少し前までの夢の常連は、リーグ部の部長だった。
拭えない敗北と言い捨てるように投げかけられた言葉。トラウマだった。
最近は、少し別の景色が増えた。
麓から見上げた火山、エメラルドブルーの海、砂漠前のトレーラーハウスと人々、荘厳な雪山、海に沈んだ街、真紅の花園。
どこも違う風が吹いていた。テラリウムドームの人工的に作った風よりも、ずっと爽やかに感じた。
そして隣を見れば、そこには————
少女「…………きて……起きて!」
少年「はっ」パッチリ
少女「もう着くよ」
少年「寝ちゃってたのか」
少女「あれだけ踊ったらねぇ」
少年「あの花屋、熱血だったなぁ」
少女「良い人だったじゃない。ホクラニ岳ふもとのバス停まで送ってくれて」
少年「確かに。僕らだけじゃ花園で迷いかねなかったよね……」
少女「天然の迷路って怖いわね……何度逸れかけたことか……」ゲンナリ
運転手『ホクラニ天文台、終点です』
少女「着いた! 行こ!」
ナッシーバスを降りると、夕空がとても近く感じた。
少女「ウラウラで2番目に空に近い場所がホクラニ岳だもの。だからペットボトルもべこべこ!」
ロトム「あれ、おかしいロト。電波が繋がらないロト!」
少年「なんか看板に書いてる……『野生ポケモン被害により、電波障害が発生しています』だって」
ロトム「迷惑なロトね……」
少女「仕方ないわよ。この辺りはメテノが降るから」
少年「そういや、ホクラニといえばメテノの生息地か」
少女「ええ。メテノの天文ショーもあるわ。ガイドが説明してくれるんだって。ほら、ポスターもある」
少年「なになに……直近の開催は明夜、予約受付は天文台のチケット売り場か。ロトム、ポスター撮っておいて」
ロトム「オッケーロト!」パシャリ
少女「天文台なら『試練』と同じ場所ね。キャプテンに再開してないか聞いてみるわ」
少年「マシンの故障で中断してたんだっけ。直ってるといいね」
受付「天文ショー二人分ですね。5000円になります」
少年(たっか)シハライ
受付「こちら、無くすと再発行できませんのでご注意ください」
少年「ありがとうございます」ウケトリ
少女「買えた?」トコトコ
少年「うん。そっちは?」
少年が天文ショーのチケットを取っている間、少女はキャプテンのマーマネと『試練』について話していたようだ。
少女「マシンは直ったって。『試練』は明日の朝に予約したわ」
少年「なら早起きしないとね」
少女「うん。疲れたし、今日はもう寝るわ。おやすみ」
少年「おやすみなさい。僕は少しポケモン達と星を見ていくよ」
外で待つこと30分、星空が天に満ち始めていた。
少年「綺麗だ……」
ロトム「テラリウムドームより星が多いロトね……」
少年「……そういえばロトム、前より話さなくなった?」
ロトム「最近他の人といることが多いからロト」
少年「確かにね。学園にいた頃から、他に人がいないときしか話してなかったか」
ロトム「ちょいちょい輪から外れてたから僕が話し相手になってやってたロト」
少年「違いない」アハハ
カジッチュ「かじゅ!」
少年「あ、流れ星。カジッチュ、なにかお願い事した?」
カジッチュ「かっちゅ!」コクリ
少年「そりゃ良い。叶うさ、きっと」
ダブラン「ララン……ダブ!」
少年「お、こっちも流れ星……あれ、なんかこっちに落ちて来てないか?」
流れ星?「」チュドーン
少年「ぎゃぁー! めっちゃ近くに落ちたァ!」
少年から離れること10メートルほど、流れ星の落下地点には、青い宝石のような球体がクレーターを作っていた。
流れ星?「…………」
少年「メテノだ……学園で見たやつより、だいぶ元気がないような」
メテノ「…………」
ロトム「というか、ぴくりとも動かないロト」
少年「……ポケセンに連れてくよ!」ボム
メテノinモンボ「…………」ユラユラユラ……カチッ!
