そんな彼にはいくつか人とは違う点があった。
一つは前世の記憶を持っていたことだ。特に何か特別な人物だった訳でもない、前世の名前すら覚えていない。良かったことといえば物覚えが早く、ドラマやバラエティを楽しめたことぐらいだろう。あとは小学校に入学すれば勉強で楽ができそうなぐらいだ。
そして2つ目は普通の人には見えないものが見えることだ。いわゆるお化けや幽霊のようなものだろう。ただその姿は白装束を身につけた人間や半透明の人間ではなく、異形の存在。どれも気味が悪く、どちらかと言えばイメージとしてはエイリアンに近いかもしれない。名前が分からないので千咒は妖怪と呼んでいるが。
初めて見えたのは前世の記憶なんて持っていない普通の幼子が物心つく頃だろう。祖母と会った時、少し前から腰が痛むと言っていた。そんな時祖母の腰を見るとその妖怪がまとわりついていた。いわゆる取り憑かれている状態と言うのだろう。状況的に考えても、そして直感でもこの妖怪が祖母の腰の痛みの原因であると理解した。追い払おうとしてビンタのように腕を振ったが、千咒の手は虚しくもその妖怪をすり抜けた。それから足で触ってみても、息をふきかけてみてもその妖怪が祖母の腰から離れることはなかったので、幼い手でマッサージをした。
その時は気にしつつも何もできなかったが、次に会った時には祖母の腰からその妖怪は消えていた。
その日をきっかけに街を歩く時、顔色の悪い人間や怪我をしている人間にはその妖怪に取り憑かれている状態の人間がいるということを知った。それからその異形の存在を妖怪ではなく悪霊と呼ぶことにした。
千咒からしてみれば前世の記憶があることよりも悪霊が見えることの方がよっぽど特別だった。それは前世では見えないはずのものだったから。そもそもここは前世で生きていた世界と同じ世界なのだろうか。それとも別のパラレルワールド的な世界なのか。
ふと考える時がある。自分はなんのために生まれたのか。それも前世の記憶を持って。そしてなぜこのような人ならざる存在が見えるのか。まあいつも答えは出ないが。
そして最後にもう1つ。それはほんの数日前のこと。千咒の5歳の誕生日のことだった。
朝、普段通りに目覚めた千咒。寝ぼけながら見たその世界はいつもと全く違っていた。まだ夢の中という訳ではない、その日が誕生日だから世界が明るく見えたなんてもんじゃない。文字通り、千咒には違う世界が見えていた。
風景はそのままある。ただ建物も自身の手も何もかもが無数の線に貫かれている。まるで世界が設計図の中に収まっているかのようだった。手を動かしてみても線は消えない。別の線に貫かれるだけ。
千咒は次に鏡を見た。まず気になったのは自身の眼だ。実は千咒の眼は日本人らしい黒目や暗めの茶色ではなく生まれつき紫色だった。その眼が今は淡く光り輝いている。
そして身体の中心より少し下の腹の辺り。そこに炎のように揺らめくエネルギーが
次に千咒は床に転がったおもちゃに目を向けた。幼子らしい仮面ライダーのフィギュア。「前世の記憶があるくせに?」と思うかもしれないが、面白いものはいつ見ても面白いのだ。テレビの中では力いっぱい敵を倒している仮面ライダーだが、今は力なく天井を見るように横たわっている。
そんなフィギュアに千咒は手を向けた。もちろん手を伸ばしても届くはずがない距離である。
ただ、今の千咒には確信があった。わざわざ近くに行って、手で拾わなくともそのフィギュアを手の平の中に収めることができると。
この世界には力が存在している。
世界はその力に支えられている。
千咒にはそれが見えていて、自身の力を使えば世界に存在する力に触れることができる。あとは向きを少し変えてあげるだけでいい。千咒自身も何を言っているんだと思ったが、根拠も理屈も越えて確信があった。
あとは力の向きを少し変えるだけ。
次の瞬間、力なく地面に横たわっていたはずのフィギュアは千咒の向けた手の平に向かって
「マジで……?」
できるという確信はあったものの、流石に驚いた。
これじゃあまるで今千咒の小さな手の中に握られているようなアニメのキャラクターではないか。
どうやら千咒は転生したこの世界で超能力者にでもなってしまったらしい。
あらすじみたいな感じで短いです。