特級呪術師、ただし五人目   作:牛丼肉なし

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1話 呪術師

 

 

 

 2015年8月10日午前0:00

 

 

 千咒は中学生最初の夏休みを迎えていた。そんな千咒は夏祭りでも海でもなく、真夜中の廃神社にやってきていた。おおよそ中学生が家の外に出ていい時間ではないが、夏休みという強大な魔力が少年少女達のテンションを高め、この場所へ誘った。まあ肝試しといえば夏らしくはあるだろう。

 

 

 親が寝静まったのを見計らい、集まったのは千咒も含めて男子4人、女子3人の計7人だった。

 

 

 前世の記憶があるため同年代よりも大人びてはいるものの、やはりどうしても肉体に精神の方が引っ張られるということもある。普通の中学生としてクラスメイトとはしっかり良好な関係を築いている。

 

 

 そのクラスメイトの中の一人が夏休みに肝試しをしようということでメンバーを募っていたため、千咒も参加した。

 

 

 もちろん、千咒は肝試しに興味があって来た訳ではない。幼い頃から異形の存在が見える千咒にとっては今更肝を試す必要がないからである。ならなぜ千咒がわざわざ参加したのかというと、クラスメイトの安全のためである。

 

 

(ここは()()ところだしな)

 

 

 住宅街を抜けて少し歩いた山の中にある廃神社。今はその入り口となる赤い鳥居の前に立っていた。昼間に見ればなんてことないが、深夜になると生い茂る竹やぶに囲まれたその場所は街灯の光が届いておらず鳥居の先は底のない穴のように深い闇で満ちており、肝試しスポットに選ばれるのも頷ける不気味さだ。

 

 

 そして千咒はこの先に異形の存在が潜んでいることを察知していた。

 

 

「やっぱり危ないからやめとこーぜ。ほら、足元滑るよ山だから」

 

 

 唯一本当に危ないことを知っている千咒がそうは言うものの、

 

 

「なんだよ蓮実、ビビってるならお前は帰ってもいいぜ。俺は余裕だけどな」

 

 

 この肝試しの発案者である、野球部の山田はテンション高くそう言った。

 

 

 他のメンバーも「ここまで来て帰るわけねーじゃん」「千咒くんって意外とこういうの苦手なんだ、可愛い」と千咒の忠告などまるで耳に届いていない。

 

 

(ちっ、まあ予想通りだけど)

 

 

 誰かが言っていた通り、ここまで来てしまったらもう止められないであろうことは千咒も薄々気づいていた。

 

 

「ったく、冷めること言うなよな。ほらみんな早く行こうぜ!」

 

 

 妙に張り切る山田を先頭に、各々懐中電灯で前を照らしながら歩き始めた。廃神社までは少し山道を歩く必要がある。

 

 

「なあなあ」

 

 

 歩きながら千咒は近くを歩いていたサッカー部の佐藤くんに山田には聞こえないような声量で話しかける。

 

 

「どしたん?」

「山田さ今日テンション高くね? そりゃいつも元気な奴だけど、今日は張り切ってるっていうか」

 

 

 千咒がそう言うと佐藤くんは一瞬キョトンとした顔を見せて、少しニヤニヤしながら答えてくれた。

 

 

「ああ、それは山田が橋本さんのことを好きだからね」

「なるほどね」

 

 

 好きな人に肝試しでビビってないところを見せてカッコつけたいという実に中学生らしい理由である。

 

 

「橋本さんはかなり頑張って誘ったらしくてね。それで張り切ってるってわけ」

 

 

 たしかに千咒の認識でも橋本さんはどちらかというと大人しめの女子で肝試しなんかに来るようなイメージはない。

 

 

 前方の山田の方に視線を向ければ橋本さんに元気よく話しかけ、橋本さんはその勢いに押されて少し困ったような顔をしながらも会話をしていた。

 

 

「言われてみれば、分かりやすい奴だな。意外と橋本さんみたいなタイプが好きなのか」

 

 

 その態度を見ればすぐに山田が橋本さんにどんな感情を抱いているのか理解できた。

 

 

 千咒のイメージでは山田自身と同じように元気なマネージャータイプの子が好みかと思っていたがそうではないらしい。ただ橋本さんは整った容姿をしているので千咒からしても好きになるのは頷ける人物ではある。

 

 

「俺からすれば蓮実が来たのこそ意外だけどな。同じクラスだったけどそこまで関わりなかったじゃん」

「あー、そうだな」

 

