退部届は自分の手で   作:砂廣ジュン

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二人のリンゴ・キッド/ブルーベリー学園

 

 ——ブルーベリー学園・リーグ部

 

少年「よ。久しぶり」

 

友人「お、久しぶり。アローラは楽しめたか?」

 

少年「最高の旅だったよ。ところで、スグリ部長は?」

 

友人「あっち。でも、元部長な。今はブルベリーグから除名されてるから」ユビサシ

 

少年「ありがと」テクテク

 

友人(あいつ、あんなしっかりした雰囲気だったかな……)

 

 少年がリーグ部を訪れた理由は一つ。

 

少年「久しぶり、スグリくん」

 

スグリ「えっ……わっ。久しぶり……」

 

 かつてのトラウマとの再会であった。

 

 

 少年にとってのスグリのイメージは当時のままで固定されていたが、今ではまるで別人のような柔らかい態度だった。

 

 柔らかい、というより卑屈が近いかもしれないが。

 

スグリ「おれ、あの時のこと謝りたくて……」

 

少年「…………うん」

 

スグリ「あの時は、勝つことしか考えてなかった。周りを見てなくて色んな人に迷惑かけた」

 

少年「……うん」

 

スグリ「だから……ごめん。俺が悪かった」

 

少年「うん。許すよ。そのうえで、僕も謝りたかったんだ」

 

スグリ「え?」

 

少年「あの時は僕も悪かった。自分は本気でやってるのに、本気にならないやつがいたら嫌だよね。ごめん」フカブカ

 

スグリ「そんな……」

 

少年「だから、今度こそ僕とポケモン勝負してほしい。本気、ゼンリョクで」

 

スグリ「え、でも……」

 

少年「これは僕にとっての『試練』だから。頼むよ」

 

 疑問符を浮かべて困惑するスグリの姿は、当時の部室では見られなかったものだった。

 

 それが少しおかしくて、少年はつい微笑んでしまった。

 

 

 ——エントランスロビー

 

 

モトチャンピオンノシアイダッテヨー

 

エントランスロビーデヤルンダッテー

 

 

少年「わざわざ移動させてごめんね。どうしても風が吹く場所で戦りたかったからさ」

 

スグリ「それはいいけど、俺なんかと勝負しても……」

 

少年「『なんか』って言うなよ。あの時、僕に勝ったのはスグリくんだろ?」

 

スグリ「ご、ごめん……」

 

少年「だから、納得したいんだ。僕が旅でどれだけ変わったのか。スグリくんがどれだけ強いのかを」

 

スグリ「……ルールは?」

 

少年「4:4のダブル。ごめんね、まだ試合用のポケモン5体育てられてないんだ」

 

スグリ「気にしないでいいべ。どんな形でも、バトルは好きだから」

 

 

 

スグリ「勝負だ。ニョロトノ、カイリュー!」

 

ニョロトノ「にょろ〜!」パンパン

 

カイリュー「ぴーりゅう!」

 

 ニョロトノが場に出たことで、晴天だったエントランスロビーに雨が降り始める。

 

 それは学園チャンピオン・スグリの基本戦術だった。

 

少年「さあ、『試練』の場だ! アップリュー、ロトム!」

 

アップリュー「りゅー!」

 

Fロトム「ロトーーー!」

 

スグリ「ロトム……新顔か」

 

少年(正直、ロトムがスマホ以外のことをやってくれるかは賭けだったけど……!)

 

ロトム『今のお前なら、まあ仕方ないと呑み込んでやるロト。ミクルのフーズで手を打つロト』

 

少年(ありがとう、ロトム)

 

少年「勝つよ! ゼンリョクで!」

 

 

 

スグリ(ロトムをフロストで育てたってことはカイリュー対策、十中八九"ふぶき"を打ってくる。こっちは"マルチスケイル"は残したいからガオガエンに交代するしかない。アップリューはあの"りゅうせいぐん"一芸のカジッチュが進化した? ニョロトノが"Gのちから"で撃破されるのが怖いけど、どっちが速い? いや、ガオガエンで"いかく"を入れればどっちでも潰しは効く。"れいとうビーム"で倒せればよし、交代されても削れればよし。こっちがカイリューで攻撃する可能性を考慮したならむしろ交代のほうがあり得る択だべ)

 

スグリ「ニョロトノは"れいとうビーム"! カイリュー!」

 

