退部届は自分の手で   作:砂廣ジュン

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アローラに別れの接吻を/ポニの大峡谷

 

 少年少女は、ウラウラ島からポニ島への海路をマンタインに乗って移動していた。

 

少年「ねえ。さっきの係員の人、ポニ付近の海域が最難関って言ってたんだけど」

 

少女「マンタインと呼吸を合わせて、波と風を感じれば簡単だよ?」スターミートルネード

 

少年「無理だって! 初のマンタインサーフで最難関コースとか無茶だって!」

 

マンタイン「まぁ?」

 

少年「あっ、違うんです、空飛びたい訳じゃ——あああああ!」スクリューハンテール

 

少女「そうそう、そんな感じ!」アシレーヌフリップ

 

少年「怖いから! サメハダーきてるからぁぁあああ!」コイキングスペシャル

 

 

 

——ポニのビーチ

 

少年「なんで島移動のたびに死ぬ思いしてるんだ……」

 

少女「上手かったわよ?」

 

少年「そこは問題じゃ……」

 

ロトム「ジョーイさんから電話ロト!」

 

ジョーイ『こんにちは。メテノの様子はどうですか?』

 

少年「元気になって来てますね。いま出します」ボム

 

メテノ「しゃららん!」

 

ジョーイ『…………はい! "リミットシールド"も再構築されていますし、もう大丈夫でしょう』

 

少年「良かったぁ……」

 

ジョーイ『バトルなども解禁していいですよ。ただし、なにか変調があったら躊躇わずに電話してくださいね。では、失礼します』

 

少年「はい。失礼します」プツッ

 

少女「良かったねぇ〜、メテノ!」

 

メテノ「しゃららん!」

 

少女「ここからはハードな道が増えるから、手伝ってくれると助かるわ」

 

メテノ「しゃらん!」

 

少年「最後の島だもんね……最後かぁ」

 

少年(もっと、旅していたいな)

 

 

 

 などと思う余裕があったのも、ポニの大峡谷に入るまでだった。

 

少年「撒けたか……?」

 

ロトム「気配はなくなったロト」

 

少女「も〜〜! なんでこんな過酷なの、ポニの大峡谷!」グワー

 

少年「さっきの群狼ルガルガンは死人が出てるって……」ゲンナリ

 

少女「川を進もうとしたらラプラスがバスラオに群がられたし……」

 

少年「凍らせながらじゃないとまともに進めなかったよね」

 

少女「果ては、休憩に腰掛けた岩がギガイアスだったしぃ!」

 

少年「それは気づいてよ……」

 

 

 

少年「それで、現在地は?」

 

ロトム「確認するロト」

 

少女「その必要はないっぽい。あれ見て」

 

 少女が指差した先には、『試練』の地であることを示すゲートが置かれていた。

 

少年「じゃあ、ポケモンを回復させたら……」

 

少女「最後の『試練』に挑むよ!」

 

 

 

少年「あっさり奥まで来れちゃったけど……」

 

少女「Zクリスタルの台座があるわ。あそこからクリスタルの欠片を貰えば『試練』は終わりだけど……」

 

ジャラランガ「ボウオーン!!」ドシーン

 

少年「そうも簡単に行かないね。まずは弱体化だ、ダブラン、"でんじは"」

 

少女「ムーランド! "じゃれつく"!」

 

ダブラン「ダブ!」ビビビ

 

ムーランド「ボフ!」

 

ジャラランガ「ウォン……ウオーン!!」ジャラジャラ

 

 

 

少年「"じゃれつく"が効いてない……まさかロゼルのみ? 野生の知恵で持ってたのか!?」

 

少女「それよりも"ソウルビート"された! 急いで倒すよ!」

 

少年「分かってる! カジッチュ、自律行動!」ボム

 

カジッチュ「かじゅ!」リュウセイグン!

 

少女「フェアリー4倍弱点ならいける! ムーランド!」ボム

 

ムーランド「ぼふっ!」ヤルキマンマン

 

ジャラランガ「ウオーン!!」ドレパン

 

ムーランド「」チーン

 

少年「ダメだ! "ドレインパンチ"でHPタンクにされる! 後方から"れいとうビーム"で削って!」

 

少女「でも、ダブランじゃ打つ手が……」

 

少年「対策は、いま覚えさせた! いけるね!?」

 

ダブラン「ダブ!」1,2ノポカン

 

 

 

ジャラランガ「ウオーン!!」ドラクロ

 

少年「"じこあんじ"!」

 

ダブラン「ダブオーン!」

 

 "じこあんじ"は相手の能力変化をコピーする。ダブランがコピーしたのはジャラランガの、オーラと"ソウルビート"で上がりに上がった能力変化。ジャラランガの"ドラゴンクロー"すらもなんとか受け止めることができている。

 

少年「ダブラン受け続けて適宜サイキネで削って! メテノ、ダメ押しの"アクロバット"!」ボム

 

メテノ「しゃらららん!」アクロバット!

