ウラウラの花園に足を踏み入れた瞬間、その絶叫は聞こえた。
???「ああ、一体どうしたと言うんだい、オドリドリ!」
少年「……無視するわけにもいかないよね」
少女「進路ど真ん中だものね」
少年「……アローラ。どうしたんですか?」
???「アローラ。おいらはマリエシティで花屋を営んでいる者でね。ここには花を採りに来たんだ」
オドリドリ(ふらふら)「りぃど!」
少女「この島で"ふらふらスタイル"なんて珍しい。ウラウラのミツなら"めらめらスタイル"になるはずだけど」
花屋「それが問題でさ。実は、町内ダンス大会に出るにあたって、これまでとは違ったスタイルを開拓しようと思って来たんだ」
少年「オドリドリはミツ次第でフォルムチェンジ、"めざめるダンス"が大きく変化しますからね」
花屋「ポケモンの姿を変える花は揃えた。メレメレ、ポニの固有種、ソノオ産のグラシデアや、レンティルのクリスタフラワーなんて変わり種もツテを頼って取り寄せたんだ」
少年「クリスタフラワーは知らないけど、たぶん後半オドリドリ関係ないですよね」
花屋「だのに! こいつは"ふらふらスタイル"から姿を変えようともしないんだ! 理由を教えてくれよぉオドリドリぃ!」
オドリドリ「りぃ!」プイ
そうして一通り事情を聞いたところで、少女が一つの可能性を口にした。
少女「"ふらふらスタイル"以外に興味が湧かないんじゃない?」
花屋「だけど、踊ってみないことにはわからないじゃないか」
少女「オドリドリだって、慣れ親しんだ姿を捨ててチャレンジするのは怖いわ。それでも一緒にチャレンジしたいなら説得しないといけない。気持ちは行動にしないと伝わらないもの」
花屋「つまり、行動で別のスタイルの魅力をアピールすれば……!」
少女「オドリドリも興味を持つかも!」
少年「で、具体的にどうしようって?」
少女「それはね……」
少女(めらめら)「私たちが"めざめるダンス"を踊る!」
ポケセンの運動場で、三人はめらめらスタイルをモチーフにした衣装でダンスを踊っていた。
花屋(めらめら)「うちのダンスチームの予備衣装、持ってきてて良かった!」
少女(めらめら)「火の粉が舞うくらい情熱的に踊るよ!」
少年(めらめら)「よく、そんなに、踊れるな……!」シドロモドロ
花屋(めらめら)「めらめらスタイルはリズム感が命! おいらの手拍子(パルマ)に合わせて踊って!」クラップクラップ
少年(めらめら)「こ、こうかな?」ステップステップ
花屋(めらめら)「そうそう! めらめらスタイルの魅力引き出せてるよ!」
少女(めらめら)「肝心のオドリドリは?」ワン!ツースリー
オドリドリ「りーりりー」ツーン
花屋「……ダメみたいだ」ヌギッ
少女(ぱちぱち)「元気なぱちぱちスタイル、黄色のチア衣装!」
花屋(ぱちぱち)「よし、溌剌と踊るぞ——ぶへっ、なんで邪魔するんだオドリドリ……」チーン
少年(ぱちぱち)「いや、そりゃおっさんの生足チア衣装なんてオドリドリも見たくな——ぐはっ」バタンキュー
結局、ぱちぱちスタイルの実演は少女のソロパートになった。残念だが当然である。
正直、一番似合っていたと思う少年だった。
少年(ぱちぱち)「というか、本番でもこれを着るつもりなら優勝はキツいと思うんですが」
花屋(ぱちぱち)「仲間にそう却下されたから、男性陣の分はお蔵入りの衣装だったんだ」
少年(ぱちぱち)「ああ良かった。この人にチームメイトがいて」
少女(まいまい)「最後は幽幻な雰囲気のまいまいスタイル、紫の舞妓衣装!」
少年(まいまい)「ゆったりとしてる分、細かい部分が難しい……!」
花屋(まいまい)「異界と繋がり、死者を呼び出す踊りなんだって。カントーに縁があるとも聞くよ」
