禁忌を犯した一般人、怪異のヌシになる〜怪異の力が使えるようになったから身の回りのホラー鬱展開を壊す〜   作:真田キツツキ

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人柱

 目を開けると、見覚えのある天井があった。

 周りを見渡す。

 やはり、僕の部屋だ。

 

「よかった、起きた……」

 

 隣を見ると、封印師と呼ばれた少女がいた。

 

「あなたがここに僕を?」

 

「そうよ。あなたが封印と同時に寝てしまったから仕方なくね」

 

 少女は俺の勉強に使う椅子でクルクル回る。

 

「……なんで僕の家が分かったんですか?」

 

 ふと疑問が湧いた。

 彼女と会ったのは今日が初めてだ。

 それなのに、僕の家に運べるのはおかしい。

 

「生徒証。ポケットにあった財布の中に入っていたの」

 

 机の上を指差す。

 ご丁寧にポケットの中身が並べられていた。

 

「その、遅くなったんですけど、迷惑をかけた上に、家まで運んでもらって、本当にごめんなさい」

 

 立ち上がって、頭を下げる。

 目安は90度だ。

 

「そんなこと気にしなくていいのよ。というか、私が謝る方。ごめんなさい。一般人を巻き込んだ上に……よりにもよって、人柱にしてしまった。これは許されないことよ」

 

「悪いのは全部僕です」

 

 今思い出しても自責の念しかない。

 僕の行動のせいで失った物は多い。

 

「そんなことない——って言ってもあなたは否定しそうね。せめて、敬語はやめてくれない? 敬語を使われるほど私偉くないから」

 

「……分かった。そういえば、凶鷲に食べられた彼らは?」

 

 合わせて四人。

 僕のせいで殺されたはずだ。

 

「事故として処理された。国が動いているからあなたに影響が及ぶことはないはずよ」

 

「国?」

 

 思ったより規模がでかい。

 警察のお世話になるかなとは思っていたけど。

 

「私たち封印師は立場的には国家公務員のような物だから、ある程度の死人ならどうにかして貰えるの」

 

 封印師って陰陽師みたいな物だから、裏でコソコソと動いているのかと思っていた。

 まさか国に管理されているとは。

 

「そうなんだ……ちなみに何歳か聞いても?」

 

 とても成人しているようには見えない。

 甘く見てもギリギリ高校生だ。

 

「16歳。何か問題?」

 

「国家公務員ってそんなに若くてもなれるんだな、と思って」

 

 国家公務員なんて職業は試験とかも沢山あるだろうから、16歳で受かるのはとても難しいように思う。

 

「封印師はいつでも人手不足なの。だから、特別措置ね」

 

「人手不足ってのは、家柄的な問題で?」

 

 封印師なんて僕は今日初めて聞いた。

 だから、僕のような一般人は封印師にはなれないのだろう。

 もしかしたら、秘密で適性検査とかしていて、適性がある子にだけ教えていたとか?

 

「死ぬ人数と入ってくる人数のせい」

 

「あ、そういう……」

 

 命が掛かってる職場だから、出ていく人数は多くて、入って来る人数は少ないのだろう。

 凶鷲みたいな化け物と戦っていたら、いくつ命があっても足りない。

 

「君も封印師になれる可能性はあるよ」

 

 少女はどこかをじっと見ている。

 彼女の視線を追えば、部屋の隅に置かれた鎖の束があった。

 続けて彼女は言う。

 

「あれは凶鷲を封印していたから、それなりに強い武器だとは思う」

 

 羨ましいと彼女は言った。

 

「武器が強くても、僕が弱いから無理だよ」

 

 僕のその言葉に、彼女は首を振って答えた。

 

「人柱って言うのはね、本人の意思とは関係なく怪異の力を引き出してしまうの。だから、その心配はいらない」

 

「そうなの? 人柱って意外と役得だね」

 

 人柱って言うからどこかの部屋で一生を過ごすとかを想像してしまった。

 

「——そんなことはない。君が人柱になったことで負う宿命を教えてあげる。まず、国に監視される。これは既に私が報告したから手遅れ。そして、国に危険だと判断されたら殺される。つまり、君はこれからの人生殺される恐怖を抱きながら生きていかないとダメってこと」

 

「うわあ、大変そうだな」

 

 どこか他人事のように思ってしまう。

 国から監視されるとか、殺されるとか現実味がない。

 

「……なんで、怒ってくれないの?」

 

 椅子から飛び降り、僕の目と鼻の先の距離まで近づく。

 彼女の揺れる瞳に僕が映っているのが見えた。

 

「え、何か怒る要素あった?」

 

「沢山あった。私の実力不足で怪異を倒せなくて、君を大した説明もなく人柱にしてしまった。なんでこれに怒らないの」

 

「元凶は僕なんだから怒る権利なんてないよ。というか、君の方が怒るべきだ。僕が勝手なことをしたから、死にかけたんだよ?」

 

 僕は殺されても文句を言えない立場だ。

 身勝手な一般人。

 もしこれがネットに情報が上がってしまったら袋叩きにされるのは疑う余地もない。

 

「——分かった。少し怒らせてもらう」

 

 覚悟を決めたように言葉を綴る。

 

「私は君の自己犠牲が意味分からない。理解できない」

 

「……自己犠牲って何のこと?」

 

 怒るべきだと言った手前口を挟むのはどうかと思うが、僕には彼女の怒る意図が分からなかった。

 

「自己犠牲は人柱に立候補したことよ。名前からしてヤバいと分かるでしょ。なんで立候補したの」

 

「それは責任を取るためで——」

 

「それが自己犠牲なの。そんな責任取る必要なんてない。私は封印師。果たすべき使命がある。だけど、あなたは一般人。使命も責任も何もない。あの時、逃げれば良かった」

 

 淡々と僕を追い詰める。

 だが、その顔は苦しそうだった。

 

「さっきも言ったけど、国に危険だと判断されたら君は封印師に殺されるの。一番近くにいる私が殺せと命令されるかもしれないね。私は殺しを躊躇わない。国にやれと言われたらやる。国の犬だから」

 

「嫌じゃないの?」

 

 そんな辛い顔で話すなら逃げればいいのにと思った。

 

「言ったでしょ。使命なの。私は逃げられない」

 

「……そうなんだ」

 

 僕には彼女の気持ちが分かってあげられないから、共感も逃げ道も作ってあげられない。

 

「助かる方法は二つある。一つは大人しく生きること。何も問題を起こさなかったら国も見逃してくれる。もう一つは——やっぱり教えられない。これを知ったら君はもう止まらなくなる」

 

 荷物置きとして使っていた押入れに入って、ふすまを閉じる。

 チラッと布団が敷かれていたのが見えた。

 

「まさか、そこで寝るの?」

 

「……」

 

 返事はない。

 肯定と受け取ってもいいだろう。

 

「……私、転校してくるけど気にしないで」

 

 ふすま越しに曇った声が聞こえる。

 

 ここで寝て、転校してきて、片時も目を離さない状況を作っている。

 異常とも言える執着。

 

 多分、監視のためだろうな。

 そう勘づいて考えるのをやめた。

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