禁忌を犯した一般人、怪異のヌシになる〜怪異の力が使えるようになったから身の回りのホラー鬱展開を壊す〜   作:真田キツツキ

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転校生

「志和屋那月です。お世話になります」

 

 制服を着こなした少女がお辞儀をする。

 少し低い背丈、幼さを残した童顔、それでも気の強さが分かる目つき。

 その顔は昨夜も、今朝も見た。

 なにせ彼女は我が家の居候だ。

 家族で僕だけが知っている異常な形だけど。

 

 それにしても、同じクラスか。

 どうせ裏で色々国がやっているんだろうな。

 僕の監視が目的だろうから、転校も昨日に決まったはずだ。普通の手順を辿っていたら、そんなに早く書類の処理が終わるとは思えない。

 

「なあなあ、可愛くね?」

 

 前の席の井坂が椅子を傾けて僕に言う。

 

「まあ、うん」

 

 返事しずらい。

 僕としては知っている人だし、何よりも昨日怒られてから微妙に気まずい相手だ。

 

「何だよ、その中途半端な返事。もしかして、恋の悩みってやつか? それならこの彼女持ちの井坂様が相談に乗ってやろうか?」

 

 前髪をかき上げて、ポーズを取る。

 シンプルにうざい。

 

「さっき志和屋を可愛いって言ったこと、中村に教えようかな」

 

「わ、悪かった。ミサに言うのはやめてくれ。怒ると怖いんだよ、あいつ。頼むよー」

 

 僕の腕に縋り付く。

 泣き真似まで始めた。

 そんなに嫌なのか。

 

「分かったよ。まあ、中村は今日体調不良で休んでるみたいだし、そんなこと聞かされても嫌でしょ。それと、先生の話が終わったから移動教室に行くよ」

 

「いつのまに!」

 

「井坂が泣き真似しているうちにだよ」

 

 さっさと教科書を持って教室を出ようとすると、隣に井坂がいないことに気づく。

 どこに行ったのかと探すと、志和屋の所にいた。

 井坂も僕に気づいて手招きをする。

 

「今日の1限は実験室で授業するから場所教えてあげるよー。この蓮くんが」

 

「僕任せかよ」

 

「ナイスツッコミ!」

 

 二人のもとに着いたら早速僕に会話が振られた。別に突っ込んだ訳じゃないんだけどな。

 

「別に僕名義にしなくて良いでしょ」

 

「だって、可愛い転校生を案内したってミサにバレたら面倒じゃん?」

 

「中村も流石にそのくらいで怒らないよ、多分」

 

「ミサは俺が困った女の子に手を出す男だと知ってるからね。絶対に許してくれない。前科あるし」

 

 ニコッと笑う。

 流石クズ男だ。

 

 中村の心労が伺える。

 

「案内はいらない。私に気を遣わなくていいよ。友達作るつもりないの」

 

 やっと口を開いたと思えば、志和屋はそんなことを言った。

 井坂は「へ?」と固まる。

 僕も予想外だ。

 志和屋がそんなことを言うとは思わなかった。

 

「先に行っといて。私はその後ろを着いて行くから」

 

 とんでもない提案をしてくる。

 本末転倒どころではない。

 

「井坂、そういうことなら先に行こう」

 

 このまま話していたら授業に遅刻してしまう。無理に案内する必要はない。

 嫌だと言われたら僕たちは引き下がるべきだ。

 僕たちに志和屋を案内する義務は無いのだから。

 

「あ、ああ」

 

 まだ衝撃が抜けきっていない井坂を引っ張って連れて行く。

 こいつ、衝撃受けすぎだろ。

 

「井坂はナンパとかは向いてないと思うよ」

 

 井坂はたまに格好つけるけど、普通に格好いいし優しいから女子にあんなことを言われたことがないのだろう。

 ナンパは断れるのが普通だと聞いたことがある。こんな調子なら、井坂はやめた方が良い。

 死んでしまう。

 

「え、何? また今度ナンパするの?」

 

「なんでそうなるの。勝手に一人でしといて」

 

 そんな会話を続けながら、後ろを見る。

 志和屋は着いてきているけど、しっかり10メートルほど空けていた。

 

 もう一度、ため息をつく。

 

「井坂、ごめん。忘れ物した。先に行っといて」

 

 それだけ言って、志和屋の元へ走る。

 僕を見た彼女は少し驚いていた。

 

「何か用?」

 

 全く歓迎していない態度だ。

 そういえば昨日、喧嘩紛いのことをしたのだった。

 

「なんであんな態度を取ったの」

 

「言ったでしょ、友達を作る気がないって」

 

 呆れたように言う。

 友達を作る気がないってのは、本音にも強がりにも聞こえる。

 

「それでも、もう少し上手くできたでしょ。井坂のメンタルは結構弱いんだよ。可哀想だろ」

 

「そんなの私の知ったことではない。勝手に泣いたら良いの」

 

 流石に泣きはしないと思う……少し心配になっったけど。

 念の為に井坂の方を見る。

 もう姿は無かった。

 僕の言葉通り、先に教室へ行ってくれたようだ。

 

「それと、昨日は僕が悪かったよ。ごめん」

 

 立ち止まって、頭を下げる。

 気まずいままだと嫌だからこの機会に謝ることにした。

 

「はあ、そんなことで謝らなくていいのに。あれは私が悪いの。私があなたの自己犠牲を認められなかった。それだけ」

 

 沈黙が場を支配する。

 その空気を破るように、何とか口を開く。

 

「謝った直後で悪いんだけどさ、その自己犠牲について、僕思うんだ……志和屋の方が自分を犠牲してない?」

 

「どこが?」

 

 これを言ったらまた志和屋が怒るのは分かっていた。だけど、これを言わないと志和屋との距離が縮まらないと思った。

 

「志和屋は使命だとか義務だとか言い訳しているけどさ——」

 

 ピリリリリ。

 あまり気分の良くない警戒音が鳴った。

 

「ごめんなさい、封印師の連絡ね」

 

「大丈夫。気にしないで」

 

 言いたいことは沢山あるけど、志和屋が向き合って話してくれないと意味がない。

 今である必要はないんだ。

 

「怪異が現れたらしい。私はそれに向かう。君は普通に授業受けていいよ。だけど、ついでに私は早退すると先生に伝えといて欲しいかも。怪異の出現場所は——ここ⁉︎」

 

 僕に発言する隙はなく、事実確認のように一方的に伝えられた。

 しかし、最後でそれらが全て崩れ去る。

 怪異がここに現れた。

 授業なんて受けている暇はない。

 

「うわぁああああ!!」

 

 学校にあってはならない悲鳴が響く。

 場所はちょうど実験室の辺り。

 気のせいだと思いたいけど、井坂の声に似ていた。

 急いで向かおうとするが、それを止める人物がいる。

 志和屋だ。

 その小さな体では考えられないほどの強い力で僕の腕を掴む。

 

「ちょっと、昨日の話忘れたの⁉︎ 国に目を付けられないようにしないと——」

 

「僕は殺されるんでしょ! そのくらい知ってる!」

 

 力が弱まった腕を振り解き、一目散に走る。

 

 死ぬのは確かに怖い。

 普段なら想像するのも嫌だ。

 

 だけど、友達のためだと思えば頑張れる。

 理由さえあれば命を懸けられる。

 僕は単純な奴なんだ。

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