禁忌を犯した一般人、怪異のヌシになる〜怪異の力が使えるようになったから身の回りのホラー鬱展開を壊す〜   作:真田キツツキ

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綺麗な血溜まり

「い、今窓の外に化け物が……!」

 

 実験室の窓際。

 そこで井坂は震えていた。

 

「井坂、大丈夫⁉︎」

 

「俺見たんだ! ミミズみたいなやつが空を飛んでいるのを!」

 

 地面に座り込んで、窓を指差す。

 そこには何もいない。

 他のみんなも不思議そうにしている。

 だが、全員揃って体調が悪そうに見えた。

 顔色が悪い。

 

「井坂が見たって言うの……」

 

 小声で隣の志和屋に話す。

 志和屋も同じように囁くように返した。

 

「ええ、怪異よ。それもかなり危険なやつね。怪異は普通見えないけれど、近づき過ぎて偶然見えたのかもしれないわ」

 

 志和屋は窓の外を睨む。

 その表情は険しい。

 

「今もあそこにいるの?」

 

「その通りよ」

 

 僕には見えない。

 いつも通りの青色の空が広がっている。

 

「今、どんな状況?」

 

「ここのみんなを獲物として狙っている」

 

 志和屋は窓から目を離さない。

 もしかして、怪異を牽制している……?

 

「志和屋がここを離れたら、怪異はこの教室を攻撃するとか?」

 

「……正解よ」

 

 絞り出すように声を出す。

 

 周りを見ると、さっきよりクラスメイトの顔色が悪くなっているのが分かった。

 立つのが辛くて座り込んでいる人もいる。

 時間はあまり残されていないように思える。

 それなら、僕がやるしかない。

 

「倒してくる」

 

 混乱している教室から出ようとするけど、志和屋にまた腕を掴まれる。

 振り解こうとするけど、いつものように馬鹿力でびくともしない。

 

「怪異の姿は見えているの?」

 

「段々見えてきた」

 

 薄い霧のようなものが空に広がっている。

 あと少しで完全に姿が見えそうだ。

 

 普通は見えないらしいけど、あいにく僕は人柱とやらだ。普通ではない。

 

「既に応援を呼んだ。10分もすればここに着く。だから、あなたが戦う必要はないの」

 

 必死に僕を止める。

 なぜ監視対象である僕をそこまで心配するのだろうか。放っておいてくれたらお互い楽になるのに。

 

「その10分間で何も被害が出ないとは限らないだろ。この教室だけを見ても、みんな辛そうだ。ここ以外でも他に苦しんでいる人がいるのかもしれないのに、それを黙って見ている訳にはいかない」

 

 そんな僕の言葉に対して、志和屋は辛辣な事実を突きつける。

 

「あなたが行っても死体が増えるだけ。あなたには力がないのだから」

 

 確かにあの鎖は家に置いてきた。

 こんなことなら持ってくるんだったと後悔するが、それが怪異を倒さない理由にはならない。

 

 体の奥深くから熱が湧き上がるのを感じるのだ。

 体を崩壊させてしまいそうな荒れ狂う熱。

 それが次第に強くなっていく。

 

 そして、ついに爆発する。

 背中の肉を抉りながら、何かが突き出る。

 それは、大きな翼だった。

 後ろを向けば視界に入るほどの大きさ。

 黒い翼は凶鷲を連想させる。

 

「——これでいいでしょ」

 

 全身に力が溢れている。

 頭がクラクラするほどの全能感だ。

 

「人柱の力を覚醒してしまった……」

 

 志和屋は驚き、嘆き、悲しむ。

 そんな風に顔を歪ませた。

 

「井坂、あの怖いやつは僕が倒してくるから大丈夫だよ」

 

 井坂の肩に手を置いて語りかける。

 

 だが、震える井坂からの返事はなかった。

 みんなも特に反応を示さない。

 僕がこんな翼を出しているのに、それは異常だ。

 

 志和屋の言葉を思い出す。

 怪異は普通見えない。

 つまり——

 

「僕は怪異になったのか」

 

 志和屋の表情の意味がやっと理解できた。

 だからこそ、彼女の顔を見れない。

 もし、僕を恐怖の目で見ていたらとても耐えられないからだ。

 

 窓を開ける。

 大きな翼には狭いけど、どうにか潜り抜ける。

 そして、そのまま落下する。

 ここは3階だ。

 滞空時間はそれなりにある。

 凶鷲がやっていたように翼を持ち上げ、空気を下に押し出す。

 すると、自分でも驚くほどに力強く体が持ち上がった。

 羽ばたきを止めるとまた落ちるので、連続して翼を上下に動かす。

 

