『汝、暗君を愛せよ』の二次創作です。



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親愛にして偉大なる、母なるロワ河が如く清廉で、シュトロワの闇夜を照らす月にして、底の見えぬ清浄なる泉と智利国が生み出したる葡萄酒の守護者、ラケディア並びにサンテネリの栄光と可憐なるアナリゼ正妃様とアルカンの創造主たる同志本条作家局書記長閣下の『メアリ戦記』執筆の可能性ありとの報に接し、急遽『下野した暗君』を投稿す。

晴天明朗なれど気温低し。


兵士を導く自由の女神

私メアリ・アンヌ・エン・ルロワ中将の脇で、私が率いている軍に数人いる『将軍』といっていい男の1人である准将の階級をもつ男が3つの旗が翻る旗竿を掲げて私達の前に整列している兵士達に短いこれからの行動説明と演説をした後に付け足すように叫んだ。

「ガール・サンテネリは地上最強ぉぉぉ!!!!」

青い軍服に身を包んだ勇敢この上ない兵士達がそれに唱和する。

「「「「地上最強ぉぉぉ!!」」」

熱狂する兵士達を、なんと表現していいかわからない複雑な表情を浮かべてみている3つの旗が翻る旗竿をもった『実際にこの軍を率いている将軍』が私に向かって敬礼も無しにいう。

「それでは征って参ります」

そして彼は彼の隣にいる立派な口髭を生やした連隊本部付喇叭兵に無言で頷くと、喇叭兵は優雅といえる動作で信号喇叭を口に持っていき突撃を意味する音階を吹き始める。

その音と同時に私達を銃砲弾から守っている道路を兼ねている堤防の陰から3つの旗・・・上からサンテネリ共和国旗、国家親衛軍近衛連隊旗、そしてルロワ家の旗が翻っている旗竿を持った彼が飛び出していく。

連隊本部付喇叭兵も喇叭を吹きながら続いて飛び出していき、彼らに続くはサンテネリ軍最精鋭であるガール・サンテネリ・・・国家親衛軍近衛連隊の兵達。

すぐに彼らを支援するための銃声が鳴り始め、少し遅れて砲声も轟き始める。

目指すは川に架けられたたった1本のさほど大きくない橋。

対岸からエストビルグ軍の数え切れない銃砲が向けられているそのたった1本の橋。

この川を越えられなければ私達に明日はない。

 

 

1742年6月の大雨をきっかけとしたサンテネリ王国の崩壊とサンテネリ共和国の誕生。

そして弟であるグロワス14世陛下を復位させ『サンテネリ王国復古』のために翌年に始まってしまった『祖国戦争』。

開戦初頭は東部諸州とガイユール公領を犯された我が国であるが現在は五分と五分という状況まで持ち直すことがでている。

そして私が率いていることになっているこの軍は、『実際にこの軍を率いている将軍』の素晴らしい作戦と、各部隊を率いている将軍達や銃を取り、大砲を押す兵士達の血と汗と努力により、とある街にエストビルグ軍の大戦力を封じ込めることに成功した。

封じているエストビルグ軍の食料は少なく、街の住人共々飢餓に苦しんでおり、降伏は目前であるといえた。

しかしその様な状況をエストビルグが放置するはずもなく、私達の包囲を解囲すべき大規模な軍を発した。

私達にとっては危機的な状況といえた。

私達の軍に増援として合流できる友軍は近隣になく、私達が単独で包囲しているエストビルグ軍とその包囲を解囲すべく接近しつつあるエストビルグ軍の両方に対処しなければいけない。

軍才というものが全くない私ですらこのまま無為に包囲を続けるのが拙いということだけはわかる。

このままここに無為無策に包囲したまま留まれば逆に私達がエストビルグ軍に包囲される。

そして遙か大昔のレム半島でおきてしまった『包囲殲滅』を受け、愚か者の歴史書に新しい名を増やすこととなる。

このメアリ・アンヌ・エン・ルロワの名が。

しかし具体的にどうすればいいのかが全くわからない。

私はただ、この司令部として接収している一軒の農家のさほど広くない部屋にあるテーブルの上に広げられている地図とその上に刺されている敵味方を表す色つきのピンを黙っている見ているだけだ。

将軍や参謀達の議論を聞き、時折手首に巻かれている時計に触れたりしながら。

「メアリ中将閣下。作戦が纏まりました」

『実際にこの軍を率いている将軍』が決定した作戦内容を私に説明してしていく。

私は黙ってそれを聞き、最後にこう言う。

「わかりました。私メアリ・アンヌ・エン・ルロワ中将の責にてただ今説明のあった作戦を承認します。そして我が責を持って作戦の実施を命令します」

私はお飾りの作戦承認専業将軍なので。

 

将軍達と参謀達がまとめた作戦は単純なものといえる。

包囲を維持したまま一部戦力を分離し、その戦力もって接近しつつあるエストビルグ解囲軍の後方に回り込んで連絡線を断ち、私達に豊富な戦力があると誤認させた上で二重包囲すると見せかけ、エストビルグ解囲軍を撤退させるというものだった。

しかし口にするのは簡単だが、実際にそれをおこなうのは大変なる努力を要する。

まず状況から推測し、未だに解囲軍が接近しつつあることを知らないであろう包囲しているエストビルク軍に察知されないように派遣する部隊を分離しなければならない。

ここで気がつかれてしまえば分離により弱体化した包囲軍は突破されてしまう。

しかし完全に気がつかれないままでもいけない。

彼らを包囲したまま私達が解囲軍を撃破したことを理解させないといけない。

このまま包囲していたも降伏はするだろうが、早期降伏はしないだろうし、彼らがさらなる籠城を決意してしまえば、解囲軍を壊滅させるだけの戦力がなく、後退させるのが精一杯といえる私達に対して再度の解囲軍をエストビルグが発するかもしれない。

