シラヌイヲイジメヌンデ……   作:蒙古の尖兵

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2話

 

最愛の艦娘が魔女として顕現した世界。

 

その日はあまりに普通だった。

窓から射し込んだ陽光は暖かく穏やかで、いつものように不知火が俺のためにコーヒーを淹れてくれていて、その香ばしい匂いで執務室は満たされていた。

 

「司令、いつまでボサッと手を止めているんですか?書類が泣いてますよ」

 

いつものように不知火が毒づく。素っ気なく聞こえるが、お互いの信頼関係の上に成り立つこのやり取りは最初こそ困惑したものの、今では居心地の良いものとなっていた。

 

デスクへと向かい、その日の書類を捌いていく。カリカリとペンを走らせていると不知火がこちらへと近付いてくるのが分かった。そして、そっと俺の肩に触れる彼女の手から伝わる温かさに安らぎを覚える。

 

そんな何気ない、いつもの日常が繰り返されては続いていくと思っていた。

 

西暦xxxx年 ---月---日 --:--

 

鎮守府は壊滅した。頑強な建物は焼け落ち、遠音に聞こえていた艦娘たちの悲鳴は次第に聞こえなくなっていった。

 

黒い炎が鎮守府を包み込む。燃え盛る火の手は鎮守府後方に控える市街にも及んだ。まるですべての生きとし生けるものの生存を許さないと言わんばかりに。

 

「不知火、どこだ!?どこにいる!?」

 

瓦礫に足を取られながらも必死に彼女を探した。しかし俺の知る彼女はもうそこにはいなかった。

 

物理法則を無視した漆黒の炎を纏いながら不知火はそこに佇んでいた。そして俺のことを視界に捉えたその瞬間、彼女はメラメラと揺れる黒い炎で俺の周りを取り囲む。

 

貴方たちに生きる権利はない。

 

彼女は冷たくそう言い放った。

 

絶望し、地面に這いつくばる。白い軍服はいつの間にか泥だらけのみすぼらしいものになり、満身創痍となった身。

 

涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔面を必死に上げる。

 

この絶体絶命の状況においても、何故、どうしてと問いかけずにはいられなかったから。

 

不知火の靴が俺の汚れた顔のすぐ側に降り立った。そこで気がつく。

 

俺を見下ろす彼女の視線は、もはや人間を見るモノではなかった。路傍に転がるゴミを見るかのような軽蔑。いや、あるいは生きていることを、産まれてきたことを憐れみ、同時に優越感を感じているようにも思えた。

 

「どうしてだ!…どうしてこんなことを!俺たちは……愛し合って……!!」

 

「うるさいですね」

 

彼女は俺の叫びを無感情に切り捨てる。かつて愛を囁き、明日を共に生きていこうと誓い合った、その美しい声で、不知火は俺を拒絶した。

 

一切のハイライトを失った目を俺に向け、底無しの絶望と死をもたらす存在にかつての面影はなかった。

 

「さようなら、司令。貴方の役割はここで終わりです」

 

冷酷に彼女は告げる。

 

一瞬のようにも、永遠にも感じられるような時の中で、俺の頭には不知火と出会い、愛を育んできた今までの記憶が駆け巡った。

 

そして黒き炎を纏った彼女の手がこちらに向けられて、暗転。

 

灰に帰した世界で俺は目を覚ました。思考停止していた頭がようやく動き出して現実を受け止める。

 

結局、俺は殺されなかった。生き残った。

 

しかし喜びなど全く以て皆無だ。

 

遠目に、かつて守り抜いていた市街が燃え尽きていく様を見ながら、あの黒い炎の中に不知火はいるのだと確信した。

 

不知火は魔女としてこの世に顕現した。漆黒の炎を纏い、全てを焼き尽くすことに何の躊躇いもない。彼女が通った跡には灰ばかりが残されるだけである。

 

黒い炎の中で、不知火はただ一人、冷酷に無表情に君臨していた。

 

それが彼女を見た最後の姿となった。

 

〖WICKED:01 黒焔の魔女〗

 

ーーーーー

 

ーーーー

 

ーーー

 

ーー

 

 

 

【CORRUPTED:99.93%…99.94%…】

 