少年「アップリュー!」

 

スグリ・少年「「戻れ!」」

 

スグリ「いけ、ガオガエン!」

 

少年「受けろ、ランクルス!」

 

 少年はアップリューをランクルスへと、スグリはカイリューをガオガエンに交代した。

 

 少年の場にはフロストロトムとランクルスが、スグリの場にはニョロトノとガオガエンが立つ。

 

少年「ロトム、"かみなり"!」

 

ロトム「ロトーーー!」ピシャーン

 

スグリ「なっ、雨を逆利用された!?」

 

ニョロトノ「にょろー!?」バリバリ

 

 ニョロトノは弱点タイプの大技を喰らったはずだが倒れない。そのままランクルスに"れいとうビーム"を命中させるのは、異常に近い耐久性と言えるだろう。

 

少年「学園チャンピオンの有名税だよ。にしても硬い。ソクノか」

 

 

 

スグリ(読まれた……いや、読むことを読まれてた。俺が相手ならそのくらいするべ。あの頃と比べものにならない読みと火力。本気なんだ。気を引き締めないと)

 

スグリ(こっちの手持ちはニョロトノ、ガオガエン、カイリュー、カミツオロチ。4:4の都合で構築が歪んでて氷技が重いべ。裏の二匹が氷4倍である以上、こっちが交代するタイミングで"ふぶき"を打たれたくない。カミツオロチだけテラスタイプが元と違う格闘だから、隙を見計らって交代、テラスタルすればいい)

 

スグリ(いや、これだけ構築に刺さってるんだからロトムは早めに倒しておかないと負けに直結するか。ガオガエンの"ねこだまし"で止めつつ、一致技で削る!)

 

スグリ「ロトムを止めて、狙え!」

 

少年「そうするよね。交代だ。出てこいアップリュー! ランクルスは"じゅうりょく"!」

 

スグリ「じゅうりょく!?」

 

 アップリューにロトムを狙った技が集中する。"ねこだまし"はスリップダメージに近く、雨で強化された"ウェザーボール"もタイプ相性でかなりいまひとつ。

 

スグリ(じゅうりょくか。微妙にマイナーだけど、命中を安定させる用途で使う技。アップリューが"はりきり"で、ランクルスのサブウェポンが命中不安だから? あと、飛行タイプが接地したり、特定の技に影響したはず……"Gのちから"の威力が上がる! そのコンボ狙いってことは、構築の軸であるニョロトノを落としにくる!)

 

スグリ(ニョロトノは交代して良い。カミツオロチを出して1/4で軽減して、次のターンにテラスタルする。ランクルスも怖いから、ガオガエンはそっちだ)

 

スグリ「行くべカミツオロチ! ガオガエンはランクルスを!」

 

少年「ランクルスは一回休んで。メテノ、受けて」

 

メテノ「しゃらん!」

 

 メテノが"DDラリアット"を受け止める。まだ"リミットシールド"は壊れないようで、余裕の表情。

 

 

 

少年「アップリュー、いくよ。僕たちの旅の集大成を見せてやろう」

 

アップリュー「あっぷりゅ!」

 

 カセキおじさんにもらった石をクチナシに加工してもらって、帰路で受け取ったZリングに、少女にもらったドラゴンZをセットする。

 

 そして想起するは、花屋の熱血ゼンリョクポーズ講習。

 

花屋『こうやって、肩で組んだ手を前に出し! 顎門を開くようにして————』

 

少年「これが! 僕たちの! ゼンリョクだぁぁあああ!!!」Zポーズ!

 

アップリュー「あぷぷぷぷ、りゅぅぅううう!!!」アルティメットドラゴンバーン

 

 アップリューの全身から放出された紫のオーラが空高く舞い上がる。

 

 "りゅうせいぐん"を制御していたアップリューにとって、この程度のオーラをコントロールすることなど容易い。

 

 紫の奔流が交代して出て来たカミツオロチを飲み込み、かつてのトラウマを一撃で吹き飛ばした。

 

カミツオロチ「」プスプス

 

スグリ「カミツオロチぃ!」

 

少年(良い調子だ!)

