ホクラニ岳を降りるルートは10番道路側の一つだけではない。
バンバドロで荒れた山肌の道なき道を踏破すると、城壁のような建造物が見えはじめる。
少年「バンバドロ、こんな山道でも安定して進めるのすごいな」
少女「ここから先は注意点があるわ」
少年「危険なポケモンがいるとか?」
少女「ポケモンじゃなくて人間よ。この先に治安が悪い夜の街、ポータウンがあるの。しまキングはこの先の交番に住んでるから、そこまで気をつけてね」
治安が悪いというのは確かなのだろう。壁面近くにたむろしているバッドガイたちの姿が見える。
バッドガイ「あん?」
少年(あっやば、目があった)
少女(言ったのにぃ!)
バッドガイ「何見てんだよ」
バッドガール「ちょっと、よしなよ」
バッドガイは連れの言葉を聞かずに、肩を怒らせてバンバドロの方に寄ってきた。
バッドガイ「こいつらの目が気に入らねぇんだよ。この世に価値があると思い込んでいやがるキラキラした目だ」
バッドガイの隣にサマヨールがスッと姿を現す。彼のポケモンなのだろう、少年が知っている個体よりも目つきが澱んでいる。
バッドガイ「この世に価値があるものなんてねぇのによ。島巡りもカプも何もかもが嘘っぱちだ。金、権力、暴力。そうさ、力だけが全てを決めンだよ」
ポケットに手を突っ込んだバッドガイ。サマヨール以上に、バッドガイが放つプレッシャーで動くことができない。
バッドガイ「アローラの風が何かを変えるってんなら、全部ぶっ壊してくれりゃ良いのになァ!?」
サマヨールが指示もなく動き出し、"シャドーボール"を放つ。
カジッチュが"りゅうせいぐん"で迎撃しようとした瞬間、灰色の影が間に入って受け止めた。
???「やめときな」
バッドガイ「ちっ。しまキング、クチナシかよ」
クチナシ「おじさん、静かに暮らしたいんだがな」
シャドボを受け止めたのはアローラ固有のペルシアン。
バッドガイ「ここは引く。それで良いか?」
クチナシ「良いよ」
バッドガイはバッドガールの方へと戻っていく。
クチナシが手で示す方に無言で歩いていって、交番前に着いた。
少年少女「「助けてもらってありがとうございました!!!」」
クチナシ「このへんはあんちゃんみたいな綺麗な目した若いのがくる場所じゃないよ。こういう場所にくるなら、覚悟が必要だぜ?」
少女「すみません……わたしたち、『大試練』を受けに来て……」
クチナシ「ありゃ。じゃあ、二人まとめて相手しようか」
少年「あ、でも僕は島巡り挑戦者じゃ……」
少女「わかりました!」
クチナシ「これより行われし島巡りの儀式大試練。善き心に悪しき心あり、悪しき心に善き心あり。互いに混ざり合い、さらなる進化を遂げるべし」
少女「行くよ、ムーランド!」
ムーランド「ばふっ!」
少年「良いのかな……まあ、良いか。ダブラン!」
ダブラン「だぶ!」
クチナシ「いくぜ。ワルビアル、ドンカラス」
ワルビアル「きしゃぁぁあああ!」
ドンカラス「ガァァアア!」
少年(初手はワルビアルとドンカラス、"いかく"が発動してないから特性は"じしんかじょう"か————)ゾワッ
少年「ワルビアルを動かしちゃダメだ! "シグナルビーム"!」
少女「分かった! ムーランド、"じゃれつく"!」
少年が叫んだ直後、まるで手筈通りかのようにドンカラスが味方のワルビアルに"つじぎり"を仕掛ける。
急所に 当たった!
ワルビアルの 攻撃が 最大まで上がった!
クチナシ「あんちゃん、やるね」
ムーランドの"じゃれつく"を耐えながら、額に井形を浮かべたワルビアルが地面を強く殴りつけて大地を揺らす。
本物の地震と勘違いしかねないほどの大きな衝撃を、直近で受けてしまったムーランドが瀕死になる。
しかしその猛威を、ダブランは気合いの襷で耐えた。
ダブラン「ダブ……ラァン!」ビーム!
