甲竜伝説ヴィルガスト 再編   作:白豚くん

9 / 40
原作だと カードダスでは シャムシールを持っているルシーズさんですが  さすがに量産品ではかわいそうなので 捏造しました。
漫画版の装備 雷の剣をイメージしました。


第9話:昏き覚醒、微笑む死神

暗黒の神殿に満ちていた絶叫と、大気を震わせるほどの黒い雷鳴が、嘘のように止んだ。 静寂が戻った神殿の床に、一人の少女が立っている。その姿は、かつての女子高生としての面影をかろうじて留めながらも、纏う空気は完全に異質なものへと変貌していた。

 

黒を基調とし、金のラインが走る露出度の高いビキニアーマー。下半身を覆う「捕われの腰アーマー」と、膝までを硬質に守る「嘆きの足アーマー」が、彼女の白皙の肌をより一層際立たせている。頭部には、黄金の二本角を戴く「忘却の兜」が鎮座し、その中心に嵌め込まれたエメラルドの宝玉が、主の本来の記憶を完全に封じ込めた証として冷たく光り輝いていた。

 

「……ルシーズ」

 

少女は、邪神から与えられたその新しい名を、愛おしそうに口の中で転がした。

 

「ルシーズ……。素敵な名前! 私、とっても気に入ったわ!」

 

彼女は、まるで放課後に友人とお喋りでもするかのように、明るく、弾んだ声で邪神に応えた。その屈託のない笑顔は、かつて三池瞬に向けていたものと何ら変わりはない。しかし、その瞳の奥には、底知れない闇と、決定的に壊れてしまった者の狂気が渦巻いている。

 

「ありがとう、偉大なる我が主様。私に新しい命と、この名前をくれて。お礼に、さっそく三池瞬を……あの裏切り者の首を獲ってきてあげる! 今すぐ、一刻も早く、あいつの驚いた顔が見たいもの!」

 

ルシーズは、今から買い物にでも出かけるような軽やかさで、殺意に満ちた言葉を紡ぐ。その場で駆け出そうとする彼女を、邪神の影が穏やかに制した。

 

「待て、ルシーズ。逸る気持ちはわかるが、復讐とは最高の舞台で、最高の手順を踏んで行われるべき芸術だ。まずは、このヴィルガスト界へ絶望を撒き散らす準備をせねばならぬ」

 

邪神が虚空に手をかざすと、空間がどろりと溶け、一振りの剣が姿を現した。 刀身は闇のような黒一色、そこには絶えず紫色の禍々しい雷光が走り、持ち主の憎悪に呼応してバチバチと火花を散らしている。

 

「これを受け取るがいい。お前の憎しみを糧に、全てを切り裂く刃――『暗黒の剣』だ」

 

「……わあ、すごい」

 

ルシーズは、その呪われた魔剣を両手で受け取った。紫の雷光が彼女の顔を妖しく照らし出す。彼女はその重みと、剣から伝わってくる破壊の衝動に、うっとりと頬を染めた。

 

「重厚で、冷たくて……最高の贈り物だわ。これであの男の心臓を突き刺す時が、今から待ち遠しい……あはっ」

 

「ルシーズよ。お前に最初の命を与える。余が産み落とした魔族の軍勢を率い、人間界、そしてこの世界の街々を侵略せよ。蹂躙し、焼き払い、全ての光を奪い去るのだ」

 

邪神は、試すような冷徹な眼差しを彼女に向けた。

 

「当然、そこには三池瞬以外の人間も多くいる。無関係な民、女、子供……それら全てを、お前はその剣で屠ることになるだろう。お前に、それができるか?」

 

ルシーズは、何の迷いもなく首を傾げた。その動作は、まるでお気に入りの洋服を選んでいる時のような、無邪気で可愛らしい仕草だった。

 

「もちろんよ! あの女神が守りたがっている世界なんて、全部壊してしまった方が、あいつにとって最大の絶望になるでしょ? 三池瞬を苦しめるためなら、私は何だってするわ。街も、人も、思い出も……全部、私がこの手でめちゃくちゃにしてあげる」

 

彼女は満面の笑みを浮かべ、丁寧にお辞儀をした。

 

「行ってきます、主様。最高の絶望を、世界に届けてくるわね」

 

ルシーズは、カツン、カツンと金属製の足アーマーを石畳に響かせながら、邪神に背を向け、神殿の出口へと歩き出した。その足取りは軽やかで、これから始まる凄惨な殺戮への期待に満ちているように見えた。

 

神殿の外には、彼女の出撃を待つ醜悪な魔物の軍勢が地平線を埋め尽くしている。 かつての中島三智子であれば、見るだけで悲鳴を上げ、瞬の背中に隠れたであろう光景。だが今の彼女にとって、彼らは自分の復讐を果たすための忠実な猟犬に過ぎない。

 

(……あはは、楽しみ。瞬ちゃん、待っててね。すぐに会いに行ってあげるから。あなたが大切にしているもの、全部私が壊してあげる。そうして、最後には二人きりで殺し合いましょう?)

 

ルシーズの脳内には、邪神によって植え付けられた「瞬に斬り殺される自分」の映像が、今も鮮明に再生され続けている。それが彼女を突き動かす唯一の動力源だった。

 

だが。 眩しい光が差し込む神殿の出口に差し掛かったその瞬間。

 

彼女の、感情を反転させたはずの頬を、一筋の熱い液体が伝った。

 

「…………?」

 

ルシーズは、歩みを止めずに指先でその滴に触れた。 それは、透き通った一滴の涙だった。 邪神による完璧な人格上書き、忘却の装備による徹底した記憶抹消。その全てを潜り抜け、魂の深淵にわずかに残った「本当の三智子」の、声にならない悲鳴が形となったもの。

 

しかし、その意味を今のルシーズが理解することはなかった。

 

「……あら、おかしいわね。ゴミが目に入ったのかしら」

 

彼女は、自分がなぜ泣いているのかも、その涙が何を意味しているのかも気づかないまま、無造作にそれを拭い去った。 彼女の背中にあるのは、最早、救済を待つ少女の影ではない。世界を闇に塗り潰す「絶望」そのものの輪郭だった。

 

神殿の門が開かれる。 ルシーズが最初の一歩を外へと踏み出した瞬間、地響きのような魔族の咆哮が大地を揺らした。

 

瞬にとっての、長きにわたる悪夢の幕が今、静かに、そして残酷に上がったのである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。