数値の上昇に止まる気配はない。レンズ越しに見える風景は黒く、そして赤色に染まっていく。同時に、聞こえるはずのないアラートが頭の中でけたたましく鳴り響いているように感じた。

 

それでも。

 

それでも俺は選択をしなければならない。

 

少なくとも、どす黒い流動体で表情さえ伺い知れない不知火を前にして沈黙を貫けば、あの現実が戻ってくるだけのように思えたから。

 

あの血の通いを感じさせない、氷のように冷たい彼女を再び目にするなんて死んでも嫌だ。

 

妖精の言葉を思い出す。

 

たくさん愛してあげてね、か。

 

俺はたくさんの愛を彼女に伝えていたはずだった。だがそれは足りなかったんだ。

 

何が愛する嫁艦だ。不知火の気持ちも知らないで、彼女を愛に飢えさせてしまった。そのことがあの退廃した世界を生み出すことに繋がるなら、迷っている暇は一秒たりともない。腹を括れ。

 

覚悟を決める。すると突如として脳裏にあまりに楽天的な、最高の選択肢が浮かび上がってきた。

 

[キスして黙らせろ]

 

不知火…。すまなかった。君のSOSに気が付けなかったなんて俺は夫失格だ…!

 

それでも!それでもやり直せるなら…!!!

 

愛が彼女を狂わせるなら、俺の真の愛で、この狂気を叩き潰してやる。

 

不知火に一歩、また一歩と歩み寄る。

 

【CORRUPTED:99.52%】

 

依然として数値の上昇におさまる気配はない。だがそれがどうした。

 

数字?吹き上がるどす黒いゲージ??そんなもの基準にしてどうなる?

 

不知火の前まで歩み出て、俺は両手で優しく彼女の顔を包み込んだ。

 

「司令…?」

 

潤んだ彼女の瞳、これが答えだ。変な指標に惑わされず、彼女のことをしっかり見ていれば答えなんてすぐにでも分かった。

 

躊躇いはない。俺は、彼女の唇に深く、強く、己の全てをぶつけるようにキスをした。

 

甘い、懐かしい感触。ああ、もっと日頃から恥ずかしがらずに彼女にキスをしていれば…。

 

【WARNING!!! WARNING!!!】

 

え?

 

【ERORR!!! CORRUPTED LEVEL 100.00%!!!】

 

直前まで視界に写っていた不知火の顔は、赤黒い警告画面に置き換わり、パラメーターはその形を生き物のように荒ぶらせ、暴れのたうちまわっていた。

 

何!?何なんだよ!?

 

キスを続行している合間にも、数値は激しく点滅を繰り返し、ゲージから溢れだした黒いタールは今にも執務室を覆い尽くそうとしている。

 

た、足りなかったのか…キスだけじゃあ。

 

俺は、不知火の華奢な肩を抱き寄せた。そしてもう片方の手を彼女の胸元へと滑り込ませる。

 

「ん、んぅ…ちょっ!?」

 

不知火が小さな悲鳴をあげる中、俺は不知火と初めて一夜を共にしたあの日のことを思い出していた。

 

キスだけじゃ足りなかった…。それならもっと愛するしかないだろう。

 

彼女の胸元から感じる柔らかな感触。一揉み一揉み丁寧に心を込めて揉ませていただく。

 

「ひっ、し、司令…もう、やめ…」

 

不知火のか細い声を耳にしながら、俺は彼女を床に押し倒そうとした、その時。

 

【SYSTEM OVERLORD!!!】

 

【W7 PROTOCOL ACTIVATED!!!】

 

不知火の瞳から一筋の黒い涙が流れ落ちた。

 

腕の中にいる彼女を見る。全ての感情が抜け落ちた、魔女がそこにはいた。

 

思わず突飛ばし、後退。ああ、どうやら間違えてしまったようだ。

 

「人類は不要」

 

無機質な不知火の声に、どこか懐かしさを覚えながら、俺の視界は暗転した。

 

振り出しに戻る。

 

この後俺がやるべき行動は?

  • 不知火を全力でくすぐる。
  • 不知火に人類を裏切るつもりか問いかける。
  • 不知火の耳もとで愛の告白。
  • DO☆GE☆ZA
  • キスして黙らせろ。
  • 胸揉んでからの押し倒し。
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