ジョーイ「…………」
少年「メテノはどうなりました!?」
ジョーイ「残念ながら、非常に悪い状態です」フルフル
少年「そんな……」
ジョーイ「メテノはオゾン層に生息してくるポケモンで、周囲の環境から繊細なコアを守るために"リミットシールド"と呼ばれる外殻を持っているポケモンです。このような外側の殻がない状態では、じきに消滅してしまいます」
少年「じゃあ、殻を作ってやれば……!」
ジョーイ「殻はメテノの特殊な分泌物で構成されています。人間が作成することはできないですし、メテノは外殻を再構築するまで生きていられないでしょう。モンスターボールの中、あるいはレンティル地方の特殊なエネルギー下なら生存できますが、ここまで弱っているとボールの生体維持機能では難しいかと……」
少年「そんなに悪いんですか!?」
ジョーイ「はい。モンスターボール内に留めておいたとしても、この衰弱度合いだと今日明日にでも……望むなら、センターで引き取ります」
少年「それは、終末治療ってことですよね」
ジョーイ「…………」コクリ
少年「……見捨てられるわけ、ないだろ。目の前のポケモンを!」ギリッ
少年「さっき言ってた特殊なエネルギーというと、どんなエネルギーですか?」
ジョーイ「レンティル地方特有のエネルギー下で、コア状態のメテノが生存したという論文を読んだことがあります。なんでもエネルギーを蓄える花があるとか……」
少年「レンティル……聞き覚えがあるような。その花の名前は?」
ジョーイ「クリスタフラワーです」
その単語を聞いた瞬間、少年は昨日聞いた言葉を想起した。
花屋『レンティルのクリスタフラワーなんて変わり種もツテを頼って取り寄せたんだ』
少年「クリスタフラワー! あの花屋が持ってた!」
ジョーイ「心当たりがあるんですか?」
少年「マリエシティにクリスタフラワーを持っている知人が!」
ジョーイ「……! わかりました。今マリエのポケセンに連絡を————電波障害!」
少年「僕が行きます! へいロトム!」
ロトム「バス停の写真を参照……ナッシーバスは8分後が終バスロト!」
ジョーイ「いま紹介状を書きます! 持っていってください!」
少年「マリエシティまで最速で向かう!」
ナッシーバスに乗った少年は、手持ちを全員出して強行軍の準備を始めた。
少年「アローラ生物学を思い出せ。確か10番道路に生息するポケモンで夜に活動するのはゴロンダ、アローララッタ、アリアドス、オニドリル、エアームドだ。人間が通ったら襲われる可能性が高い。ロトム、おうえんポンを最大まで使用」
ロトム「了解ロト!」
少年「カジッチュ、しろいハーブを持たせはするけど、"りゅうせいぐん"は最終手段だ。指示するまでは打たないように。"りゅうせいぐん"以外の判断は任せるから、遠距離は"テラバースト"で対処、近距離になったら"ふいうち"と"とびつく"で適宜応戦するように」
カジッチュ「かじゅ!」
少年「今回はダブランが主力になる。あくポケモンには"シグナルビーム"、オニドリルとアリアドスには"サイコキネシス"、エアームドには"かみなり"をするけど、呼ぶまでは待つように。命中安定のためにこうかくレンズを使って」
ダブラン「ララン!」
少年「ロトムは索敵担当。敵が来たら即座に教えてくれ。あと、僕が"とおせんぼう"でもされて動けなくなった場合はボールと紹介状を持っていくこと。その場合カジッチュはロトムの護衛につける」
ロトム「分かったロト……電波繋がったロト!」
少年「花屋に連絡を。先にクリスタフラワーを持ってポケセンに向かってもらう!」
ロトム「オッケーロト!」
運転手『ホクラニ岳ふもと。終点です』
少年「行くぞ!」バッ
ロトム「ルートは覚えてるロト!?」
少年「暗記した!」
少年が走り出すと、真っ先に襲いかかって来たのはアリアドスだった。
ロトム「9時方向、アリアドスロト!」
少年「さすが"ふみん"か、ダブラン!」
ダブラン「ララン!」サイキネ
アリアドス「しゅるっ!?」
アリアドスは逃げていくものの、それを皮切りにポケモン達が殺到しはじめる。
ロトム「上空にオニドリルとエアームドロト!」
少年「もう刺激するかは考えなくて良い! 周囲に無差別"りゅうせいぐん"を一発かませ!」
カジッチュ「かぁぁ……じゅ!」リュウセイグン!
鳥ポケ「!?」ギャーギャー!
ロトム「2時方向にゴロンダロト!」
少年「くそ、タフなのが来た。ダブラン!」
ダブラン「ラン!」ビーム!
ゴロンダ「ゴロッ……!」
ロトム「まだ倒れてないロト!」
少年「怯んでる間に距離を離す!」
そうして走っていると、マリエシティの街並みが見えて来た。
首だけで振り返ると野生ポケモンが荒波のように追って来ているのが見える。足止めしないと、街まで入って来そうだ。
少年はマリエシティの入り口まで着いた瞬間に体ごと振り返った。カジッチュを両手で固定して、反動を肩代わりする体勢を取り、
少年「カジッチュ! はじける"りゅうせいぐん"、水平射撃!」
カジッチュ「かじゅ!」
カジッチュが"りゅうせいぐん"をゴロンダに向けて放った。宇宙から隕石を降らせるタイプではなく、エネルギー弾を水平に。
ゴロンダ「ゴロッ!?」
ゴロンダが咄嗟にエネルギー弾を受け止める。しかし、次の瞬間には弾が破裂して飛び散った。ガードもなしに弾けたエネルギーを受けたゴロンダはノックアウト、他のポケモン達もダメージを喰らったか、被害の大きさに慄いたか、逃げていく。
少年「あとはポケセンまで走る! ダブラン戻れ!」
カジッチュは頭に乗せて空からの不意打ち対策で残しつつ、足の遅いダブランをボールに戻して全力疾走。
あと少しがとてつもなく遠く感じる。
ポケセンの前にジョーイと花屋、オドリドリが立っているのが確認できた。
ジョーイ「事情は聞きました! 準備はできてます!」
少年「メテノを、頼みます……!