 

 

 

スグリ「切り返していくべ、カイリュー!」ボム

 

スグリ(アップリューの持ち物は割れた。ならカイリューの"ワイドブレイカー"で仕留めつつ、メテノの攻撃を下げる。ガオガエンは下げて"いかく"を撒けるように。ニョロトノはメテノの弱点をつけるからちょうど良い)

 

少年「アップリュー、"ドラゴンダイブ"! メテノは"いわなだれ"」

 

スグリ「ニョロトノ、出番だ! カイリューは"ワイドブレイカー"!」

 

アップリュー「あっぷ……りゅー!」ドラゴンダイブ!

 

カイリュー「ぴ……ぴ〜!」マルチスケイル

 

アップリュー「あぴゅ!?」チーン

 

 アップリューの"ドラゴンダイブ"は"マルチスケイル"で受け止められ、返しのワイドブレイカーで撃沈。

 

メテノ「しゃらん!」イワナダレ

 

カイリュー「りゅ、りゅう…………」チーン

 

 ついでで攻撃を下げられたメテノの"いわなだれ"は、それでも赤ゲージだったカイリューを押し込んで倒した。

 

 流石にニョロトノへのダメージは少なかったが。

 

 

 

スグリ「ニョロトノはウェザーボール! ガオガエン、詰めだ!」ボム

 

ガオガエン「ぉぉおおお!」

 

少年("いかく"でメテノの攻撃が計2段階下降なのは嬉しくない)

 

少年「戻れメテノ、頼むよ、ロトム!」

 

Fロトム「ロト……!?」ビシャア!

 

 メテノがいた位置に登場したロトムがウェザーボールを喰らう。それなりに効いた様子。

 

少年「ランクルスは"かみなり"……!」

 

ランクルス「」チーン

 

ガオガエン「がぉ」キラーン

 

 ランクルスは素早さの差で、ガオガエン相手になにもできずに瀕死になっていた。

 

少年(一気にまずい流れだ)

 

 

 

少年「まだだ! 能力補正はリセット、ガオガエンの"いかく"はもうない! メテノ!」ボム

 

メテノ「しゃらんしゃらん!」

 

少年「ロトムはニョロトノを!」

 

ニョロトノ「にょーろ!」パンパン

 

ロトム「ロトロト!」カミナリ!

 

ニョロトノ「」プスプス

 

少年「メテノは"いわなだれ"!」

 

メテノ「しゃらん!」ガラガラ

 

スグリ「ガオガエン、耐えてメテノにやりかえせ!」

 

ガオガエン「がぉ!」ニイ

 

 

 

少年(メテノは耐久力を伸ばすように育てた。相手はガオガエン一匹、DDラリアットを二回耐えてコアにフォルムチェンジ、もう一回"いわなだれ"で勝てる!)

 

ガオガエン「がぉおおお!」DDラリアット

 

メテノ「しゃ……らん」ポト

 

少年「メテノ! なんて倒れて……」ハッ

 

少年「ニョロトノの拍手、あれが"てだすけ"だったのか!」

 

スグリ「そうだ。だから、俺の勝ちだ。ガオガエン、"フレアドライブ"」

 

少年「ロトムぅぅううう! "かみなり"で倒せぇぇえええ!」

 

ロトム「ロォトォォオオオ!!!」バリバリッシュ!

 

ガオガエン「がぉ……おおお!」フレアドライブ!

 

ロトム「ロ……と…………」ゴトン

 

 相手の場にはガオガエンが仁王立ちしている。

 

 一方で、少年の場にはポケモンがいない。もちろん手持ちも残っていない。

 

 つまり——

 

少年「負け、か」

 

 あの時は、ここで目の前が真っ暗になった。

 

 でも、今は違う。

 

 少年「良い風だ」

 

 いつの間にか雨は止んで、太陽が姿を見せていた。

 

 ゼンリョクを出した結果の敗北、その味は やはり悔しさの中に少しだけ爽やかさが混じっていた。

 

 

 

少年「『どれだけ強くなるかはどれだけ勝ちたいと願うか』。昔タロさんに言われた言葉、身に染みたよ。僕は君みたいな勝負師にはなれない」

 

スグリ「そんなことない!」

 

少年「無理だよ」

 

 旅の途中で出会った元四天王ギーマと、緑髪のエリートトレーナー。あの二人は生粋の勝負師だった。

 

 少年は、あのように敗北で全てを失ってなお勝利を求めることはできないと思っている。

 

