ドブカス(本物)のヒーローアカデミア   作:むめい。

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おまたせ(待ってない)

ドブカス共のみんな、元気ですか。私は別の小説書いててなかなか投稿できませんでした・・・悲しいね。

ちょっとまた、書き方変えました読みにくかったら教えてください。すぐ直します。


2話 鬱陶しいわ!ドブカスがっ!

 

 五歳になるまでは、正直、俺は“それ”に触れられへんかった。触れられへんというより、触れる指が無かった、が正しい。知性は最初からあったし、言葉もあったし、腹の底で煮えたぎる苛立ちも、選民意識も、当たり前みたいに息をしていた。けど呪力の匂いを嗅ぐ鼻も、術式の輪郭を撫でる手も、身体の側が用意してへんかったから、俺はそのまま普通に生活を見下しながら生きていた。普通、というのも妙な話やけどな。九ヶ月で喋る子どもなんか、普通の家なら拝まれるか捨てられるかの二択やろ。こっちは捨てられてへんだけありがたいと思え? 誰が思うかいな。

 

 だから俺は、ずっと別のことに腹を立ててた。この家の空気が弱いとか、この世界の大人が鈍いとか、そういうくだらんことにや。飯はまずい。服はださい。気遣いは余計で、顔色を伺う目が鬱陶しい。育ちは良いはずの家やのに、肝心の“芯”がふにゃふにゃしてる。何を大事にしたいのかも、何を守りたいのかも、声の出し方ひとつで透ける。俺からしたら、どいつもこいつも薄い。

 

 ……で。

 

 五歳のある日、ふっと“目が開いた”。

 

 壁が汚いとか空気が澱むとか、そんな比喩の話やない。視界に何かが見えたわけでもないし、耳に何かが聞こえたわけでもない。ただ、世界の解像度が一段上がった。今までゼロやった情報が、いきなり流れ込んできた感覚がある。呼吸の奥に、別の呼吸が混じるみたいな、気持ち悪いズレや。こういうのを、俺は知ってる。知ってるだけに、余計に腹が立つ。遅いねん。

 

 腹の底に意識を落とすと、返事があった。

 呪力。やっと、ここに触れられる。

 

「……遅いわ」

 

 思わず呟いた。赤ん坊から五年もかけて目を覚ますとか、どんな寝坊やねん。けど器の成熟ってのはそういうもんらしい。頭がどうであれ、身体が出来てへんと回路は繋がらん。俺の都合なんて、身体は聞いてくれへん。ほんま、生意気やな。俺の身体のくせに。

 

 次に確かめるのは術式や、と考えた瞬間、胸の奥が微かに軋んだ。あの感触。型。条件。癖。理屈より先に身体が知っている。けどまだ全景は見えへん。薄い霧の向こうに輪郭がある。触れたら壊れそうな距離で、確かに“在る”。

 

 残っとる。

 

 そこまでは良い。問題は、その次やった。

 

 呪力に触れられるようになった瞬間、俺は反射で“外側”を探した。呪霊。呪力があるなら呪霊が居る。そういう世界を俺は知ってる。そういう地獄の呼吸を、頭が覚えてる。普通は、見えへん人間がどれだけ無邪気に暮らしてても、夜の隅にはちゃんと獣が居る。理不尽は形を持って歩いてくる。だから見える側は、見える側として生きるしかない。

 

 ……なのに。

 

 何も居らん。

 

 居らん、というのは語弊がある。正確には、“居るはずのものが居ない”。空っぽや。生態が欠けてる。捕食者の居ない森みたいに妙に静かで、だからこそ気持ち悪い。静かで平和で幸せで、みたいな顔をしてるくせに、底が見えへん。これは安心やなくて、不自然や。

 

「……は?」

 