ジョーイに紹介状とボールを手渡すと、ポケセンの奥へと走っていく。
それを見届けた少年は、その場に倒れ込んだ。
少年「……ん、んぁ?」
花屋「お、目が覚めたか」
オドリドリ(ぱちぱち)「りぃど!」
少年「メテノは!?」ガバッ
花屋「それなら——」
ジョーイ「メテノはもう大丈夫ですよ」ウィーン
4つのボールを持ったジョーイが病室に入って来た。うち一つのボールの上部からは、メテノがクリスタフラワーに寄り添っているのが見える。
ジョーイ「初めての試みでしたが、クリスタフラワーのエネルギーでメテノのコアが安定化したようです。クリスタフラワーを持たせてボールの中で安静にしていれば数日で良くなりますよ」
少年「良かった……」ホッ
ジョーイ「医学論文にすれば、今後のメテノの生存率は上がるでしょうね。ぜひ論文掲載のサインをトレーナーにいただきたいのですが……」ウズウズ
少年「あ、僕トレーナーじゃないです」
ジョーイ「え?」アゼン
少年「保護するためにボールに入れただけなので」
花屋「野生のメテノを助けにそこまでボロボロになって?」
少年が自分の体を見ると生傷だらけだった。アリアドスの対処を優先して、ラッタや鳥ポケモンの攻撃はある程度許容したせいだろう。
少年「……たしかに変ですよね。でも、助けなきゃって思ってつい……」
前の自分はこんなことをしただろうか、と考え込んでいると、花屋が肩を組んできた。
花屋「おいらはきみのそういうところを気に入ったんだよ!」バンバン
少年「いだだだだ! 痛い、痛いですって!」
ジョーイ「ええと、じゃあメテノは……」
少年「元気になったらホクラニ岳に返してやってください」
メテノ「しゃらん!」ボム
ジョーイ「あっ、まだ出ちゃダメです! 治りが遅くなりますよ!」
ジョーイの言葉を無視して、メテノは何かに抗議するかのように回転している。
少年「何が言いたいんだ?」
花屋「人もポケモンも恩義を忘れないもんだよ。こいつはきっと、きみの力になりたいんだ。おいら達と同じようにね」
オドリドリ「りぃど!」
少年「一緒に来たいのかい?」
メテノ「しゃらんしゃらん!」コクコク
少年「……じゃあ、改めて。メテノ、ゲットだぜ!」
メテノ「しゃらららん!」
ジョーイ「トレーナーさん! サインお願いします!」
少年「メテノが良ければ」
メテノ「しゃらん!」イイヨ
ジョーイ「ありがとう。じゃあ次は、トレーナーの方の検査ですね」
少年「あ、やっぱり?」サラサラ
検査した結果、抗生剤だけもらって退院した。
昼過ぎまで寝ていたせいか、外に出ると太陽はすでに傾き始めていた。
花屋「見た目はボロボロなのに、退院させられちゃったな」
少年「毒と打撃と噛みつきは避けましたから。軽度の引っ掻きなら怪我も重くなりにくいですし」
花屋「今の若い子はクレバーにワイルドだなぁ」
少年「というか、付き添ってもらってすみませんね。お仕事は大丈夫で?」
花屋「恩人の一大事だからね、妻に代わってもらったよ。それに、きみのおかげで半分は仕事になったし」
少年「というと?」
花屋「ホクラニ天文台のポケセンにクリスタフラワーを卸すことになったんだ。メテノのコアを保護するために仕入れたいみたい」
少年「そうなんですか」ホエー
花屋「このあと第一弾を運びに行くけど、山頂まで送るかい?」
少年「お願いします。連れにも言わず来ちゃったので」
ロトム「連絡はしておいたロト」
少年「助かる」
合流したら、少女にめっちゃ怒られた
少女「意識不明だってロトムから聞いて……とっても心配したんだから! 旅仲間なんだから、困ったことあったら声かけてよ!」ポコポコ
少年「ごめんて」
マーマネの『試練』はバンバドロ無双で突破したらしい。
少年「ほら、天文ショーの時間だ。高いガイド代払ったんだから行かないともったいないよ」
少女「……うん」グスッ
満点の星空の下、天文ショーが始まった。
少年(バトル以外で見る流星群は新鮮で、感動でちょっと泣いちゃったな。思ったより心配されてたのが嬉しかったからじゃないんだ。けっして)