいるなら手伝いは必要なさそうだ」アハハ

 

少女「だよね!!!」ガバッ

 

少年(ムーランドから落ちんばかりの同意……すごい勢いだ……)ボーゼン

 

 

 

少女「……ごほん、あの渓谷を超えてまっすぐ行けば外に続く獣道だよ」

 

渓谷「」バックリ

 

少年「ちょっと待って、人間が超えれるレベルの渓谷じゃないんだけど。人を呑み込みそうな存在感を放ってるんだけど」

 

少女「ポケモンに乗っていけば?」キョトン

 

少年「君のムーランドみたいなポケモン持ってないからさ」

 

少女「創意工夫でどうにかならない?」

 

少年「そこまで言うならご覧ください!」

 

 

 

少年「イカれたメンバーを紹介するZE!」

 

少女「わー」パチパチ

 

少年「相棒のカジッチュ! このサイズに乗ったら虐待! むしろ僕がライドされてる側!」デデン

 

カジッチュ「かーじゅ!」ムネハリ

 

少年「ガイド役のスマホロトム! 控えめすぎてスマホ以上の仕事をしない!」デデン

 

ロトム「ボクにスマホ以上の仕事を求めないでロト」

 

少年「そして"きまぐれ"すぎて今日はボールから出てこないダブラン!」デデン

 

ボール「」カタカタ

 

少年「以上がマイパーティです!」

 

少女「ダブランなら"テレキネシス"できたり……」

 

少年「こいつの集中力の無さをナメるなよ。絶対に途中で何か他のことに気を取られて落とす」

 

ロトム「トレーナーに似たんだロト」

 

少年「うるさいよ!」

 

 

 

少女「じゃあカジッチュに進化してもらうのは? タルップルなら崖くらい降りられるし、アップリューなら飛べるよ」

 

少年「ああ、考えた。だけど、それは無理なんだ」

 

少女「なんで?」

 

少年「進化先を決められないんだよぉぉおおお!」アタマカカエ

 

少女「優柔不断の極みじゃない。きちんと決めてあげなよ」

 

少年「アップリューにしようと最初は思ってたんだよ。でも、カミツオロチの"さいせいりょく"は捨てがたいし、実際めっちゃ強いのは知ってるし!」

 

 カミツオロチの強さは身に染みていた。それこそトラウマになるくらい。

 

少女「私はタルップルが好きだけど。パワフルでかっこいいし」

 

少年「パートナー歴8年で決めれてないからその方針はなしで行こう」

 

少女「カッコ悪い」ボソ

 

少年「おっと…心は硝子だぞ」

 

 

 

少年「その筋骨隆々のムーランドに乗せてもらえれば良いんだけどね……」

 

少女「そんなに言うならしょうがないな〜。ちょっとだけだよ?」デレデレ

 

少年(ムーランドのことになると甘々だな……)

 

少女「乗ってきな!」クイッ

 

ムーランド「ばふっ!」キリッ

 

少年「ありがと……うおっ、どっしり安定感。ケンタロスより乗りやすいね」

 

少女「ケンタロスに乗ったことあるんだ! 良いなぁ!」

 

少年「学園に生息してたからね。アローラでも乗るんじゃないの?」

 

少女「乗るどころか、ケンタロスはアローラのライドポケモンの筆頭だよ!」

 

 

少女「だけど、お父さんが『お前にはまだ早い』って」

 

少年「乗せてもらえないのか。厳しいんだね」

 

少女「まだ育てさせてもらえないの」

 

少年「ん? 話が変わってきたな???」

 

少女「きっと、娘可愛さに育て屋を継がせたくないのよ」プリプリ

 

少年(つっよ……)

 

 思っていたのと話の次元が違った。

 

 

 

少女「うちがライドポケモン専用の育て屋なの。ムーランドは育て屋見習いとして育てた新入りさん」

 

 アローラ地方では秘伝技の使用が禁じられている。

 

 代わりに用いられる移動手段がライドポケモン。専用のポケモンを呼び出して乗るのがアローラ地方のメインストリームだ。

 

 少年は(金欠で)ライドギアを契約できなかったが。

 

少年「もうプロと遜色ないんじゃないかと思うけどね。こうやって他人が乗っても平然としてるし」

 