 

 たしかにクラスメイトということで授業だったりで仲良くはしているが、普段から放課後も遊んだりするメンバーかと言われればそうではない。千咒を除く男子3人は小学校も同じでよく一緒にいるのも見かけるが。

 

 

 千咒としても仮にこれが遊園地に行くという話だったら一緒に来てはいなかっただろう。ただ千咒のこれまでの経験則として夏は千咒が悪霊と呼ぶ異形の存在の数が増える時期なのだ。夜の学校に忍び込むぐらいなら普段から千咒が悪霊退治していることもあり、スルーしたが廃神社という本格的な心霊スポットに行くなら話は別だ。気まぐれといえばそれまでではあるが、クラスメイトが死んだり行方不明になったりするのは避けたいので着いてきたという訳だ。

 

 

 そして来てみれば案の定、この先には悪霊がいる。着いてきて良かった。

 

 

「もしかして蓮実も今日来てる女子の中に気になる子がいるとか?」

 

 

 佐藤くんは少し恐る恐るといった様子で質問してきた。好きな人、気になる人というのは中学生にとっては良い意味でも悪い意味でも重要な話題だ。最も武器になる情報と言ってもいい。だからこそ佐藤くんはそんな態度で聞いてきたのだろう。

 

 

「……、そうそう大好きなんだよね」

「えっ!?」

 

 

 佐藤くんはかなり驚いた様子を見せる。

 

 

「お化けが」

 

 

 そう言って千咒はいたずらっぽく笑った。

 

 

「な、なんだそういうことか。良かった、蓮実は女子から人気あるからな。実は俺も今田のことが気になっててさ。マネージャーめっちゃ頑張ってくれてすげーいい子なんだ」

「ふーん」

 

 

 今田さんとはサッカー部のマネージャーの女子だ。彼女に関しては他クラスなので千咒とはほとんど関わりがない。

 

 

「ん、てことはもしかして……」

「ああ、鈴木の気になってる人が広瀬さんだよ」

 

 

 鈴木と広瀬さんというのがこの肝試しの残りの2人の参加者である。

 

 

(はは、こいつら……、夏休み楽しんでやがんな)

 

 

 千咒からすると気になってる子をこんな危ない場所に連れてくるなと言いたいところだが、見えない人間からすれば肝試しも夏祭りや海、プールと変わらない夏休みのイベントのひとつなのだろう。

 

 

 まあ夏休みを楽しむこと自体は悪いことではない。

 

 

「蓮実にも気になる子誘えって言えばよかったな、ごめんな」

「いや俺はそんな子いないし別にいーよ。それよりお前らのこと邪魔したみたいで悪いな」

 

 

 いくら肉体に精神年齢が引っ張られるとはいえ前世の記憶を持つ千咒からすると中学生という状況での同級生は恋愛対象にはなっていなかった。もっと成人を越えたりすれば変わるのかもしれないが。

 

 

 もうひとつの理由として自身が特別な力を持って生まれたという点だ。別に他人とは違うからと見下している訳ではなく、こんな力を持っている人間が普通に恋愛などしていいのか純粋に疑問視していると言っていいだろう。

 

 

「全然気にしないでいいよ。肝試し自体は人数多い方が楽しいし。たださ……」

 

 

 そこで佐藤くんは声の音量を下げる。

 

 

「後で2人組を決める時にくじ引きあるんだけど、そこで一人の奴を決めるくじを引いてくれないか?」

 

 

(よく考えてるなー)

 

 

 千咒は素直に感心する。思春期の恋愛への貪欲さには驚かされる。とはいえこれは千咒にとっても嬉しい提案だ。先に一人で行って悪霊達を片付ければクラスメイト達に被害が及ぶことはないだろう。

 

 

「任せとけ」

「ほんとか!ありがとな」

 

 

 佐藤くんがそう言ったところで先頭を歩いていた山田から声がかかる。

 

 

「おーい! お前ら喋りすぎだぞ、置いてくぞ!」

 

 

 千咒と佐藤くんは話している内に気づけば他の5人よりも遅れをとっていた。

 

 

「悪い、今行く!」

 

 

 佐藤くんは声を上げて返事をした。

 

 

「じゃあ蓮実そういうことでよろしく頼むな」

「うん、了解」

 

 

 そう言って2人は少し小走りで山道を登り、先を歩いていたクラスメイト達に追いついた。

 

 

 

 

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