ワルビアル「き……しゃあ……」バタン
"シグナルビーム"で計3回目の集中砲火にはワルビアルも耐えきれなかったらしい。
少年「これでもダブルバトルの教育を受けて来たんでね!」ドヤガオ
少女(私一人だったらやられてた……!)
クチナシはワルビアルの代わりにヤミラミを、少女はムーランドの代わりにラプラスを繰り出した。
クチナシ「ドンカラスは"でんこうせっか"、ヤミラミは"いばる"」
ヤミラミ「けししし!」キラン
ドンカラス「カァァアア!」バサッ
ドンカラスがダブランに迫り、ヤミラミの目が怪しく光る。
少年「ダブラン!」
ダブラン「ダブ!」
次の瞬間、ダブランに放たれたはずのドンカラスの"でんこうせっか"はラプラスが受け止めていた。
少女「"れいとうビーム"!」
至近距離からでは回避することもできず、ドンカラスが凍りついて墜ちる。
そしてラプラスに向けられた"いばる"はダブランを混乱させていた。
少年「ナイス、"サイドチェンジ"」
ラプラスと自身の位置を入れ替えることで、瀕死直前のダブランに変化技を、防御に自身のあるラプラスに先制技を割り当てたのだ。
クチナシ「あんちゃん、強いね」
少年「戦術を通させないようにして、相方のサポートしてるだけですよ」ボム
カジッチュ「かじゅ!」
クチナシ「こっちも、ゼンリョクの悪を見せてやらなきゃな」ボム
Aペルシアン「なおん」
クチナシ「さて。おまえさんらは、このまま強くなって…… そのあとどうする?」
少女「私は、ライドポケモンを育てるって決めてます。みんなが気持ちよく走れるようにするために。自分が走ってみないといけないから——」
少年「……走ってるときの風の感触を知ったんです。この先どんな風が吹くかわからない。でも進まなきゃ変わらない。だから——」
少年少女「「まずはここを走り抜けます!」」
クチナシ「そうか。なら、チャンピオンになるための経験っての、やるよ」Zポーズ!
Aペルシアン「なおぉぉおおん!」ブラックホールイクリプス!
少年「……あれはなんとかする。二匹、仕留めてくれ」
少女「分かった!」
少年「全てを飲み込む引力の黒球、なら内側から破裂させる! カジッチュ!」
カジッチュ「かじゅ!」
少年「はじける"りゅうせいぐん"!」
本来は上空で破裂するエネルギー弾、その方向と破裂するタイミングをコントロールすることで——
カジッチュ「かじゅ!」
少年「突破ァ!」
Zワザ・ブラックホールイクリプスは内側から破裂した。
少女「私たちが鍛え続けてきた技で勝負するよ!」
ラプラス「らぁ!」
少女「"なみのり"!」
ラプラス「らぁぷ、らぁ!」ザパーン
少女は幼い頃からラプラスと共に波乗りをして来た。
いわば"なみのり"レベル100。
ラプラスが生み出したのは、通常のポケモンが使う"なみのり"よりも圧倒的に大きな波だった。
クチナシ「まいったなあ。ここまでとはね」
それはヤミラミとペルシアンを容易く飲み込み、瀕死へと追い込んだ。
カジッチュも波は被ったが、効果はかなりいまひとつ。
つまり——
少女「完全!」イエーイ
少年「勝利!」イエーイ
カジッチュ「かーじゅ♪」
ラプラス「らぁ♪」
クチナシ「アクZだ。あくタイプのZパワーはこうして、こうすればいいからよ」
少年「あの、僕じつは島巡り挑戦者じゃないんですけども……」
クチナシ「大試練を突破したのは間違いねぇさ。持っていきな」
少年「じゃあ遠慮なく」
少女「輝く石もZリングもない人には、持ってても綺麗なだけのクリスタルだけどね」
少年「かがやくいしってこれ?」ヒョイ
クチナシ「これだな。どこで手に入れた?」
少年「知り合いの石好きに貰いまして」
少女「い、いつのまに……」
クチナシ「Zリングに加工しといてやるからよ。しばらくしたら受け取りに来な」
少年「わかりました!」
ひょんなところで手に入れたものが、実はものすごい力を秘めていたりするかもしれない。
そんなことを学んだ少年であった。