あー、憂鬱だ。どうやらコンクエスタ隊は実任務に就くらしい。やだ。怖い。やめてください。
「レビィ准尉。ティルピッツ少佐は今回の連絡に同行しないのか?」
「はい。お嬢様がいても場を掻き乱すだけなので」
すごい辛辣だ。確かにティルピッツ少佐はピカピカの新人であり、士官教育もろくすっぽ受けてないだろうから、実務能力は低そうである。
もう1人の将校であるニカ・メカニカ技術少尉も、飛び級で昇級した天才メカニックというだけで、マトモな士官教育を受けているわけではない。
「コンクエスタ隊でマトモな将校は俺だけか??」
「准士官でしたら、私も居ます」
「准尉がいてくれて助かったよ。君がいなかったらと思うとゾッとする」
実任務に関して、これから行く場所で連絡官と詳しいブリーフィングを行うようだ。
「君は、ティルピッツ少佐の無謀な挑戦を止めようとは思わなかったのか? こんな未充足の部隊じゃ死にに行くようなものだぞ」
「コンクエスタ隊は、一線級とは言えませんがそれなりの練度を持っていますよ。ティルピッツ家のコネクションを駆使して人材を収集しましたからね」
「これが高練度? 冗談だろ」
「ルウム以来のベテランから見ればそうかもしれませんが、新編部隊としては、練度が高い方です」
俺は、この部隊の練度が高いとは思えない。俺が心配性すぎるのかもしれない。俺は死にたくないのだ。練度は高ければ高いほど良いのである。
「レンジャー徽章に、白兵戦徽章。それに傷病徽章か。准尉の戦歴は?」
「北米降下作戦に従軍しました。その際に腹を吹き飛ばされましてね。後方に回ってきたというわけです」
「ティルピッツ少佐に恩が有るのか?」
「まぁ、多少は有りますよ。母の治療費を負担して貰ったんです。あの家は金があります。だからこそ
スペースノイドは連邦政府によって搾取されている。これはザビ家の得意な煽り文句だ。実際に搾取されている部分はあるだろうが、それよりもジオン名家とか他のコロニーのメガコーポや財閥が搾取してるのでは? 俺は訝しんだ。
「俺みたいな教導部隊の教官を前線に引っ張り出すんだ。ジオンは負けるね。大きな声では言えないけどな」
「でも、それで良いじゃないですか。……大きな声では言えないんですけど、私、名家の貴族って嫌いなんですよね」
「…え?」
「いつも見栄ばかり張っていて、恵まれていることに無自覚で、偏見をバラまいている。前線から戻って以来フリューゲルお嬢様の付き人をしていますが、あの方がいつか無惨に死ぬと考えると、どうしても笑えてしまうんです。良くないとは思ってますけどね」
「…………准尉、この話はやめよう」
マトモなのはマクレーン曹長だけか! 助けてくれマクレーン。俺を救えるのはお前だけだ。
「そもそも私がこうなったのは、父のせいですね。名家に憧れた愚かな父。あの人は、私をどこかのジオン名家に嫁がせたかったのだと思います。その際に出会ったのが、フリューゲルです。私は幼い彼女が嫌いでした」
「この話って、俺が聞いて良い話なのか?」
「ええ。中尉はフリューゲルの騎士になったそうなので」
聞きたくない。早く目的地に着いてくれ。マトモ枠だと思っていた准尉が、筋肉マッチョのゴリゴリ近接枠だったのは良いんだ。でも、お嬢様に愛憎を抱いているのは知りたくなかった。
「幼年学校に閉じ込められていたフリューゲルは哀れでしたね。学校の生徒に禁止されている可愛らしい格好をして会いに行くと、羨望を浮かべていて本当に哀れでした。
父が憧れていた上流階級が、こんなにも滑稽なものだとフリューゲルは証明し続けてますから」
もうやめてくれ。お嬢様とメイドがギスってることは知りたくなかった。
「死んだ父がマトモだったら、何度そう思ったことか」
「准尉。命令だ。黙れ」
「はっ…」
不満を隠そうともしない准尉。このフネの士官みんな美人だけど、爆弾を抱え込んでいる気がする。
「君は自分を大事にすることを覚えるべきだ。そうやって自分を傷付け続けたら、いつか自分が擦り切れてなくなってしまう。フリューゲルと仲良くしろとは言わないが、折り合いをつけるべきなんじゃないか?」