 井坂がミミズみたいと称した怪異が僕を見る。

 

「キチャキチャキチャキチャ」

 

 獲物が僕に変わったようだ。

 恐ろしい口を開けて僕に突進する。

 僕に噛みつこうと不出来な前歯を震わせている。

 

 体を傾けて左へ飛ぶ。

 この怪異は急な方向転換はできないようで、そのまま直進した。

 

 ちょうど尻尾が横を通ったのでそれを掴み、空高くへ飛び上がる。

 

 怪異はロクに抵抗できていない。

 体が長過ぎて自由が効かないようだ。

 並ぶ建物がないほど高くまで来たら、次は頭を下に向けて急降下する。

 ハヤブサのように翼を閉じて空気抵抗をなくす。

 

 体がバラバラになってしまいそうなスピードで落ちる。

 目指す場所はグラウンドだ。

 

「うぉらあああ!!」

 

 グラウンドが目の前まで来たら、掴んでいた怪異を下に投げつける。

 それと同時に急上昇して地面との激突を避ける。地面スレスレになってしまった。

 グラウンドは怪異が潰れたことによって大きな黒い血溜まりで溢れ、衝突で出来たクレーターが血を溜めていた。

 壮観だ。

 あまり褒められた趣味ではないと思うけど、綺麗な光景だと思った。

 

 そんなグラウンドに降り立つ。

 志和屋が走っているのが見えたからだ。

 

「自分が何をやったのか分かっているの⁉︎」

 

 胸ぐらを掴んで、顔を近づける。

 上目遣いで睨みつけられた。

 

「怪異を倒したから良いでしょ」

 

「それがダメなの! 怪異を倒せる人間なんてそうそういない。封印師なんて名前、怪異を倒せないから付いた不名誉なもの。封印師であなたに勝てる人間なんて数えるくらいよ。そんな危ない力が国にバレたら……最悪殺されてしまう」

 

 必死に僕に訴えかける。

 誰かが僕のことで必死になってるのは不思議な気分だ。

 

「……それならさ、昨日言いかけた国に殺されない方法を教えてよ」

 

 大人しくして国に目をつけられないという方法はもう無理だそうだ。だから、別の方法に切り替える。

 

 答えるのを嫌がって少しの間口を閉じたが、結果的に諦めて口を開いた。

 

「それは、強くなることよ。国が手を出せないほど。それこそ、怪異の中で最強になるくらいね」

 

「随分と要求が高い。人間の中で最強じゃダメなの?」

 

 怪異の中で最強なんて想像もつかない。

 

「国が手を出さないようにするには、圧倒的な力が必要なの。触らぬ神に祟りなしって言うでしょ? それくらいにはならないと」

 

「そうか……それなら、アレを僕に封印してくれない?」

 

 僕が指差す方向には潰れた怪異がいる。

 今回力が沸いたのは体内に封印された凶鷲の影響だ。怪異の中で最強になるためには、怪異を僕に封印していけばいいのではと単純に考えた。

 

「頭おかしい……体内に異物が増えるのよ。嫌じゃないの?」

 

「別に?」

 

 既に一匹変なやつ飼っているんだ。

 もう一匹増えるくらい大丈夫だ。

 

「……分かった。私が言い出したことだしね。そこ、動かないでよ」

 

 札を取り出し、僕の腹のあたりに押し付ける。

 次第に札が発光して、以前と同じように志和屋は唱える。

 

「人柱起動」

 

 温かい光に包まれる。

 血が、肉が、怪異の魂が僕の体に入っていく。

 不思議と悪い気持ちはしなかった。

 あるのは力を得る感覚のみ。

 

「お願いだから、死なないでよ。あなたをこんな体にしたのは全部私のせい。死ぬなら、私を殺してからにして」

 

「何を——」

 

 何を言っているんだと問いかけようとした瞬間、心臓が酷く跳ね上がった。

 僕の統制が効かない異常な鼓動。

 それに耐えられなくなり、地面に倒れてもがき苦しむ。

 

 しばらくすると、救急車のサイレンが聞こえてきた。

 それに安心して意識を手放す。

 

 

 ——その日、とある高校で50人もの生徒、教師が体調不良を訴え、病院へ搬送された。

 原因は不明。

 責任を追及する記事が作られたが、何らかの圧力で消えて無くなった。

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