少女「え〜もう、そこまで褒めてもスピードしか出ないよ?」テレテレ

 

少年「安全運転でお願いします」

 

 

 

少女「付いてくるのは良いけど、『試練』結構危険だよ? もう採るもの採ったから戻るだけだけどさ」

 

ウソッキー「ウッソ!」トビダシ

 

少女「ほら。言った側から」

 

少年「大丈夫。降りかかる"ひのこ"くらい自分で払えるよ。ね、カジッチュ」

 

カジッチュ「かじゅ!」リュウセイグン

 

木「」プシュー

 

地面「」ボコボコ

 

ウソッキー「うっそぉぉおおお!」ニゲサリ

 

少女「野生ポケモンの脅し方が手慣れすぎてて怖い」

 

少年「これでもブルベ学園生だし」ハーブトリダシ

 

カジッチュ「かっじゅ」ハーブウマウマ

 

少女「イッシュ地方は修羅の国だったんだね……」

 

 

 

少年「僕はそこまで強いわけじゃないよ、負けたし。鍛えても負けるなら価値はないんだって」

 

少女「価値?」クビカシゲ

 

少年「うん。本気で勝ちたいわけじゃない。でも、価値がなければ居場所はなくなっちゃうから」

 

少女「イッシュの学校だとそうなの?」

 

少年「だからアローラに来たんだ。僕には少し、居心地が悪かったからね」

 

少女「……じゃあ、走ろう! ムーランド、レッツゴー!」

 

ムーランド「ばふっ!!!」ダッシュ

 

少年「えっ、そっち渓谷と逆……」

 

 

 

 少し走ると地面がゴツゴツとした岩場に変わってきた。ムーランドの疾走を遠目に見守る野生ポケモンの顔ぶれも、ほのおタイプの割合が増えている。

 

少年「君のムーランドの走りが凄いのは分かったけど、どこへ——」

 

少女「あ、見て!」

 

 ジャングルを抜けた先には、天を衝く火山が聳えていた。

 

 荘厳な佇まいに、少年は言葉を失う。

 

 それを知ってか知らずか、少女は楽しげに口を開いた。

 

少女「私はポケモンと風を一緒に感じるのが好き。ムーランドも、ラプラスも、バンバドロも、みんな違って最高だから、私はポケモンと一緒に生きていられる道を選ぶ。好きなものがある道を走ってたら、綺麗な景色に出会ったりするの」

 

少年「————」

 

少女「アローラの風は何かを変えるんだって。だから、今は君にも転機が訪れますようにって走ったの」

 

 ヴェラ火山の山頂に隠れていた太陽が昇ってゆく。

 

少女「だって、走れば風は吹くから!」ニコッ

 

 風が木々を揺らした。

 

 少年少女とその手持ちを、アローラの日差しが照らしはじめていた。

 

 

 

 その後、すぐに"とんぼがえり"の勢いでジャングルの入り口まで戻った。

 

少女「『試練』中だったの忘れてた」テヘペロ

 

少年「ダメでしょそれは」

 

少女「ムーランドの乗り心地を知ってもらう方が大事だし、仕方ないね!」

 

少年「多分『試練』の方が大事」

 

カジッチュ「かじゅ」コクコク

 

少女「そんなことないもん。で、どうどう? ムーランドの感想教えてよ」

 

少年「そうかなぁ……感想としては、後ろで乗ってる分には揺れないし速いしで文句ないよ。カジッチュ的には僕より乗り心地良いんじゃない?」

 

カジッチュ「かじゅ!」コクコク

 

少女「ほうほう……じゃあ前で手綱持って! しばらく方向は同じだから!」

 

少年「えっ」

 

 

 

 少年がムーランドの手綱を握ってからしばらく経ったが、ムーランドは指示通りに走っていた。少年が止まるように合図すると、一拍置いて減速していき止まる。

 

 少年はひらりとムーランドから降りて口を開いた。

 

少年「……こりゃダメだね」

 

少女「なんで? ちゃんと指示した方に走ってたけど」

 

少年「君が同乗者だからさ。僕の行きたい方じゃなくて君の顔色を窺ってる。これじゃあライドポケモンは無理だ。『試練』は突破できるだろうけどね」

 

少女「……厳しいね」

 

少年「ご、ごめん。言い方キツかったかも」

 

少女「覚えとくこと……」ボソボソ

 

 少女はスマホを取り出し、眉間に皺を寄せて何かを入力していく。

 

少年(もしかして、結構不興を買ったかな……?)

