甲竜伝説ヴィルガスト 再編   作:白豚くん

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第12話:残虐なる再会、偽りの抱擁

砦の中に立ち込める、鉄錆のような血の匂い。その中心で、漆黒の鎧を纏った女戦士が、ゆっくりと、しかし確実に瞬の方へとその身体を巡らせた。

 

瞬は息をすることさえ忘れ、その光景を凝視していた。心臓が早鐘を打ち、全身の血液が沸騰したかのように熱い。 翻る髪、鎧の隙間から覗く白い肌。そして、ついにその「顔」が、月の冷たい光の下に曝け出された。

 

「……っ!」

 

瞬の喉が、音にならない悲鳴を上げた。 そこにいたのは、紛れもなく、彼が狂おしいほどに探し続けてきた少女、中島三智子だった。 整った鼻筋、小さく形の良い唇。そして、兜の前面から覗くその顔立ちは、あの日、人間界で別れた時のままの美しさだった。 だが、その瞳だけが違っていた。 傭兵が語った通り、かつての穏やかな茶色はどこにもなく、そこにあるのは、深い絶望と憎悪で塗りつぶされたような、濁り切った緑色の輝き――。

 

「三智子……三智子なのか!? 返事をしてくれ、三智子ッ!!」

 

瞬はなりふり構わず、絶叫した。兵士たちの骸を乗り越え、彼女の元へ駆け寄ろうとする。 女戦士は、呆然と瞬を見つめていた。その緑色の瞳が微かに揺れ、次の瞬間、大粒の涙がその頬を伝い落ちる。

 

「……え? 瞬ちゃん……? 嘘、本当に瞬ちゃんなの……!?」

 

その声は、かつてと変わらぬ、甘く震える三智子の声だった。 彼女は手にしていた「暗黒の剣」をその場に放り出すと、泣きじゃくりながら瞬に向かって駆け出した。

 

「瞬ちゃん! 瞬ちゃん、瞬ちゃん!!」

 

「三智子!」

 

二人の距離がゼロになる。 三智子は瞬の胸の中に、激しく飛び込んできた。 瞬は彼女を折れんばかりに強く抱きしめる。その瞬間、彼の腕には、かつての制服越しには感じられなかった、生々しい肉体の感触が伝わってきた。 彼女が着ている鎧はビキニ状で露出が激しく、彼女の柔らかな胸の膨らみが、瞬の鎧の隙間を通してダイレクトに押し付けられる。完全に露出した腹部の、滑らかで熱を帯びた肌の感触。そして腰のパンツと前掛けから伸びる、しなやかな太腿の質感。

 

「会いたかった……! ずっと、ずっと会いたかったのよ、瞬ちゃん……!」

 

三智子は瞬の首に腕を回し、顔を彼の肩に埋めて激しく泣きじゃくる。 瞬は、彼女の命の鼓動と、あまりにも官能的な肌の感触に激しく動揺した。顔が火が出るほど赤くなり、羞恥と困惑が脳内を駆け巡る。だが、それ以上に「生きて再会できた」という事実が、彼の魂を震わせていた。

 

「俺もだ……俺も会いたかった。ずっと探してたんだ……三智子、無事で本当によかった……っ」

 

「瞬ちゃん……私もずっとあなたを探していた……やっと、会えた……!」

 

三智子は、甘えるように瞬の胸に顔を擦り付ける。その仕草は、彼が知る幼なじみの彼女そのものだった。 だが、抱擁を解いた瞬の目に、再び彼女の異様な「装備」が映り込む。

 

「三智子、その……何なんだ、その格好は。どこにいたんだ? 邪神に攫われたんじゃなかったのか? そこで一体何が……」

 

瞬の問いかけに、三智子はぴたりと動きを止めた。 彼女は潤んだ瞳で瞬を見つめ返したが、その表情から、先ほどまでの「優しさ」が、スッと霧が消えるように失われていく。 彼女は何も答えず、ただ、ふらりと瞬の手を離れた。

 

「三智子……?」

 

彼女は数歩、瞬から距離を置く。そして、先ほど投げ出した「暗黒の剣」の方へと背を向けた。 月の光が、彼女の白く無防備な背中を照らし出す。その背中は、かつての彼女よりもどこか逞しく、そして冷徹な美しさを湛えていた。

 

「……ねえ、瞬ちゃん……」

 

背中を向けたまま、三智子の声が低く響いた。先ほどまでの甘えた声とは違う、芯まで冷え切った、地を這うような声。

 

「会いたかったって……私に言ったわよね。私をあんなに残酷に殺しておいて……まだ私を苦しめ足りないの……?」

 

「何を言っているんだ……? 三智子、君を、殺した……?」

 

三智子は落ちていた魔剣を、ゆっくりと拾い上げた。 その瞬間、剣から放たれた紫色の雷光が、彼女の全身を激しく打ち据える。

 

彼女が、再び瞬の方を振り返った。 その顔は、もはや涙に濡れた少女のものではなかった。 眉根をこれ以上ないほどに寄せ、瞳の緑色は憎悪の炎を宿して燃え上がっている。唇は怒りに震え、歯を剥き出しにして瞬を睨みつけた。

 

その凄まじい殺意と憎悪の圧力に、瞬は思わず息を呑み、一歩後ずさった。

 

「黙れッ!! 三池瞬ッ!!」

 

三智子の咆哮が、静寂の砦を切り裂いた。 彼女は「暗黒の剣」を正眼に構え、紫の電光を散らしながら、地獄の底から響くような声で告げた。

 

「『中島三智子』はお前に殺された……!私はもう、あなたに虐げられる『無能なゴミ』じゃない……!」

 

彼女の背後に、邪神の巨大な幻影が重なったように瞬には見えた。 目の前に立つのは、救い出すべき少女ではない。自分への、そして世界への強烈な憎悪を糧に生まれ変わった、闇の戦士「ルシーズ」であった。

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