退部届は自分の手で   作:砂廣ジュン

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俺たちと同じ勝負師/15番水道

 

 13番道路。『試練』を終えたあと、二手に分かれてホクラニ天文台に向かうための買い出しをしていた。

 

 待ち合わせのオアシスの前には、アローラダグトリオが2体、あるいは6体と言うべきなのか、ともかく居た。

 

Aダグトリオ1「ひーげげ」

 

Aダグトリオ2「ゲーヒヒ」

 

少年「……髪型、一匹ずつ違うんだ」ボソ

 

女性「ダグトリオのそれは髭ね」

 

少年「あ、失礼。見事だったのでつい。髭は毎日スタイリングしてるんですか?」

 

女性「自然にそのスタイルになるの。三つ子同士でも僅かに体の金属成分が違う影響なんだって。髭は高度なセンサーだから、感じ取れる情報も変わるのかもね」

 

少年「なるほど……」

 

女性「ハイナ砂漠があるからこそ、オアシスも大事にされる。タイプの相性があるから、いろんなポケモンが大事になる。ダグトリオも同じなのかも」

 

少年「……勉強になります」

 

 

少女「お待たせ〜……何を話してたの?」

 

ダブラン「ダブ?」

 

少年「環境についてダグトリオから学んでた」

 

少女「なにそれ」ハテナ

 

少年「というか、ダブランがべったりですまないね。ほら、離れなさい」

 

ダブラン「ダブ、ダブ」イヤイヤ

 

少女「別に良いよ。かわいいもの。15番水道に出るまではぷにぷにさせてよ」ホオズリ

 

少年「君が良いなら良いけどさ……液体は口に入らないようにね。人体に有害だから」

 

少女「はーい」プニプニ

 

ダブラン「ダーブ♪」

 

 

 

 

 13番道路で買ったマラサダを食べながらカプの村を通過し、15番水道に辿り着いた。

 

少年「剣戟の音が聞こえる」モグモグ

 

少女「ポケモン勝負でもしてるのかしら」パクパク

 

 キリキザンに指示する着流しの男と、カブトプス使いのエリートトレーナーらしき緑髪の女性が戦っていた。

 

エリトレ「カブトプス、"かわらわり"キープで切り合え」

 

着流し「キリキザン。"つじぎり"で機を見ろ」

 

 勝負は佳境と言ったところ。互いに消耗してきているようだが、決め手に欠けている様子に見える。

 

エリトレ「さあ、どうする! 勝負師・ギーマ!」

 

少年「えっ、ギーマ!?」ゴクン

 

少女「知ってる人?」ウマウマ

 

少年「一時期イッシュの四天王だった人だ……四天王を辞めてからアローラに来てたのか!」

 

ギーマ「まだ、こんな状況でも勝てるやりかた……あるはずだぜ。キリキザン」

 

キリキザン「じゃきぃ!」

 

 

 

 それから展開された何合にも及ぶ斬り合い、その最中、唐突にエリートトレーナーの女性が沈黙を破った。

 

エリトレ「そこだ」

 

ギーマ「後の先を」

 

 極まったトレーナーとポケモンの間に、技名は必要ない。

 

 そう証明するかのようにカブトプスが一気呵成、速度を上げてキリキザンの懐に潜り込む。

 

 アッパーのように放たれた"かわらわり"を、しかしキリキザンは予期していたかのように紙一重で避けて、両手の刃をハサミのようにしてカブトプスを挟んだ。

 

キリキザン「……ザン!」ハサミギロチン!

 

 いちげき ひっさつ!

 

エリトレ「……見事だ」

 

カブトプス「」バタリ

 

 

 

少年「すごい……!」

 

少女「素晴らしい勝負だったわ!」パチパチ

 

ダブラン「ダブ! ララン!」フヨフヨ

 

ギーマ「おや、小さなギャラリーがいたようだ」

 

少年「あ、すみません。盗み見るつもりではなかったんですが、通りがかったもので」

 

エリトレ「構わない。お前達はこの水道を行くのか?」

 

少年「ええ。花園を通ってホクラニ岳を目指そうと思ってます」

 

ギーマ「ほう。ならば道を塞いだお詫びだ。私のサメハダーで向こう岸までお連れしよう」

 

少年「そんな、悪いです」

 

ギーマ「おせっかいさ。ライドを伝えるという今の私の役割でもある」

 

 

 

エリトレ「こちらもカブトプスに同乗させよう。ライド資格はあるし、サメハダーに3人は荷重オーバーだろう。なによりこちらの方が"すいすい"で速い」

 

ギーマ「なるほど……では、勝負をしようか。それぞれお客を乗せて、先に対岸の砂浜へ着いた方が勝ちだ」

 

エリトレ「お嬢さん達が良ければ、カブトプスを回復してすぐにでも」

 

少女「カブトプス! 古代から生きる海のハンター! 一度乗ってみたかったです!」キラキラ

 

少年「ギーマさんとご一緒できるなら嬉しいですけど……良いんですか?」

 

ギーマ「決まりだ」

 

エリトレ「バトルでは負けたが、こちらは勝たせてもらう」

 

 

 

 カブトプスにエリートトレーナーの女性と少女が、サメハダーにはギーマと少年が乗って準備完了。

 

少年「では、ダブランが浮かせている岩が落ちたらスタートということで」

 

ギーマ「頼むよ」

 

エリトレ「よろしく」

 

ダブラン「ラン!」

 

少年「レディ、ゴー!」

 

 ダブランをボールに回収した瞬間、岩が落下し始める。

 

 少年が慌ててサメハダーに捕まってすぐ、岩が地面とぶつかって甲高い音を奏でた。

 

 その音と同時に、二匹のみずポケモンが飛沫を立てて泳ぎ出す。

 

少年(はっっっや……!)