 笑いが出そうになった。敵が居らん。いや、敵が居らんのに武器だけ残っとる。これ、どういう嫌がらせやねん。舞台に上げといて、相手役だけ用意せえへん。客席は拍手する。役者は立ち尽くす。そんな芝居、腹立つに決まってるやろ。

 

 ここでようやく、俺は正面から考え始めた。この世界のルール。呪術と別の仕組みで回ってる。せやから呪霊が発生しない、もしくは最初から“存在しない”。なら、俺の呪力は何や。誰も知らん力で、誰も説明できへん力や。

 

 ……面倒やな。

 

 面倒やけど、悪くない。説明されへん力は、誤魔化しが効く。誤魔化しが効くってことは、支配できる余地があるってことや。俺は昔から、そういう余地を見つけるのが得意やった。生まれつき性格が悪い? せやな。褒め言葉や。

 

 ちょうどその頃、テレビがやたらうるさかった。ヒーロー番組、ニュース、ワイドショー、子供向けのバラエティ。どれも同じ単語を、楽しそうに繰り返してる。

 

 個性。ヒーロー。ヴィラン。公安。免許。事件。救助。

 

「個性」って言葉だけが、異常に都合が良い。現象を説明するんやなくてラベルを貼る。ラベルを貼ったら理解した気になれる。理解した気になれば、恐怖を誤魔化せる。なるほどな。この世界の人間は、そうやって生きてる。見えへんものを見ようとせえへんくせに、見えるものには札を貼りたがる。札の色が付いたら、安心する。ほんま、頭が軽い。

 

 なら、俺もそうするだけや。呪力は個性。術式も個性。説明できへん部分は遺伝やの一言で黙らせる。詰められたら検査がどうの医者がどうの法律がどうの、社会の言葉で煙に巻く。丁寧に、上品に、相手の理解力に合わせたフリをして、内側で嘲笑えばええ。俺はそういうの、得意や。

 

 親の会話が、台所から漏れてきた。

 

「……この子、病院に行った方がいいのかな」

「でも、変な記録が残ったら……」

「“個性”って言えば、説明できるのかな」

 

 女の声が震えて、男の声が疲れている。……なるほど。もうそこまで来とるんや。恐れてるのに責任は取ろうとしてる。そこだけは偉い。偉いけど、遅い。判断が遅い。遅いから震える。震えるから余計に弱く見える。弱く見えるから、俺はまた腹が立つ。悪循環やな。

 

 俺はソファの背に凭れて、黙ってテレビを見た。ヒーローが笑って、悪党が殴られて、観客が拍手してる。分かりやすい劇や。分かりやすいからこそ、社会はそれに寄りかかる。寄りかかってる連中が、いざ自分の家に“説明できへんもの”が出た途端に震えるのも、また分かりやすい。救いがない。

 

 俺は決めた。俺の呪力は、この世界では“個性”になる。そして術式は、俺だけが知ってる本当の刃になる。この世界は、ヒーローになれば合法的に人間を殴れるらしいし、ちょうどええ。殴る相手が居らんのが気持ち悪い? なら、殴る相手が出来る場所へ行けばええだけや。ルールがあるなら、ルールの上で一番気持ちよく殴れる立場を取る。それが俺や。

 

 ■

 

 外で試す。家の中でやるほど俺はアホちゃうし、親の目は鬱陶しい上に、何か起きた瞬間に「病院」「検査」「記録」みたいな単語が家中を飛び交う未来が見えるから、そんな面倒を自分から増やす意味がない。夜の路地、街灯の届きにくい暗がり、人の気配が薄い場所を選んで歩くのも癪やけど、五歳の足で行ける範囲で静かな場所となれば選択肢は限られるし、腹立つほど子供仕様の行動範囲に収まっている自分を噛み潰したい気分になるのも含めて、今日は「確認」やと割り切った。

 