少女(まいまい)「それで、3スタイルとも踊ってみたけど……」
オドリドリ「……」プイ
花屋(まいまい)「ダメかあ……」
結局、どの踊りもオドリドリの琴線に触れなかったようだ。
通りすがりの変人の琴線には触れたらしいが。
山男「踊り手を見たやまおとこは! 嬉しくて戦いたくなるのです!」
ブーバーをカジッチュの"りゅうせいぐん"で倒すと、一踊りして去っていった。
挙動は変だったけど、踊りは凄かった。
それでもオドリドリはフォルムチェンジを拒絶したままだった。
少年(いや、山男スタイルになられても困るけどさ)
ダンス大会用のプログラムに沿って"めらめら"、"ぱちぱち"、"まいまい"の3スタイルを踊ってみたが、
少年「ここまでやってダメなら、一回原因を考え直した方が早いんじゃないかな?」
少女(まいまい)「一理あるね」
花屋(まいまい)「うーん、とはいえ自分のことだと分からないな。第三者の観点から質問してもらえないか?」
少年「その前に衣装脱げよ」
一旦着替えタイムが入った。少女とおっさんはそれぞれポケセンの更衣室へ向かう。
すでに着替えていた少年は、運動場でオドリドリに向かい合う。
少年「なあ、オドリドリ」
オドリドリ「どり?」
少年「そんなに他のスタイルが嫌…いてぇ! 蹴るな!」
オドリドリ「りぃ!」ゲシゲシ
花屋「待たせたね」
少年「遅いですよ……」ボロッ
少女「うわぁ、傷だらけになってる……」
少年「蹴られた感じ、別のスタイルが嫌ってわけじゃないと思うんですよ
少女「初手土下座といい、やっぱりそういう……」
少年「違う。それで、オドリドリはふらふらスタイルに思い入れがあったりするのかって方を考えるべきかと」
花屋「思いつかないなぁ」
少年「じゃあ、うすもものミツが採れるアーカラ島に思い入れがあるとか」
花屋「確かに、出会ったのはアーカラ島だった。そう、アーカラの花園だ」
少女「アーカラに花園があったの?」
花屋「昔はあったのさ。開発の影響で、今は植え込みレベルしか残っちゃいないが」
少年「アーカラは観光客向けの開発が進んでますよね。ハノハノリゾートとかロイヤルアベニューとか」
花屋「あの頃のうすもも色の花畑! おいらは、あの景色に心を掴まれて花屋を始めたんだ!」
少女「オドリドリともそこで?」
花屋「そうだよ。うすももの花畑を舞台に踊っていたオドリドリ、その優雅さに魅せられて、気づいたらオドリドリに感想を2時間語っていたんだ」
少年「厄介オタクじゃないですか」
花屋「そこがオドリドリとの出会いだった。でも、もう愛想も尽きて来たのかもな。おいらもこんなおっさんになっちゃって……」
少年「……さっき言ってた花って、今は持ってますか?」
花屋「商売道具だから、ある程度の数はパソコン通信に圧縮してあるけど……」
少年「さっきまでのプログラムは、それこそ僕らみたいな素人でもできるような、誰がやっても変わらない踊りでした」
花屋「素人のダンス大会だからなぁ……」
少年「だから、あなたじゃないとできないプログラムにするんです」
花屋「……?」
オドリドリの前で行われる、最終公演。
運動場はロトムが上空から幕を下ろして、簡易的な舞台の形式になっている。
少年(めらめら)「さあ、幕開けだ」
幕が上がると、少年はお辞儀をしてから、舞台裏から鳴る手拍子(パルマ)に合わせてステップを踏み始める。
踊り自体は先ほどと変わらない。練習した甲斐はあって先ほどより動きは良いが、一番大きな差は踊りではない。
違うのは舞台。
オドリドリ「りぃ……」
舞台には、ウラウラの花園を思わせる真紅の花が、花畑のように配置されていた。
少年(めらめら)「はぁ、はぁ、ダブラン、頼む」グデー
