ヴィルガスト界の最深部、邪神の神殿。 冷たい石の台座に拘束された中島三智子の絶叫は、厚い石壁に跳ね返り、彼女自身の鼓膜を無慈悲に震わせた。 「いや……嫌……! 瞬ちゃん、瞬ちゃん……っ!」 涙で視界が歪む中、彼女が見たのは、空間の裂け目から這い出してきた「邪神の装備」だった。 それは単なる装備品ではない。それ自体が脈動し、独自の意志を持って獲物を求める捕食者のような、禍々しき魔の金属――邪神が鍛え上げた「忘却の武具」である。
「泣き喚くがいい。その悲鳴こそが、お前を創り変えるための極上の洗礼となる」 邪神の影がゆらりと揺れると、まず対になった黒い塊が三智子の足元へと浮遊した。
「ああ……ああああっ!」 **「嘆きの足アーマー」**が、三智子の震える爪先から強制的に装着されていく。 それは装備というより、彼女の肉体を飲み込んでいく感覚に近かった。冷徹な金属の感触が、素肌のぬくもりを奪い去る。ふくらはぎ、膝、そして太ももへと、黒に金の細工が施された装飾が、彼女の意志を無視して締め付けていく。 カチリ、という硬質な音が響くたび、三智子は自分の脚が、自分のものではなくなっていく恐怖に襲われた。 「足が……動かない……。嘘、嘘よ……!」 必死に力を込めようとしても、金属に覆われた脚はピクリとも動かない。ただ、邪神の魔力に従うだけの「部品」へと変貌していた。
侵食は止まらない。 次に空中に舞ったのは、装飾過多な腰の防具だった。 「捕われの腰アーマー」。それは、三智子の柔らかな腰のラインを強調するように、冷酷に食い込んだ。 そのデザインは、あまりにも倒錯していた。腰回りを守る最低限の装飾と、前掛け。そして、その上にあるべきはずの「腹部」は、完全に無防備なまま、生々しく晒されている。 三智子の白く滑らかな肌と、恐怖に小刻みに震えるおへそが、黒い金属とのコントラストで残酷なまでに浮き彫りになった。
「はぁ、はぁ……っ! 何、これ……こんな、格好……」 羞恥と恐怖が混ざり合い、三智子の意識が混濁し始める。だが、追い打ちをかけるように、胸部へと重圧がのしかかった。 **「捕われの胸アーマー」**が、彼女の豊かな胸を左右から挟み込むように固定する。それは胸を隠すためのビキニ状のアーマーであり、露出度は極めて高い。腹部から胸の上部までが大きく開いた、戦うためのものとは思えない、陵辱的な装備」――だが、そこに込められた魔力は、三智子の呼吸さえも邪神の管理下に置いた。
「くっ、……うああっ!」 間髪入れず、両腕が闇に包まれる。 「裏切りのこて」。 手首から肘、そして肩を覆う巨大なショルダーアーマーまでが一体となったその武具は、三智子の華奢な肩を圧迫し、彼女の腕から自由を奪い去った。 肩を覆う鋭利な装飾は、まるで親しい者を後ろから刺すための刃のようにも見えた。
これで、首から下のすべてが「邪神の装備」に覆い尽くされた。 黒い金属に金のラインが這うその姿は、かつての清楚な女子高生・中島三智子の面影を、その扇情的な露出度とは裏腹に、冷酷な「戦士」の輪郭へと変貌させていた。
「さあ、仕上げだ。人の子よ」 邪神の声が、完成した「首から下の身体」に命令を下す。 三智子の意志に反して、彼女の右腕がゆっくりと持ち上がった。 「あ、……ぁ……腕が、勝手に……!」 三智子は必死に自分の腕を止めようとした。左手で右手を抑えようとするが、左手もまた、目に見えない糸に操られるマリオネットのように、空中に浮いた「何か」へと伸びていく。
それは、最後の一つ。 「忘却の兜」。 他の武具と同じく、漆黒に輝く金属に美しい金の線が走り、その額の部分は、黄金に幾筋も赤の線が入った装飾が入った中央に妖しく光るエメラルドのような宝石が埋め込まれている額当てが一体化していた。そして何より異様なのは、両側頭部から伸びる、悪魔の角のようにねじれた、長く巨大な黄金の角だった。
三智子の両手は、磁石に吸い寄せられるように、その兜の側面を掴んだ。 「いや……嫌よ、これを被ったら、私……私じゃなくなっちゃう……!」 脳裏に瞬の笑顔が浮かぶ。 「瞬ちゃん! 助けて、瞬ちゃん!!」 喉がちぎれんばかりに叫ぶが、彼女の両手は、無慈悲な力でその兜を、自分の頭上へと掲げていく。
黄金の角が、紫色の燐光を浴びて不吉に輝く。 三智子の瞳は、恐怖に限界まで見開かれ、目の前に迫る兜の暗い内側に、絶望の深淵を見た。
「己の手で、その忌々しい記憶を葬り去るがいい」
三智子の指先が、兜の冷たい縁に触れた。 自分の意志が、自分の手が、自分を殺そうとしている。 その極限の恐怖の中で、三智子はついに、兜を自分の頭へと近づけていくのだった。