 

 『水を得たさかなポケモン』という言葉があるが、みずポケモンは陸上と水上では出せる能力が大きく異なる。それこそ、みずポケモンだけが出場するうずまきカップやウォーターパラダイスといった大会が開かれるほど。

 

少女(手足を折りたたんで抵抗を減らしつつ、甲羅をくねらせて泳いでる。上に乗ってる私たちを振り落とさないように配慮してなお、この速度!)

 

 最初の直線のカーブ手前にある岩、それを両者共に"アクアブレイク"で最小限の減速で突破。

 

 レース序盤では、まだ差がつかない。

 

 

 

 15番水道にはサーフ協会の本部が置かれる島がある。

 

 島と岩礁の配置が丁度うねるようなコースになっており、水上レースをするにはもってこいのコースでもあるためだ。

 

 その協会本部島の横のカーブ、そこに先んじて差し掛かったのはカブトプスだった。 

 

ギーマ「……あちらの方が速い、か」

 

少年「このサメハダー、"かそく"でしょう? 追い込みで捲れるのでは?」

 

ギーマ「たしかに、サメハダーは海水を噴射することで最高時速120キロまで出せる。しかし、それは直線の場合だ」

 

少年「このうねったコースじゃ"かそく"してもぶつかってしまう……! 負けちゃうじゃないですか!」

 

ギーマ「あらゆる勝負で自分から降りたことはないぜ。一つ、賭けてみよう」

 

 

 

 カーブを抜けた先は島と岩礁の入り乱れる地帯。

 

 サメハダーは少し前を行くカブトプスとは違う進路を取った。

 

 その先にあるのは島に挟まれた大岩。ウラウラ島への移動でラプラスが砕いたものとは比較にならない大きさだ。

 

少年「こんな大きな岩どうするんです!?」

 

ギーマ「ポケモンとの新しい可能性に賭ける」

 

 ギーマが取り出した虹色の石と、サメハダーのライドギアに嵌め込まれた石が共鳴する。

 

 サメハダーは赤紫色の光殻に包まれた。それは更なる『シンカ』の光。

 

Mサメハダー「Sharrrrrrrk!!!」ガブッ

 

少年「メガ、シンカ……」

 

 "かみくだく"で大岩が砕かれた。メガシンカによって得た頑丈な顎のおかげだろう。

 

 メガサメハダーは少しスピードを落として、細やかなコントロールで小さな島や岩礁を掻い潜っていく。

 

 

 

少年「博打が過ぎませんか!?」

 

ギーマ「少々運が絡むのも、また味なものだぜ」

 

少年「ここまでして勝ちを狙いにいくって……余興みたいな勝負でしょうに」

 

ギーマ「負けてすべてを失い……次に望むものも勝利。それが勝負師というものさ」

 

Mサメハダー「Shark!」

 

少年「……っ!」

 

 少年は知っていた。ギーマが四天王を追い落とされる決め手となった試合を。

 

 彼は僅差の敗北ですべてを失った。それでも勝利を望んでいる。

 

 あのとき負けた自分は、勝負を放り投げて逃げてきたのに。

 

 

 

ギーマ「顔を上げてみろ、少年。どうやら僅差だ」

 

Mサメハダー「Shark! Shark! Shark!」

 

エリトレ「並んできたな。あとは直線勝負、頼むぞカブトプス!」

 

カブトプス「……ッ!」

 

 最後の直線、並びかけてきた二匹は絞り出すように速度を上げていく。

 

 次第に近づいてくるビーチ。先にゴールしたのは——

 

 

ギーマ「……負けた、か」

 

エリトレ「私たちの勝ちだ」

 

 カブトプス側、エリートトレーナーの勝利だった。

 

エリトレ「メガシンカで馬力を取ったか。だが代わりに"かそく"を失って最後の直線で捲れなかった」

 

ギーマ「その通りだ。今のわたしは無様な敗北者……それ以上でも以下でもない」

 

エリトレ「ポケモン勝負と水上レースで一勝一敗だな。決着はいずれ舞台の上で」

 

ギーマ「ああ。さらばだ」

 

 後腐れもなく去っていく二人の勝負師たち。

 

 その後ろ姿を、少年はじっと見つめていた。 

 

少女「あのカブトプス、立派な甲羅の子だと思ったら古代からの生き残りだって……どうしたの?」キョトン

 

少年「いや……勝負師ってああなんだなって」

 

少年(復学したら、あれ目指すことになるのかぁ)

 

 なにかしっくりこない少年であった。

 

 

 

少年「…………」ウーン

 

カジッチュ「かじゅ!」ボム!

 

少年「いでっ」ゴツン

 

少女「綺麗な"ふいうち"だったわね」アハハ

 

少年「いま攻撃技打ってなかったんだけど!?」

 

ロトム「ポケセン前で立ち止まってないで早く入るロト。夕食にはミクルのポケモンフーズを所望するロト」

 

少年「ロトム、あれ高級品だからな。ガラルからの輸入品だからな。そんなホイホイ食べるもんじゃないからな」

 

ダブラン「ダブ! ラン!」ボム!

 

少年「自分も食べたい? 前食べて渋さに音を上げてただろ」

 

少女「そんなに渋い味なの? ちょっと気になるかも」

 

少年「……わかった。今日はミクルパーティだあ!」ヤケクソ

 

少女・ロトム「「わーい!」ロト!」

 

 騒ぎながらポケセンに入っていく一行。彼らを照らす太陽はまだまだ高い。

 

 

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