"めらめら"の音楽が終わると少年は舞台袖に退場する。
そこから"ぱちぱち"の曲に切り替わる、数拍の空白に、
ダブラン「ララン!」
ダブランが"サイコキネシス"で一気に花を入れ替える。
今度はメレメレの花園を思わせる黄金の花畑が舞台。そこに少女が躍り出る。
少女(ぱちぱち)「いっくよー!」
少女の舞は"めらめら"よりも速度を増したもの、曲調と相まってどんどん盛り上げるプログラムだ。
少女(ぱちぱち)「次だよ!」
ハイテンポな"ぱちぱち"の後は、一転してゆったりとした"まいまい"の曲。
ポニの花をロトムが幕の上から吊るすことでポニの花園を再現している。
花屋(まいまい)「ここまでが予定していたプログラム……!」
"まいまい"の曲が終わった。オドリドリは「こんなものか」と言わんばかりの表情。
少年(めらめら)「だけど、ここで終わっちゃ片手落ちだ」
予定にないはずのリズムがオドリドリの耳に入る。
オドリドリ「どり!?」
流れたのはダンス大会用のプログラムにはない曲。だが、オドリドリはこの曲を知っていた。
舞台は——
花屋「ああ。こんな美しさだったよ。アーカラの花園は」
花屋の記憶から再現した、うすももの舞台。
舞台には"ふらふら"スタイルの音楽が流れるだけで、誰も踊らない。まるで、誰かのために空けているかのように。
オドリドリ(ふらふら)「り、り、りぃぃぃど!」
空白の舞台に耐えきれずに、オドリドリが踊り始める。
オドリドリが踊り始めると、早着替えをした花屋も"ふらふらスタイル"で参入した。
花屋(ふらふら)「ここがおいら達の原点だ。おいらが踊り始めたのも、あの日のダンスに目が覚めるような美しさを感じたからだった。踊ろう! オドリドリ!」
オドリドリ(ふらふら)「りぃ!」
一人と一羽のペアダンスは、この日一番美しかった。
花屋「おいらは、日々を過ごす中で原点を忘れてたんだろうね。あの頃の自分が大事にしたかった花を忘れて、枝葉にばかり気にしてた」
オドリドリ(めらめら)「りぃ!」
少年「オドリドリも、トリに最高の"ふらふらスタイル"を踊るって約束したら納得しましたね」
オドリドリが大事にしたかったのはふらふらスタイルか、それとも花屋との思い出か。それは他人が推し量ることではないだろう。
花屋「これも全部きみ達のおかげだ、ありがとう!」
少女「どういたしまして!」
少年「いえ、そんな大したことは……」
花屋「いいや。困っているおいらに声をかけてくれて、不得手な踊りをゼンリョクで踊って、オドリドリとのすれ違いを解消してくれたのはきみだ。きみにこそ、感謝したい」
少年「————」
花屋「風貌からして、きみは観光客だろ? 地元への土産だ、アローラ人が先祖代々伝えてきたゼンリョクポーズを伝授しよう!」
少年「え、まだ踊るんですか」
花屋「まずはドラゴン! こうやって、肩で組んだ手を前に出し! 顎門を開くようにしてゼンリョクの決めポーズ!」
少年「こ、こうですか?」ガオー!
花屋「もっと、ドラゴンの獰猛さをイメージするんだ!」
少年「一番身近なドラゴンが可愛い寄りなんですけど」
カジッチュ「かじゅ!?」ガビーン
ロトム「諦めるロト……進化すればともかく、カジッチュにかっこいい路線は無理ロト……」ドンマイ
少女「知り合いの手持ちに他のドラゴンはいなかったの?」
少年「あー。部長が使ってたトラウマ級のドラゴンが居たなあ。二匹も」ドンヨリ
花屋「それをイメージするんだ!」
少年「わかりました……こうやって、こうの、ゼンリョク!」ドラゴン!
花屋「そう! 一気に迫力が出た! ZリングとZクリスタルさえあれば、アルティメットなバーンが打てるぐらい!」
それからしばらく、熱のこもったゼンリョクポーズの指南は続いた。