俺はメイト・モノ中佐のことを、良い上司だとは思っていた。なにしろ中佐は優しい。おっぱいも大きいし美人だ。働く上でも、教導隊の上司として十分な能力を持っており、彼女とは良い関係を構築していたはずだ。
「中佐と俺ってそんなに仲が良かったでしたっけ…? 仕事上での接点しかないですよね?」
「ああぁぁぁぁ」
え?? 何?? 急に叫び出した??
「やっぱりか!! やっぱり君は私を忘れていたな! 君を私の部隊に引き取ってから、私はずっとドキドキしていたのに! でも、そんな釣れないところもしゅき! 好きだよ。愛している」
「キモ」
おっと、心の声が漏れてしまった。でも、プライベートで関わってない職場の上司から愛を囁かれたら誰だってこうなるだろ。美人で、おっぱい大きいけど、話の持ち出し方がおかしいんだよ。酒の席で、酔った勢いでとかならまだしも、あなたはシラフじゃないか。
「メイト中佐は、精神的に異常です。憲兵に引き渡すべきかと。女性から男性へのセクシャルハラスメントも、ジオン軍では通用します。直ちに引き渡しましょう。トーチ中尉」
「いや……」
お前、このメンヘラ准尉! さっきまでのお前の言動はどこに行ったんだ? どの口が! どの口が! どの口が!
「そこの馬の骨は、確かフリューゲルの副官か。腹を吹っ飛ばされて精神的ストレスでおかしくなった人間が、どうやって精神鑑定をすり抜けたのかな?」
「……うるさいですね」
あっ、黙った。フリューゲルが金で揉み消したもんね。反論できないわ。
「トーチくぅん。君はルウムで私を助けてくれただろう? その時に、私は君に惚れたんだ。あの立ち振る舞い。まさに英雄のソレだ。自らの被弾も厭わずに私を助けてくれた。君が英雄でなくて誰が英雄だと言うんだ!」
待ってくれ。全く記憶がない。誰だ? マジで? それ、俺じゃないと思う。
「英雄なら、後方に左遷されませんよ。ドズル閣下に喰って掛かりましたからね。それでも、俺はコロニー落としを批判したことを後悔していません」
「ふふ。流石は私の英雄だ。君を選んだ私の目に狂いは無かった」
その目、ずっと狂ってるし節穴だよ。
「中佐のルウムでの所属部隊ってどこでした?」
「ん? ……まさか、私を覚えていない? 第029MS中隊だ」
あっ、思い出した。俺が囮にした部隊だ。健在だったマゼランの艦列に突っ込んで壊滅した奴らじゃん。
あー、そう言えば隊長機助けたわ。アレか。
「……メイト中佐って、もしかしてポンコツだったりします?? 中佐の地位を金で買ってたり、実は無能上司だったりしちゃいます??」
「ルウムでは不覚は取った。しかしマゼラン6隻の中に突っ込んで部下を半分失いながらも生き残ったのだから、無能ではないと自負しているがね」
ポンコツ枠じゃないな。圧倒的セーフ!
「ルウムの時は本当にやられたものだよ。まさか味方にマゼランを押し付けられるとは……あのマゼラン、完全に戦闘態勢だったんだからな。クソッタレめ」
「ははは。酷い友軍もいるもんですねぇ」
そのカスは俺だよ! なんで気が付かないんだ??? いや、気が付かれても困る。その場合、俺が部下の仇になり酷いことになりそうだ。よし。俺は英雄。俺は英雄。
「メイト中佐。俺、中佐のこと好きかもしれません」
「そうか。しかし、私は推しが活躍するのを見て喜ぶタイプだ。それはそれとして、君とイロイロしたいとは思う」
「はぁ。そうすか……」
この人を引っ張ってくれば、終わってるコンクエスタ隊がマシになるんじゃないか???