 腹の底へ意識を落とすと、呪力は返事をした。薄いけど確かで、まだ眠気の残る目を擦りながら起き上がるみたいに内側でじわりと熱を持つ。それがあるだけで十分やった。問題は術式で、投射呪法の輪郭は霧の向こうに確かに残っているのに、こいつは“ある”だけでは意味がない。視界を画角にして1秒を24の瞬間に刻み、その1秒分の動きを先に頭の中で作ってから、それを身体が全自動でなぞる。理屈としては簡単で、俺にとっては昔から馴染みすぎるほど馴染んだやり方やのに、その馴染みが一番の罠やった。

 

「……来い」そう呟いた瞬間、視界がカチッと固定され、頭の中で24コマが並び始めた。足の運び、腰の捻り、肩の入り、指先の角度まで、俺は当然のように“前世の俺”の感覚で動きを設計してしまう。長い脚と重い体幹と深い呼吸と、速さに耐える筋肉と関節を前提にした加速度で、当たり前みたいに軌道を引いた。次の瞬間、俺の身体が止まった。外の世界が止まったんやない。俺の身体だけが、投射呪法の仕様どおりに、破綻した動きの代償としてきっちり1秒フリーズした。

 

 ……は? 

 

 息が詰まる。指一本動かへん。瞬きも出来へん。頭の中だけが苛立ちを燃やしているのに、身体が命令を拒否してくる感覚が最悪や。投射呪法の嫌いなところはここで、失敗したら止まる、という単純なペナルティのくせに、その1秒が致命傷になる状況ほど当然のようにやってくる。しかも今回は敵すら居ないのに、自分で自分を止めているのが笑える。笑えるけど笑えへん。

 

「クソが……鬱陶しいわドブカスがっ!」

 

 1秒が明けて身体が解けた瞬間、吐き捨てるみたいに言葉が出た。原因は分かってる。分かりすぎるほど分かってる。俺が作った24コマが、今の身体の物理法則を踏み潰してるんや。前世の身体なら成立する加速度でも、五歳の短い脚と軽い体幹じゃ軌道が崩れる。崩れたら術式が止める。止められたらまた腹が立つ。結局、俺が今やってるのは、乗り慣れた車の操作で自転車を全開にしようとして転びかけてるだけで、そんなことに苛立ってる自分が一番アホらしい。

 

 せやからやることは一つや。前世の感覚を捨てるんやなくて棚に置く。まだ使う段階ちゃうだけやから、今の器で成立する動きを一から作り直す。速度を欲張らん。加速を夢見ない。まずは固定できる範囲で、きっちり噛み合う24コマを設計する。投射呪法の本質は速さやなく、動きを固定して相手の時間を奪うことやと知ってる以上、今の俺が欲しがるべきは最速やなくて確実性や。

 

 もう一回、視界を刻む。24コマを並べる。短い脚で踏める幅、小さい体幹で耐えられる捻り、浅い肺でも維持できる呼吸、全部を子供用に落とし込んで、失敗しない範囲で動きを組む。そうして「行け」と意識を押した瞬間、身体が全自動でなぞり始めた。大人なら笑うほど遅い。けどズレない。止まらない。フリーズしない。俺の中で何かがひとつ、腑に落ちる音がした。

 

 ……これでええ。

 

 この世界には呪霊が居ない。つまり術式を知ってる奴も居ない。触れた相手に24コマを強制して理解も訓練もない相手を事実上止める、あの嫌らしい使い方がここではもっと簡単に通る。

 

 しかもこの世界はヒーローになれば合法的に殴れるらしい。なら答えは決まってる。俺はこの“個性”社会で、いちばん都合のええ肩書を手に入れて、いちばん都合のええ形で殴る。

 

「ちょうどええ……いじめたる」

 

 そう呟いて、俺は静かに家へ戻った。急ぐ必要はない。焦る必要もない。五歳の器は腹立つほど弱いけど、だからこそ作り直せる余地がある。前世の感覚を土台にして、この身体の型を刻み直して、成長した時に全部繋げたらええだけや。

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