 

少女「今よ、ラプラス、"れいとうビーム"!」

 

ラプラス「らぁ!」ビーム

 

カジッチュ「かじゅ!!!」リュウセイグン

 

少年「これが! 結束の力だ!」

 

ジャラランガ「」チーン

 

 

 

少女「……結束の力っていうよりも、袋叩きじゃない?」

 

少年「勝てば良いんだよ、勝てば。ほら、試練達成しな?」

 

少女「……ドラゴンZ、ゲットよ!」

 

ラプラス「らぁ!」

 

少女「はい、きみの分」ポーイ

 

少年「投げるなよ。というか、貰って良いの?」キャッチ

 

少女「しまキングのお墨付きだからセーフ!」

 

少年「……確かに、クチナシさんから貰ったけどさ」シマイ

 

 

 

少女「すっかり暗くなっちゃったわね。奥の祭壇ならポケモン少ないらしいし、そこをキャンプ地にしましょう」

 

少年「文字が彫り込んでる……■ちりんの祭壇……だめだ、風化して読めない」

 

 キャンプの設営をして、夕食の時間になった。

 

 今日の夕食はレトルトのガラル風カレーだった。

 

少年「それで、『試練』終わったけど明日からどうする?」モグモグ

 

少女「大大試練はリーグ工事の影響で一時中止中らしいし、一回実家に戻るわ」ウマウマ

 

少年「そうしたら、これで旅は終わり?」

 

少女「帰るまでが旅だけどね。到達地点としてはここが最後のつもり」

 

少年「……それは、いやだ」

 

 

 

 

 

 

 

 少年は立ち上がって、心に浮かんだ言葉をそのまま叫ぶ。

 

少年「君との旅は楽しかった! 走れば風が吹くことも、風の感触が違うことも、君との旅で知ったんだ! だから、もっと君と旅をしたい!」

 

少年「アローラ以外の地方にも、ポケモンに乗る文化はある。アルミア地方ではドードーやムクホーク、フワライドに乗るらしいし、パルデアならモトトカゲに乗るし、リージョンのケンタロスも居る。他の地方も一緒に、ポケモンに乗ったりして、一緒にわいわい旅をしないか!?」

 

少女「……誘ってくれて嬉しいけれど、そのつもりはないわ。この旅の経験を活かして、早くポケモンを育てたいから」

 

少年「……どうしても、だよね」

 

少女「……うん」

 

少年「………くっ!」ダッシュ

 

少女「あっ、ちょっと!」

 

 

 

 何も考えずに逃げて来てしまったが、幸いモンスターボールは腰についていた。

 

少年「はぁ……なんで僕はいつもこうなんだろう」

 

ロトム「何してるロト……いや、必要だったロトか」

 

ダブラン「ダブ! ……ララン……」ボム

 

少年「ダブランも寂しいよな。一番彼女に懐いていたし。いっそ君だけでも連れて行ってもらうか?」

 

ダブラン「ララン!」フルフル

 

少年「気を遣わなくても良いよ。僕はね、久しぶりに楽しかったんだ。いつまでも続くと思ってた。それでも終わりは来るんだね。結局、なにも上手くいかないんだ」

 

メテノ「しゃらん!」ボム

 

少年「メテノ、どうした……痛い痛い! ぶつからないで! なんで! ロトム!」

 

ロトム「通訳しなくても分かれロト。メテノはお前が助けたロト。上手く行かないとか言ったら怒るに決まってるロト」

 

メテノ「しゃらん!」

 

ロトム「正直、お前はアローラに来てから見違えるほどに変わったロト。昔なら自分が身を引いていた場面だったロト。それでも主張した。なら、覚悟を決めるロト」

 

カジッチュ「かじゅ!」ボム

 

少年「カジッチュも、か。そうだよね。ずっと一緒にいたもんね」

 

 少年は立ち上がった。月が彼らを照らしている。

 

少年「頼りないトレーナーだけど、付いて来てくれるかい?」

 

カジッチュ「かじゅ!」

ダブラン「ララン!」

メテノ「しゃらん!」

ロトム「仕方ないロト!」

 

少年「……分かった。アローラの日々の総決算だ」

 

 

 

 

 翌朝。月が隠れ始めた頃。少年はキャンプ地に戻って来た。

 

少女「あの……昨日の話だけど……やっぱり、ごめん」

 

少年「わかってる。きみがライドポケモン関連で譲るとも思わない。だけど僕は今回ばかりは譲る気がない。だから、勝負で白黒つけよう」

 

少女「……分かった。私にも、誘った責任があるから。真剣勝負で決着をつけましょう」

 

少年「昨日の『試練』を最後にしない。僕が次の『試練』だ。誘った君にとっての『試練』になるんだ」

 

 祭壇での試練が始まった

 

 

 

 

 ひりつく感覚。バッドガイとの邂逅が想起される。もっとも、その雰囲気を作り出しているのは少年自身なのだが。

 

少年「覚悟なら決めた。人生の酸いも甘いも噛み分けてやる」ギュッ

 

少年「アップリュー! 君に決めた!」

 

アップリュー「りゅー!」バサバサ

 

 旅の間ずっと、リュックの中には酸っぱい林檎、あまーい林檎、蜜入り林檎の三つが入っていた。

 どの進化先にでも進化できたのだ。

 