「折り合い! 簡単に言ってくれますね? あなたは私の何も分かってない。そうやって、上から目線でっ! 誰も私をみてくれない!」
「大丈夫だ。落ち着け。俺が、ここで見ているのはレビィだけだ」
多分、これが一番早いと思います。暴れられたら勝てないからガッツリ抱き締めて拘束する。はい。レンジャーメスゴリラに単なるパイロットの俺が勝てるわけないだろ。
「…………」
「人は分かり合えないけど、分かり合おうとすることは出来る。君が苦労していることは、俺に伝わってきた」
「……頭、撫でてください。パパがよくやってくれたんです」
はい。分かりました。撫でます。暴れないでね。
「落ち着いたか?」
「はい。落ち着きました。すみませんでした。ずっとフリューゲルと一緒で、過去のトラウマとずっと向き合ってて、いつも幻聴が聞こえていたんです」
壊れかけてるじゃん。おい。グルグル目してるよ。やだぁ。俺にはイッシュ軍曹とマクレーン曹長だけ居れば良いよ。
連邦に亡命しようかな……でも俺、一応ニュータイプだしモルモットにされるかも。オーガスタは嫌だ。オーガスタは嫌だ。グレイヴ行きぃぃ! なんてこともあるかもしれない。
亡命はやめよう。亡命したら両親も殺されるかもしれないし。
「このフネにカウンセラーとかいないのか?」
「フリューゲルがそんなこと考えるわけないでしょ。アレはそういう生態をしていません」
「辛辣ぅ…」
「なので、中尉。私の秘密を知ってしまった以上は、私に付き合ってくださいね。手を繋いだり、頭を撫でたり、私を褒めたり甘やかしたりしてください。なんならキスとかセックスとかもしましょう」
「俺に何のメリットがある?」
「人並み以上の容姿を持つ女の子を好きに出来るんですよ?」
「普通に嫌だが。外面は良くても性格が終わっている」
「さては中尉、童貞ですね?」
こういう時、どうやって返せば良いんだろうか? 士官学校は男社会だったが、その前に付き合った娘とは普通に致したけど。でもそれを堂々と言うべきなのか?
「そういう准尉こそ、経験は無いだろう? 自分のコンプレックスを他人にぶつけているだけなんじゃないか?」
「……っ、そうですけど! 処女で悪いですか!!」
話が変な方向に転がっている。コンクエスタの乗組員全員碌でも無いのでは?? 外見はめっちゃ良いけど、中身が終わってる。
「ノーコメントで」
「な、っ、っ、なんなんですか!! 私に気があるんでしょ? そうでしょ! 中尉は顔と声が良いですしぃ。別にぃ、付き合ってあげても良いんですよぉ。一目惚れなんてしてませんけどぉ。知りません! もう!」
「病院に行こう」
多分、精神的に参っている。ストレス検査とかで弾かれるはずなのに、どうしてコンクエスタのクルーになれたのか不思議だ。
ストレス検査や諸々存在しないと。なるほど。流石フリューゲルお嬢様の私兵集団なだけある。
「待て待て待て。ヤバくないか? 将校の全員が問題を抱えているぞ。敵との戦闘以前に内ゲバで崩壊するぞ……」
「すれば良いですよ。こんなフネ」
連絡官は、にこやかに笑顔を湛えたメイト・モノ中佐だった。諸悪の根源だ。コイツが俺をコンクエスタに送り込まなければ、こんな目には遭わなかったのに。
「全部、あなたの企てだったんですね。中佐、どうして俺をこんなクソみたいな部隊に送り込んだのです?」
単刀直入に斬り込む。答え次第では中佐のモノクルをかち割るかもしれない。
「理由は2つある。1つ目としては私がダイクン派に属しており派閥を強化する必要があったからだ。ティルピッツ家は重要なスポンサーだからね。バカなお嬢様でも金は持っている。だから、彼女の意向を汲んだ部隊を作り上げたんだ。
もう1つの理由は、君が私の大好きな英雄だからだよ。私は君に活躍してほしい。君は後方で燻っていてはいけないんだ。君は私の王子様だ。私は、君に惚れ込んでいる。ザビ家の目を掻い潜って、君を前線に送るには、コンクエスタ隊が唯一の選択肢だった。惚れた男に前線で活躍して貰いたいと願うのは、そんなにおかしいことかな?」
チェンジで!!