 

ロトム(何してるロト!?)ヒソヒソ

 

少年(真剣っぽいから、きちんとアドバイスしようと思って……)ヒソヒソ

 

ロトム(それをされて傷心旅行中の人間が言うことじゃないロト!)ヒソヒソ

 

少年(言えてる)ヒソヒソ

 

ロトム(アホロト!?)ヒソヒソ

 

 

 

 再び少女がムーランドを御し始めてから数分間。会話もなく進むと、褐色緑髪の少女が立っている地点に辿り着いた。

 

???「おっ、おかえり! 材料は揃ったわね。……後ろの方は?」

 

少女「観光希望の遭難者です」

 

少年「見学希望の観光客です」

 

マオ「どーも、あたしは マオ! キャプテンしてまっす!! これからぬしポケモンを呼び出すから後ろで見ててね!」

 

少年「おとなしくしてます」タイイクズワリ

 

少女「材料はこれです」

 

マオ「準備はいい?」

 

少女「はい!」ウナズキ

 

少年(何が始まるんだ?)

 

 

 

マオ「くだいて!」バキッ

 

少女「すりつぶして!」ゴリゴリ

 

マオ「ドロドロにして!」ミキサァ

 

少年(普通に料理が始まった……というか、凄い匂い)

 

少女「……! 来る!」

 

ラランテス「しゃらんしゃらんら!」ガサッ

 

少年「でっか……」

 

少女「いくよ、ムーランド!」ボム

 

ムーランド「ばふっ!」

 

 

 

 『試練』は、ムーランドが"でんじは"して"とっておき"連打で終わった。

 

少女「いえーい」ピスピース

 

少年(攻撃全部避けてた……やっぱりあのムーランド、対戦での強さも持ってるな)

 

マオ「ムーランドの素材のよさ引き出してたね! マオの試練をみごとにこなした、すごいあなたにこれを!」ソシナ

 

少女「ありがとうございます!」ウケトリ

 

少年(Zクリスタルと果物詰め合わせが同じバスケットに入ってる……)

 

マオ「次はライチさんの大試練! じゃ、またね! バイバイ!!」

 

少女「『試練』ありがとうございました!」

 

少年「この料理、このあとどうするの?」ユビサシ

 

少女「あとは野となれ山となれ?」

 

少年「元から野山なんだよここ」

 

 

 

少女「さて、遭難者くん」

 

少年(さっき酷評したことかな?)

 

少女「アローラ観光はこの後どういう予定?」

 

少年「アーカラ島はあらかた回ったから、ウラウラ島、ポニ島に行こうと思ってる。移動費とおこづかいを相談しつつだけどね」

 

少女「それなら、島巡りを一緒に巡ってみない?」

 

少年「え?」

 

少女「色々な道でのライドポケモンの乗り心地を教えて欲しいの。外の人にあれだけきちんとアドバイスをもらえる機会なんてないから」

 

少年「『覚えとくこと』って呟いて……あれって根に持ってたんじゃ」

 

少女「大事なアドバイスだったからメモしてたの。ほら、『覚えとくこと』の項目に書いてあるでしょ?」スマホミセー

 

少年(ほんとだ。五色で装飾までされてる……)

 

少年「勝手に誤解してたみたいだ。ごめん」ペコリ

 

ロトム「僕もごめんロト」ペコリ

 

少女「良いよ良いよ。考え事してると怖い顔になるっぽくてね」アハハ

 

 

 

少女「ポケモンや人に出会うことで人生はおもしろくなる、こういうのも巡り合わせだから、ね?」

 

少年「って言われても、急な話だし……」

 

少女「ポケモンライド相乗りなら交通費も浮くよ」

 

少年「よろしく頼むよ」キリッ

 

ロトム「それが決め手になるの最悪にカッコ悪いロト」

 

少年「しょうがないだろ、貧乏学生なんだから」

 

 笑い合う旅人達の上空は夕日で橙に染まっていた。空の裾には月と夜の藍色が滲み始めている

 

 ブルベ学園生と島巡り挑戦者、不思議なコンビの旅路が始まった。

 

 

 

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