なので包囲されている彼らにも砲声が聞こえるような距離で解囲軍とある程度の戦闘をおこない、解囲軍を撃破したようにみせかけなければならない。

そうしなければ彼らは絶望しない。

解囲軍の散在を知らなければ知らなければ解囲軍を後退させても絶望はしないが、存在を知っていれば絶望する。

絶望すれば降伏する。

そして包囲されている救援すべき軍がいなければ、新たなる解囲軍は編制されない。

 

実際の行動として解囲軍とエストビルグ本国との連絡線を断つためには素早い機動が必要となるが、機動力に優れる騎兵戦力が不足している私達は歩兵を主戦力としておこなわなければならない。

『実際にこの軍を率いている将軍』が私にそう説明する。

その上で具体的な軍の移動経路等を地図を示して説明する。

正直なところ私にはさっぱりわからないから何も言わない。

黙って聞く。

ただ私ですらこの作戦が綱渡りだということがわかるし、説明を受けた行動も綱渡りだった。

なにせ私達はたった1本の橋を渡りエストビルグ解囲軍の後方に回り込む機動をしないといけない。

そして当然エストビルグ側もそれを予想しており、その橋を押さえようとするだろう。

しかし繰り返しだがそれを口に為ることはしない。

お飾りとのいえ、私達の軍に仮設橋を作る資材や時間、ある程度の部隊を対岸に渡らせることが出来るボートがないのを知っているからだ。

私はお飾り。

ただの作戦承認専業将軍。

私の責任で作戦を承認し、私の名前で命令書にサインするだけだ。

しかしそんな私の心中に気がついているのであろう『実際にこの軍を率いている将軍』は不敵に笑うとこう言った。

「状況は敵ではなく、『メアリ・アンヌ』があなたが作るのものです」

 

 

作戦は開始された。

私は包囲軍にいても役に立つことはないので別働隊と共に行動する。

そして唯一の渡河点である橋に辿り着いたが、既に対岸にはエストビルグ軍が少数ではあったが陣取っていた。

私達司令部が到着するまでの間、先着していた部隊が2度ほど橋を奪取すべく突撃を敢行したが、2度とも撃退されたそうだ。

道路を兼ねている堤防に身を隠しつつ、望遠鏡で対岸の様子を探る。

といっても私には的の様子を見てもなにをどうするべきかはさっぱりわからない。

しかし率いている兵達に『将軍であるふり』だけはしないといけない。

なにせ私はこの軍の最高指揮官なのだから。

例え作戦承認専業将軍だとしても。

敵の様子を観測したふりをしてから最前線となっている場所に行く。

兵達が川の方を向いて整列している。

ただ堤防のおかげで攻撃には晒されていない。

敵も銃砲弾が不足しているためか、堤防で私達の姿が見えないためか全く撃ってこない。

不気味な静けさが戦場を支配していた。

後ろから私達が近づいてきたためか整列している兵達は私達に気がついていなかった。

そして気づいていないかったおかげで、兵達の生の声が聞こえた。

「へ!あんな橋渡るのなんか怖くねーよ。ただ先頭はちょっと勘弁して欲しいかな・・・」

 

 

私は、3つの旗を括り付けた旗竿を持って先頭で突撃していった『実際にこの軍を率いている将軍』は間違いなく戦死すると思った。

彼と喇叭手に続いて兵士達が雄叫びを上げながら堤防から飛び出していき、橋に殺到する。

私はただそれを敬礼をもって見送る。

双方が放つ銃声と砲声が飛び交い銃声と砲声が轟く。

白い砲煙が戦場を覆い、状況をわかりにくいものとする。

そして私達の軍は激戦の上、橋の奪取の成功した。

てっきり戦死すると思っていた『実際にこの軍を率いている将軍』は無傷で、対岸でも指揮を執り続け、さらに対岸に渡らせた増援部隊も指揮下に組み込み、こちらも増援を送ってきたエストビルグ軍と一進一退の戦闘を繰り返した後、エストビルグ増援部隊も撃破し、エストビルグ解囲軍の後方を脅かす位置まで進出することに成功した。

私達の動きをみたエストビルグ解囲軍は、他にもサンテネリ軍の有力部隊がいると誤判断し、包囲されることを恐れて撤退。

解囲軍の接近とその撤退を、砲声と銃声を主楽器とする戦場音楽で理解した包囲されていたエストビルグ軍は降伏。

私達は窮地を脱したのだった。

間違いなく彼は英雄だ。

シュトロワに凱旋したのならば彼は英雄として称えられるだろう。

これからは彼が本物の将軍として兵達を率いていくのだろう。

 

 

 

 

・・・そう考えていた私もいました。

ここ『光の宮殿』にいる私の正面には1枚の絵画がイーゼルに置かれている。

私の右横には笑いをこらえている彼がいる。

その反対側である左横にはロベルが申し訳なさそうな顔をしている。

そして私の正面にある絵画の題名は『兵士を導く自由の女神』。

サンテネリ共和国旗を掲げている私が兵達の先頭にたって銃弾が飛び交う橋の上にいる様子が描かれている絵だ。

その絵画の左右には真面目な顔をした行政委員長ジュール・レスバンとその右腕であるブルノー・ボスカルがいる。

私の作戦承認専業将軍からの退役はまだまだのようだ。

ただ許されるのならば、この絵画ごとジュール・レスバンとブルノー・ボスカルを大砲で吹き飛ばしたかった。




本条先生が『メアリ戦記』を執筆される前にと、さっと書いたそうです。

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