 少年の戦いにはいつも目的が先にあったから。目的のために勝とうとすることしかできない。勝利のために勝負してもこのように負けてしまう。

 

少年「でも、どこまで行けるかはポケモンをどれだけ信じているかだと思う」

 

 目的を見出して、それがポケモンと一緒の時。自分たちはどこまでも強くなれるだろう。

 

 同じ目的に向かって走ると決めた時、ダブランはランクルスに進化してくれたのだから。

 

 

 

少年「僕が進みたい道は君とは違うって確認できた。だから、これを渡したい」

 

スグリ「これは……」

 

少年「退部届だよ。ちゃんと自分で書いたやつ」アハハ

 

スグリ「わざわざ退部しなくても……」

 

少年「僕はね、ポケモンレンジャーになりたいんだ」

 

スグリ「————」

 

少年「休学中、アローラ地方を一周した。甘い思い出も、酸い思い出もあったけど、とても楽しかったんだ。綺麗な景色は、今でも思い返すと胸が暖かくなる」

 

 麓から見上げた火山、エメラルドブルーの海、砂漠前のトレーラーハウスと人々、荘厳な雪山、海に沈んだ街、真紅の花園。

 

 寝転んで二人で見上げた星空。雨の降る城壁の街、野生味あふれる大峡谷、伝統ある祭壇。

 

 ラプラスに乗って騒いだこと、マラサダを食べながらラナキナマウンテンを見上げたこと、大峡谷でわあわあ言いながら逃げ回ったこと。

 

 目を瞑ればすべて思い出せる。

 

少年「それでも、困ってる人もポケモンもいたんだ。困っているならなんとかしてやりたいと思ったんだよ」

 

 飛んでいたカブト、すれ違っていた花屋とオドリドリ、衰弱死しかけていたメテノ、そしてポータウンのバッドガイ。

 

 きっと世界は綺麗なだけじゃない。いつかバッドガイの言う世界に直面することになるのだろう。

 

 それでも、世界の綺麗な部分は知ってる。

 

少年「風には手触りがあると、声には景色が宿ると、風が吹けばなにかが変わると、あの旅が教えてくれたから。壁にぶつかるまではゼンリョクで走ってみようと思う。まずはレンジャー試験対策かな」

 

スグリ「よく、この短い間にそこまで決断したべな。俺はぜんぜん前進してないのに……」

 

少年「前進して、変わりながら決めたんだ。だって、走れば風は吹くから!」ニカッ

 

 スグリは一瞬唖然とした表情になって、それから破顔一笑した。 

 

 それがなんだか面白くて、少年も笑い出してしまった。

 

 笑いながら健闘を祈って握手する二人に、過日の因縁なんてもうなかった。 

 

 

 

 ————————

 

 

 

 あの旅からどれだけの時間たっただろう。

 

 スマホロトムの壁紙には、今でもスーパーメガやす跡地前の階段で撮った写真が設定されている。

 

青年「メテノ、逃げ遅れがいないか空から探してくれ。居たら避難誘導。判断はある程度任せる」

 

メテノ「しゃらん!」フヨー

 

 今じゃ僕もレンジャーの端くれだ。まだ職業体験レベルだけど、あの日決めた目標には近づいて来た。

 

青年「ランクルスは避難に邪魔になりそうな瓦礫とかをどけてって。逃げ遅れが居た場合、この道が主な避難経路になる!」

 

ランクルス「ラン!」ミヨンミヨン

 

青年「ケンタロス! 水辺の方に被害者がいないか見回ってくれ! 見つけたら連絡して!」

 

ケンタロスW種「もぉぉおおお!」

 

 このケンタロスは、かつての旅仲間がライドポケモンとして育成した個体だ。

 

 ある日いきなりボールが送られて来た時は驚いたけど。

 

女『わたしの代からの新しい試みとして、ウォーター種のケンタロスを保護団体から引き取って育てたんだ。信頼のおけるトレーナーに感想を聞かせて欲しいの』

 

青年「あいつは昔からああだ。まあ、断らない僕も僕だけど」

 

ロトム「へい。先輩から連絡ロト」

 

先輩『新入りくん! こっちでパニクった野生の群れが暴れてる。うちのキュウコンが抑えてるけど、手が足りない。送信した地点に来て!』

 

青年「ラジャー。いくよ、アップリュー!」

 

アップリュー「りゅー!」バサバサ

 

 

 

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