 今回、ゼンリョクで勝負するためカジッチュを進化させる必要があった。

 

 だがタルップルでは火力不足で、二段階進化のカミツオロチにするだけの時間はない。

 

 だから決断した。これまでの人生で、一番欲しい勝利を得るために。

 

少女「ラプラス! "れいとうビーム"!」ボム

 

 その選択は正しい。少年は初手で相棒を出す。その弱点をつくのは当たり前だ。

 

 少年の過去の努力さえなければ。

 

少年「太陽と月のように輝いていこう! テラスタル!」

 

鋼アップリュー「りゅぅううう!!!」

 

少女「……! タイプが変わった!?」

 

少年「"Gのちから"!」

 

 天から落ちて来たリンゴがラプラスの脳天に直撃、そのまま瀕死まで追い込んだ。

 

少女「……強いね。やっぱり!」

 

少年「今日はね。本気でゼンリョクで勝ちに行くよ」

 

 

 

 

少女「バンバドロ!」ボム

 

バンバドロ「ぶるるぶる!」

 

少年「戻れアップリュー。いけ、メテノ!」

 

メテノ「しゃらららん!」

 

少女「っ! 透かされた!」

 

 交代際に放たれた"10まんばりき"は、しかしメテノにふわりと避けられる。

 

少年「そのまま"メテオビーム"!」

 

少女「なら、もう一度"10まんばりき"!」

 

 メテノは上空まで浮かび上がり、チャージをしている。当たるはずがない。そう思った少年の予想を、少女とバンバドロは文字通り上回る。

 

少女「この子、立体機動が得意なの」

 

 バンバドロは大地を強く、それこそひびが入るくらいの踏み込みで上空に跳び上がる。

 

 そしてメテノまで届いた蹄が、直接馬力と体重を叩き込んだ。

 

少年「ば、馬鹿げてる……」

 

少女「山道でもいけるよう鍛えてるからね」

 

 そのまま落下して来たバンバドロも反動のダメージを受けているようだが、試合は大きく少女に勢いづいた。

 

 

 

 

少年「頼むぜ、ダブラン!」

 

ダブラン「ダブ……ララン!」

 

少女「"10まんばりき"連打!」

 

少年「縛りつけろ! "じゅうりょく"!」

 

 重力は体重に応じて強くなる。どれだけ強靭に鍛えていても、重力場の影響を振り切れるはずがない、そう考えた一手だった。

 

 だが、それが裏目に出る。

 

少女「ライドする以上、重さ程度に縛り付けられるわけないでしょう!?」

 

バンバドロ「ぶるるる!」

 

 展開された重力場をバンバドロはものともせずに"10まんばりき"を叩き込み続ける。

 

少年「うっそだろ!?」

 

ダブラン「」バタンキュー

 

 ダブランの重力は奥の手だった。普通は回避率が下がるくらいには動きづらくなるはずなのだ。

 

 その間に搦手を打つはずだったのだが、バンバドロの動きはそれを完全に無視していた。

 

 

 

少年「くっ。アップリュー!」

 

鋼アップリュー「りゅー!」

 

少女「まだまだぁ!」

 

少年「いや、終わりだ」

 

 バンバドロの頭を先ほどよりも正確に、強くリンゴが貫いた。

 

バンバドロ「」ピヨピヨ

 

少年「"Gのちから"は重力下で強化される! さあ、互いに最後の一体だ!」

 

 

 

 ムーランドとアップリューが向かい合う。

 

少年「初めて会った時、そのムーランドを連れていたのを覚えている」

 

少女「カジッチュの"りゅうせいぐん"でウソッキーを脅していたわよね」

 

少年「決着をつけよう! "ドラゴンダイブ"!」

 

少女「そうね。"ばかぢから"!」

 

 最後の一撃が交差した。

 

アップリュー「」キュー

 

ムーランド「ばふ!」

 

少年「……僕の、負けだ」

 

少女「速さには自信があるの。ムーランドの方が速かった」

 

少年「そっか……そっかぁ! これが本気の負けか……!」

 

 本気で悔しくて、そして少し清々しい。

 

 風が吹いた。人生で一番、冷たくて爽快な風だった。

 

 

少年「僕はウラウラ島から空港で学園に帰るよ」

 

少女「私はメレメレの家に帰るわ」

 

少年「そっか。じゃあ、ここでお別れが良いね」

 

少女「そうね。これ以上一緒にいたら、そっちの方が辛いもの。また会えたら良いね」ニコッ

 

少年「なあ……どうして、君はそんな笑顔でいられるんだい?」ボロボロ

 

少女「大事な仲間を見送る時は笑顔でいたいから。受け売りだけどね」

 

少年「……確かにね。じゃあ、僕から言える言葉は一つだ」グスッ

 

少女「…………」グスッ

 

少年「『試練』達成、おめでとう!」ニコッ

 

 月は隠れ、太陽が空と、泣きながらも笑顔の少年少女を照らしていた。

 

 これだけの太陽なら、地面に落ちた雫もすぐ乾いてしまうのだろう。

 

 それすらも少し、悲しいなと思ってしまう少年であった。

 

 

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