甲竜伝説ヴィルガスト 再編   作:白豚くん

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第20話:四竜の試練と神の誤算

女神ウンディーネの分身は、夜の闇の中で青白く発光しながら、静かに、しかし有無を言わせぬ威厳を持って語り始めた。

 

「勇者瞬。あなたがあの娘や邪神へ対抗するための力を手にするには、方法はひとつ。それは、ヴィルガスト界の東西南北、四方を守護する古の存在『四竜』の力を得ることです」

 

「四竜……?」

 

瞬は痛む身体を支えながら、女神の言葉を一語一語噛み締めるように聞いた。

 

「そうです。彼らは世界の創世より存在し、世界の守護者として強大な力を有しています。それぞれの神域を訪れ、竜たちが課す苛烈な試練を乗り越えなさい。試練を突破するごとに、あなたの魂は磨かれ、その証として竜たちは伝説の武具を授けるでしょう。……それこそが、古の勇者が纏ったとされる『甲竜の装備』です」

 

ウンディーネは空中に、幻影としてその装備を映し出した。 黒を基調とし、清廉な白のラインが走る全身鎧。そして、邪悪を断ち切る鋭利な大剣。先ほど砕け散った鋼の鎧とは、放つプレッシャーの密度が桁違いであった。

 

「この装備をすべて揃えた時、あなたの力は邪神をも凌駕し、その刃はあの娘の呪縛を確実に切り裂くでしょう。……彼女を救い出せるかどうかは、あなたの覚悟次第です」

 

瞬は、映し出された甲竜の装備を見つめ、固く拳を握り締めた。三智子をこの手で殺し、そして生き返らせる。女神が提示した狂った救済を、今の彼は唯一の真実として抱きしめるしかなかった。

 

「……わかった。四竜の試練、受けて立つ。俺は、三智子を取り戻すためなら、どんな試練にだって挑んでみせる」

 

少年の瞳に宿った凄絶なまでの決意を確認し、ウンディーネの分身は満足げに微かな光となって霧散した。

 

瞬が旅立とうしたころ、ヴィルガスト界の上空に位置する神聖なる神殿にて、分身を消し、意識を本体に戻した女神ウンディーネは玉座に身を預け、眼下の地上を冷ややかに見下ろしていた。

 

「……概ね、想定通り。人間とは、愛という不確かな感情を利用すれば、これほどまでに御しやすい」

 

彼女は独りごちたが、その眉間にはわずかな険しさが混じっていた。

 

「……しかし、ルシーズ。あの娘の変質は、私の計算を上回っている。邪神の魔力があれほどまでに深く、強く魂に馴染むとは。……あの一撃で瞬が再起不能になれば、勇者の育成計画が全て無に帰すところでした」

 

ウンディーネの計算によれば、瞬はもっと緩やかに成長し、各地で小競り合いを繰り返しながら力をつけるはずだった。だが、ルシーズが圧倒的すぎた。今の瞬との絶望的なまでの実力差を埋めるには、本来の予定にはなかった禁じ手を使わざるを得なかった。

 

「……『四竜の試練』。劇薬ですが、背に腹は代えられません。ですが……」

 

女神の瞳に、わずかな懸念が過る。 ヴィルガスト界を守護する竜たちは、女神の管理下ではない。彼らは世界そのものに紐付いた高次の生命体であり、女神ウンディーネの支配さえも及ばない、独立した意志を持つ存在である。

 

「竜たちは、私の命令を聞くような存在ではない。偏屈で、独自の理(ことわり)で動く者たち……。瞬に装備を授ける過程で、余計なコトを吹き込まねばよいのですが」

 

女神は、自分の掌の上で転がしているはずの盤面を、今一度冷静に精査した。 瞬、ルシーズ、邪神。そして、四竜。 複雑に絡み合う運命の糸を、あくまでも自分の望む「均衡」へと導くために、女神は再び深い思考の海へと沈んでいった。

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