甲竜伝説ヴィルガスト 再編   作:白豚くん

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原作の女神とはだいぶ設定を変えていますが、原作漫画のラストといい、同時期のドラクエ3で、勇者を故郷に帰そうともせず、自分の世界で生きるように言った精霊ルビスと一緒で、冷たい感じがするんですよね。その部分を強調しています。


第17話:届かない想い 無慈悲な女神

腹部を直撃した衝撃は、瞬の内臓にまでダメージを与えていた。砕け散った鋼の鎧の破片が地面に散らばり、月光を浴びて虚しく光っている。瞬は激痛に顔を歪め、血の混じった唾を吐き捨てながら、ようやくの思いで顔を上げた。

 

視界の先には、露出の多い鎧に身を包んだ「ルシーズ」が、冷え切った眼差しで彼を見下ろしている。先ほどまでの「三智子の笑顔」の残滓すら、もはやそこにはなかった。

 

「……ふん。これっぽっちの一撃で、もう立ち上がることもできないの?」

 

ルシーズは吐き捨てるように言い、地面に転がった「暗黒の剣」をゆっくりと拾い上げた。紫色の雷光が再び彼女の手に宿り、殺意を帯びてバチバチと鳴る。

 

「……殺してくれ」

 

瞬の声は、絶望のあまり掠れていた。

 

「そんな目で俺を見るなら、そんなに俺を憎んでいるなら……いっそ、今ここで殺してくれよ、三智子……!」

 

「……殺す?」

 

ルシーズは、鼻で笑った。彼女の瞳にあるのは、もはや怒りですらなく、「興ざめ」だった。

 

「勘違いしないで。私は、お前を地獄の底まで叩き落とすために生き返ったのよ。……こんな、反撃の意志すら持てない弱虫を殺したところで、私の恨みが晴れるとでも思っているの!?」

 

彼女は剣を鞘に収めると、背後に邪神の魔力による転移のゲート――どろりとした闇の渦――を出現させた。

 

「今のお前を殺しても、ちっとも気が済まないわ。……死にたければ、勝手にそこでのたれ死になさい。もし……、悔しいとでも思うなら、もう少しマシになりなさいよ。……次に会う時もその程度なら、その時は本当に、肉の一片も残さず消し炭にしてあげる」

 

「待て……三智子、待ってくれ……!」

 

瞬が伸ばした指先が、空を掻いた。ルシーズは振り返ることもなく、闇の渦の中へとその姿を消した。

 

静寂が戻った砦に、瞬の慟哭だけが響き渡った。 自分の弱さ。三智子に届かなかった想い。そして、彼女が自分に向ける、あの底知れない「憎しみ」。

「あああ……ああああああああッ!!」 瞬は拳を地面に叩きつけた。爪が剥がれ、血が滲んでも、心の痛みは引かなかった。二ヶ月間、彼女を救うことだけを糧に生きてきた少年の魂は、今、完全に折れ曲がり、真っ黒な絶望の底へと沈んでいた。

 

どのくらいの時間が経っただろうか。 夜風に混じって、水のせせらぎのような、透き通った音が聞こえてきた。

 

「……見苦しいですね」

 

冷ややかで、慈悲など微塵も感じられない声。 瞬が顔を上げると、そこには青く輝く光の粒子が寄り集まり、一人の女性の姿を形作っていた。 ヴィルガスト界を司る女神、ウンディーネの分身である。

 

彼女は、血と泥に塗れて泣き崩れる「勇者」を、無機質な眼差しで見つめていた。ウンディーネが指先を向けると、淡い光が瞬を包み込み、引き裂かれた筋肉や内臓の損傷が、瞬く間に再生されていく。

 

「傷は癒しました。立ちなさい、勇者瞬」

 

「……ウンディーネ……」

 

瞬が力なく立ち上がると、女神は感情の起伏がない声で、淡々と糾弾を始めた。

 

「理解に苦しみます。なぜ、あの場で武器を捨てたあの女を殺さなかったのですか? 絶好の機会だったはずです」

 

「……何、を……? 殺す? 三智子をか!?」

 

瞬の瞳に、困惑と激しい動揺が走る。だが、女神は微動だにせず言葉を続けた。

 

「あの者はすでに邪神の尖兵。世界の調和を乱す不確定要素です。あなたが『勇者』として、世界を守る責務を全うするのであれば、迷う理由などどこにもなかった。無抵抗という最大の隙を晒した瞬間に、その首を落とし、邪神の駒を一つ削ぐべきでした。それこそが、効率的かつ正しい判断です」

 

「ふざけるな……っ! あいつは、三智子なんだぞ! 俺の、俺の大事な……! それを殺せっていうのか!? 世界を守るために、彼女を殺せと!?」

 

瞬の胸の奥で、ドロリとした熱い何かが沸き立った。 自分達を勝手に召喚し、勇者にした女神。彼女の口から漏れる言葉は、三智子の心も、人生も、自分の想いすらも、何も見ていない非情なものだった。

 

「犠牲は許容されるべきものです。世界の均衡という大義の前では、一人の少女の命、一人の少年の感傷など、取るに足らない重みなのです。それを理解できないのであれば、あなたは勇者としてあまりに『欠陥品』だと言わざるを得ませんね」

 

ウンディーネの静かな、しかし有無を言わせぬ断罪。 瞬の視界が、怒りと悔しさで真っ赤に染まっていく。 女神への、これまで抑え込んできたドス黒い感情が、火山の噴火のように爆発しようとしていた。

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