「メイト中佐、コンクエスタの艦長に興味はあります?」
「無い」
「そうですか。じゃあ俺、イッシュ軍曹と結婚して軍を辞めます。それじゃあ」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。君が辞めるなら私も辞めるが?? ルウムで片目をやられているから傷病手当が出るし、中佐だから軍人恩給もガッポリ出るぞ?? ……私と結婚しないか?」
「え? 嫌ですけど」
真実がバレたら、俺の生命が危ないからな。囮役あざっした〜。盾になってくれて助かりました〜(意訳)みたいなことを言ったような気がしてきた。とてもまずい。
あと、そのモノクルお洒落じゃなかったんだ。俺のせいで目をやられて後方で教官してるから、よく考えたら可哀想なのか?
「あっ、やっぱ退役はなしで」
死の予感が背中を撫でた。イッシュ軍曹と結婚して軍を辞めると俺は死ぬのか……ザビ家の暗殺とかか?? 俺みたいな小物に??
しかし、死にたくはないので、俺は軍に残ると念じた。死の予感は消えた。セーフ。
「俺は本気で後方でずっと教官してたかったんですけど……中佐のこと上司としては好きでしたし」
「私は君が前線で輝く人材だと確信している。だから、
「俺の希望は無視なんですか?」
「私の階級の方が上だからね。私の願望が優先される。下っ端は従いたまえ」
ぐぬぬ。立て板に水とはまさにこのことだ。よし、ルウムの真相をバラして好感度を下げるか!
あっ、これだと社会的に死ぬんだ。死の予感くん、めっちゃ有能だな。電車の中で下半身出したらどうなるかな〜って思った時にも同じ感覚がしたから間違いない。
「俺、メイト中佐のこと好きです。なんでもします。だから、コンクエスタの艦長になってください。お願いします」
「ん? 今何でもするって言った?」
爛々と目を輝かせている。うわっ、この人ってこんな浅ましい顔するんだ。俺はめちゃくちゃ棒読みだったのに。
亡命を考えたら死の予感がするし、軍を退役しようと考えたら死の予感がする。なので仕方なくジオン軍に残ることにしているのだ。
軍に残るしかないなら、周囲の環境を整えなければならない。とりあえず、マシな人間であるメイト中佐を、フリューゲルと入れ替えたい。
諸々の説明をしたら彼女は納得してくれた。ティルピッツ家の持つ権利をごちゃごちゃやって叔父に譲渡するなど、裏工作をやってくれるという。それから、コンクエスタの艦長になってくれるそうだ。
「ぐへへ。私の艦長就任の交換条件は君が英雄になることだ。連邦に勝利した暁には私と結婚してもらう」
「ジオンが敗北した場合は?」
「君がいるジオンが負けるわけないだろう? 万が一にでも負けたら、フォン・ブラウンにでも2人で移住しよう。資産は移してある」
かなり現実だ。賢い。そしておっぱいを当てるな。陰茎が苛立つ。
「ん? なんだ准尉?」
「中尉に先に声を掛けたのは私ですよ? こんな可愛い私をこ、恋人に出来るんですよ? あんな胡散臭い糸目女なんて無視するべきです」
「はぁ……」
コイツも外見だけは良いんだよな。外見だけは。洗濯機とかで洗ったら中身も綺麗にならないだろうか? ならないだろうな……
「准尉。精神科に通院した方が良いぞ。君に必要なのは恋人ではなく適切な医療だ」
「…………うぐぅ」
「トーチくんの言う通りだとも。私の
「いや、付き合ってないです。恋人じゃないですよ」
「……じゃあ許嫁で良いかな??」
良くない。全く良くないが、今後のためだ。
「良いですよ」
「ありがとう中尉」
「ぇ」
満面の笑みを浮かべる中佐と、すごい顔をしている准尉。対照的な2人の様子に、げんなりする。
「さて、コンクエスタ隊の初任務は簡単な護衛任務だ。私の英雄には物足りないかもしれないが、初めての共同作業には丁度良い難易度だろう? さ、行こうじゃないか」
俺の周囲にヤンデレと問題児しか居ねぇ!! 俺、転生先はチートハーレムって言ったよね??